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■幕間
2.09.0.5(1) 心中立て【R-18】
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回想…いつかのアジト、畑にて──
ラッカム一味に仲間入りして二年ほど。まだ幼いジュリーは照りつける太陽の下で、一向に芽を出さない畑を睨みつけていた。
種蒔きして十日。あと数日出なかったらやり直すと、ゼスが言っていた。一緒に蒔いたビアンカやリンはこのせいで落ち込んでいた。今日も出てないと伝えるのが心苦しい。
かく言う自分はというと、
(なんで、こんなことしてんだろ?)
ぼんやりと思い、溜息に変えて吐き出す。芽が出ても昨年のように嵐でダメになるかもしれない。やり直すなら、そもそもやらなきゃいいのに。
(お金があれば、クロフさんの船で食べ物買えるし…りゃくだつってのをすれば、金が増えていいって、誰か言ってたな。じゃあ…なんでしないの?)
悶々と考え、茶色いままの畑を小枝でほじくる。意地悪な畑、大嫌い。
当時幼いジュリーは他の年少海賊に比べ、達観しているというか悟っているというか…世間一般の子供と比べても、ちょっと大人びた少女だった。
不意に影が落ち雲かと思い見上げると、間近にロバの顔があり驚き転んでしまう。さらに声が聞こえ、
「海賊らしくねぇって思うよな?」
はっとしてロバの後ろを見遣ると、荷台に乗っていたオーウェンと目が合い笑顔を向けられた。
歳若くも大頭の倅である彼は皆から一目置かれていて、ジュリーは慌てて立ち上がり距離を置こうとする。先ほどの台詞からして、どうやら自分は思ってることを口に出してしまってたようだ。
オーウェンは猫のような警戒を見せたジュリーに目を丸くし、苦笑いすると頭を振ってみせ、
「俺も思うんだから大丈夫。ビビんなよ」
「でも、オーウェンは…親父の息子さん、でしょ?」
ジュリーはおっかなびっくりといった様子で返すのだが…オーウェンはさらに目を大きくし、声を上げ笑い出した。
「さんっ、さんて!あはははは!」
腹を抱え笑う彼に今度はジュリーが驚き、ロバもビクりと反応し右往左往してしまい、心配になったジュリーは手綱を捕まえ押さえてやる。オーウェンはまだ笑っていたが、手綱ごとジュリーを捕まえると一緒に乗るよう言って、少女は言われるまま荷台に乗り込みまだ細い彼の腕にしがみ付いた。
「お前って面白ぇんだな。なんかツンケンしてるイメージあった」
「あんたこそ…こんなガキっぽいなんて、知らなかった」
「はぁ?ガキじゃねぇし。酒も飲めるし煙草も吸うぜ」
「そういうんじゃなくて…笑い方、可愛かったなって」
「!か、可愛くねぇよ、俺男だぞ…」
荷台で揺られながら言葉を交わす。リンと仲良しなのは知ってたが、こんなに話したのは初めてかもしれない。それに…
親父の息子でも一味のやり方をおかしいと思うのだと知り、ジュリーは嬉しく感じていた。
回想…いつかのアジト、港にて──
その日ジュリーは岩壁内の見張りに就いていたのだが、港のほうが騒がしくなり、穴の窓から覗き様子を窺った。
仲間が数人、否、十人以上の者達が船に荷物を積んでいて、予定に無いそれに彼女は眉を寄せるのだが、
「!オーウェン…あれどうしたの?」
交代のオーウェンが姿を現し尋ねてみる。彼は浮かない表情で、なんだか不機嫌そうに見えた。
「……出て行くって」
「出て行く?え…まさか、一味を??」
ギョッとして何度も船を振り返り見てしまう。オーウェンは何も言わなかったが、溜息が聞こえ肯定なのだとわかる。
出て行くという者達は着々と支度を進めていて、時折笑い声まで聞こえ意気揚々としていた。ふと疑問が湧きまた眉を寄せる。
「ねぇ、船は?それに食糧も弾薬も、あんなに積んで……持ってく気?」
「…親父が許したらしい。反対したのに…ゼスも皆も、聴いてくれねぇ」
呟き程度の答えが返ってきてジュリーは目を見開く。あり得ない。ここを出て何処に行くのだ?また海賊をやるのか?そしたら今度は同業者、それどころか敵だ。そんなワガママ連中に何故与えてやるのだ…
オーウェンが舌打ちをもらし窓の下に座り込む。心配になり顔を覗けば、やはり怒りを帯びた目とぶつかるが、
「母さんのこと、わかった…あいつらが教えてくれた」
「…!」
「病気だったのは確かだ、けど…親父が殺して、村まで焼いた……同じ病気にかかってた皆も、何もかも、殺したって…ッ」
「……」
「あの野郎なんで黙ってた?なんで…!?」
オーウェンの怒りは彼らへではなく、唐突に知った真実に対してで、初めて目の当たりにする彼の憎悪にジュリーは一瞬臆してしまうが、隣に座るとぎゅっと抱きしめてやった。
頭の一人になったばかりのオーウェンは一味でまだまだ子供扱いで、意見も聞いてもらえず、大切な話も他人から聞かされ…二人はそれ以上何も言わずだったが、ジュリーの中では間違いばかりの世界への不満が溜まっていった。
回想…いつかのアジト、某所にて──
「畑ってなんだよ?俺ら海賊だぞ、なんで農夫みてぇなこと…」
「海も全然行けねぇし、大頭は頭イカれてんのか?」
「こんなことなら、他の海賊のとこ行きゃよかった…!」
他の者の目を盗み、仕事をサボり、愚痴を溢す。これはラッカム一味の裏の顔。ビアンカのような能天気には想像もつかない負の産物だ。
このサボり場を教えてやったジュリーも居合わせ、一緒に煙草を味わう。そろそろ交代だから戻らないと。バレたら面倒な掟に遭う…なんて思っていると、窓の外に見知った影が現れ思わず外に出る。
「珍しいね、昼間に来る、…!」
「ん……勧誘活動」
現れたのはオーウェンで、彼はジュリーを捕まえると唇を奪い、盗み見ていた仲間達に見せつけるように抱き寄せさらに舌を絡め取った。
「お前らの言う通り、あのクソジジィはイカれちまってる。だからこんなとこ抜けて新しいことしねぇか?俺と一緒に」
オーウェンの言葉に仲間達は顔を見合わせるが、薄らと笑みを浮かべると目を輝かせはじめ、全員頷いてみせた。
ほくそ笑み裏切りの計画を語るオーウェンの傍らでジュリーは少し不安になっていた。ここ数年かけて鳩の面倒を見ているが、本当に顔を覚えてくれてるのか。オーウェンの言うバルハラの軍人とは、本当に信用出来るのか…
「大丈夫」
はっとして隣を見る。優しい笑みを浮かべたオーウェンが視線を送ってきて、触れた手を握りしめてくれた。
自分でも魔法の言葉を呟いた途端、身体が大きく揺れ……ジュリーの夢はそこで終わった。
34日目と35日目の間。
揺れ傾く船室の扉が開き、雨風とともに大きな影が入って来る。影はびしょ濡れになった服を脱ぎ捨て裸になると、そっとベッドに腰を下ろした。
ジュリーはそんなオーウェンの様子が擽ったく、笑いをもらし背中に抱きつく。
「…起こして悪ぃ」
「荒れてんだから誰でも起きるよ」
濡れて冷んやりとした肌を摩りながら、目いっぱいに映り込んだ竜の刺青に唇を這わせる。秘密にしているが彼の背中の竜が大好きだ。お伽話に出てくる海の支配者、そんなものを彫るなんて罰当たりだと言う輩もいたが、自分は好きだ。きっと彼以上に畏怖や畏敬を抱いているとも思った。
「小せぇ時化だ…もうすぐ着くし、寝てろ」
「…あんたも、休みなよ…最近寝れてないでしょ…?」
振り返ったオーウェンに捕まり抱き寄せられ、唇を重ねる。まだ濡れたままの身体が素肌に触れ自身まで冷えていくが、そのままベッドに押し倒され一緒に毛布に包まる。このまま一緒にもう一眠りかと思いきや、間近に迫った双眸にキツく睨まれ、
「俺のこと、観察でもしてんのか?」
「!そんなんじゃない」
吐息混じりの呟きはいつもと違う熱が籠っており、つい眉を寄せてしまう。単に心配で気遣ったつもりなのに苛立ちで返され、また何かあったのか不安になる。
どんなに話しても一緒に居ても、身体を重ねようとも。最近のオーウェンはずっと黒い感情を抱いたままだった。
「オー、ウェン……ぁあ…っ」
細くしなやかな身体を大きな手が弄り、舌が後を追っていく。腹を舐め回すとビクビクと跳ねて、面白くて噛みつき吸い上げてやれば、また反応し嬌声が聞こえ思わずほくそ笑む。
「…んなにいいかよ?」
艶めいた声につられオーウェンの身体も徐々に熱くなり、同時に嗜虐心が掻き立てられていく。秘部に指を挿すと拒むように手ごと締め付けられたが、構わずに中をぐちゃぐちゃに掻き混ぜてやる。
「ソロウもセディも…お前まで。いい加減ウゼぇんだけど」
「っ、ごめ、」
「なんか文句でもあんのか、あ?誰のお陰で…ここまで来れた?」
「ん、ゃ、はぁ…!まってオーウェ、」
「どいつもこいつもよぉ、あのクソ野郎もッ、んなに殺されてぇのか…!?」
「ぃッ、あぁあ!ッ…!」
ビクンと身体が跳ね、はっとする。
気がつけば眼下のジュリーは身体を強張らせ震えていて、自身が何を仕出かしたのかわかる。そっと引き抜いた指は彼女の愛液ではなく、血に塗れていた。
「わり…悪ぃこんな、」
「大丈夫、大丈夫だから」
動揺するオーウェンを引き寄せ抱き留める。逃げようとしているのがわかり何度も魔法の言葉を囁き、頭を撫で落ち着かせようとする。大丈夫、このくらい。すぐ治る、大丈夫──
「…ごめんな…俺、最近おかしいな」
「違う、そんなことない。疲れてるだけだよ」
「奇襲、失敗して…あいつらも黙ったままで、このままでいいのか、わかんなくなっちまった」
「大丈夫、上手くいく…砦に着いたらあたし達の勝ち、そうでしょ?」
「…あぁ」
「オーウェン…ね……」
鼻先にそっとキスしてやると漸くオーウェンの顔が綻んで、ジュリーも微笑み返した。
また唇を重ね、今度はオーウェンから抱き締め耳元で囁く。
「お前は……ずっと傍に居るよな?」
「ん、一緒にいる。だから大丈夫…」
声はいつもの声なのに、なんだか違う。まるで夢の続き。若い頃の彼のようで、心が温かくなった。大丈夫、傍で支えると決めて、付いて来たのだから。
ジュリーは抱く腕に力を込め、愛しい男を守り切ると己に誓った。
──しかしオーウェンは、今の魔法の言葉を別の意味で捉えていた。
(大丈夫、大丈夫……なにが大丈夫?何をもって言ってる?安心しろってか?神に誓うか?おい、絶対大丈夫なんだよな?一緒に、ずっとずーっと傍に居るんだよな??なぁ…)
好いた女に'大丈夫'を教えたのは自身。だからなんだ?それ言っときゃ何もかも上手くいく?んなわけねぇだろ……
心に巣食った憎悪がオーウェンを支配していく──
彼はジュリーの気持ちなど一切考えず。今の言葉を違わせぬようにするには、どうしたらいいかと…そんなことばかり考えていた。
ラッカム一味に仲間入りして二年ほど。まだ幼いジュリーは照りつける太陽の下で、一向に芽を出さない畑を睨みつけていた。
種蒔きして十日。あと数日出なかったらやり直すと、ゼスが言っていた。一緒に蒔いたビアンカやリンはこのせいで落ち込んでいた。今日も出てないと伝えるのが心苦しい。
かく言う自分はというと、
(なんで、こんなことしてんだろ?)
ぼんやりと思い、溜息に変えて吐き出す。芽が出ても昨年のように嵐でダメになるかもしれない。やり直すなら、そもそもやらなきゃいいのに。
(お金があれば、クロフさんの船で食べ物買えるし…りゃくだつってのをすれば、金が増えていいって、誰か言ってたな。じゃあ…なんでしないの?)
悶々と考え、茶色いままの畑を小枝でほじくる。意地悪な畑、大嫌い。
当時幼いジュリーは他の年少海賊に比べ、達観しているというか悟っているというか…世間一般の子供と比べても、ちょっと大人びた少女だった。
不意に影が落ち雲かと思い見上げると、間近にロバの顔があり驚き転んでしまう。さらに声が聞こえ、
「海賊らしくねぇって思うよな?」
はっとしてロバの後ろを見遣ると、荷台に乗っていたオーウェンと目が合い笑顔を向けられた。
歳若くも大頭の倅である彼は皆から一目置かれていて、ジュリーは慌てて立ち上がり距離を置こうとする。先ほどの台詞からして、どうやら自分は思ってることを口に出してしまってたようだ。
オーウェンは猫のような警戒を見せたジュリーに目を丸くし、苦笑いすると頭を振ってみせ、
「俺も思うんだから大丈夫。ビビんなよ」
「でも、オーウェンは…親父の息子さん、でしょ?」
ジュリーはおっかなびっくりといった様子で返すのだが…オーウェンはさらに目を大きくし、声を上げ笑い出した。
「さんっ、さんて!あはははは!」
腹を抱え笑う彼に今度はジュリーが驚き、ロバもビクりと反応し右往左往してしまい、心配になったジュリーは手綱を捕まえ押さえてやる。オーウェンはまだ笑っていたが、手綱ごとジュリーを捕まえると一緒に乗るよう言って、少女は言われるまま荷台に乗り込みまだ細い彼の腕にしがみ付いた。
「お前って面白ぇんだな。なんかツンケンしてるイメージあった」
「あんたこそ…こんなガキっぽいなんて、知らなかった」
「はぁ?ガキじゃねぇし。酒も飲めるし煙草も吸うぜ」
「そういうんじゃなくて…笑い方、可愛かったなって」
「!か、可愛くねぇよ、俺男だぞ…」
荷台で揺られながら言葉を交わす。リンと仲良しなのは知ってたが、こんなに話したのは初めてかもしれない。それに…
親父の息子でも一味のやり方をおかしいと思うのだと知り、ジュリーは嬉しく感じていた。
回想…いつかのアジト、港にて──
その日ジュリーは岩壁内の見張りに就いていたのだが、港のほうが騒がしくなり、穴の窓から覗き様子を窺った。
仲間が数人、否、十人以上の者達が船に荷物を積んでいて、予定に無いそれに彼女は眉を寄せるのだが、
「!オーウェン…あれどうしたの?」
交代のオーウェンが姿を現し尋ねてみる。彼は浮かない表情で、なんだか不機嫌そうに見えた。
「……出て行くって」
「出て行く?え…まさか、一味を??」
ギョッとして何度も船を振り返り見てしまう。オーウェンは何も言わなかったが、溜息が聞こえ肯定なのだとわかる。
出て行くという者達は着々と支度を進めていて、時折笑い声まで聞こえ意気揚々としていた。ふと疑問が湧きまた眉を寄せる。
「ねぇ、船は?それに食糧も弾薬も、あんなに積んで……持ってく気?」
「…親父が許したらしい。反対したのに…ゼスも皆も、聴いてくれねぇ」
呟き程度の答えが返ってきてジュリーは目を見開く。あり得ない。ここを出て何処に行くのだ?また海賊をやるのか?そしたら今度は同業者、それどころか敵だ。そんなワガママ連中に何故与えてやるのだ…
オーウェンが舌打ちをもらし窓の下に座り込む。心配になり顔を覗けば、やはり怒りを帯びた目とぶつかるが、
「母さんのこと、わかった…あいつらが教えてくれた」
「…!」
「病気だったのは確かだ、けど…親父が殺して、村まで焼いた……同じ病気にかかってた皆も、何もかも、殺したって…ッ」
「……」
「あの野郎なんで黙ってた?なんで…!?」
オーウェンの怒りは彼らへではなく、唐突に知った真実に対してで、初めて目の当たりにする彼の憎悪にジュリーは一瞬臆してしまうが、隣に座るとぎゅっと抱きしめてやった。
頭の一人になったばかりのオーウェンは一味でまだまだ子供扱いで、意見も聞いてもらえず、大切な話も他人から聞かされ…二人はそれ以上何も言わずだったが、ジュリーの中では間違いばかりの世界への不満が溜まっていった。
回想…いつかのアジト、某所にて──
「畑ってなんだよ?俺ら海賊だぞ、なんで農夫みてぇなこと…」
「海も全然行けねぇし、大頭は頭イカれてんのか?」
「こんなことなら、他の海賊のとこ行きゃよかった…!」
他の者の目を盗み、仕事をサボり、愚痴を溢す。これはラッカム一味の裏の顔。ビアンカのような能天気には想像もつかない負の産物だ。
このサボり場を教えてやったジュリーも居合わせ、一緒に煙草を味わう。そろそろ交代だから戻らないと。バレたら面倒な掟に遭う…なんて思っていると、窓の外に見知った影が現れ思わず外に出る。
「珍しいね、昼間に来る、…!」
「ん……勧誘活動」
現れたのはオーウェンで、彼はジュリーを捕まえると唇を奪い、盗み見ていた仲間達に見せつけるように抱き寄せさらに舌を絡め取った。
「お前らの言う通り、あのクソジジィはイカれちまってる。だからこんなとこ抜けて新しいことしねぇか?俺と一緒に」
オーウェンの言葉に仲間達は顔を見合わせるが、薄らと笑みを浮かべると目を輝かせはじめ、全員頷いてみせた。
ほくそ笑み裏切りの計画を語るオーウェンの傍らでジュリーは少し不安になっていた。ここ数年かけて鳩の面倒を見ているが、本当に顔を覚えてくれてるのか。オーウェンの言うバルハラの軍人とは、本当に信用出来るのか…
「大丈夫」
はっとして隣を見る。優しい笑みを浮かべたオーウェンが視線を送ってきて、触れた手を握りしめてくれた。
自分でも魔法の言葉を呟いた途端、身体が大きく揺れ……ジュリーの夢はそこで終わった。
34日目と35日目の間。
揺れ傾く船室の扉が開き、雨風とともに大きな影が入って来る。影はびしょ濡れになった服を脱ぎ捨て裸になると、そっとベッドに腰を下ろした。
ジュリーはそんなオーウェンの様子が擽ったく、笑いをもらし背中に抱きつく。
「…起こして悪ぃ」
「荒れてんだから誰でも起きるよ」
濡れて冷んやりとした肌を摩りながら、目いっぱいに映り込んだ竜の刺青に唇を這わせる。秘密にしているが彼の背中の竜が大好きだ。お伽話に出てくる海の支配者、そんなものを彫るなんて罰当たりだと言う輩もいたが、自分は好きだ。きっと彼以上に畏怖や畏敬を抱いているとも思った。
「小せぇ時化だ…もうすぐ着くし、寝てろ」
「…あんたも、休みなよ…最近寝れてないでしょ…?」
振り返ったオーウェンに捕まり抱き寄せられ、唇を重ねる。まだ濡れたままの身体が素肌に触れ自身まで冷えていくが、そのままベッドに押し倒され一緒に毛布に包まる。このまま一緒にもう一眠りかと思いきや、間近に迫った双眸にキツく睨まれ、
「俺のこと、観察でもしてんのか?」
「!そんなんじゃない」
吐息混じりの呟きはいつもと違う熱が籠っており、つい眉を寄せてしまう。単に心配で気遣ったつもりなのに苛立ちで返され、また何かあったのか不安になる。
どんなに話しても一緒に居ても、身体を重ねようとも。最近のオーウェンはずっと黒い感情を抱いたままだった。
「オー、ウェン……ぁあ…っ」
細くしなやかな身体を大きな手が弄り、舌が後を追っていく。腹を舐め回すとビクビクと跳ねて、面白くて噛みつき吸い上げてやれば、また反応し嬌声が聞こえ思わずほくそ笑む。
「…んなにいいかよ?」
艶めいた声につられオーウェンの身体も徐々に熱くなり、同時に嗜虐心が掻き立てられていく。秘部に指を挿すと拒むように手ごと締め付けられたが、構わずに中をぐちゃぐちゃに掻き混ぜてやる。
「ソロウもセディも…お前まで。いい加減ウゼぇんだけど」
「っ、ごめ、」
「なんか文句でもあんのか、あ?誰のお陰で…ここまで来れた?」
「ん、ゃ、はぁ…!まってオーウェ、」
「どいつもこいつもよぉ、あのクソ野郎もッ、んなに殺されてぇのか…!?」
「ぃッ、あぁあ!ッ…!」
ビクンと身体が跳ね、はっとする。
気がつけば眼下のジュリーは身体を強張らせ震えていて、自身が何を仕出かしたのかわかる。そっと引き抜いた指は彼女の愛液ではなく、血に塗れていた。
「わり…悪ぃこんな、」
「大丈夫、大丈夫だから」
動揺するオーウェンを引き寄せ抱き留める。逃げようとしているのがわかり何度も魔法の言葉を囁き、頭を撫で落ち着かせようとする。大丈夫、このくらい。すぐ治る、大丈夫──
「…ごめんな…俺、最近おかしいな」
「違う、そんなことない。疲れてるだけだよ」
「奇襲、失敗して…あいつらも黙ったままで、このままでいいのか、わかんなくなっちまった」
「大丈夫、上手くいく…砦に着いたらあたし達の勝ち、そうでしょ?」
「…あぁ」
「オーウェン…ね……」
鼻先にそっとキスしてやると漸くオーウェンの顔が綻んで、ジュリーも微笑み返した。
また唇を重ね、今度はオーウェンから抱き締め耳元で囁く。
「お前は……ずっと傍に居るよな?」
「ん、一緒にいる。だから大丈夫…」
声はいつもの声なのに、なんだか違う。まるで夢の続き。若い頃の彼のようで、心が温かくなった。大丈夫、傍で支えると決めて、付いて来たのだから。
ジュリーは抱く腕に力を込め、愛しい男を守り切ると己に誓った。
──しかしオーウェンは、今の魔法の言葉を別の意味で捉えていた。
(大丈夫、大丈夫……なにが大丈夫?何をもって言ってる?安心しろってか?神に誓うか?おい、絶対大丈夫なんだよな?一緒に、ずっとずーっと傍に居るんだよな??なぁ…)
好いた女に'大丈夫'を教えたのは自身。だからなんだ?それ言っときゃ何もかも上手くいく?んなわけねぇだろ……
心に巣食った憎悪がオーウェンを支配していく──
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