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第1話 初めてスキルガチャを引いてみた

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「……引くか」


会社の帰り道。
俺は道路脇に設置された券売機らしきものの前で立ち止まり、そう呟いた。

この券売機らしきものの正体は「スキルガチャ」。
このガチャを引くと、「スキル」という特殊能力を身につけることができるのだ。


このガチャが出現したのは、約1か月前だと言われている。
家電量販店のテレビでやってたニュースでたまたま知ったのだが……このガチャ、世界各地で同時多発的に自然発生したと考えられているらしい。

ガチャを引いて手に入るスキルは「火を灯す能力」だったり「空を飛ぶ能力」だったりと、まるで魔法のようなものばかりなのだとか。
なんでそんなものが急に現実に現れたのかは、皆目見当がつかないが……だからこそ、「人が作ったものではない」という説にも納得がいくというものだな。

にもかかわらず、なぜか対価は現金払いになっていて……1回1万円で、1回引くごとにランダムで1個のスキルが手に入る仕組みらしい。
あと手に入るスキルは、完全にランダムで決まるとのことだ。
スキルにもピンからキリまであり、有能なスキルが手に入るかどうかは運次第なんだとか。


先日スーパーで買い物をしていた時、たまたまレジで前に並んでいた人の会話を小耳に挟んでしまったのだが……その時の会話が少し面白かった。
一人は「火属性のスキルを手に入れて、ガスバーナー無しで炙りトロサーモンを作れるようになった」と嬉しそうに言っていたが、もう一人は「空中浮遊スキルを手に入れた。こんなの、某教祖以外が手に入れても使い道無いだろ……」と愚痴っていたのだ。

まあ空中浮遊は空中浮遊で面白そうなスキルではあるが、果たして「有能か」というと……1万円を払うほどの価値は無いってとこで、彼に同意するところだろう。

1万円で生活が少し豊かになる可能性がある代わりに、1万円をドブに捨てるリスクもある。
ガチャには、そういうトレードオフがあるのである。


そして、俺はといえば。
実のところ……俺はまだ、一度たりともガチャを引いたことはない。

理由は単純だ。
俺の価値観的に、このガチャに1万円も支払うだけの価値を見出せなかったのである。

俺は昔っから、かなり節約を心がけるタイプの人間だ。
魔法のような力が手に入るガチャに、心惹かれはしたものの……そのために1万円を使うことは、どうしても「無駄遣い」としか考えられなかったのだ。

学生の頃なら、まだ「1回くらい試しに引いてみるか」とか考えたかもしれないが……社会人になり、節約志向の拍車がかかった今の俺にはそんな甘い考えすら浮かばない。
汗水流してようやく小金が懐に入る感覚を知った分、今の俺は金の使い方に相当シビアになっているのである。


……だが。
今日だけは、話が違った。

今日俺は、会社からボーナスを貰った。
その帰り道……俺の脳裏に一瞬、こんな考えがよぎったのである。

「やっぱり……食わず嫌いは、良くないんじゃないか?」

通販サイトのレビューが低くても、買ってみたら意外と良いものだった……という経験はよくあることだろう。
このガチャについても、同じことが言える気がしなくもない。

「生活が便利になった」というのも、「1万円がゴミクズになった」というのも……所詮は、他人から断片的に伝え聞いただけの話だしな。
もしかしたら、お値段以上に生活が向上する可能性だって、0ではないのだ。

実際に自分で経験せずに「1万円の価値などない」と決めつけるのは、いささか愚かなことなんじゃないだろうか。
そんな考えが芽生えたからこそ、俺は今、いつもなら素通りするスキルガチャのマシーンの前で立ち止まっているのである。


財布から1万円を出し、紙幣投入口に入れる。
レバーを引くと……魔法陣が書かれたカードが一枚出てきた。

カードに手を触れると魔法陣が勝手に輝き……それから、魔法陣は消え去った。
これで、スキルを習得したことになる。

カードの裏を見ると……引いたスキルのスキル名が載っていた。


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【★7】乱数調整

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そして、そのスキル名を目にして。

「は~あ」

俺は後悔とともに、盛大なため息をついたのだった。
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