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終夜

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 朝焼けの迫る砂漠の空を、巨鳥ルフが飛翔する。
 
 地の果てまで続くかに見える砂丘の連なりの向こうから、太陽が上る。
 
 太陽の男神の祝福を受け、群青色の砂原は黄金色に姿を変える。

 この世界に、砂漠に朝がやって来る。
 その上を大きな鳥影は滑るように飛んでいく。
 
”原初、太陽は一匹の獣であった”
 この世界の理である、創世聖典はそう語る。
 
 暴虐の限りを尽くした獣によって世界は炎に包まれた。
 けれど、獣はひとりの乙女と出逢う。
 愛し、愛されて、そして、獣は愛する乙女を娶り太陽の神になったという。
 
 荒ぶる獣が神になどなれるものか、と、聖典の教えを魔導師は訝しんでいた。
 馬鹿馬鹿しいとさえ思っていた。
 
 
 だが、魔導師は、今なら創世の獣の気持ちが分かるような気がする。
 『愛するもの』と共にあるこの世界の、何と愛おしく美しいことか。
 
 
 この世でたったひとりの『愛するもの』を──ハティーシャを抱えて飛びながら、魔導師はふと思い出していた。
 
 かの小さな砂礫の王国の名は、ザフラバード。
 
 あのジンニーヤの名と同じ、アル・ザフラーァ砂漠に咲く花であったこと。
 
 
 それは、魔神に愛された、小さな砂漠の国の御伽噺。
 


 終
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