異世界幻想曲《ファンタジア》

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アルトレイラル(迷宮攻略篇)

ヴィンセント・コボルバルド 4

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 熱い。身体が、焼けるように熱い。

 火で炙られているわけでもないのに、なぜだか、身体中の神経という神経が悲鳴を上げている。立ったまま、何度意識を失っただろう。身体を炙り続ける痛覚が、落ちる意識を叩き起こす。気絶という手段すらも、取ることを許さない。

 手足の感覚がない。指一本すらも、動かした実感がない。

 オレの身体は、本当に存在しているのだろうか。もしかしたら、オレはとっくに死んでいて、ここは地獄なのではないか。

 いや、そんなはずはないか。
 触角が消えても、聴覚がマヒしていても、目には薄暗い洞窟が映っている。まだ死んでいない。立ったまま――ということは、オレはまた、気絶していたのか。

 ああ、いま、何をしていたんだっけ……。

 この痛みを取ろうと回復薬を探る左手が、何度も空を切る。視界左前方には、真っ赤に熟れた肉の塊。そうか、左手がないのか。だったら、この痛みにも納得がいく。

 あれ……? 何でオレは、こんなことになってるんだ?

 痛みのせいで覚醒してはいるが、思考回路はもうズタボロだ。もう何も考えられない。数時間前の記憶すらも、思い返すことができない。

 ぼんやりと、前を見る。

 前には、いろんな生き物が合成されたような、良く解らない怪物。そいつが、オレの腹に剣を突き立てている。

 …………。
 ………………………。
 ………………。
 ………………………………そうか。

 思い出した。
 オレは、勝てなかったんだ。
 オレが使える手札を投げうって、大切な人と自分の命までもを燃料にして。それでも、勝てなかったんだ。

 もう少し早く、対策を取れば勝てたかもしれない。だけど、いまさら言っても遅いか。

 勝てなかった。オレたちは、目の前のこいつに勝てなかった。

 だけど……、

「……………………ケッ」

 何もかも、お前の思い通りにさせるか。

 このまま、黙って死ぬような物分かりがいい人間じゃない。最後の最後まで、徹底的にあがく。それがオレのやり方だ。
 この勝負――、

 引き分けにしようぜ。

 ◇◆   ◇◆   ◇◆

「――――――カハッ⁉」

 目が覚めて、それが夢なのだと理解するのに、少々時間を要した。

 鼓動が鼓膜にまで響く。ドクン、ドクンと、血管を血液が流れる音が脳を揺さぶる。身体が痛い。夢の中でのあの痛みが、まるでこっちの世界のことのようだ。

 腕を動かす。右手を這わす。掌が、左腕の感触をしっかりと知覚する。よかった、腕は取れていない。あれは、夢だ。

 そう自覚すると、痛みがゆっくりと引いていくのが解った。肌が痛みではなく、触覚と冷たさを知覚する。そうだった、ここは、迷宮だった。

「…………?」

 刹那、脳内を電気が走った。半強制的に、夢の光景が脳内に投影される。
 薄暗い洞窟、特殊鉱石でできた硬い地面、独特の光を放つ発光石……。

 この光景はもしかして、

「…………ここ、なのか?」
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