ある勘違い女の末路

Helena

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身勝手な遺恨

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ガッシャン!!!


それは、おそらく法廷中の人間が私と同じような理由で凝視していた人物が自席から立ち上がった音だった。


テイラー子爵夫人、それは”毒薬夫人”の世を忍ぶ姿だったのだ。


被告席におとなしく座っていた女が、急に豹変して立ち上がり重いクサリがついた手枷をガチャガチャと言わせながら


「チクショー! あともうちょっとだったのにーーーー!!!」


絶叫した。


「どいつもこいつも使えないバカばかり! おまえも、おまえも!!」


自分の夫と娘とにらみつけながらドスのきいた声で卑しむように言い捨てて地団駄を踏んだ。
こんな妻、母の様子を見るのははじめてだったのか、「使えないバカ」と名指しされたテイラー子爵もメーガンも拘束されたまま呆然としている。



「私はアンリの、最愛の夫の仇を討ちたかっただけ! そのためにこんな役に立たないバカな男に身を委ねて、娘まで産ませられて……! ありえない屈辱に耐えたのに!!!」


なんて言い草だ……大嫌いなメーガンのはずなのに私はちょっとだけ同情してしまった。


「私はヴァロア王家は、私のアンリを殺したんだ! 」


キエエェェェーーーーーーーーー!!!!!!


狂った女のつんざくような奇声が法廷内に響いた。


カトリーヌの夫のポワゾン伯爵アンリは公私ともにパートナーだったと言われている。つまり貴族としての公的な生活もプライベートの犯罪生活もともにしていたということだ。

カトリーヌは捜査をかいくぐって逃亡したが、ポアゾン伯爵は捕まっていた。一説には妻を逃すためにあえて捕まったとも言われている。その後、過酷な取り調べに耐えられず、獄中死したと伝えられている。

この状況に裁判長も固まってしまい、進行どころではないようだ。そこに涼やかな声が響く。


「テイラー子爵夫人、いやポアゾン伯爵夫人カトリーヌ、おまえの身柄はこの裁判の後、直ちに我が国に移送されることになっている。」


そういったのは、もちろんヴァロア王国の王太子殿下だ。


「じっくり話をきいてやろうではないか」


カトリーヌは悔しそうに王太子をにらみ、歯ぎしりしながら一層手枷をガチャガチャと言わせる。


「そして、わが最愛の末弟を穢した仇を思い知らせてやる!」


そう王太子は言い捨てて貴賓席から立ち上がると、優雅に身をひるがえして法廷を後にした。背筋が凍るような笑顔を残して。


一方、カトリーヌは正気を取り戻した法廷の衛士により後ろ手を取られた状態で法廷の石の押さえつけられた。かつては多くの男を魅了した顔を冷たく汚れた床に擦りつけられながらも「クソ野郎!」「死ね!」などともうそこにはいない王太子の後ろ姿に向けてヴァロア語で叫んでいた。


※※※



結局二日目も急遽休廷になった。





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