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はかない希望

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 青い血しぶきがふき出る。

「さっさと消えろ」

 ミーニャはたったいま、自身の魔力で作り出した銀の斧で魔物の腹部を両断したところだった。木々の背丈と並び、薄緑一色の体毛のなか、肘の一部分に赤い岩がつけられている人型の魔物。

 二つにわかれた魔物の亡骸は、青い血をまき散らしながら、最期の抵抗かのように森の植物を血で汚した。

 配給された狐色のローブをまとっていたミーニャは、離れたところから侮蔑の眼差しを魔物の死骸におくっている。

「斧もあつかえるのか。杖もあつかえてたな。魔導書も出してたし。剣でも戦っていた。なあ、おまえの武器って魔力でできているよな? その場で造っているのか? ってことはなんでも造れるわけ?」

 ミーニャの背後にいるリンフェが尋ねてきた。彼女は狼の姿で顎までも地べたにふせている。退屈そうな顔をしていた。

 ミーニャはこの問いに、苦笑いをする。

 銀の斧の魔力を消散させて斧を消す。消えていく銀の斧を悲しそうに見て、目を潤ませながら伏せた。

「ううん。造ってるわけじゃないの。出してるの。出せる武器は決められているんだよ」
「ふーん」

 ミーニャはリンフェといるときだけ森にくる。初めはシバとレイクがいても森にきていたが、二人はミーニャの足の速さについてこれなかった。辟易していたミーニャがリンフェに事情を話すと、彼女がついてきてくれるようになった。

「魔物退治、今日はこのへんにしておけ。といってもお前が毎日、野良魔物を退治してるおかげで、もう今日は魔物の気配と臭いがしない」
「そう。それはよかった」

 ミーニャは森にいる野良魔物を見つけては退治していた。魔物という存在は、生物であれ、環境であれ、なんでも破壊してしまう。放っておけば森が荒らされてしまうのだ。

 ピューと、鳥がないた。ここ二、三日は魔物を倒すたびに、どこから鳥の声がふってくる。ミーニャはその声を聞いて、口をのばした。

「なんだ、鳥の声をきいてにんまりして。おまえってそんなに動物がすきなの?」
「え? 生き物はきらいだよ。死んじゃうんだもん。でも、精霊は死なないでしょう。だから精霊は好き」
「へー、そうかい」


 ミーニャは森を散策した。

 山の途中にある高い森林にのぼる。ミーニャは聖防壁を木のまわりにつくり、らせん階段のごとく木の上までのぼっていった。木の上付近にある、枝に足をつけ、森全体をみわたす。

「きれいな土地」

 陽光をあびた木々たちが、命のつよさを主張するかのように力強く根付いている。視界をうめる木々たちは、夜とはちがい、心穏やかな優しい色をしていた。びっしりと、お互いを支え合って植物たちは背をのばしている。

「きっと優秀な精霊が守っているんだ」

 森は精霊と契約することができる。森と契約した精霊は、森からの魔力を享受できる。そのかわり、森が荒らされないよう、精霊は森を外敵から守らなければならない。

 ミーニャは景色を見つめながらつぶやいた。

「ヨーテもシロちゃんも、どこにいるのだろう。いつ会えるのかな。元気にしているといいのだけれど。ヨーテはともかく、シロちゃんはわたしを探してくれてる。はやく……会いたいな」





――――――――






 リンフェは地上で耳を動かしていた。動きたくない気分のリンフェはミーニャのあとを追わず、地上で待つことにしていた。

 下手にあの子どもの心に荒波を立てたくない。歪みはあるが純真な心の持ち主だ。きっと魔人にさらわれなければ、普段精霊の自分にみせるような、年相応の無邪気な子どもであっただろう。リンフェは木の天辺で遠くをみつめる子どもをみた。

 小さく可愛らしい子ども。あの戦闘能力は生まれ持ったものなのか、それとも魔人に仕込まれたものなのか。後者であれば、あの子どもは、どれだけ過酷な境遇におかれていたのだろう。いや、どちらとしても、陰惨なことに間違いはないだろう。

 リンフェは先ほどの子どもの発言を思いだす。

――精霊は死なない、か。たしかに『死ぬ』という表現はしない。精霊の場合は、『死ぬ』ではなく、『消滅する』だ。あの子どもは、そのことを知っているのだろうか。

 いまはまだ、教えるのはあまりに残酷すぎる。
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