ある勘違い女の末路

Helena

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勘違い女の奪略宣言

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そんな不穏な噂にざわつくある日、シャルル殿下自身が滞在する王家離宮で茶会を開催することが発表になった。


公爵家に婿入りすることが決まっている殿下は、わが国の若い世代の貴族ともっと交流を持つことを願っているということで、若い貴族の子弟を集めてガーデンバーティを開催とのことだった。


醜聞を払拭する意味合いもあるのかもしれない。


殿下とは仕事上でも何度か関わりをもち、年齢の近いウィリアムも招待されたので、わたしも婚約者として出席することになった。


正直、嫌な予感しかしない。
これまでの経験上、ヤツはきっと現れて多くの人を不快にするだろうとわたしは思った。

しかし、ウィリアムの仕事の一部だと思えば、わたしに欠席するという選択肢はない。なにかあったとき、できるだけウィリアムの足手まといにならないよう、できれば役に立てる自分でありたいと願う気持ちで当日を迎えた。



その日は、快晴であった。夏の日差しは強いが、絶えず爽やかな微風が吹くガーデンパーティ日和である。


会場は、さすが王家の離宮。広々として手入れの行き届いた芝生の上に、真っ白いテーブルと椅子が設置され、次々と豪華な軽食やデザートが供されている。参加者は三十組ほど。王家と公爵家が選抜したエリート揃いである。

本日の主役のシャルル殿下とビクトリア嬢は、全身純白の昼間の装いで登場し、そのあまりの美しさに出席者のため息を誘った。

ビクトリア嬢は殿下をリードし、挨拶のために居並ぶ貴族子弟たちを紹介していく。殿下は鷹揚に声をかけている。

わたしとウィリアムもその列にならび、本日最大の任務の遂行を緊張しながら待っているところである。

そして、わたしたちの二組前のカップルが挨拶をしようと礼を取ったところで事件は起きた。



「シャルル! シャルル!!」



敬称もつけずに殿下を呼びつける聞き覚えのある大きな声がだんだん近づいてくる。
だめだ、動悸がやばい。


夏だというのに一瞬で凍りつく会場の空気。



「シャルル! どこにいらっしゃるの? メーガンが参りましたわ!!」


「わたし、パーティがあるなんて知らなかったわ!!」


「もぅ、置いていくなんてひどい方!」




日中の日差しにはいささか映えすぎる濃い紫色の艶のあるドレスの裾を掴んで小走りに庭を横切り、あの女がやってくる。走りに合わせて大きな胸がゆっさゆっさと揺れているのが見える。強烈な露出度だ。似合っているけど、ガーデンパーティの装いでは断じてない。嗚呼、ドレスコードを学べとあれほど言ったのにな。

殿下の護衛たちに緊張が走る。それぞれが無言で殿下と公爵令嬢の周囲を固めるように動く。挨拶のため殿下の近くいた貴族子弟たちも同伴者を背にかばい、不審者の攻撃に備えた。ウィリアムも視線こそあの女に向けて離さなかったが、大丈夫だと言うようにわたしの手をしっかりにぎってくれた。


メーガンは周囲の警戒をものともせず、シャルル殿下とビクトリア嬢の前に堂々と現れた。


そして言い放ったのだ。



「シャルル、あなたの恋人のメーガンが参りましたわ!」



それもとびきりの笑顔で。


そしてさらに固まる周囲の空気。
頬を紅潮させ満面の笑みのメーガンとは対照的な衣装より真っ白となった殿下の顔色が目に焼き付く。


「またビクトリア様がシャルル様を振り回しているんですのね。

そろそろシャルル様を解放してさしあげてください! 」



……あ、なんか既視感。
あんた、公爵令嬢にまでわたしに言ったことを言い放っているのか。
新興子爵家の木っ端令嬢が筆頭公爵令嬢であり隣国王族の婚約者に向かってマウントをとている姿にわたしは背中に流れる冷や汗を感じながら、立ち竦むしかできなかった。



「こ、この不審者を取り押さえろ!」



護衛のリーダーの声が響き、みな一斉に我に返る。

数名の護衛がメーガンの背中に回り込み腕をとる。引き倒され地面に押し付けられそうになったメーガンは叫んだ。



「ちょっと乱暴にしないで、わたしはシャルルのお子を身ごもっているのよ!」



その言葉を聞き、真っ青になりながらもそれまで気丈に耐えていた公爵令嬢が遂に気を失って倒れた。

悲鳴や怒号があちこちからあがっている。

ああ、これが「阿鼻叫喚」というものか。生まれて初めて目の前でほんものの修羅場に目撃したわたしも気を失えるなら失いたかった。
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