/// Tres

陽 yo-heave-ho

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□王族の時計篇 Life is Adventure.

4.02.2 狩りと鍋とラムの味

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 河原にて。
 相変わらず冷たい山颪に吹かれながら、ビアンカは岩場に陣取り釣り糸を垂らしていた。釣果はまずまず。朝から頑張っているものの小魚ばかりで、そろそろ鯉なんか釣りたいと思うのだが、河は海とは違い中々に難しい。一方通行の流れは潮より速くて急拵えの竿も糸も流されるばかりだった。
 それでも視界の隅のスタンは好調で、バシャン!と大きく水を跳ねさせたかと思えばまた一匹。どうやら鮭を獲ったらしく、嬉しげな声が聞こえた。
「なんか熊みたい!」
「あんな太ってねぇぞ!」
 言いつつ一緒に笑い岩場に上がるのを手伝ってやる。桶に入れた鮭は活きがよく狭い中で跳ね続けていた。もう冬で水温も冷たいというのに、スタンはへっちゃらな様子で河に浸かり、正しく熊のように魚を掴み獲りしていた。浅瀬に丁度いい岩の段差がありそこは狙い目らしく、またバシャバシャと河を進む彼はいつも以上に頼もしかった。
 一旦竿を引き上げ水筒に手を伸ばす。ゴクンと水を飲み込み景色に目を向ける。バルハラの森と河と、対岸のテオディア領。テオディア側のが深く樹海と呼ばれているそうだが、河に近い辺りは木々が少なく、ポッカリ空いている所もあった。
 何故なのかとぼんやり眺めていると、スタンの声が聞こえ、
「あれはな、爪痕。こっち側も禿げたとこが多いだろ、戦争終わってすぐはもっと酷かった。今も二国で木植えてんだと」
「…そっか」
「この河も暫く魚が獲れなくて、西側の街や村が困ってた…今じゃこーんなだけどな♪」
 終わりにニッと笑ったスタンは足下に視線を戻した。ビアンカも笑い返しまた竿を振るが、
(きっかけは、アルムガルド…か)
 森や河を傷つけたのは20年の戦争であり、発端は亡国アルムガルド。戦争が無ければ誰も傷つかず悲しまなかったのか、アルムガルドが破れなければ変わったのか…正直わからない。戦争だけではなくアルムガルドのことも納得いかぬ者は今もいて、北部は未だに内乱が起こるそうだが、イマイチ実感が湧かず。酷いことを言うなら他人事で…
 流れ行く河を見つめながら、ビアンカはそんなことを考え続けていた。

 一方、森では。
 風の音に混ざりくしゃみと銃声が響き、鳥達が逃げていく羽ばたきが続いた。
「おい、コラ!逃したろ!」
「お前が下手なんだ…っ!プへんッ!」
 茂みに隠れながら狩りに勤しむキースとリン。もう少しで鳥を撃ち落とせたはずが、リンのくしゃみのせいで狙いが外れてしまい、また盛大なくしゃみ(と唾までかかった!)に遭いキースは思い切り顔を顰めた。
「きったねぇ…クソアホ」
「文句あるなら当てろ・っ"ーーぅ"!肩貸してやってんだから、ありがたく思えし…!」
 言い合っても仕方なく、弾が減るばかりで成果も無い。気を取り直し二人で周囲を窺う。二人共厚着だったがリンの風邪はまだ続いており、鼻水も垂れ続けている。なんとも格好のつかないキャプテンである。
 キースの左腕は順調に回復していたがまだ銃は難しく、今は右腕を駆使し、支え代わりにリンの肩を借りていた。それでも左手指は親指も動かせるようになってきて、腕も曲げたり上げたりと大分良い。普通ならここまで回復するはずがなかった、グレースに言われた薬だけでは。
「…お陰様で大分良くなった。耳なんか、前の傷痕まで消えてきてる」
「…なんだ急に」
「とぼけんな。あの薬、つーか。助かってるけど…なんなんだ?」
 意を決して尋ねてみる。リンは黙ったままだったが見当違いではないはずで、激不味の'謎の薬'はいつも彼が用意してくれていた。毎度すりおろした野菜や果物で誤魔化しても、中身が血であることも間違えてないはずだ。
「こんなに治るなんて思ってなかった、だから気になる。マジで何の血だ?」
 気になってしょうがないので顔を覗けば、炎みたく輝く赤い瞳に睨まれてしまう。それでも引き下がらず尋ねる。
「リン…頼む、なぁ」
「……ダメだ。秘密」
「……」
「まだ治り切ってねぇだろ、ここまで効いてんのも予想外だし。あれよりグレースさんの薬のお陰じゃねぇか」
「…とにかくあれは、血だよな?」
「言わねぇ、ダメ!……」
 互いに睨み合っていると、背後でガサ!と音が聞こえた。揃って振り返り気配を殺す。
 ガサガサ揺れる茂みと変な鳴き声……そうっと覗いた二人は目を丸くし、目配せした。

 同じ頃、イザベラはというと。
 一人寺院に残った彼女は寝床として使う部屋や風呂場の掃除をしていた。特に風呂場は念入りに綺麗にしていたのだが、
「っ"!!いぃやぁぁああーーッ!!」
 尋常ではない悲鳴が寺院を越え山中に響き渡る。丁度戻って来ていたビアンカとスタンが聞きつけ、慌てて駆けつけるのだが、
「「どうした?!?」の!?!」
「む"ッ!くも"お!!ムシぃいッ!!!」
「は、」「え、」
「嫌なのッヤァ!!ムリヤメテぇ!!」
「!ぅお…」
 泣き叫ぶイザベラと彼女に飛び付かれ喜ぶスタン。
 ビアンカは呆気に取られ開け放たれた風呂場を見回した。イザベラの言った通り浴槽の隅っこから逃げていくクモ、といっても小ちゃい。ついでにヤモリもいた。思わず苦笑いし捕まえてみせるが、
「!?ちょっ、ヤダっなにしてんの!」
「このくらい大丈ぶ、」
「ダイジョバナイ!!ヤメテ来ンナ!!」
 また叫ばれ殺気まで向けられる。スタンも笑っていて抱っこ状態なイザベラを宥めてやるのだが、彼女は森で殺せ!だの早く手を洗え!だの、金切り声を上げ続けていた。
「そんなに嫌いなのか」
「昔からだなぁ、クモっつか虫全般」
「ヤモリは虫じゃない」
「あいつにとっちゃ同類なんだろ」
「クモなんか馬車にもいるのに」
「ちっせぇのもホントはイヤなのさ。この間も退治させられたし…」
 クモやヤモリを森に逃がしこっそり笑い合う。逃がしたことも知られればまた鼓膜が破れかねないので黙っておくことにした。
 意外や意外。<青鬼>なんて呼ばれ怖いもの知らずそうな印象だったが、こんな所で弱点を知ったビアンカは暫く思い出し笑いを堪える羽目となった。

「んっ、おいひ!」
「くぅながらはなふな」
「お前もだ」
 夜を迎え、焚き火と鍋を囲み温かな夕餉。
 ボロボロな寺院でも身震いするほどの寒さを凌げる此処は、荷馬車で過ごす夜より快適だった。
「ウサギなんてよく獲れたわね」
「ん、あぁ…偶然っつか、」
「リン」
「「「?」」」「…偶然、な」
 グツグツ煮込んだ鍋のメインはウサギの肉で、顔を綻ばせたイザベラにリンが答えようとするのだが、何故かキースが遮りはぐらかされる。一番頬張っているビアンカに負けじと彼もお代わりを装った。
「魚も美味ぇ。鮭も入れりゃいいのに」
「ごめん、折角だし塩漬けにしよう」
「そっちのがいい旅のお供だわ」
「燻製にもしようぜ、確かクローブあったろ」
「クローブ??」「!丁子あるの!」
「香辛料よ、ビアンカ好き?」
「あの匂い好き!これにも入れよう!」
「いやいや、待て待て」
「何でも入れようとすんな、だから下手なんだ」
「うるさいなぁ!絶対美味しいしっ」
 話題が変わり賑やかになる。食糧に大好きな丁子があると知ったビアンカは顔を綻ばせ、よくわからぬ香辛料にキースは首を傾げるばかりだった。
 スタンは燻製の時にでもくれてやるかと思いつつ、お代わりした肉を口に運んだ…が、咀嚼を止め眉を寄せる。歯応えや味が変わった。柔らかいというか水っぽい、さっきまでのウサギとは違う…
「スタン?どうした?」
「……なに入れた」
「ええ?」「魚でしょ?」「……」
「ちげ…魚でも、ウサギでも…」
 皆も匙を止め、顔を顰めるスタンを見つめた。しかしキースだけは違いほくそ笑んでいて、
「何だと思う、相棒」
「…ぉぃテメ…これ、」
「あのな、ウサギを獲ったのはヘビで、そいつも一緒に、」
 心配になったリンが白状した途端スタンは部屋を飛び出し、おぇええっ!と汚い声が上がった。
「スタン!!」
「ちょっと大丈夫!?」
 女子二人が追いかけ、廊下で縮こまり嘔吐するスタンの背中を摩ってやる。とんでもない事態になりリンはハラハラするばかりだった。
 幸運にもウサギとヘビの取っ組み合いに出会しどちらも捕まえ、内緒でヘビの肉も鍋に入れたのだが、
「こんな美味ぇのになぁ。あーかわいそ」
「お前…まさか知ってて…」
 一人で鍋を突き続けるキースはヘラヘラと笑っていた。熊のような男の弱点を知る彼は、リンにしつこく黙っていろと口止めしていたのだ。いつも茶化してくる相棒の情けない姿を見る為に──

 暫く嘔吐き続けるスタンを放置して四人で鍋にありつく。四人はヘビでもへっちゃらで、普段あまり肉を食べないキースも美味しそうに頬張っていた。
「そういやあいつ、嫌いなもん多かったな」
「…誰?」
「ジェラルド」
 自ら友のことを話したキースにビアンカは目を丸くするが、
「生真面目君、何が食べられなかったの」
「いや、食い物っつか…ストレスの原因?」
「例えば??」
「んん…クソなことする軍兵とか、サボってる時の隊長とか」
「くははっ」「さすがカタブツ!」
 イザベラとリンが食いつき笑い話になっていく。
 何の前触れも無しに始まったジェラルドの話…この後ビアンカも二人のように、語り続けるキースに耳を傾け笑った。


 エフライム寺院をアジトにして、数日後。
 森と河での食糧調達は何とか上手くいき、ダメになった分までとはいかずとも残り行程を凌げる量を獲ることが出来た。一行を拒むような山颪も段々と収まり、久しぶりに晴れた夜を迎える──
 明日からはまた山道へと戻り、北へ向かう。まずは山裾のプロド村を目指し、そこからアルフィリアへ。落ち合うなら何処がいいかと書きかけて止め、ビアンカはアルマスから届いた返事を読み直した。

『B殿  ご無事で何より  私は今、首都に居ります。この後はあなたと同じ地へ向かいます  return  夢にあらず  ……………  しかし私が得た重要なお話、出来れば直接お伝えしたい。なるべく早く落ち合いたい  A.R』

 何となく気になる。
 殿なんて敬称や濁した表現は万が一他人に読まれてしまった時の対策で、"return"はアルムガルドの返還話。きっと良い方向に進んだのだろうとわかったが…"重要な話"と"直接伝えたい"というのは?何かあったのだろうが、手紙でも伝えられないヤバいことなのか。落ち合うとしても暫く先で、それも上手くいくかわからぬなら返事で尋ねるべきか迷ってしまう。と、
「ビアンカ~!まだぁー?」
「…はーい!今行く!」
 イザベラの呼び声が聞こえ大声で返す。
 ペンを置き書き途中の手紙をしまい、伝書鳩を籠に戻す。早く返事をしたほうが良さそうだったが、まずは腹拵えだ。お腹が膨らめば良い返事が思いつくかも、と思った。
「遅ぇぞ妹!」
「返事書いてたの!先に食べてていいのに」
「そう言うな、折角の麺なんだから」
 遅れてビアンカがやって来て、鍋蓋が開かれ美味しい湯気が立つ。今夜は麺と山菜とトリ肉団子の豪華鍋。
「すごっ」「うまそ」
「麺って?タヌキに食われたんじゃ?」
「アホ、俺の特製よ」
「「はぁ?」」「最高!」
「鳥と一緒に卵見つけて、後はちょちょいと」
「ずっと粉捏ねてるから何かと思ったわ」
「あんたホント無駄に器用な」
「店やってたほうが儲かるだろ」
「無駄じゃねぇし!開業しねぇし!」
「いっただっきまーす♪」
「「「「待て!!」」」」
 先走って鍋を突くビアンカに皆も続き、自身の器に装っていく。肉団子はキッチリ平等に。後はお好きなように。
 タヌキ事件でどうなるかと思ったがなんてことはなく、賊ばかり集った五人は逞しく森での日々を過ごしていた。

 それから暫く楽しい夕餉が続いた。話題は最近ずっと続いているジェラルドのことで、語っているのは勿論キースだ。
「「あいつがピアースの息子!??」」
 今夜はジェラルドの出自の話で、母親が<剣豪ピアース>だと解りリンとイザベラが声を上げて驚いた。
「そんなに有名だったのか」
「それどころか!最強!あたしのバイブル!」
「彼女無しに'青色'は無ぇッ」
「結婚して子供が!しかもあんな!!」
「父親は!?どんな人だ!?」
 二人共目が飛び出すくらいの驚き様で、キースも楽しそうに笑いながら答えてやった。友の父親については殆ど知らないのだが、最強と言われる女傑とは一度だけ会ったことがあると。
「仕事の途中あいつの故郷に寄って、それで会ったんだ。ヤベェおっかねぇの。ジェラルドにキレてさ、銃向けて、マジで撃つかと思った」
「さすがキャシー!」「うはははっ!」
「冗談じゃねぇからな。止めに入ったら俺まで撃たれそうになって、あいつも血相変えて」
「そんなお袋さんに似て、あの恐ぇ面か?」
「そうだな、そっくり…似てる。くくく!」
 スタンも混ざり笑い声が大きくなっていく。既に酔いが回っている三人は兎も角、キースはお酒を飲んでいるわけでもないのに彼らと同じく酔っ払っているようだった。
 そんな様子をビアンカは黙ったまま観察していた。見守っているというべきか、少し心配にもなっていた。寺院に来てからというもの、キースは尋ねてもないのにジェラルドのことを語り、色々なことを聞かせてくれた。それは違和感を覚えるほどに…本来の彼を知る者なら痛々しいと感じるほどに。
「あんま飲んでねぇな、ビアンカちゃん」
「ちゃんじゃない…止めなくていいの?」
「言ったらまた喧嘩になるだろ…」
 隣のスタンとこっそり話す。きっかけは彼との喧嘩だろうと思っていたが、やはり。ヘラヘラしている彼もリンもイザベラも、本当はビアンカと同じ考えなのだが、キースのお喋りを止めたりはせず。本人も気づいているのかいないのか、ずっと笑い続けていた。
「…皆飲み過ぎだ、もう寝よう。明日からまた山道なんだから」
 意を決して談笑を遮るビアンカ。一瞬声が止み静かになるが、
「おいビアンカ、あいつのマネやれよ」
「…は?」
「エドの声でやってたろ。あれすげぇ似てた!」
「「「「……」」」」
 キースは意にも介さず。今度こそ皆黙り込み顔を見合わせた。
 彼はまた語り始めた、亡き友のことを。
「図体デケぇ木偶の坊が、寝相まで酷ぇんだ!寝癖もブツブツヒゲも!ギャップがアホ過ぎ、クソ面白ぇ!ぶふっ、お前らにも見せたかった!」
「へぇ…」「気になるなぁ…」
「あのヤロ、手がかり探して図書館行ってんのに!めっちゃ本借りてよぉ!へへっ、んと好きなの!一日に何冊も平気で読みやがる、ヒマかっての!それに手紙書いてたんだ。あれぜってー女だ!」
「…あっそ」「……」
 一人でずっと喋り続けるキース。饒舌なスタンなんかとは違う、漕げていない櫂のような、言うならば空回り。前に同じようなものを見たことがある。幸薄だった人生を語るフランツ、嫁や家族からのいびられ話をするレスター。痛々しく憐れで、合わせて笑ってやるのも気後れする。もう聞いているのもうんざり…
 キース自身も感じ取っているはずなのに、話を止めない。それどころか、
「!キースッそれ、……?」
 リンの飲みかけの瓶を掠め取りゴクゴクと喉を鳴らし呷る。中身はラム酒で咄嗟にビアンカが止めようとするのだが、どうしてかスタンが制止してしまう。
「っぶぇ。!あ"っま…、"………は。ぁははッ!」
 その辺の酔っ払いよろしく見事に飲み干し、うはははは!と笑い上戸になる。身体は正直で、すぐに顔が真っ赤になり足もフラフラだ。
「ちょっとあんた…大丈夫?」
「お前飲めねぇくせに、」
「のめぇし!ぅッ。んなのょゅーだ!くそがっ」
「キース!ダメだよ!」
「あぃつ、飲めへ!おぇが飲めぇーゎけッ、れだろ!っヒ」
「もう止めとけって…」
 さすがにヤバイと感じ三人が止めようとするが、キースはイザベラのラム酒も奪い取りまた呷った。彼が笑う度ラムの甘い香りが広がった。
 スタンだけは苦笑いしていて自身の瓶も渡してしまう。いつもならとっくに倒れているはずなのに、キースは一生懸命(というか必死だ)に酒を飲み続け、呂律が回らない口であーだこーだと言っていた。もう何を言ってるのか聞き取れやしない。
「じえラルどゎ…なあ!っ!っぇ!強ぇえだぁ!あ"ぃ"っ"、は!ぃッく…あたぁよくえ、剣セィさまで…バガまヂめぇよおっ!マ"・シ"・テ"!!強ぇの!!最強・アイツ・だぁら!!ひッ…しう!死ぬなん"て…ぐヒ!ア、ぁりぇ…ね…………ッ"ッ」
 一際大声を上げた直後……どうなったかはお察しの通り。
「キース!!」
「バカバカ暴れんなっ」
「サイアク。お水どこ?」
「全部出しちまえ相棒、よしよし…」
 床で縮こまった身体と水溜りになっていくラムの逆流。
 先日のスタン以上に酷く、四人の介抱も虚しく、キースは吐瀉と涙に顔を埋めたままダウンした──


 とんだ大惨事で終わった夕餉。
 汚物の片付けが終わり、ぐったりしたキースも洗ってやり、二人がかりで男部屋へ運び入れる。
「悪ぃな、キャプテン…」
「あんたが謝んな。それより…」
「……それなぁ」
 毛布の上に転がしたキースを見下ろす。顔を歪めたまま眠る彼はまだ気分が悪そうで、それが治ったとしてもどうせ、なんて嫌なふうに考えてしまう。
「俺と同じこと考えてるだろ…あんたの言う事なら、こいつも聞くんじゃねぇか?」
「…んん」
「相棒なんだろ。ちゃんと、素面の時に話せ…」
 リンは溜息すると桶を取りに出て行った。
「……」
「じえぇ…じぇあぅどお……っ、おれ、なぁ…っ……ね、ぇ、ちゃ………ごめ…」
 譫言とともに涙が溢れ、そっと頭を撫でてやる。
 ヤケ酒を止めもせず煽ったスタンだったが実は後悔していて、空回りの相棒をどうしてやるべきなのか、ずっと悩んでいた。
(どうしたもんかねぇ…どうすんよマジ?俺にもお手上げだ、ジェラルド君…)
 このまましたいようにさせ続けるのか、やはり置いてくるべきだったのか。多少は長い付き合いでも、今回ばかりは判らない。
 …こんな時キアがいたら、進むべき道を示してくれただろうに。
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