毒婦  令嬢警視ヘレナ

Helena

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3.最初の事件

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*閲覧注意* 残酷な描写があります。



事件のあらましはこうだ。

王都リンデンの郊外にある公園の遊歩道で散歩中の令嬢が突然倒れ、事切れたという。

死亡したのは、シトラス侯爵の長女ジュリエット。享年一八歳。

植物の観察を趣味としていた令嬢は大型の温室を備えたその公園にたびたび訪れていた。今日も午前十時ごろ侍女をひとり伴い、いつもと同じように遊歩道を歩いて温室に向かっていたが、途中で突然胸を押さえて苦しみだし、あっという間に意識を失い昏倒した。

侍女は悲鳴をあげ「姫さま! 姫さま!!」と呼びながら、崩れ落ちる令嬢の身体を支えるのが精一杯だった。

近くを通りがった紳士が悲鳴を聞いて公園の管理棟に走ったが、管理棟に駐在していた医師が駆けつけたときにはすでに令嬢の息はなかったという。



─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘


わたしが現場に到着したとき、令嬢の遺体は公園の管理棟に運び込まれていた。
身分のある婦人の遺体をいつまでも屋外に置いておくわけにはいかない。「現場の保存」なんて概念はできたての王立警察にはないのである。あったとしても今の我が王立警察に微細な証拠を採取する手段もないのだから仕方がない。わたしは今できることをやるしかないのだ。

管理棟の医務室で診察用の寝台に横たわる遺体と対面した。

若さに輝いていたであろうその顔は、すでに土色になっている。

美しい白い昼用の衣装も一部土や草の汁で汚れていた。助けを待つ間に我に返った侍女が懸命に救命処置を施したのだという。細い首を覆うハイネックのレースや胸元の刺繍が一部乱れているのもそのためだという。

わたしは十分に時間をかけて仔細に遺体を観察した。

その様子に遺体に付き添っていた管理棟の医師は驚いていたが、同僚たちが慣れたものである。黙ってわたしの気の済むまで検分させてくれるのがありがたい。

目立つ外傷はない。

ただ口元にわずかに白い汚れがこびりついているのが気になった。

近づいて臭いをかぐ。特に口元は意識を集中して。



そうして隅でビクビクしている医師に向き直り声をかけた。

「わたくしは王立警察の警視、ヘレナ・ウィロウです。あなたが現場に最初に駆けつけた医師ですね?」

「は、はい、私が駆けつけました。この公園の医務室を預かっています医師のウォルシュです」

遺体を検分している間に同僚が、わたしが何者であるか説明してくれていたようだ。大方、「この人が、かの有名な”令嬢警視”だよ」などと言ったのだろう。しかし残念ながらそれが一番あますところなくわたしの立場とキャラクターを説明する言葉なのだ。令嬢警視なんて自称するのは恥ずかしいので、ここは同僚の口の軽さをありがたいと思っておくことにしよう。

「そうですか。では、あなたの見解を教えていただけませんか」


「……毒でしょうね」


わたしも同意見であった。


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