毒婦  令嬢警視ヘレナ

Helena

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1.公爵夫人は回顧する

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わたくしは、ウィステリア公爵夫人ヘレナと申します。夫のウィステリア公爵アレグザンダーと結婚してはや十年。今日は実家の兄の息子、甥のピーターが訪ねてきました。

「叔母上、お久しぶりです。ご機嫌はいかがですか」

ピーターは王立警察で警視の職務につき主に重大犯罪の捜査にあたっている。今日は非番らしく、職場ではついぞ見られない柔らかな笑みを浮かべて、わが家の庭でお茶を楽しんでいたわたくしに挨拶する。

「ピーター、ごきげんよう。よく来てくれたわ」

わたくしが手で促すと「では、失礼して……」とわたくしに断り、私の向かいの席についた。

「公爵閣下は執務中ですか?」

「ええ、今日はお役所の方へ。来月の第一王子殿下の立太子の礼の準備で忙しいようなの」

「ああ、第一王子殿下ももう十五歳ですか。早いものですね」

ピーターはやけに感慨深い顔でそんなことを言う。

「まあ、あなただって十分若いのに、年寄りくさいことを言って」

重職に任じられてはいるが、彼もまだ二十代。そのギャップが可笑しくてつい笑ってしまう。

「叔母上、今日は昔の因縁についてご報告するために立ち寄りました。
かつてこの国を揺るがしたあの毒婦の末路について」

そういった甥の顔からは、先程までの柔らかな笑みをすっかり消えて、厳しい法の執行官のものとなっていた。
わたくしも表情を引き締める。

そう、わたくしもかつては、王立警察の一員だった。

そしてのちに「あの毒婦」と呼ばれる女との対峙したときのことを思い出していた。


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