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第12話 付与術師、剣豪が宿る
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家に帰ると、俺は早速試験に備えてクラウソラスの付与を付け替えた。
「『風刃』『電離』『追尾』『対全属性ダメージ上昇』『対土属性超ダメージ』解除。『人工剣聖知能』付与」
俺はクラウソラスにかかっていた全ての付与を外し、代わりに『人工剣聖知能』という効果を付与した。
人工剣聖知能。
これは、持ち主に強制的に剣豪さながらの動きをさせる、剣術アシストの付与効果だ。
これがかかった剣を持てば、どんな素人でも途端に究極の剣術技を繰り出せるようになる。
まさに、今回の試験のように剣術の巧みさが求められる場面では、うってつけの付与だ。
問題があるとすれば、この付与は剣の持ち主に身体能力以上の動きを強いるので、使いすぎると身体を壊すことくらいだ。
だから俺は、今までの冒険ではこの付与は使ってこなかった。
だが……たった一試合くらいであれば、代償も筋肉痛程度で済む。
俺は明日の試験に限り、この付与に頼ることに決めた。
◇
そして、次の日。
ギルドでギガントパイソンの売却報酬を受け取った俺は、試験を受けるため訓練場へと移動した。
ちなみにギガントパイソンの死体は、百三十万ジャーチで売れた。
受付嬢に品質が落ちてなかったか聞いてみたところ、特に問題はなかったと話してくれた。
『亜空間共鳴』による劣化は、俺が想定していたほどには深刻ではなかったようだ。
それを知って、俺は若干安心したのだった。
訓練場に入ると、そこは試験仕様ってことで貸し切り状態になっていた。
俺の他には、模擬戦の相手をしてくれる職員と、その様子をみて採点する担当の職員の二名だけがいた。
「俺はナジヤス、今日お前の模擬戦の相手をする者だ。ギガントパイソンの傷跡、見せてもらったぞ」
職員のうち、剣を手にしている方——ナジヤスと名乗った——が、まずは俺にそう言った。
「Bランク昇格試験を受ける者で、あのレベルの剣裁きができる奴は初めてだ。俺としても、少し楽しみだぜ」
ナジヤスはそう続け、ニヤリと笑った。
だから、あれは剣の実力じゃないんだがな……。
俺は心の中でツッコんだが、口には出さなかった。
どうせ『人工剣聖知能』を使う以上は、期待を裏切ることは無いだろうし……だとしたら、余計な事は言わない方がいいからな。
「両者準備ができたら、真ん中に集まってください」
などと考えていると、今度は採点をしてくれる方の職員が、俺と模擬戦相手の職員に対しそう言った。
それを聞いて、その職員が示すラインに立つ。
俺とナジヤス、両者が剣を構えると……採点してくれる方の職員が「始め!」と合図し、試合が始まった。
合図と共に……ナジヤスは、猛烈な勢いで迫ってきた。
流石は試験官を務めるだけあって、ナジヤスは素早くあらゆる角度から、正確な剣筋で俺を狙ってきた。
その剣を……俺は全て、紙一重で躱していった。
自分の意識は戦いのスピード感に全くついて行けてないが、身体が勝手に動いてくれて、ナジヤスの剣を的確に避けてくれているのだ。
理論上は安全なのだが、やっぱり素人からするとスレスレで剣を避けるのは少し怖い。
つい俺は、もっと大雑把に避ける動きをしてくれればいいのにと考えてしまった。
だがよくも悪くも、今俺がしているのは剣聖の動きだ。
残念ながら、そんな希望が通るはずもない。
俺は仕方なく、戦況が次の展開に移るまで剣に身を委ねることにした。
しばらくすると……俺の剣とナジヤスの剣が、真正面からぶつかり。
今度はつばぜり合いが始まった。
本来の俺の筋力なら一瞬で押されるだろうが、ここは付与の効果で馬鹿力が出て、つばぜり合いを拮抗させてくれることだろう。
膠着状態が長く続くと、筋肉痛が酷くなりそうだな。
そんなことを考えたが……実際起こったのは、真逆の現象だった。
なんと、俺の上半身から完全に力が抜けたのだ。
マズい、このままじゃ押される。
反射的に、俺はそう感じたが……またまた実際に起こったのは、それとは真逆の現象だった。
なんと、俺の上半身から力が抜けた直後。
ナジヤスの方が、思いっきり吹っ飛んでいったのだ。
「……は?」
俺が呆然としているうちに……ナジヤスは場外まで吹っ飛んでいき、俺の判定勝ちが決まってしまった。
「今、何が……」
自分で何をしたか分からずそう呟いていると……ナジヤスはムクリと起き上がり、驚いた表情でこう言った。
「つばぜり合い中に発勁だと……!? 凄い剣士だとは想像していたが……まさかお前、八極剣の使い手だったのか……」
……聞いたことねーよそんな流派。
思わず、そんな言葉が喉元まで出かかってしまった。
だが……発勁という単語には、少しだけ聞き覚えがあった。
確かあれ……身体を脱力させて勁力とかいう力を相手に伝える、一部の武術に伝わる高等技術だよな。
だとしたら、つばぜり合いが始まると共に上半身の力が抜けたのも頷ける。
思ってたのと違う上級テクニックが出てしまったが……まあ、結果往来か。
少し安堵しつつ、俺はクラウソラスから『人工剣聖知能』の付与を外した。
「『風刃』『電離』『追尾』『対全属性ダメージ上昇』『対土属性超ダメージ』解除。『人工剣聖知能』付与」
俺はクラウソラスにかかっていた全ての付与を外し、代わりに『人工剣聖知能』という効果を付与した。
人工剣聖知能。
これは、持ち主に強制的に剣豪さながらの動きをさせる、剣術アシストの付与効果だ。
これがかかった剣を持てば、どんな素人でも途端に究極の剣術技を繰り出せるようになる。
まさに、今回の試験のように剣術の巧みさが求められる場面では、うってつけの付与だ。
問題があるとすれば、この付与は剣の持ち主に身体能力以上の動きを強いるので、使いすぎると身体を壊すことくらいだ。
だから俺は、今までの冒険ではこの付与は使ってこなかった。
だが……たった一試合くらいであれば、代償も筋肉痛程度で済む。
俺は明日の試験に限り、この付与に頼ることに決めた。
◇
そして、次の日。
ギルドでギガントパイソンの売却報酬を受け取った俺は、試験を受けるため訓練場へと移動した。
ちなみにギガントパイソンの死体は、百三十万ジャーチで売れた。
受付嬢に品質が落ちてなかったか聞いてみたところ、特に問題はなかったと話してくれた。
『亜空間共鳴』による劣化は、俺が想定していたほどには深刻ではなかったようだ。
それを知って、俺は若干安心したのだった。
訓練場に入ると、そこは試験仕様ってことで貸し切り状態になっていた。
俺の他には、模擬戦の相手をしてくれる職員と、その様子をみて採点する担当の職員の二名だけがいた。
「俺はナジヤス、今日お前の模擬戦の相手をする者だ。ギガントパイソンの傷跡、見せてもらったぞ」
職員のうち、剣を手にしている方——ナジヤスと名乗った——が、まずは俺にそう言った。
「Bランク昇格試験を受ける者で、あのレベルの剣裁きができる奴は初めてだ。俺としても、少し楽しみだぜ」
ナジヤスはそう続け、ニヤリと笑った。
だから、あれは剣の実力じゃないんだがな……。
俺は心の中でツッコんだが、口には出さなかった。
どうせ『人工剣聖知能』を使う以上は、期待を裏切ることは無いだろうし……だとしたら、余計な事は言わない方がいいからな。
「両者準備ができたら、真ん中に集まってください」
などと考えていると、今度は採点をしてくれる方の職員が、俺と模擬戦相手の職員に対しそう言った。
それを聞いて、その職員が示すラインに立つ。
俺とナジヤス、両者が剣を構えると……採点してくれる方の職員が「始め!」と合図し、試合が始まった。
合図と共に……ナジヤスは、猛烈な勢いで迫ってきた。
流石は試験官を務めるだけあって、ナジヤスは素早くあらゆる角度から、正確な剣筋で俺を狙ってきた。
その剣を……俺は全て、紙一重で躱していった。
自分の意識は戦いのスピード感に全くついて行けてないが、身体が勝手に動いてくれて、ナジヤスの剣を的確に避けてくれているのだ。
理論上は安全なのだが、やっぱり素人からするとスレスレで剣を避けるのは少し怖い。
つい俺は、もっと大雑把に避ける動きをしてくれればいいのにと考えてしまった。
だがよくも悪くも、今俺がしているのは剣聖の動きだ。
残念ながら、そんな希望が通るはずもない。
俺は仕方なく、戦況が次の展開に移るまで剣に身を委ねることにした。
しばらくすると……俺の剣とナジヤスの剣が、真正面からぶつかり。
今度はつばぜり合いが始まった。
本来の俺の筋力なら一瞬で押されるだろうが、ここは付与の効果で馬鹿力が出て、つばぜり合いを拮抗させてくれることだろう。
膠着状態が長く続くと、筋肉痛が酷くなりそうだな。
そんなことを考えたが……実際起こったのは、真逆の現象だった。
なんと、俺の上半身から完全に力が抜けたのだ。
マズい、このままじゃ押される。
反射的に、俺はそう感じたが……またまた実際に起こったのは、それとは真逆の現象だった。
なんと、俺の上半身から力が抜けた直後。
ナジヤスの方が、思いっきり吹っ飛んでいったのだ。
「……は?」
俺が呆然としているうちに……ナジヤスは場外まで吹っ飛んでいき、俺の判定勝ちが決まってしまった。
「今、何が……」
自分で何をしたか分からずそう呟いていると……ナジヤスはムクリと起き上がり、驚いた表情でこう言った。
「つばぜり合い中に発勁だと……!? 凄い剣士だとは想像していたが……まさかお前、八極剣の使い手だったのか……」
……聞いたことねーよそんな流派。
思わず、そんな言葉が喉元まで出かかってしまった。
だが……発勁という単語には、少しだけ聞き覚えがあった。
確かあれ……身体を脱力させて勁力とかいう力を相手に伝える、一部の武術に伝わる高等技術だよな。
だとしたら、つばぜり合いが始まると共に上半身の力が抜けたのも頷ける。
思ってたのと違う上級テクニックが出てしまったが……まあ、結果往来か。
少し安堵しつつ、俺はクラウソラスから『人工剣聖知能』の付与を外した。
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