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第19話 ただいまー

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「なんのようだ?神父さん」
ヴェリエはとても人の好い豹?のように、カタリを見た。
「あなたたち、私の教会に不法侵入して、レア君とクレアちゃんを連れだしましたよね?いやぁー、困りますよ、私の教会の子に勝手な手出しは」
「俺ぁ、そんな悪いことはしてねぇな」
「あなたなら私の副業しってますよね?私の客に貴族のお方がいましてね。その方はどんな手段でも私の願い事をかなえてくれるそうでして」
「ほう?そりゃすげぇなぁ」
すりすりヴェリエはにやにや思案顔であごひげを手でさすっている。
「あなたた達を討伐するって息巻いていますてねぇ。取引しませんか?」
「取引?」
「子供を皆返してください。そこの可哀そうな狼の子もです」
「俺を脅してんのか?ふざけんじゃねぇぞ。そのお前を懇意にしている貴族とやらも殺してやろうか?」
ヴェリエの周辺の男たちはナイフを持って殺気立つ。
「結構です。試してみてはどうでしょうか?僕は構いません」
それから数秒にらみ合う。
折れたのはヴェリエのほうだった。ため息をついて、両手を上げる。
「降参だ。全員連れていけ。ただし、そこの異様にきれいな人間はおいていけ」
「だめです。全員連れていきます。」
「それじゃぁ、割に合わねぇよ」
「「最初にあなたが私の縄張りに手を出したんですよ。割に合わない部分はあの飲んだくれのヴェイスに取り立ててくださいな」
とヴェリエとカタリの取引ののち、アルたちはみな解放されたのでした。万歳

「あの、本当にありがとうございます」
ソルとは手をつなぎ、シルカを抱え上げているアルは心労とでぼろぼろである。
「あなたの私への借りは、神へのご奉仕によって支払っていただきましょうか?教会へのお手伝いにぜひ来てくださいね。後寄付もお願いしますねぇ」
にこにこカタリは微笑んでいる。
いい神父さんだなと、アルは心底思う。
「はい!そういえば神父さんの副業ってなんですか?」
「貴族の男娼です」
そういうので、アルはその場で固まった。

皆で家に帰ると、ソニアとジルが唖然とした様子で出迎えてくれた。
夕方を背中につけたアルが、家の前に現れた。
「た、ただいま」
ぼろぼろの姿のアルが、シルカを抱え、頬を腫らしたソルと手をつなぎ、なぜかたくさんの黒猫を引き連れ戻ってきた。
どうしてそうなったんだと、ソニアとジルは呆気に取られていた。

余談だがその後黒猫の男たちは大勢アルの元に訪れ、櫛で毛並みをとかすよう催促するようになった。最初こそ黒猫獣人を追い出していたソニアだが、危害を加えないのとあまりにしつこい様子で、土下座で謝罪もするので見張りながらも放置するようになった。
 平和だなー。
アルは帰ってきた平和に、感謝する。
黒猫男Bのスピネルさんはアルの膝に頭をつけながら、アルの超絶テク耳掃除をうけている。
アルとしては一部の黒猫耳男が、ソルやシルカやライにひどいことをしたのを許してないが、それを言うと黒猫耳男たちは必死こいて土下座謝罪もしてしつこくするので、仕方なく毛並みを掃除している。

スピネルさんの言うことには、ヴェイスは魔石を掘る炭鉱みたいなところに送られたそうだ。ヴェイスはしょっちゅう仕事場から酒を飲もうと逃げ出そうとするらしく、そのたびに連れ戻されるようで、スピネルさんたちはひどくめんどくさいと愚痴っていた。

ヴェイスはまぁ、アルコール中毒だったので、健康のためにもいいのではないだろうかと、アルは気楽に思うのだった。

それから黒獣人の人は何人かが、アルの家の近くに暮らし始めた。
いや、なんでやねんとアルは心中突っ込んでおく。

「すみません」
戸口から男の声だ。聞き覚えある声に、アルは警戒する。一応ソルからもらったナイフをもって戸口に行く。
もう油断はしない。勝てる気もしないが。
「アル、俺も戦う!」
ソルが付いて来ようとするが、「ここで待ってて。ソル君たちはシルカちゃんたちをお願い」と言いおき、ゆっくり戸口に向かう。

戸口には黒とピンクの仮面をした男がいた。
「なにもしませんよ」
仮面を外した男の顔は、黒髪の人間の男の、あのアルを誘拐した男だった。
「いや、君たち弱いから殺そうと思えばできるんだけれど、俺は殺さないよ。それにアル君、アル君にはお世話になったしね」
「お、おせわ?」
「俺に水をくれたじゃないか?あの日俺が野垂れ死にそうなときに。それから俺は君に恩を返そうとずっと君を見ていたんだ」
いやめちゃくちゃ怖いんですけど。恍惚の表情の男に、体が震えてくる。
「あの豹のおじさんを殺す予定だったんだけど、アル君無事な様子だから殺さないことにしたんだよ。ああ、でもまぁ、アル君があいつを殺したいのなら、俺殺してやるよ。もちろんアル君のためなら、タダでいいですよ」
「いや、結構です!帰ってください」
押し売りめいわく。
「ひどいな。俺は傷ついたんだ。君酷いな。俺の誠意を受け取れないのかな?」
男の深淵な黒い瞳がアルを見ている。
アルは心底震えあがった。
「ごめんね、アル君、攫ってしまって、皆を殺して逃がすつもりだったんだよ。でも一応豹の叔父さんには恩があるから、一応ねぇ」
脈絡ないことを言い男はにたりと形容しがたい不気味な笑みを浮かべる。アルは唖然として見ていた。

「またね、アル君。ずっと見ているから」

そういうと、男の姿が煙のごとく消えた。
幽霊?!アルは腰を抜かしたのだった。

それをジルとソニアに話す。
ジルはそれは「魔人族でしょうね。少し残った魔力から見ると。神になれなかったもの達を人間がそう勝手に呼んでいる魔力の異様に強い種族ですよ。また厄介な」といった。
ファンタジーだ。
「厄介ごとにジルを巻き込むんじゃないですよ」
ジルの言葉がアルの胸に突き刺さったのでした。
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