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しおりを挟む正妃のシルビアから嫌われているのかなと、ロレーヌは思っていたが、幸運なことにシルビアからロレーヌへの反応は一切なかった。完全無視である。長年夫の愛人と戦い続けていたロレーヌは心底ほっとした。
ロレーヌもそんなに身分は高くないし、側妃のため、メイドなどからはほとんど捨て置かれている状態だった。
そんな環境にロレーヌは、自由を感じて、人生で一番の幸福を感じていた。
ここには愛してくれない利用しようとする家族もいない。日々無駄遣いをしている暴力的な旦那もいない。
その日もロレーヌは部屋の掃除をしながら、温かな風が吹いている窓の外を眺めていた。外の庭では庭師の少年と壮年の男性が、せっせと薔薇の花の葉を切って整えている。その様子に興味を惹かれたロレーヌは日傘をさして外に出て、にこにこ庭師の人の仕事を見た。
「奥様?何か御用でございますか?」
壮年の庭師の男性が怪訝そうにやってくる。
「これをよろしかったら、どうぞ」
ロレーヌはたくさん焼いたクッキーを入れたバケットを、庭井の男性に渡した。庭師の男性は戸惑ったように、そのバケットを受け取る。
「あ、ありがとうございます、奥様」
「私、お庭の仕事を見るのが好きなの。ここで邪魔しないから、見てい
てよろしいかしら?」
「・・・どうぞ」
ぶっきらぼうに言い、庭師の男性は興味深そうに見に来た庭師の少年に、バケットを見せた。少年は目を輝かせ、そのバケットを見て、ロレーヌに手を振ってくる。
ロレーヌはにこにこ笑いながら手を振り返した。
「何をしている?」
急にクレオが現れて、ロレーヌの腕をつかんだ。
「お前はああいうやつが、好みなのか?」
「?」
ロレーヌは訳が分からず、微笑みながら首をかしげる。
「お前がだれと付き合おうがかまわない。だがお前は一応私の側妃だ。庭師の平民の男とは、品位が下がるので、やめろ。私の評判も悪くなる」
「あら、まぁ。殿下?私は庭師の方の仕事ぶりを拝見していただけです」
「黙れ」
クレオに、ロレーヌは腕を引っ張られ、たたらを踏む。
クレオはもう片方の手で、ロレーヌの顎をつかんで、上を向かせる。
「お前には護衛をつける。もう他の男に見向きもしないよう、見張らせる」
気難しい顔のクレオは、そう告げる。
どうしてそんなに怒っているのかわからず、仕方なくロレーヌは、困ったように微笑んだ。
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