蛇の抜け殻

松井すき焼き

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そこは木々が生い茂り、日差しが温かくて、涙が出るほど懐かしい場所だった。悠馬はその場にうずくまって泣いた。
悠馬の聖なる場所は最近林檎や柿、食料になる樹が植えられ始めて、大分もとの森とは違い、荒らされていた。
悠馬はおもむろに近くの樹になっていた林檎をもぎ取って、かじった。林檎は酸っぱくて、食べれたものではなかったが、なぜだか暖かな味がして、少しだけ悠馬を癒した。

悠馬はそれから五年後、学び舎を卒業して、宇宙船の修理業者に就職した。
まぁ仕事なんて宇宙船に関係するものしかないのが現状だ。
悠馬が二十歳になったころ、隕石がカエルに落下するという見解が館内放送で何度も放送された。
大きな隕石は回避ができなく、このままでは人類が生き残れるかどうかの規模の大きさの隕石らしい。
あの場所が爆破されるかもしれない。その放送をきいて、悠馬はほっとしたような、恐ろしいような気持に駆られて、修理業者の特権を使って、聖なる場所にいってみた。

聖なる場所は厳重に警護され、悠馬は近づくことさえできなかった。そんな悠馬のもとに一人の少年がやってきた。
少年はまだ中学生ぐらいで、........あの蓮と同じ輝く光沢をもつ銀ではなく、不思議な光沢をもつ黒い髪をしていた。
その少年の顔は、悠馬の記憶の中の蓮に似ていた。

怯える蓮に、輝く髪を持つ少年は言った。

「僕は、坂下水葉。あなたが僕のお父さんなんですよね?」
「ち、違う!」

「そうなんですか?」

「........誰からそんなことを聞いた?」

恐怖で心臓を吐き出しそうだと、悠馬は思う。

「僕の施設にそういうデーターが送られてきたんです。この日か隕石落下の放送のあとに、貴方はあなたが来るだろうって書いた手紙と、貴方の写真と」

「誰から?」

悠馬の全身から、冷や汗が流れてくる。

「さぁ?それは僕にもわかりません。ただ、あなたの写真とあなたの名前が書かれているそのメールには、あなたが僕の父親だと書かれていたんです」

「........とにかく俺は君の父親ではない。俺は婚姻も何もしていない」

「精子提供もしていらっしゃらないんですか?」

「そうだ」

悠馬は混乱する頭で、ただひたすら目の前の子どもが消えることだけを祈っていた。

「そうですか」

悠馬の手が震えるのを止めることはできなかった。

「...お前は何故そんなに蓮に似ているんだ?何故」

「蓮?ああ、そんなに蓮教授と俺は似ていますか?」

「あ、ああ、そっくりだ」

「その人はあなたの知り合いでしたか?」

「.........」

「........そうですか。またあなたに詳しく話が聞きたいのですが、いいですか?」

「帰ってくれ」

「........でも僕はあなたがお父さんだと思っています」

そんなことをいって水葉は去って行った。

悠馬はその場で胃液を吐いた。はげしくせき込んだ。フラッシュバックで悠馬は、蓮に犯された時を思い出した。悠馬はその場に倒れ込んで、蹲った。
どうしてあの時蓮は、急に悠馬のことを犯したのだろう?友達だと思っていたのに。悠馬の目から涙が零れ落ちた。

悠馬の目の前の茂みから、一匹の白い鼠が通り過ぎた。
あの鼠は、新種の地球から持っていた鼠が進化してこの星独特の新種の鼠となった。

天才連の遺伝子は、どこかもかしこで使われ、新たな人類の基礎になっている。それにくらべて悠馬は、頭もよくない。悠馬の遺伝子が、バンクで異性に売れた報告はなかった。優れた遺伝子はすぐに買い手がついて、すぐに本人に知らせが来るようになっている。
何一つない。悠馬は笑った。

「本当に何一つないな」

もうすぐ隕石が落下して死ぬかもしれない。死にたいような気もするし、死にたくもないような気持に悠馬はなっていた。

「なにをやっているんですか?」

蓮そっくりの声。悠馬の心臓が止まりそうになった。見上げるとそこには何故か先ほど別れたはずの水葉が立っていた。

「なんでここにいる?」

「あなたはここで蓮からレイプされたんですよね?」

唐突に言われた言葉。だが悠馬はもう驚かない。この宇宙船どこにでも監視カメラはある。

「そうだよ。おかしいだろう?」

「別におかしくはありませんが」

真顔で言う水葉。
そういうところも、蓮によく似ている。

何故蓮は悠馬をレイプしたのだろう?好きだということも告げず。そんなに悠馬のことが嫌いだったのだろうか?なんだか悠馬は考えていたら笑ってしまった。蓮が死んだ今、どうでもいいことだ。

「よくあなたをレイプする夢を見ます」

わけわからんことを言うところまで水葉は、蓮とそっくりだった。

「蓮教授は、人の記憶を別の人間に移す研究を進めていました。脳波の情報をいかに電気信号で送るかということです。そうまでして僕に何を映したかったのでしょうね」

勢いよく悠馬は起き上がり、冷たい目をした水葉を見た。

「それならば、クローンの方が良いはずなのに」

「.........」

悠馬は何も言うことができず、黙っていた。しばらくすると水葉は溜息をついて、去って行った。
悠馬は一人きりになると、笑い声をあげた。
どうせこの場所も隕石で滅ぶ。嫌な記憶も何もかも。蓮を殺したのは誰だろう?監視カメラもたくさんあったはずなのに、誰一人犯人を検挙しようとしない。どうせお偉いさんか誰か管理する者の仕業なんだろう。涙で滲む目で、悠馬は大きな百年以上たつ気を見つめた。何も残さず消えるのだ。

この隕石によって..。
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