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仙女召還①
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平台に捕まろうと手を伸ばした雪香だが、手は水を掴むばかりだ。
何かがおかしいと思い、もう一度水面に顔を出した雪香は、自分の目を疑った。
平台は遠くにあった。
しかも、そこにいる人々は色鮮やかな民族衣装に身を包んでいる。
(あれって旗袍?)
さらに、全員が歴史の資料集でしか見たことがないようなどんぐり型の帽子を被っている。
どこからどう見ても、清王朝を興した満州族の衣装にしか見えない。
(この人達は誰!?ここはどこ!?)
パニックを起こしそうになったその時、水面が揺れた。
一艘の小舟を漕いで、誰かが雪香のもとに向かっている。
伸ばされた手に反射的にすがりつき、雪香は舟の上に引き上げられた。
「助けてくださってありがとうございます」
咄嗟に出たのは日本語で、キョトンとした相手の顔を見て、雪香は慌てて中国語で言い直した。
「謝謝」
それでも通じなかったのか、彼は適当に頷きながら舟を漕ぎ平台の真横に停めた。
自分の発音はそんなに悪いのかと密かにショックを受けていた雪香だが、舟を降りた時に人々が話す言葉を聞いて凍りついた。
「~~~!」
「~~~!?」
(中国語じゃない……!!)
明らかに、どう聞いても違う言語で会話している。
中国語すら通じなそうな相手に、英語での会話を求めるのは絶望的だ。
顔を青くして立ち尽くす雪香に、先ほど池から引っ張りあげた男が近づいてきた。
そしていきなり雪香の顎をグイッと下げ、強制的に口を開き、黄金の匙を突っ込んだ。
「むぐっ!」
匙がかなり大きくてむせかえりそうになるが吐き出すことも出来ず、雪香は突っ込まれたものを咀嚼して飲み込んだ。
どうやら桃のようだが、なぜこのタイミングで強制的に食べさせられたのか。
頭に浮かんだ疑問は、次の瞬間に答えが出された。
「これで言葉がわかるようになったか?」
そこにいる人々の中でもとりわけ身分が高そうな、紫の旗袍に身を包んだ青年が雪香に話しかけた。
雪のように白い肌、青みがかった艶やかな黒髪に、涼しげな瞳の美青年である。
「はい。え、嘘、なんで!?」
「この朧園になる果実を食べれば、異界から来た者でも言葉が通じるようになると史書に記されている」
「え……?」
「娘よ、お前はこの国に仙女として呼ばれたのだ」
厳かにそう告げる美貌の青年を、雪香は唖然と見上げた。
何かがおかしいと思い、もう一度水面に顔を出した雪香は、自分の目を疑った。
平台は遠くにあった。
しかも、そこにいる人々は色鮮やかな民族衣装に身を包んでいる。
(あれって旗袍?)
さらに、全員が歴史の資料集でしか見たことがないようなどんぐり型の帽子を被っている。
どこからどう見ても、清王朝を興した満州族の衣装にしか見えない。
(この人達は誰!?ここはどこ!?)
パニックを起こしそうになったその時、水面が揺れた。
一艘の小舟を漕いで、誰かが雪香のもとに向かっている。
伸ばされた手に反射的にすがりつき、雪香は舟の上に引き上げられた。
「助けてくださってありがとうございます」
咄嗟に出たのは日本語で、キョトンとした相手の顔を見て、雪香は慌てて中国語で言い直した。
「謝謝」
それでも通じなかったのか、彼は適当に頷きながら舟を漕ぎ平台の真横に停めた。
自分の発音はそんなに悪いのかと密かにショックを受けていた雪香だが、舟を降りた時に人々が話す言葉を聞いて凍りついた。
「~~~!」
「~~~!?」
(中国語じゃない……!!)
明らかに、どう聞いても違う言語で会話している。
中国語すら通じなそうな相手に、英語での会話を求めるのは絶望的だ。
顔を青くして立ち尽くす雪香に、先ほど池から引っ張りあげた男が近づいてきた。
そしていきなり雪香の顎をグイッと下げ、強制的に口を開き、黄金の匙を突っ込んだ。
「むぐっ!」
匙がかなり大きくてむせかえりそうになるが吐き出すことも出来ず、雪香は突っ込まれたものを咀嚼して飲み込んだ。
どうやら桃のようだが、なぜこのタイミングで強制的に食べさせられたのか。
頭に浮かんだ疑問は、次の瞬間に答えが出された。
「これで言葉がわかるようになったか?」
そこにいる人々の中でもとりわけ身分が高そうな、紫の旗袍に身を包んだ青年が雪香に話しかけた。
雪のように白い肌、青みがかった艶やかな黒髪に、涼しげな瞳の美青年である。
「はい。え、嘘、なんで!?」
「この朧園になる果実を食べれば、異界から来た者でも言葉が通じるようになると史書に記されている」
「え……?」
「娘よ、お前はこの国に仙女として呼ばれたのだ」
厳かにそう告げる美貌の青年を、雪香は唖然と見上げた。
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