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おそわれた人間

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「ちかくでひとが魔物に襲われているようだけど?」

 ミーニャはリンフェにたずねた。ひとの悲鳴でミーニャの頭は冷静になっていた。混濁した思考が整ったわけではない。『だれか命が危機に瀕している』ということが最優先事項になっているだけだ。

「そのようだな。だが、このままお前みたいなガキを放っておいてガキが死んでしまうのも目覚めが悪い。おまえ、病み上がりだろ? 腕に多少の自信があるようだがやめておけ。自殺行為だぞ」

 ミーニャはあえて魔力を放出して魔物をおびきよせていた。

「やさしいんだね、リンフェ」

 リンフェはミーニャから目を離さない。
 草が揺れて、砂袋を引きずる音が何方向かに分かれて耳にはいる。魔物がミーニャの魔力に気づき、接近してきたのだろう。
 ミーニャはこちらにむかってきている魔物にむかて駆けていった。リンフェが後ろからついてくる。

「やめろっていってるだろ」

 魔物と戦闘になりそうな直前で、ミーニャは急減速をして、身を止めて魔物から逃走する。

「こいつらはまかせたわ、リンフェ」

 リンフェもミーニャの動きには反応していたが、魔物との戦闘は避けられない距離まできていた。リンフェはミーニャを戦いからかばうためにも真向から戦わざるおえない。長距離ではリンフェのほうが速いだろう。しかし、瞬発力と短距離においては、ミーニャのほうが僅かにすぐれている。

「逃げられるとおもうなよ。クソガキが! どこに逃げても、その首をすぐに噛みにいってやるからな」

 ミーニャは背後にリンフェの言葉を背負いながら、悲鳴のきこえた方向にむかった。悲鳴がきこえた位置に到着するのに、時はかからなかった。剣を顕現させて、ミーニャはさらに接近する。

 ミーニャにとって、魔物を討伐することこそが日常そのもの。いまの自分には、どんなことよりも考えに没入することができる行為といえるだろう。

 暗い森の道。荷馬車が一方通行できる道。おそらく人が往来してできた道だろう。樽や木箱をのせた荷馬車が道の脇でかたむいていた。馬が一頭、倒れている。荷馬車の真横によこたわる男と、松明をふりまわしながら魔物をけん制してる女。

 女がふりまわしている灯りのおかげで視認できる。クリーム色で馬とおなじ大きさをした芋虫のような魔物。赤黒い突起物が、らせん状についている。体毛は一切なく、なめくじのような体面をしていた。数は十数体。芋虫の魔物たちは、女の隣にもむらがっもぞもぞ動いている。

――馬が、やられてしまったのか。

 馬はもともと二頭いたのだろう。そのうちの一頭が襲われた。倒れている馬に複数体の魔物がのしかかって肉を貪られている。倒れている馬はぴくりとも動かない。すでに息絶えている。

 ミーニャは女の前まで飛び、女の目の前に着地する。錯乱している女が奇声をあげて男の身をかばう。ミーニャは女をちらりとみてから、これから討伐する魔物たちに相対した。

そして風を切るように目についた魔物から切りきざんでいく。

 芋虫たちは図体がでかいだけだった。攻撃力がたかいわけでも、防御力がたかいわけでもない。特殊能力すらない。ただ、数が多いだけだ。

芋虫の魔物たちは幾ばくもしないうちに、ミーニャに体を真っ二つにされ絶命していった。芋虫の魔物たちは、ミーニャが普段戦っていた魔物とくらべて格段によわかった。

 剣ひとつで十分な相手だ。不愉快なのは魔物を切り裂いたとき、青の血しぶきが大量にかかったこと。ミーニャのまわりは魔物の亡骸だらけになっていた。

 魔物たちの半身は、まだピクリピクリと動いてたので、念のため炎魔法をつかい、死骸を灰にした。

全ての魔物は燃えかすになった。

 ミーニャが女のほうをみると、女は魔物におそわれたときと同様の悲鳴をあげた。気を失っている男の方はこめかみから血をながしている。

 ミーニャは自分の顔についている魔物の血を衣服でぬぐった。

「その、わたしはにんげんで、えっと」

 口にする内容をさぐりさぐりに発していく。なるべくおびえさせないように。だけども女はミーニャをこわがったままだ。

 こんなことをしている間に男の容態が悪化して死んでしまったらどうしよう。

 そうおもうと、ミーニャもあせりはじめた。身振り手振りで安心させようとする。

「あのね、ちゆ魔法がつかえるけど、集中しなくちゃいけなくて、だから、その、しずかにしてほしくて」

 女はなおも混乱しているようだ。ミーニャを近づけまいとしている。どうすれば……と悩んだとき、女が「あなた」と呼んでいたことをおもいだす。

「わたしは、にんげんだから。そのひとをたすけたいの……しんだらいやでしょう! そのひとは、大切なひとなんだよね!?」
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