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あの日の出来事と……

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「はあ? おまえみたいなガキがか?」

 いままで黙っていた少年二人組のうちの一人が口をだす。何を言っているんだ、といった口調と表情で。

「しんじなくてもいい」

 ミーニャは口を出した少年を見ながら返事をする。

「魔人をたおせるなら、どうしてつかまっていたんだよ? おまえみたいなガキが魔人を殺せるなら、おまえより強いであろう大人たちはなにをしてたんだ? もしかしてお前が一族で一番の手練れだったとでもいうのか?」

 少年がミーニャにつめより、見下ろしてきた。目つきの悪い、考えずに行動しそうな面をしている。

「わたしは一族の戦える者のなかで一番よわかった。わたしはひとりで別のところにいたから、みんなのことはわからない。だけども、逆らえば子どもや老いたものから、ころされていった。そんなの、だれだってたえることはできないだろ!!」

 平静で話そうとおもっていた。なのにいざ口に出すと、感情がたかぶってしまう。最後のほうは語尾をあらげてしまっていた。ミーニャは一呼吸おとして、平常にもどろうとつとめる。

「あいつは――魔人はおかしかった。わたしにころされようとしていた。だから、ころせた」

 少年はばつの悪そうに横をむいて、話しを続けようとはしなかった。

「おまえひとりだけ、隔離されていたのか?」

 アウラは淡々ときいてくる。なんの感情もいりまじってない。

「そうだ」
「なぜおまえだけを?」
「そんなのしるものか。あいつはいかれていた」

 ミーニャが隔離されていた理由ならある。そしてその理由はミーニャも知っているが、話すのは立場が悪くなると思った。一旦、部屋のだれもが口をとじた。ここからだ、とミーニャは口をひらく。

「わたしの体をなおしてくれたのはありがたい。あそこであのまま捨てられていても、しぬことはなかったけど。わたしの魔導書と剣は? あのままあそこにあるの?」

 剣と魔導書のことがなによりも気がかりだった。リンフェにきこうとしたが、あえていままで尋ねるのを我慢していた。

「保管してある」

 アウラが返答する。

「ほんとう? みせてほしい。できるかぎり、きょうりょくする。だからわたしが安心できる物がほしい。まだ思いだすのがつらいから……」

 アウラは少し考える素振りをしたが、すぐに口を開いた。

「わかった。もってこさせよう。だがお前に持たせることはできない」

 武器を所持させてくれるほど安心はできないということか。それでもここにいる人間たちは寛大な対処をしてくれている。それだけはわかった。

 アウラはミーニャの背後につく少年の片方……さきほどミーニャに悪態をついていた方に目で命令をくだす。背後の扉がひらく音がした。少年が武器をとりにいったのだろう。

「おまえに対して気になる点がある。まずはお前の両手。ほかの部位の傷は癒えるものなのに、両手のひらだけは執拗に、治癒魔法を施していも跡が残るほどに損傷をあたえられている。特殊な道具をつかってやられたな。どうしてそこだけ意識的にやられたんだ?」

 ミーニャはアウラに言われて自身の手のひらをみた。手の表裏に刃物で貫かれた跡がのこっている。

「これか。これ魔人の気まぐれでやられた」

 さも、何事もないかのようにミーニャはこたえる。アウラは目を細めた。

「つぎにお前の耳についている呪具についてだ。膨大な魔力をそそがれているらしく、熟練の者でさえ、はずすことはならないといっていた。おそらく生涯……はずすことはできないだろう」

 ミーニャの両耳の耳輪には、アクセサリーがつけられていた。漆黒に光沢するアクセサリーは、いつつけられたのかも覚えがない。

「これははずすとよくないことがおきる、と魔人がいっていた。ほんとうだろう。はずそうとしなければ問題ないといっていた。だから問題ない」
「不安要素でしかないな」

 ずっと黙っていたアウラの傍らにいる壮年の男がつぶやく。
 ガチャリ、と後ろの扉がひらく音がした。ミーニャがふりかえると、少年が剣と魔導書をもって入室してたところだ。間違いなくミーニャが探していた品。

 ミーニャは手をぎゅっとにぎった。
 ミーニャはアウラをみる。

「ほかにききたいことはあるのか」
「おまえ、幼そうにみえるが歳はいくつだ?」
「じゅっさい」
「五歳のときさらわれて、五年という歳月を魔人とともにいたのか?」
「そう」

 ミーニャはアウラの傍らに立つ、リンフェに目をあわせる。リンフェは不思議な物をみるような目でミーニャを見ていた。

 ミーニャはリンフェに質問したいことがあった。

「あなたの契約者は、あそこに座ってずっと恐い顔してる女の人?」

 ミーニャはアウラを指さす。まわりが無礼だぞ、と怒ってきたがきしにない。
 精霊は魔力を供給できる相手と契約することがある。安定した魔力をもらうかわりに、契約者の有益になる行動をとる。

「そうだ。ほんとうに恐ろしい奴でこまっているよ」

 リンフェはやれやれといった様子で苦笑いをする。
 ミーニャは、あはは、と笑い同時に――もうそろそろかな、と思った。
 しかし次は、リンフェがなにかミーニャに訊きたそうな顔をしていた。

「どうしたの?」

 ミーニャはリンフェにたずねる。
 リンフェには人間たちよりも恩をかんじていた。
 リンフェは言いにくそうに横目で話す。

「なんというかな。精霊がちかくにいると精神を癒す効能があるというが、それにしてもおまえは正気をたもちすぎているというか。もちろんおまえが正常だとは思わない。しかし、どうしてそうも自我をたもってられるのかと……」

 リンフェが自分の近くにいてくれたのは、精神面を癒してくれるためだ。そのことはミーニャもわかっている。

「魔人はね、こわれかけが好きだっていってた。こわれたものは好きじゃないんだって。こわれそうで、こわれないものにひかれるていってた。これで答えになってるかな」

 ぎりぎりだ。魔人はいつだってぎりぎりの状況にしてくる。だから、剣の持ち主が生きているというのは本当なのだろう。絶望のなか、自分に希望をあたえてくる。魔人はそういうやつだった。

 そしてもう一つ。ここにいる人間たち。魔人の手下ではないにしろ、魔人が意図してあそこに配置していた可能性は高い。

 この人間たちの出会いは魔人によって仕組まれていたかもしれない。

 つまり、ここにいるのは得策ではない。
 ミーニャは自分がいまつくれる笑顔をリンフェにむけた。

「一緒にいてくれて、ありがとうリンフェ。あなたがあの時、あそこにいてくれてよかった。ヨーテにあえたみたいで、とてもうれしかったよ」

 ミーニャはリンフェに笑顔でお礼をいった。

「なあ、おまえさ――」

 リンフェがなにか話そうとする。でもミーニャはそれをさえぎった。

「ここはこわい。ごめん」
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