舜国仙女伝

チーズマニア

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真夜中の会話②

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口が滑って飛び出たジジくさいという一言に、周瑛は据わった目で木蓮を見下ろした。

そして木蓮のこめかみを拳で挟み、グリグリと動かした。


「痛い痛い!大人げない!!」

「悪かったなジジくさくて」


フンッとつまらなそうに鼻を鳴らす周瑛を睨み、木蓮は毒づいた。


「そんなに怒りっぽいと女性にモテないよ?」

「あいにく弁理軍機大臣の中では俺が一番女性から人気がある」

「そっか。みんな見る目無いんだね」

「もう一発食らいたいのか」


周瑛からサッと距離を取り、木蓮は思いっきり舌を出した。


「なんでこんな狂暴なのが人気なんだろ。不思議」

「お前以外に素を出すわけないだろ。この城にいるのは国中の名家の娘達だ。粗雑に扱えばすぐに泣かれて面倒なことになる」

「くたばれ。そういえば、周瑛私のこと好みとか言ってなかったっけ?あれなんだったの?」

「出会った頃はな。謙虚で優しい女が実在したことに感動していたが、ただのアホだったとは」


わざとらしく悲しげな顔をする周瑛の向こう脛を思いっきり蹴るが予想に反してとても固く、かえって木蓮は己の足の甲を痛めた。

涙目で足を押さえる木蓮を見下ろし、周瑛はバカにしたように笑った。


「お前こそ、そんな調子だと男に相手にされないぞ」

「そんなことないですぅー。デートに誘ってくれる人もいたし、周瑛が思うより男性人気あるし」


まったくの嘘である。

デートの誘いも一度だけであったしだいぶ話を盛っているが、モテない女扱いされるのが嫌で、木蓮は虚勢を張った。

そしてその最中で、また奥山のことを思い出した。

約束を守れなかった申し訳なさがじわりと沸き上がり、次いで姉や家族、舞、日本を思い出す。


(みんなに会いたい……)


「デートとはなんだ?」


落ち込む木蓮などお構い無しに、周瑛が尋ねた。

時折訳のわからない言葉を話す木蓮相手でも、その場の雰囲気でなんとなく会話を成立させてきた周瑛だが、デートが何かを推察することは出来なかったようだ。


「デートっていうのは、異性が二人でどこかに出掛けること。例えば、舜でするなら……一緒に観劇に行ったり、美味しいもの食べに行ったり、植物園とか公園行ったりとか」


説明しながら同性愛者のカップルもしていることはどう説明しようか考えていた木蓮に、周瑛は探るように聞いた。


「婚約していない男女が共に出掛けるのか?」

「そこは色々かな。結婚していたってするし。でも、割合としては恋人になる前、なってから婚約するまでが多いかも。デートはしたけど付き合うには至らないなんてこともけっこうあったりするよ」

「で、それにお前を誘う男がいたと」

「うん。まあ、この国に来たから約束はダメになっちゃったけど……」


不意に周瑛が木蓮の視線を捕らえた。


「そのデートとやら、代わりに俺とするか?」

「は!?」


さっき頭を打ったせいでおかしくなったのか。

真面目に心配した木蓮だが、周瑛は興味深げに続けて言った。


「婚約もしていないただの異性と出掛けるという経験はしたことがない。別に恋人にならないといけないわけではないんだろう?一度経験しておけば後々役立ちそうだしな」

「つまり私は実験台?」

「そういうことだ」


堂々と頷くなとツッコミながら、木蓮は脱力した。


「周瑛が相手かぁ。トキメキもクソもないね」


二人で出掛けたところで、きっといつもと変わらないだろう。変わって欲しいとも思わないが。


「デート特有の緊張感も生まれないだろうし、他の人誘いなよ。私、周瑛のこと異性って意識してないし、周瑛も一緒にいてドキドキする女性誘ったほうが良いって。本来そういうもんだよ」


デートが何かを知らない周瑛に対し、木蓮は知ったかぶってそう嘯いた。

しかしその態度が周瑛の好奇心を刺激したようだ。


「そこまで熟知しているなら、やはり一度は経験してみたいな。よし、秀女選抜の初選が終わったら出掛けるぞ。予定を空けておけよ」


返事をするより先にくしゃみが飛び出し、木蓮は袂から手巾を出して鼻をかんだ。

栄洛は舜の北部にあるため、温暖な昭南や安慶とは違い、初夏でも夜は冷える。


「風邪引いたら困るし、そろそろ戻らないと。おやすみ」

「待て」


周瑛は外套を脱ぐなり、素早く木蓮の体を包んだ。

首もとでしっかりと紐を結び、風が入らないように整える。


「部屋まで距離があるだろう。着ていけ」

「えっ、でもそれだと周瑛は寒くない?」

「もうすぐ交代の時間だから大丈夫だ。ほら、さっさと戻れ」

「ありがとう」


鼻水第二陣が襲ってきたため、木蓮は小走りで部屋に戻った。

借りた外套は丁寧に畳み、すっかり冷たくなった布団に潜り込み、木蓮は時間をかけて眠りについた。

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