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□王族の時計篇 Life is Adventure.
4.01.1 西回りで北へ
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'凍りの男'の死から数日後、ファンダルにて。
収穫祭を迎えたバルハラは停戦祭と同様に賑やかで、首都に近いこの街も活気付いていた。教会では秋の実りに感謝を込めて、お供え物を持ち寄った街人達が集い祈りを捧げ、時折声を潜め談笑していた。
そんな中、浮いている者が二人──左腕を包帯で吊っているキースことカイルと、隣でじっとしたままのビアンカだった。
「ねぇ…」
「…行ってくる」
「ん。待ってるから」
壁沿いの扉が開き、出て来た修道士に手招きされる。ビアンカが小突くとカイルは立ち上がり向かうのだが、
「……どうしたの?」
「……なんでもねぇ」
途中で足を止め振り返った彼は何か言いたげで、しかし苦笑いすると目深くバンダナをずり下ろし、修道士と共に懺悔室の中へ入っていった。
閉ざされた扉を見つめながら考える。どうして笑ったのか気になる。あれからずっと、キースは……不意に肩を叩かれ誰かが隣に座った。
「っ!!なんで、」
「しー、静かに…また会えたね」
現れたのは'魔法使い'だった。
これで三度目、ノクシアで彼が言った通りまた逢えた。またいい香りがする。優しくて蕩けるような匂い。目を丸くしたまま固まるビアンカに'魔法使い'は相変わらずの微笑みを向けた。
「もしかして、さっきの彼が例の友達?」
カイルのことを見ていたようで一つ頷き返す。'魔法使い'の目が動き、今度はビアンカの膝に置かれたものを捉える。収穫祭のお供え物とは違う、白色の小さな花束。イザベラとカミーリャが作ってくれた、ジェラルドへの手向花だ。
「誰か、死んだのかい?」
「…そう。彼の、親友」
「そうか、可哀想に…だから落ち込んでいたんだね」
いつから見ていたのか、それでも否定しようが無く頷くしか出来ず。思わず溜息を吐いたビアンカに'魔法使い'は心配そうな表情になり、どうしたのか尋ねた。
秘密ばかりで話せることは少ない。それでも聴いてほしいと心が揺れてしまう。躊躇いながら視線を送れば優しい笑みで返され、優しい香りも広がった。
「探し物、手伝ってもらったんだ。二人のお陰で一つ見つかった、けど…そのせいで……カイルに、悲しい思いさせた」
言い終えぬ内に俯き、目蓋に溜まったものを堪える。二人に辛い思いをさせてしまった。それだけじゃないし、泣きたいのは…キースのほうなのに。溜まるばかりの自責の念が胸を締めつける。息苦しくて辛い…と、花束を握る手に温かな手が重なり、
「運命は、死と同じく避けられない。けれど恐れることはなく、受け入れるべきだ。神の導きだよ。辛く悲しくとも僕達を導いてくれる」
ゆっくりと優しい声。神父様の言葉のようなそれが頭の中に響き、息苦しさが和らいでいく。
「祈ろう、死んでしまった彼の為に。神は赦してくれるさ。君も、カイルのことも」
「…そう、だ…ありがとう」
一緒に中央の聖人像に向き直り、手を組んで目を瞑る。
真っ暗な目蓋の裏にぼんやりと浮かぶ。それはジェラルドでもキースでもなく、ラッカムだった。親父はカイルのように何か言いたげで──なんだろう?
いつの記憶なのか思い出そうとするがわからず、目を開けると'魔法使い'が顔を覗いてきて、
「探し物は、まだあるのかい?」
「ん…もう一つ、大事なもの」
「見つかるといいね」
「うん。でも手がかりがあるから、北に行くんだ」
「そうか。あっちは冬が近い、風邪を引かないように」
相槌を打ち微笑む'魔法使い'。この笑顔のお陰で心が軽くなった。いつも話を聴いてくれて、自身を落ち着かせてくれる。本当に'魔法使い'なのかもと思った。
「もう行くよ」
「…あっ、ねぇ!細工箱、」
「また今度でいいよ。僕だと思って、御守りにして」
立ち去る背中にはっとして声を上げるが、'魔法使い'は口元に指を当て、外へ出て行ってしまった。
入れ違いに懺悔室の扉が開きカイルが出てくる。彼は落ち着いた様子でビアンカの元へ戻るが、
「……どうした?」
「……なんでもない」
出入口の扉と自身とを交互に見るビアンカに眉を寄せる。何かあったのかもう一度尋ねても彼女は首を振るだけ。
「?なんの匂いだ…誰か居たのか??」
「大丈夫だから。これ、供えてきて」
「…ん」
怪訝顔で花束を受け取ったカイルに対し、ビアンカは上の空だった。'魔法使い'に細工箱をどうやって手に入れたのか聞きそびれてしまい、けれどまた逢えるかもと期待していた。
それから三日後。
「…お?おぉ!久しぶりだな、エドまで!」
「ど、どーも」
「また邪魔するぞ~」
「なんだお前達、あれから連んでるのか?」
「ま、まぁそんなとこ」
「なんだかんだな。すっかり修理屋の見習いちゃんだ」
「ちゃん止めろ、っていつまで見習いだ!」
ローザディ・ミホーレス。ビアンカことエドが、キースとスタンに出会った酒場にて。真昼間から酒臭いスタンと急に辞めて姿を消したエドが現れ、店主は驚きつつも顔を綻ばせた。
現在、ビアンカは北を目指していた。図書館の事件に加えエルドレッドまで騒ぎを起こしたので首都側は検問や警備が厳しく、なので西部の国境と山伝いの迂回路を選んだ。道中である此処は彼女にとって(というかこの物語にとって)所謂始まりの街で、折角なのだからと顔を出したのだが、
「えぇっと、もう一人…修理屋さん、どうした?何て名前だった?ど忘れしてなぁ…お前達も忘れてていいんだぞ、というか間違えていい。な、ほら…」
「「……」」
何やらしどろもどろする店主に二人は思わず顔を見合わせる。チラチラ動く店主の目は壁に貼られた(それも何枚も!)<虎の眼の盗賊>の手配書を捉えていて……きっと忘れてなんかないし、こっちも間違えやしない。
「「カイル」な」
「あーそうだっ、思い出した!カイルだ!」
「あいつも一緒だよ。今はその、'お薬'の時間なんだ」
「そうかそうか!カイルな、カイル!」
「後で連れて来る。でさぁ、ちぃっと頼みがあって……」
一方、正体を知る者達に気遣われる盗賊は、
「…………ま""ぁ"ッづ"!?!」
街の一角に停められた荷馬車から何とも言えない声が上がる。叫びのようでもあるそれに一瞬街人達が振り返ったが、幌を全て締め切ってるお陰で中は見えず、外で待つよう言われたイザベラとカミーリャも顔を見合わせただけだった。
声の主はキースで、手当てすると言って聞かないリンに'薬'と称する液体を飲まされたのだが、これが激マズで。ビアンカの料理より酷い味だった。
「文句言うな、全部飲めよ」
「っ"ぢょぉ待…?!ぅ"ぶ、」
「出すな飲め!」
「ッ~、べぇ"!げほっ、ごほっ…ごれヤ"サイ"じゃ…つかなんか、血の、」
「いい・から!の・め!」
吐き出そうとしても顔を掴まれ無理矢理飲まさせられる。野菜で作った飲み薬だと言われたが、絶対違う。腐ったような鉄のような、ハッキリ言うと血みてぇな味。
掌くらいの小瓶の量をやっとの思いで飲み干す。口も喉もヤバく、咳き込んでしまい鼻まで痛い。涙目で面白いくらい顔を歪ませるキースにリンは水筒を渡してやり、ひとまず上手く飲ませられたことに安堵した。
「傷にも塗るぞ」
「い、いや!もう止め、」
「絶対治療続けるって約束したろうが!」
「これのどこが治療だ!?」
「多少でも効くから、言うこと聞け!」
逃げようとするキースを捕まえ、もう一瓶分を手早く傷に塗っていく。耳の傷は癒えてきて聴覚も回復していたが、左腕の肘から先は殆ど動かず。壊死や傷風には至らなかったが薬指と小指がちょっと動かせる程度…器用で手癖が悪いキースの手は、もう見ることが出来なくなっていた。
「ねぇ、もういい?」
「おぅ…」「助けろクソッ」
「コソコソ何やってるわけ??」
「治療だって…」「ぜってぇ違ぇッ」
幌を捲った女子二人にリンは目もくれず、キースは半泣きである。腕の包帯を巻き直し、終わったと告げれば二人が上がってきて、今度はカイルへの変装が始まった。
「動くんじゃないわよぉ、目まで肌色にしちゃうから」
「そのくらいやれる…」
「あんたの右手は髪染めしてなさい。ほら、持っててあ・げ・る」
「イチイチ…ったく」
横に座ったカミーリャが白粉で頬の傷を塗り、目の前のイザベラが構えた鏡を覗き、片手で染め粉を髪に馴染ませていく。恐ろしく不味い薬のせいかキースはいつも以上に不機嫌で、溜息混じりに煙草とぼやいたが二人は揃ってダメと返し、グレースが持たせてくれた薬(こちらは本物だ)を口に押し込めた。
「また不味ぃ!」
「良薬口に苦しよ、我慢なさい」
「ちゃんと飲めて偉いね~」
「ガキ扱いすんな!」
「……」
リンは隠すように小瓶を片しながら騒がしい三人の様子を窺った。正確に言うならばキースの。
いつもの不機嫌、いつもの悪態、アジトでよく見た生意気なキース。この間パールで見た別人のような彼ではない…
(こういうの、なんて言うんだっけか?)
言葉がわからずさらに眉を顰める。
つまりそれは解せぬというやつで、キースに抱く感情はマティシュに居た時から続いていた──
……回想、ジェラルドの死を知った翌日。
「…………マジなの?」
「ん、マジ」
物置き部屋で、ビアンカは何もわからずなイザベラに経緯や秘密を伝えた。ペンダントの中身まで見せられた彼女は驚愕し言葉を失い、同席していたカミーリャとグレースも目を丸くしていた。
「えとまって、あのね待って…整理させて。あんたはその、お、王家の人?だから<王族の時計>探してて?こいつと生真面目君の目的は仇討ちで、それは図書館ので終わって?なになに、で、えーっとそれがなんでか繋がってる??」
「…そんなとこ。厄介で悪いんだけど、此処だけの話にしてほしい」
目を泳がせながら自身やキースを指差すイザベラ。混乱する彼女に苦笑いしカミーリャとグレースに目配せすると、二人は黙ったまま何度も頷いてくれた。秘密のはずがどんどん知れ渡ってしまい、ちょっとばかり不安になるが、
「まだ、終わってねぇ…」
キースが口を挟み<ジュアンの羅針盤>を出してみせる。スタンが地図と柘榴石も出してくれて、<王族の時計>の手がかりだと告げた。
「<時計>を狙ってんのはルミディウス、キースの仇もルミディウス。ビアンカのことは…ジェラルド君のお陰で気づかれてねぇが…こっちのことは殆ど新閣下寄生虫様々にバレてる。探すなら早くしねぇと」
「もぉお待ってやっぱり付いてけない!!」
「大丈夫、大丈夫…あたしもよくわかってない」
ヤバい話に追いつけずイザベラは頭を抱えてしまい、傍らのカミーリャが真顔で宥めた。最近把握したばかりのリンも失笑しビアンカをチラ見する。これからどうすべきか、正直なところ迷っていた。アルマスさんに言った通り<時計>を見つけたいと思う一方で、別の思いが膨れ上がる。が、
「迷ってんのか?」
「……」
「そんな必要ねぇ、阿保」
「…キース、」
「約束したろ、協力するって」
包帯塗れの顔が真剣なものになる。片目でも鋭く睨まれ何も言い返せない。
「アルマスって人も心配してたんだろ?なら止めるな、探すぞ。バレてたって鍵はこっちにある。ルミディウスは何年も前から<時計>を狙ってて、理由もわかんねぇ…あいつはダメだ。放っといたら、もっとヤベぇことになる」
冷静に真っ直ぐに自身の思いを述べ、また探そうと言う。キースはこれまでのように沈んだりはせず、きっと前を見ているのだと思った。
「キースの言う通りだ。さっさと見つけて、後はアルマスさんと決めようぜ」
「それにルミディウスだって仇じゃねぇか。出し抜けたら弔いになる、だろ?」
「…それは…」
リンとスタンが続くが、キースは目を逸らし黙ってしまった。表情も強張りどうしたのか気になるのだが、
「ちょっと口を挟ませて。すんごいお話聞いちゃったけども、アナタこんな身体で何する気?何か出来る気でいる?右手がそこそこ使えたって、お先は真っ暗闇よ」
グレースが割って入り、スタンとリンに引っ付きながら(会った際にいい男♡と喜んでいたからだろう)キースの怪我を指摘する。耳はまだしも利き手である左腕は酷く、本人も自覚してるのか眉を寄せた。
「あー、それさ…いい医者っつか、いい'薬'がある。かも」
「!そうそう、'薬'…あります」
「「「??」」」
迫る厚化粧顔を押し退けスタンが言うと、リンもはっとし続いた。薬とは?目薬のことではなさそうだし、どういうことかわからずキースもビアンカ達も顰め面になる。
「とにかく何とか出来っかも!」
「無理させねぇし、ちゃんと治させっから!」
「…男って、言い出したら聞かないわよね…わかった。毎日お薬飲ませてあげて、酷くなりそうならきちんと来るのよ、アタシの所に」
「ぅ、ぅゎ"」「近ぇ近ぇ」
「や・く・そ・く・よぉん♪」
「うぎゃあ!」「わぁったって!」
「んで俺まで…!」
意味深過ぎる申し出にグレースは暫し考え込んだが、逃げ腰な二人に誓いを立てさせ無理矢理頬にキスし、ついでにキースの頭にもチュチュと口を這わせた。
(…なんか、な……これで、いいのか?)
騒ぎ出した男四、いやいや三人を眺めながら、ビアンカは思い悩んでいた。ジェラルドの死の一因となってしまったことと、目の前で悪態づきながらも顔を綻ばせているキースへの引っ掛かり。モヤモヤする感情が何なのかわからず、<時計>探しも躊躇いが生まれる……ふと微かな声が聞こえ、
「なんで…どうして?」
声の主はキースの横でずっと縮こまっていたスチュアートだった。
彼は泣き止んでからはずっと沈み、というか抜け殻のような状態で、やっと声を発したことで皆黙り様子を窺った。隣で密かに見守り続けていたキースもじっと耳を傾ける。
「…そうやって、どうして…先のこと考えられんすか」
「……」
「わかりますよ、探してたんすよね。だから続ける…けど…デュレーさん、死んじゃったんすよ…?あんた友達なのに…悲しく、ねぇんすか?」
ほろりと涙が落ちる。充血し腫れた青い目が真っ直ぐに向けられ、疑念だけでなく恨めしいという気持ちがひしひしと伝わってきた。
「もく、的…ルミディウスが仇だって、デュレーさん、すごぃおこ、て…目の前にいたのに…!わかってんす、あんたらの"、絆!わがり"ますけど!なんでそんなッ、無かっ"だごとみでぇ"に、」
「止めてスチュアート、落ち着いて…」
段々と声を荒げ出し、イザベラが優しい声で諭し抱き締めれば、スチュアートは溢れ続ける涙を堪えようとギュッと目を瞑った。
必死に声を殺し泣く姿を前に、また心が揺れる。スチュアートの言う通りこんなの薄情だ。<時計>を見つけることがそんなに大事なのか?ジェラルドはあたしのことを守ってくれたのに、なのにあたしは、
「お前の言う通りだよ」
啜り泣きにキースの声が混ざる。思わぬ台詞に空気が変わり、察したスタンが止めるのだが、大丈夫だと返され…
キースは変わった。
「泣いたり悔いたり、今のお前が普通で、俺はおかしい。あいつまで死んだのに…"前見る"こと止めらんねぇ」
「…ッ」
「もし逆だったら、あいつもこうしたと思う。沈んでる暇あるなら進まねぇと。だからやるんだ…巻き込んで悪かったな」
至極冷静。淡々と言ってのけ、当惑の色を見せたスチュアートの頭を撫でる。
「…あんた、本当に?いいの?」
「何言ってんだ」
「いや、お前の考えなんだろうけどよ…」
「なぁ相棒…無理してねぇ?」
「その呼び方止めろ。ごちゃごちゃうっせぇ」
まるで別人だった。感情が籠もっていないような、ジェラルドの無表情のようでもあって、冷たい。
これが彼の"前を見る"ということで、しかし腑に落ちずスタンもリンもイザベラも眉を顰め、初めて見るカミーリャとグレースも狼狽えていた。
(なんで…??)
泣き虫になれとは言わない、けど…こんなあっさりと、本当に変わったというのか…?
兎に角、こうして<王族の時計>捜索は再開され、目と鼻の先の検問だらけな街道は避け、西回りで北を目指すことになった。
後からわかったことだが、図書館の事件は<虎の眼の盗賊>が犯人だとされた。'禁書室'から重要物を盗り、女まで殺したと。話の出処は正式に南部統括長になったルミディウス。これまで'義賊'と呼ばれてきた男の血生臭い事件に、バルハラはまた騒がしくなり噂が広まっていった。
「ったくもう!ますます首都側行けないわねっ」
「西側も大丈夫か?」
「あっちはちょっと面倒な山道でな、軍もそこまで警戒しねぇはずだ…この時期はキツいし」
「は?キツ?」「サイアク」
「いいこと、お薬忘れないで、無理させちゃダメよ、約束」
「あたしが見張ってるから大丈夫だって!」
「ありがとグレースさん、薬代稼いだらカミーリャに渡すから」
「んもぉ、アナタってばちょーいい子ぉ♡」
「…あは…」「可哀想でしょ放して!」
賑やかな荷積みの中、それを遠目で眺める者が二人。どっちも役に立たないだろうから大人しくしてろと言われたが、仰る通り。キースは燐寸を擦るのも一苦労だった。
やっとこさ火を点けた煙草を味わっていると、隣のスチュアートに名前を呼ばれた。未だ沈んでいる彼が取り出したのはジェラルドの三連銃だった。
「デュレーさんの、持ち物…全部棄てるって言うから、これだけ回収したんす。キースさん、使えます…?」
「あぁ…けど、お前が持ってろ」
「…でも…」
差し出された銃をそっと押し返す。血の染みが残るそれにスチュアートの顔が一瞬歪む。どんなのにせよあいつの物を持つこと自体抵抗があるんだろうと、なんとなくそう思った。形見を持つということは、死を受け入れるということだ。
スチュアートは銃を懐に抱えるとそのまま俯き黙ってしまった。後悔と葛藤を繰り返し、逃れられない絶望に慣れていく。慣れなくてはならない。でないと…まだ幼さが残る青髪の青年は6年前の自身そのもので、辿る道も同じになると解った。
「!…キース、さん…?」
片腕で抱き寄せられ、肩口に収まった頭にキースがすり寄ってくる。しんみりしてるからって白昼堂々と、男同士でこんなの、
「変なこと考えるなよ」
「…、…」
低く真剣な声で耳打ちされ、思わず息を呑む──
何やら見抜いたキースはしっかり釘を刺し、仲間達と共に旅立って行った。
収穫祭を迎えたバルハラは停戦祭と同様に賑やかで、首都に近いこの街も活気付いていた。教会では秋の実りに感謝を込めて、お供え物を持ち寄った街人達が集い祈りを捧げ、時折声を潜め談笑していた。
そんな中、浮いている者が二人──左腕を包帯で吊っているキースことカイルと、隣でじっとしたままのビアンカだった。
「ねぇ…」
「…行ってくる」
「ん。待ってるから」
壁沿いの扉が開き、出て来た修道士に手招きされる。ビアンカが小突くとカイルは立ち上がり向かうのだが、
「……どうしたの?」
「……なんでもねぇ」
途中で足を止め振り返った彼は何か言いたげで、しかし苦笑いすると目深くバンダナをずり下ろし、修道士と共に懺悔室の中へ入っていった。
閉ざされた扉を見つめながら考える。どうして笑ったのか気になる。あれからずっと、キースは……不意に肩を叩かれ誰かが隣に座った。
「っ!!なんで、」
「しー、静かに…また会えたね」
現れたのは'魔法使い'だった。
これで三度目、ノクシアで彼が言った通りまた逢えた。またいい香りがする。優しくて蕩けるような匂い。目を丸くしたまま固まるビアンカに'魔法使い'は相変わらずの微笑みを向けた。
「もしかして、さっきの彼が例の友達?」
カイルのことを見ていたようで一つ頷き返す。'魔法使い'の目が動き、今度はビアンカの膝に置かれたものを捉える。収穫祭のお供え物とは違う、白色の小さな花束。イザベラとカミーリャが作ってくれた、ジェラルドへの手向花だ。
「誰か、死んだのかい?」
「…そう。彼の、親友」
「そうか、可哀想に…だから落ち込んでいたんだね」
いつから見ていたのか、それでも否定しようが無く頷くしか出来ず。思わず溜息を吐いたビアンカに'魔法使い'は心配そうな表情になり、どうしたのか尋ねた。
秘密ばかりで話せることは少ない。それでも聴いてほしいと心が揺れてしまう。躊躇いながら視線を送れば優しい笑みで返され、優しい香りも広がった。
「探し物、手伝ってもらったんだ。二人のお陰で一つ見つかった、けど…そのせいで……カイルに、悲しい思いさせた」
言い終えぬ内に俯き、目蓋に溜まったものを堪える。二人に辛い思いをさせてしまった。それだけじゃないし、泣きたいのは…キースのほうなのに。溜まるばかりの自責の念が胸を締めつける。息苦しくて辛い…と、花束を握る手に温かな手が重なり、
「運命は、死と同じく避けられない。けれど恐れることはなく、受け入れるべきだ。神の導きだよ。辛く悲しくとも僕達を導いてくれる」
ゆっくりと優しい声。神父様の言葉のようなそれが頭の中に響き、息苦しさが和らいでいく。
「祈ろう、死んでしまった彼の為に。神は赦してくれるさ。君も、カイルのことも」
「…そう、だ…ありがとう」
一緒に中央の聖人像に向き直り、手を組んで目を瞑る。
真っ暗な目蓋の裏にぼんやりと浮かぶ。それはジェラルドでもキースでもなく、ラッカムだった。親父はカイルのように何か言いたげで──なんだろう?
いつの記憶なのか思い出そうとするがわからず、目を開けると'魔法使い'が顔を覗いてきて、
「探し物は、まだあるのかい?」
「ん…もう一つ、大事なもの」
「見つかるといいね」
「うん。でも手がかりがあるから、北に行くんだ」
「そうか。あっちは冬が近い、風邪を引かないように」
相槌を打ち微笑む'魔法使い'。この笑顔のお陰で心が軽くなった。いつも話を聴いてくれて、自身を落ち着かせてくれる。本当に'魔法使い'なのかもと思った。
「もう行くよ」
「…あっ、ねぇ!細工箱、」
「また今度でいいよ。僕だと思って、御守りにして」
立ち去る背中にはっとして声を上げるが、'魔法使い'は口元に指を当て、外へ出て行ってしまった。
入れ違いに懺悔室の扉が開きカイルが出てくる。彼は落ち着いた様子でビアンカの元へ戻るが、
「……どうした?」
「……なんでもない」
出入口の扉と自身とを交互に見るビアンカに眉を寄せる。何かあったのかもう一度尋ねても彼女は首を振るだけ。
「?なんの匂いだ…誰か居たのか??」
「大丈夫だから。これ、供えてきて」
「…ん」
怪訝顔で花束を受け取ったカイルに対し、ビアンカは上の空だった。'魔法使い'に細工箱をどうやって手に入れたのか聞きそびれてしまい、けれどまた逢えるかもと期待していた。
それから三日後。
「…お?おぉ!久しぶりだな、エドまで!」
「ど、どーも」
「また邪魔するぞ~」
「なんだお前達、あれから連んでるのか?」
「ま、まぁそんなとこ」
「なんだかんだな。すっかり修理屋の見習いちゃんだ」
「ちゃん止めろ、っていつまで見習いだ!」
ローザディ・ミホーレス。ビアンカことエドが、キースとスタンに出会った酒場にて。真昼間から酒臭いスタンと急に辞めて姿を消したエドが現れ、店主は驚きつつも顔を綻ばせた。
現在、ビアンカは北を目指していた。図書館の事件に加えエルドレッドまで騒ぎを起こしたので首都側は検問や警備が厳しく、なので西部の国境と山伝いの迂回路を選んだ。道中である此処は彼女にとって(というかこの物語にとって)所謂始まりの街で、折角なのだからと顔を出したのだが、
「えぇっと、もう一人…修理屋さん、どうした?何て名前だった?ど忘れしてなぁ…お前達も忘れてていいんだぞ、というか間違えていい。な、ほら…」
「「……」」
何やらしどろもどろする店主に二人は思わず顔を見合わせる。チラチラ動く店主の目は壁に貼られた(それも何枚も!)<虎の眼の盗賊>の手配書を捉えていて……きっと忘れてなんかないし、こっちも間違えやしない。
「「カイル」な」
「あーそうだっ、思い出した!カイルだ!」
「あいつも一緒だよ。今はその、'お薬'の時間なんだ」
「そうかそうか!カイルな、カイル!」
「後で連れて来る。でさぁ、ちぃっと頼みがあって……」
一方、正体を知る者達に気遣われる盗賊は、
「…………ま""ぁ"ッづ"!?!」
街の一角に停められた荷馬車から何とも言えない声が上がる。叫びのようでもあるそれに一瞬街人達が振り返ったが、幌を全て締め切ってるお陰で中は見えず、外で待つよう言われたイザベラとカミーリャも顔を見合わせただけだった。
声の主はキースで、手当てすると言って聞かないリンに'薬'と称する液体を飲まされたのだが、これが激マズで。ビアンカの料理より酷い味だった。
「文句言うな、全部飲めよ」
「っ"ぢょぉ待…?!ぅ"ぶ、」
「出すな飲め!」
「ッ~、べぇ"!げほっ、ごほっ…ごれヤ"サイ"じゃ…つかなんか、血の、」
「いい・から!の・め!」
吐き出そうとしても顔を掴まれ無理矢理飲まさせられる。野菜で作った飲み薬だと言われたが、絶対違う。腐ったような鉄のような、ハッキリ言うと血みてぇな味。
掌くらいの小瓶の量をやっとの思いで飲み干す。口も喉もヤバく、咳き込んでしまい鼻まで痛い。涙目で面白いくらい顔を歪ませるキースにリンは水筒を渡してやり、ひとまず上手く飲ませられたことに安堵した。
「傷にも塗るぞ」
「い、いや!もう止め、」
「絶対治療続けるって約束したろうが!」
「これのどこが治療だ!?」
「多少でも効くから、言うこと聞け!」
逃げようとするキースを捕まえ、もう一瓶分を手早く傷に塗っていく。耳の傷は癒えてきて聴覚も回復していたが、左腕の肘から先は殆ど動かず。壊死や傷風には至らなかったが薬指と小指がちょっと動かせる程度…器用で手癖が悪いキースの手は、もう見ることが出来なくなっていた。
「ねぇ、もういい?」
「おぅ…」「助けろクソッ」
「コソコソ何やってるわけ??」
「治療だって…」「ぜってぇ違ぇッ」
幌を捲った女子二人にリンは目もくれず、キースは半泣きである。腕の包帯を巻き直し、終わったと告げれば二人が上がってきて、今度はカイルへの変装が始まった。
「動くんじゃないわよぉ、目まで肌色にしちゃうから」
「そのくらいやれる…」
「あんたの右手は髪染めしてなさい。ほら、持っててあ・げ・る」
「イチイチ…ったく」
横に座ったカミーリャが白粉で頬の傷を塗り、目の前のイザベラが構えた鏡を覗き、片手で染め粉を髪に馴染ませていく。恐ろしく不味い薬のせいかキースはいつも以上に不機嫌で、溜息混じりに煙草とぼやいたが二人は揃ってダメと返し、グレースが持たせてくれた薬(こちらは本物だ)を口に押し込めた。
「また不味ぃ!」
「良薬口に苦しよ、我慢なさい」
「ちゃんと飲めて偉いね~」
「ガキ扱いすんな!」
「……」
リンは隠すように小瓶を片しながら騒がしい三人の様子を窺った。正確に言うならばキースの。
いつもの不機嫌、いつもの悪態、アジトでよく見た生意気なキース。この間パールで見た別人のような彼ではない…
(こういうの、なんて言うんだっけか?)
言葉がわからずさらに眉を顰める。
つまりそれは解せぬというやつで、キースに抱く感情はマティシュに居た時から続いていた──
……回想、ジェラルドの死を知った翌日。
「…………マジなの?」
「ん、マジ」
物置き部屋で、ビアンカは何もわからずなイザベラに経緯や秘密を伝えた。ペンダントの中身まで見せられた彼女は驚愕し言葉を失い、同席していたカミーリャとグレースも目を丸くしていた。
「えとまって、あのね待って…整理させて。あんたはその、お、王家の人?だから<王族の時計>探してて?こいつと生真面目君の目的は仇討ちで、それは図書館ので終わって?なになに、で、えーっとそれがなんでか繋がってる??」
「…そんなとこ。厄介で悪いんだけど、此処だけの話にしてほしい」
目を泳がせながら自身やキースを指差すイザベラ。混乱する彼女に苦笑いしカミーリャとグレースに目配せすると、二人は黙ったまま何度も頷いてくれた。秘密のはずがどんどん知れ渡ってしまい、ちょっとばかり不安になるが、
「まだ、終わってねぇ…」
キースが口を挟み<ジュアンの羅針盤>を出してみせる。スタンが地図と柘榴石も出してくれて、<王族の時計>の手がかりだと告げた。
「<時計>を狙ってんのはルミディウス、キースの仇もルミディウス。ビアンカのことは…ジェラルド君のお陰で気づかれてねぇが…こっちのことは殆ど新閣下寄生虫様々にバレてる。探すなら早くしねぇと」
「もぉお待ってやっぱり付いてけない!!」
「大丈夫、大丈夫…あたしもよくわかってない」
ヤバい話に追いつけずイザベラは頭を抱えてしまい、傍らのカミーリャが真顔で宥めた。最近把握したばかりのリンも失笑しビアンカをチラ見する。これからどうすべきか、正直なところ迷っていた。アルマスさんに言った通り<時計>を見つけたいと思う一方で、別の思いが膨れ上がる。が、
「迷ってんのか?」
「……」
「そんな必要ねぇ、阿保」
「…キース、」
「約束したろ、協力するって」
包帯塗れの顔が真剣なものになる。片目でも鋭く睨まれ何も言い返せない。
「アルマスって人も心配してたんだろ?なら止めるな、探すぞ。バレてたって鍵はこっちにある。ルミディウスは何年も前から<時計>を狙ってて、理由もわかんねぇ…あいつはダメだ。放っといたら、もっとヤベぇことになる」
冷静に真っ直ぐに自身の思いを述べ、また探そうと言う。キースはこれまでのように沈んだりはせず、きっと前を見ているのだと思った。
「キースの言う通りだ。さっさと見つけて、後はアルマスさんと決めようぜ」
「それにルミディウスだって仇じゃねぇか。出し抜けたら弔いになる、だろ?」
「…それは…」
リンとスタンが続くが、キースは目を逸らし黙ってしまった。表情も強張りどうしたのか気になるのだが、
「ちょっと口を挟ませて。すんごいお話聞いちゃったけども、アナタこんな身体で何する気?何か出来る気でいる?右手がそこそこ使えたって、お先は真っ暗闇よ」
グレースが割って入り、スタンとリンに引っ付きながら(会った際にいい男♡と喜んでいたからだろう)キースの怪我を指摘する。耳はまだしも利き手である左腕は酷く、本人も自覚してるのか眉を寄せた。
「あー、それさ…いい医者っつか、いい'薬'がある。かも」
「!そうそう、'薬'…あります」
「「「??」」」
迫る厚化粧顔を押し退けスタンが言うと、リンもはっとし続いた。薬とは?目薬のことではなさそうだし、どういうことかわからずキースもビアンカ達も顰め面になる。
「とにかく何とか出来っかも!」
「無理させねぇし、ちゃんと治させっから!」
「…男って、言い出したら聞かないわよね…わかった。毎日お薬飲ませてあげて、酷くなりそうならきちんと来るのよ、アタシの所に」
「ぅ、ぅゎ"」「近ぇ近ぇ」
「や・く・そ・く・よぉん♪」
「うぎゃあ!」「わぁったって!」
「んで俺まで…!」
意味深過ぎる申し出にグレースは暫し考え込んだが、逃げ腰な二人に誓いを立てさせ無理矢理頬にキスし、ついでにキースの頭にもチュチュと口を這わせた。
(…なんか、な……これで、いいのか?)
騒ぎ出した男四、いやいや三人を眺めながら、ビアンカは思い悩んでいた。ジェラルドの死の一因となってしまったことと、目の前で悪態づきながらも顔を綻ばせているキースへの引っ掛かり。モヤモヤする感情が何なのかわからず、<時計>探しも躊躇いが生まれる……ふと微かな声が聞こえ、
「なんで…どうして?」
声の主はキースの横でずっと縮こまっていたスチュアートだった。
彼は泣き止んでからはずっと沈み、というか抜け殻のような状態で、やっと声を発したことで皆黙り様子を窺った。隣で密かに見守り続けていたキースもじっと耳を傾ける。
「…そうやって、どうして…先のこと考えられんすか」
「……」
「わかりますよ、探してたんすよね。だから続ける…けど…デュレーさん、死んじゃったんすよ…?あんた友達なのに…悲しく、ねぇんすか?」
ほろりと涙が落ちる。充血し腫れた青い目が真っ直ぐに向けられ、疑念だけでなく恨めしいという気持ちがひしひしと伝わってきた。
「もく、的…ルミディウスが仇だって、デュレーさん、すごぃおこ、て…目の前にいたのに…!わかってんす、あんたらの"、絆!わがり"ますけど!なんでそんなッ、無かっ"だごとみでぇ"に、」
「止めてスチュアート、落ち着いて…」
段々と声を荒げ出し、イザベラが優しい声で諭し抱き締めれば、スチュアートは溢れ続ける涙を堪えようとギュッと目を瞑った。
必死に声を殺し泣く姿を前に、また心が揺れる。スチュアートの言う通りこんなの薄情だ。<時計>を見つけることがそんなに大事なのか?ジェラルドはあたしのことを守ってくれたのに、なのにあたしは、
「お前の言う通りだよ」
啜り泣きにキースの声が混ざる。思わぬ台詞に空気が変わり、察したスタンが止めるのだが、大丈夫だと返され…
キースは変わった。
「泣いたり悔いたり、今のお前が普通で、俺はおかしい。あいつまで死んだのに…"前見る"こと止めらんねぇ」
「…ッ」
「もし逆だったら、あいつもこうしたと思う。沈んでる暇あるなら進まねぇと。だからやるんだ…巻き込んで悪かったな」
至極冷静。淡々と言ってのけ、当惑の色を見せたスチュアートの頭を撫でる。
「…あんた、本当に?いいの?」
「何言ってんだ」
「いや、お前の考えなんだろうけどよ…」
「なぁ相棒…無理してねぇ?」
「その呼び方止めろ。ごちゃごちゃうっせぇ」
まるで別人だった。感情が籠もっていないような、ジェラルドの無表情のようでもあって、冷たい。
これが彼の"前を見る"ということで、しかし腑に落ちずスタンもリンもイザベラも眉を顰め、初めて見るカミーリャとグレースも狼狽えていた。
(なんで…??)
泣き虫になれとは言わない、けど…こんなあっさりと、本当に変わったというのか…?
兎に角、こうして<王族の時計>捜索は再開され、目と鼻の先の検問だらけな街道は避け、西回りで北を目指すことになった。
後からわかったことだが、図書館の事件は<虎の眼の盗賊>が犯人だとされた。'禁書室'から重要物を盗り、女まで殺したと。話の出処は正式に南部統括長になったルミディウス。これまで'義賊'と呼ばれてきた男の血生臭い事件に、バルハラはまた騒がしくなり噂が広まっていった。
「ったくもう!ますます首都側行けないわねっ」
「西側も大丈夫か?」
「あっちはちょっと面倒な山道でな、軍もそこまで警戒しねぇはずだ…この時期はキツいし」
「は?キツ?」「サイアク」
「いいこと、お薬忘れないで、無理させちゃダメよ、約束」
「あたしが見張ってるから大丈夫だって!」
「ありがとグレースさん、薬代稼いだらカミーリャに渡すから」
「んもぉ、アナタってばちょーいい子ぉ♡」
「…あは…」「可哀想でしょ放して!」
賑やかな荷積みの中、それを遠目で眺める者が二人。どっちも役に立たないだろうから大人しくしてろと言われたが、仰る通り。キースは燐寸を擦るのも一苦労だった。
やっとこさ火を点けた煙草を味わっていると、隣のスチュアートに名前を呼ばれた。未だ沈んでいる彼が取り出したのはジェラルドの三連銃だった。
「デュレーさんの、持ち物…全部棄てるって言うから、これだけ回収したんす。キースさん、使えます…?」
「あぁ…けど、お前が持ってろ」
「…でも…」
差し出された銃をそっと押し返す。血の染みが残るそれにスチュアートの顔が一瞬歪む。どんなのにせよあいつの物を持つこと自体抵抗があるんだろうと、なんとなくそう思った。形見を持つということは、死を受け入れるということだ。
スチュアートは銃を懐に抱えるとそのまま俯き黙ってしまった。後悔と葛藤を繰り返し、逃れられない絶望に慣れていく。慣れなくてはならない。でないと…まだ幼さが残る青髪の青年は6年前の自身そのもので、辿る道も同じになると解った。
「!…キース、さん…?」
片腕で抱き寄せられ、肩口に収まった頭にキースがすり寄ってくる。しんみりしてるからって白昼堂々と、男同士でこんなの、
「変なこと考えるなよ」
「…、…」
低く真剣な声で耳打ちされ、思わず息を呑む──
何やら見抜いたキースはしっかり釘を刺し、仲間達と共に旅立って行った。
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