72 / 124
アルトレイラル(迷宮攻略篇)
敗走 1
しおりを挟む
ポーションの効果で、じわりじわりと、オドが回復しているのを感じる。倦怠感が少しずつ薄れていき、頭の中の靄が取れていく。
「痛っ――……ッ」
だが、物理ダメージまではそうはいかない。どうやら、肉体強化で相当に無茶をしてしまったらしい。身体中の骨が軋みを上げ、冷静になってドーパミンの切れ始めた脳がそれを痛みとして認識する。頭から足を駆けた鋭い痛みに、思わず声が漏れる。そんな姿を見て、雨宮が少しだけ安心したように笑い前へと向き直った。
雨宮の姿を補足した、三体の魔獣。名前は知らない。だが、この辺り一帯で生息する魔獣ではないのは確かだ。冒険者たちの防壁を突破してきたそれが、一斉に得物を手にして突進する。
「――大丈夫。できる。できる……」
そんな呟きが、微かに耳に届いた。その声の主は、探すまでもない。
こんな状況だというのに、雨宮は静かに目を閉じていた。どうしたのかと思った矢先、雨宮の身体を軸として何かが起こっていることを知覚する。
何か微弱な振動が、身体を揺さぶっているように感じる。どうやら、無防備に目を瞑っているのではないのは確からしい。その証拠に、足先の方向は、常に魔獣の方向をとらえて狂うことはない。
雨宮が、閉じていた目を開ける。呼吸は整っており、その目に、明らかな恐怖は見られない。瞳はしっかりと魔獣をとらえ、足はまっすぐ地面を踏みつけている。
口が動く。その口が、短い呪文を発する。
その瞬間、大気のマナが変質を開始した。その時間は、体感では一秒にも満たないコンマ数秒の世界。そうかと思えば、今度は雨宮の周りの空気が歪み、圧縮、凝結、そして凝固を起こす。
周りにできたのは、自販機のペットボトル大ほどと見える氷の結晶――その数、十数個。
細長いそれは、まるでクジャクの羽のように雨宮を取り囲んでいる。白い氷の質は低く、その形は武骨。だがしかし、鋭利にとがった先端は、まるで目でもついているかのように魔獣をとらえ、そのときを静かに待っている。
その身体が、術者の敵を撃ち抜くその合図を。
そして、その言葉が――、
唱えられた。
「――――飛べ」
それらしい効果音やエフェクトは、全くなかった。
許可を得た氷塊は、魔獣に向かって強烈な速さで滑り出す。破裂音といった派手なものはなかった。ただ、十数個の狂気が、一斉に魔獣へと牙をむいた。それだけだった。
腕が、腹部が、氷の塊に食い破られる。
足が、頭が、吹き飛ばされる。断末魔の悲鳴が鼓膜をひっかく。
魔獣三体が絶命したのは、わずか二秒後だった。
「……上手くいった」
高レベルの演算が必要と言われる魔術の多重展開。わずかに喜びの感情を乗せた声が、雨宮の口元から紡がれた。
「動ける? 神谷くん」
「問題ない」
だいぶ倦怠感が引いた身体を、乱暴に起こす。多少重いし、頭の靄もまだ完全には晴れていないような感覚だ。だけど、あれでさっきは動いていたのだ。この状態なら動く程度は問題ないだろう。別に、達人との真剣勝負をするわけじゃない。
「そっか」
ほぅっと、俺にも解るほど大きく、雨宮が安堵の息をついた。表情が緩む、張り詰めていた雰囲気が、少しだけ柔らかくなる。
そんなとき、
「ああもうっ‼ どうしてそう突っ走っていくかな⁉」
俺を守るようにして立つ雨宮のそばに、もう一人マスクをつけた少女が着地する。ここしばらくで、すっかり聞き慣れてしまった声。彼女には珍しく、その声は激しく動揺している。
「ルナ?」
「……本当にハルカの言ったとおりだ……」
「……はい?」
「後で詳しく訊くからね! ……イツキ、状況を教えて」
俺の姿を確認した――その一瞬だけ、ルナの目が驚きで見開かれる。だが、すぐに周りを見渡し表情をこわばらせる。そして、壁に背を向け双剣を構える。
「いま撤退の途中。多分、今の援軍で撤退はなんとか」
「あのゴーレムは?」
「完全に壊しても再生する。この人数なら何とかなるけど――」
「……倒しても、こっちが消耗するだけってことだよね」
完全に把握したと、ルナが頷く。俺とルナの後ろでは、雨宮が魔術を発現させ待機モードにする。
「ハルカ。倒さなくていい。私たちに寄って来る魔獣を吹き飛ばして」
「解った!」
「私とイツキは、ハルカの盾に。このまま一気に出口から脱出する」
「了解」
一瞬生まれる、無言の空間。
「いま!」
その掛け声とともに、雨宮が魔術を放つ。こちらに狙いを定めた魔獣が数体、それに巻き込まれ向こうの壁へと叩きつけられる。それを合図に、俺たちは一斉に走り出す。そして走りながら、目に映る戦況を分析する。
なんとか、最悪は脱した。その言葉に尽きる。
応援に駆け付けた攻略組のおかげで、陣形が立て直されつつある。未だに不十分な陣形だが、俺たちが全員退去するまで死亡者なしで持つことは十分に可能だろう。ゴーレムの攻撃も、あいつらに向きっぱなしだ。いまのところ、俺たちの方向へと矛先が向く予兆はない。
あとは、そこら中にいるミニ・ゴーレムを避けていけばいい。倒さず、避ける。倒せないものにわざわざ命を賭けるなんて馬鹿はしない。倒さなくていい――そう考えるなら、これは別にピンチでも何でもない。
油断さえしなければ、俺たちの勝ちなのだ。
雨宮の魔法が炸裂する。大気中の酸素消費を抑えるため、使われる属性は風。焔とは違い、破壊力を生むには若干不得手な魔術系統。だが、倒さず吹き飛ばすという目的ならば、今これに勝る属性はない。
ひときわ大きな魔術が、雨宮の周りで顕現する。超高密度に圧縮された空気の爆弾。それがいくつも、俺の後ろで停滞している。高密度に圧縮を行った所為か、後ろの気温は異様なほど高い。鈴の声に乗った呪文が、小さく耳に届く。
「――――ッ‼」
小さく力むように一呼吸。
ふぅっという気合のこもった吐息と共に、空気弾が前方へと弾き飛ばされた。
少々の破裂音が、鼓膜を揺さぶる。大気を巻き込みながらさらに肥大化したそれは、前方で、俺たちに狙いを定めたミニ・ゴーレムへとまっすぐに進む。飛散を避けるように計算された魔術その魔術を、ミニ・ゴーレムはモロに喰らう。さっきとは比較にならない衝撃音が、広間内に轟く。
だがそれでも、ミニ・ゴーレムは倒れない。数歩よろめき、それでもしっかりと足を踏ん張り体勢を立て直す。表情がないその頭部に、心なしか怒りの表情が浮かんでいるように思える。
――威力が弱い……。
思った矢先、後ろから聞こえたのは舌打ち。雨宮にも解っているのだ。効かないと解っても、火力を上げるわけにはいかないことが。それをすると、周りを巻き込んでしまうと。
いま、魔術の威力を上げれば、ミニ・ゴーレムは確実に吹き飛ぶだろう。しかし、そうなると確実に、飛散した破片は周りの冒険者たちに降り注ぐ。ここはゲームじゃない。だから、その破片が消えることはない。物理的な実体をもって、冒険者たちに降り注ぐ。それは、致命的なスキになる。
だけど……いや、だからこそ。
「両足をお願い!」
「ルナは左足!」
「承知!」
俺たちがいる。
肉体強化全開――筋肉が、骨が崩壊する二、三歩手前までオドを活性化させる。身体が一気に軽くなり、一歩踏み込むと爆発的に加速する。加えて、一度納刀し黒刀にもオドを練り込む。
時間間隔が引き延ばされる灰色の世界で、一思いに刀を振り抜く。
ルナが左、俺は右足。引き抜いた黒い刀は眩い青を湛え、肉体強化によって付加された強烈なスピードをまとい目の前の石に直撃する。先ほどとは違い、手に届いたのは石が真っ二つに割れる形容しようのない鋭い感覚。ミニ・ゴーレムの足は足先三分の一が外れ、大きく前のめりに倒れ始める。
「横に跳んで!」
後方から背中にかけられる声。指示に従い右前方へと回避する。そのとき目に入ったのは、倒れ行くミニ・ゴーレムの背中に張り付く球体。さっきよりも少しだけ大きい。回ありとの密度が圧倒的に違う空気弾。
ああ、そういうことかと、瞬時に理解する。なるほどこれなら、周りに危害が及ぶことはない。次の瞬間、その揺らぎがボンッ、と膨張した。
爆発で生まれる風の壁は、理論上は全方位に、球体の形をして広がっていく。あらゆるものを押し、動かし破壊しせんと作用する。もし、その動きに重力が加われば……。
その答えは、いま目の前で起こった。
ミニ・ゴーレムの身体が、まるで糸でもついていたかのように地面へと引きずられる。
衝突直後、強烈なマッハステムで身体中にひびが入る。一瞬だけ身体が浮き上がり、再び地面へと倒れ伏す。破砕した四肢は、風が地面に縫い付ける。
対象、沈黙。
「走れ!」
それをしり目に、再び陣形を組み走り出す。ミニ・ゴーレムに巻き込まれたくなかったのか、魔獣たちはこの周りに見えない。つまり、ミニ・ゴーレムが倒された今、ここは一種の空白地帯。ここを通れば、邪魔者はいない。
『全員、爆発を気にせず走るんだ』
突然入ってきた、レオの声。それと同時に、広間内のマナ濃度が極端に下がる。
『さあ、僕たちも撤退させてもらうよ……ッ』
刹那、
背中を突き刺す衝撃が、勢いそのまま身体を突き抜ける。背後にゴーレムの断末魔を聞きながら、一気に出入口へと飛び込んだ。
遠ざかる、広間の口。そこからこぼれる光は、異様に赤い。
《惨敗》
第一回迷宮主攻略戦は、攻略隊始まって以来の大失態として幕を閉じた。
「痛っ――……ッ」
だが、物理ダメージまではそうはいかない。どうやら、肉体強化で相当に無茶をしてしまったらしい。身体中の骨が軋みを上げ、冷静になってドーパミンの切れ始めた脳がそれを痛みとして認識する。頭から足を駆けた鋭い痛みに、思わず声が漏れる。そんな姿を見て、雨宮が少しだけ安心したように笑い前へと向き直った。
雨宮の姿を補足した、三体の魔獣。名前は知らない。だが、この辺り一帯で生息する魔獣ではないのは確かだ。冒険者たちの防壁を突破してきたそれが、一斉に得物を手にして突進する。
「――大丈夫。できる。できる……」
そんな呟きが、微かに耳に届いた。その声の主は、探すまでもない。
こんな状況だというのに、雨宮は静かに目を閉じていた。どうしたのかと思った矢先、雨宮の身体を軸として何かが起こっていることを知覚する。
何か微弱な振動が、身体を揺さぶっているように感じる。どうやら、無防備に目を瞑っているのではないのは確からしい。その証拠に、足先の方向は、常に魔獣の方向をとらえて狂うことはない。
雨宮が、閉じていた目を開ける。呼吸は整っており、その目に、明らかな恐怖は見られない。瞳はしっかりと魔獣をとらえ、足はまっすぐ地面を踏みつけている。
口が動く。その口が、短い呪文を発する。
その瞬間、大気のマナが変質を開始した。その時間は、体感では一秒にも満たないコンマ数秒の世界。そうかと思えば、今度は雨宮の周りの空気が歪み、圧縮、凝結、そして凝固を起こす。
周りにできたのは、自販機のペットボトル大ほどと見える氷の結晶――その数、十数個。
細長いそれは、まるでクジャクの羽のように雨宮を取り囲んでいる。白い氷の質は低く、その形は武骨。だがしかし、鋭利にとがった先端は、まるで目でもついているかのように魔獣をとらえ、そのときを静かに待っている。
その身体が、術者の敵を撃ち抜くその合図を。
そして、その言葉が――、
唱えられた。
「――――飛べ」
それらしい効果音やエフェクトは、全くなかった。
許可を得た氷塊は、魔獣に向かって強烈な速さで滑り出す。破裂音といった派手なものはなかった。ただ、十数個の狂気が、一斉に魔獣へと牙をむいた。それだけだった。
腕が、腹部が、氷の塊に食い破られる。
足が、頭が、吹き飛ばされる。断末魔の悲鳴が鼓膜をひっかく。
魔獣三体が絶命したのは、わずか二秒後だった。
「……上手くいった」
高レベルの演算が必要と言われる魔術の多重展開。わずかに喜びの感情を乗せた声が、雨宮の口元から紡がれた。
「動ける? 神谷くん」
「問題ない」
だいぶ倦怠感が引いた身体を、乱暴に起こす。多少重いし、頭の靄もまだ完全には晴れていないような感覚だ。だけど、あれでさっきは動いていたのだ。この状態なら動く程度は問題ないだろう。別に、達人との真剣勝負をするわけじゃない。
「そっか」
ほぅっと、俺にも解るほど大きく、雨宮が安堵の息をついた。表情が緩む、張り詰めていた雰囲気が、少しだけ柔らかくなる。
そんなとき、
「ああもうっ‼ どうしてそう突っ走っていくかな⁉」
俺を守るようにして立つ雨宮のそばに、もう一人マスクをつけた少女が着地する。ここしばらくで、すっかり聞き慣れてしまった声。彼女には珍しく、その声は激しく動揺している。
「ルナ?」
「……本当にハルカの言ったとおりだ……」
「……はい?」
「後で詳しく訊くからね! ……イツキ、状況を教えて」
俺の姿を確認した――その一瞬だけ、ルナの目が驚きで見開かれる。だが、すぐに周りを見渡し表情をこわばらせる。そして、壁に背を向け双剣を構える。
「いま撤退の途中。多分、今の援軍で撤退はなんとか」
「あのゴーレムは?」
「完全に壊しても再生する。この人数なら何とかなるけど――」
「……倒しても、こっちが消耗するだけってことだよね」
完全に把握したと、ルナが頷く。俺とルナの後ろでは、雨宮が魔術を発現させ待機モードにする。
「ハルカ。倒さなくていい。私たちに寄って来る魔獣を吹き飛ばして」
「解った!」
「私とイツキは、ハルカの盾に。このまま一気に出口から脱出する」
「了解」
一瞬生まれる、無言の空間。
「いま!」
その掛け声とともに、雨宮が魔術を放つ。こちらに狙いを定めた魔獣が数体、それに巻き込まれ向こうの壁へと叩きつけられる。それを合図に、俺たちは一斉に走り出す。そして走りながら、目に映る戦況を分析する。
なんとか、最悪は脱した。その言葉に尽きる。
応援に駆け付けた攻略組のおかげで、陣形が立て直されつつある。未だに不十分な陣形だが、俺たちが全員退去するまで死亡者なしで持つことは十分に可能だろう。ゴーレムの攻撃も、あいつらに向きっぱなしだ。いまのところ、俺たちの方向へと矛先が向く予兆はない。
あとは、そこら中にいるミニ・ゴーレムを避けていけばいい。倒さず、避ける。倒せないものにわざわざ命を賭けるなんて馬鹿はしない。倒さなくていい――そう考えるなら、これは別にピンチでも何でもない。
油断さえしなければ、俺たちの勝ちなのだ。
雨宮の魔法が炸裂する。大気中の酸素消費を抑えるため、使われる属性は風。焔とは違い、破壊力を生むには若干不得手な魔術系統。だが、倒さず吹き飛ばすという目的ならば、今これに勝る属性はない。
ひときわ大きな魔術が、雨宮の周りで顕現する。超高密度に圧縮された空気の爆弾。それがいくつも、俺の後ろで停滞している。高密度に圧縮を行った所為か、後ろの気温は異様なほど高い。鈴の声に乗った呪文が、小さく耳に届く。
「――――ッ‼」
小さく力むように一呼吸。
ふぅっという気合のこもった吐息と共に、空気弾が前方へと弾き飛ばされた。
少々の破裂音が、鼓膜を揺さぶる。大気を巻き込みながらさらに肥大化したそれは、前方で、俺たちに狙いを定めたミニ・ゴーレムへとまっすぐに進む。飛散を避けるように計算された魔術その魔術を、ミニ・ゴーレムはモロに喰らう。さっきとは比較にならない衝撃音が、広間内に轟く。
だがそれでも、ミニ・ゴーレムは倒れない。数歩よろめき、それでもしっかりと足を踏ん張り体勢を立て直す。表情がないその頭部に、心なしか怒りの表情が浮かんでいるように思える。
――威力が弱い……。
思った矢先、後ろから聞こえたのは舌打ち。雨宮にも解っているのだ。効かないと解っても、火力を上げるわけにはいかないことが。それをすると、周りを巻き込んでしまうと。
いま、魔術の威力を上げれば、ミニ・ゴーレムは確実に吹き飛ぶだろう。しかし、そうなると確実に、飛散した破片は周りの冒険者たちに降り注ぐ。ここはゲームじゃない。だから、その破片が消えることはない。物理的な実体をもって、冒険者たちに降り注ぐ。それは、致命的なスキになる。
だけど……いや、だからこそ。
「両足をお願い!」
「ルナは左足!」
「承知!」
俺たちがいる。
肉体強化全開――筋肉が、骨が崩壊する二、三歩手前までオドを活性化させる。身体が一気に軽くなり、一歩踏み込むと爆発的に加速する。加えて、一度納刀し黒刀にもオドを練り込む。
時間間隔が引き延ばされる灰色の世界で、一思いに刀を振り抜く。
ルナが左、俺は右足。引き抜いた黒い刀は眩い青を湛え、肉体強化によって付加された強烈なスピードをまとい目の前の石に直撃する。先ほどとは違い、手に届いたのは石が真っ二つに割れる形容しようのない鋭い感覚。ミニ・ゴーレムの足は足先三分の一が外れ、大きく前のめりに倒れ始める。
「横に跳んで!」
後方から背中にかけられる声。指示に従い右前方へと回避する。そのとき目に入ったのは、倒れ行くミニ・ゴーレムの背中に張り付く球体。さっきよりも少しだけ大きい。回ありとの密度が圧倒的に違う空気弾。
ああ、そういうことかと、瞬時に理解する。なるほどこれなら、周りに危害が及ぶことはない。次の瞬間、その揺らぎがボンッ、と膨張した。
爆発で生まれる風の壁は、理論上は全方位に、球体の形をして広がっていく。あらゆるものを押し、動かし破壊しせんと作用する。もし、その動きに重力が加われば……。
その答えは、いま目の前で起こった。
ミニ・ゴーレムの身体が、まるで糸でもついていたかのように地面へと引きずられる。
衝突直後、強烈なマッハステムで身体中にひびが入る。一瞬だけ身体が浮き上がり、再び地面へと倒れ伏す。破砕した四肢は、風が地面に縫い付ける。
対象、沈黙。
「走れ!」
それをしり目に、再び陣形を組み走り出す。ミニ・ゴーレムに巻き込まれたくなかったのか、魔獣たちはこの周りに見えない。つまり、ミニ・ゴーレムが倒された今、ここは一種の空白地帯。ここを通れば、邪魔者はいない。
『全員、爆発を気にせず走るんだ』
突然入ってきた、レオの声。それと同時に、広間内のマナ濃度が極端に下がる。
『さあ、僕たちも撤退させてもらうよ……ッ』
刹那、
背中を突き刺す衝撃が、勢いそのまま身体を突き抜ける。背後にゴーレムの断末魔を聞きながら、一気に出入口へと飛び込んだ。
遠ざかる、広間の口。そこからこぼれる光は、異様に赤い。
《惨敗》
第一回迷宮主攻略戦は、攻略隊始まって以来の大失態として幕を閉じた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
魔術師セナリアンの憂いごと
野村にれ
ファンタジー
エメラルダ王国。優秀な魔術師が多く、大陸から少し離れた場所にある島国である。
偉大なる魔術師であったシャーロット・マクレガーが災い、争いを防ぎ、魔力による弊害を律し、国の礎を作ったとされている。
シャーロットは王家に忠誠を、王家はシャーロットに忠誠を誓い、この国は栄えていった。
現在は魔力が無い者でも、生活や移動するのに便利な魔道具もあり、移住したい国でも挙げられるほどになった。
ルージエ侯爵家の次女・セナリアンは恵まれた人生だと多くの人は言うだろう。
公爵家に嫁ぎ、あまり表舞台に出る質では無かったが、経営や商品開発にも尽力した。
魔術師としても優秀であったようだが、それはただの一端でしかなかったことは、没後に判明することになる。
厄介ごとに溜息を付き、憂鬱だと文句を言いながら、日々生きていたことをほとんど知ることのないままである。
ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!
べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
〜彼女を可愛く育成計画〜
古波蔵くう
恋愛
烈(いさお)はオンラインゲームで日常の息抜きを楽しんでいた。ある日、ゲーム内でカリスマ的存在の魔法少女『イチゴ』と出会い、二人は仲良くなり現実で会う約束をする。初対面の日、烈は一心(いちご)の家を訪れ、緊張と期待が入り混じる。現実の一心は自信がなく、コンプレックスを抱えていたが、烈は一心を可愛くする計画を提案し、一心も同意する。
一心の過去の回想では、いじめや自信喪失の経験が描かれ、ゲームが彼の救いとなった背景が明かされる。烈との出会いは一心にとって大きな意味を持つものだった。烈は一心の健康管理をサポートし、ダイエットや運動を通じて一心は少しずつ変わっていく。初めて努力の成果を感じた一心は自信を持ち始める。
加子(かこ)の助けを借りて美容ケアを始めた一心は、さらに自信を深め、烈との絆も強まる。礼男(れお)のファッションアドバイスでおしゃれな服を試し、新しい自分に驚きと喜びを感じる一心。周囲の反応も変わり、自信を深めていく。
初めての二人きりの外出で、一心はデートを通じてさらに自信をつけ、二人の関係は一層深まる。しかし、雪崩子(なでこ)が嫉妬し妨害を試みる場面も描かれる。最終的に、烈は一心に自分の気持ちを伝え、一心もそれに応え、二人は正式に付き合い始める。未来への希望と幸せが描かれるエンディングとなる。
惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜
甲殻類パエリア
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。
秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。
——パンである。
異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。
というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。
そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる