ノータイトル

たら

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最終話

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 課題を終わらせてから時計を見た。
 二十二時か、そろそろ帰ってくる時間だろう。



 鳴海が謝罪のため僕の家にやってきた夜のことを思い返す。まさかあの鳴海が土下座する勢いで謝ってくるとは思ってもいなかったので、僕は狼狽えて何も言うことがなくなってしまった。ただ、簡単に許して帰すのは面白くなかったのでお仕置きということで朝まで散々虐め抜いたのだが、あれは人生で一番楽しい時間だったと思う。また号泣しながら縋ってくる鳴海を見てみたいものだ。そういうわけで彼とは無事に和解し、関係もセフレのままだ。変わった点といえば、男二人でセックスするようになったということくらいか。あと、鳴海が嫌うので煙草も吸わなくなった。物理的な面でいえば、女遊びの代金が浮いたので小綺麗なマンションに引っ越し、ついでにベッドも新調した。鳴海と仲直りした程度でこんなにも日常が変わるとは驚きだ。
 玄関で物音がして、程よく酔っ払った鳴海がリビングに入ってきた。
「鳴海サン、おかえり」
「たーだいま。なあ、みてみて。今日腹踊りさせられたんだけど」
 鳴海がシャツを捲って落書きされた上半身を見せてくる。
 乳首を触覚に見立てた宇宙人が描かれていて、僕はツボに入って笑い転げた。
「あはっはははは、なんすかそれ! きもかわいい、ははははっ!」
 ソファからずり落ちる僕をさらに追い込むつもりか、腹踊りを披露してくれた。くねくね動いて宇宙人を動かそうとするけど、脂肪がないから絵は全く踊っていない。
「踊ってんの鳴海サンだけで絵微動だにしてねえし、ははははっ」
「んなガチ笑い初めて見た、お前のツボわかんねーな」
「はー。やめてください、腹捩れるんで……あれ? その服僕のじゃないすか」
「ほんとだ、気付かんかった。わりい」
 鳴海は床に転がる僕を跨いで荷物をソファに置く。僕は彼のTシャツを脱がせて隅々まで布地を確認した。
「あ、こんなところにインク付いてるし。このシャツ気に入ってたのにどーしてくれんすか」
 落書きされた際に付いたと思われる汚れに文句をこぼすと、僕の頬にちゅっとキスしてきた。
「これで許してくれや」
 普段はこういうのに誤魔化され、まあいいかと甘やかしてしまうが今日はとにかく鳴海の腹の宇宙人が気になって笑いを堪えるのに必死だった。
「とりあえずソレ風呂で流しませんか、僕の表情筋が死にそうです」
「まだツボってんのかよ。そんな面白いか?」
 ぶつぶつ呟く鳴海を全裸にしてから、浴室へ入った。
 掌で石鹸を泡立てて、鳴海の体を洗う。油性ペンで描かれたらしく、指で強く擦らないと落ちないみたいだ。
「これちゃんと落ちますかねぇ」
 乳首の周りを囲んだインクを落とそうと乳首ごと擦った瞬間、鳴海が崩れ落ちた。
「てめえ、何しやがる……。」
「そんな悪役に刺されたみたいなセリフ言わないでくださいよ。ほら立って」
 抱き起すと、彼は真っ赤な顔で肩を震わせていた。この反応に地道な開発の成果が感じられて嬉しくなった。もっと細かく成長を確認する必要があるので、乳首を柔く摘まんでみる。
「はぁンっ!」
 鳴海が肩を跳ねさせて僕にしがみついてきた。酔っているとはいえオーバーなリアクションだ。下手したら女の子の感度を超えている可能性がある。
「はあんって、鳴海サン乳首弱すぎでしょ」
 僕の言葉に鳴海が眉を顰める。
「ああ? 誰のせいだと思ってんだ、こちとらこんな開発されてどれだけ迷惑しぃっ……はぁ、ん……ちょっ、やめ……っ」
 乳頭の窪みを擽ってみたり優しく捏ね回すと、面白いくらい過敏に反応してくれた。
「……ぶち殺すぞ」
 小型犬のようにぷるぷると震えてこちらを睨み上げる。
 そういう眼が僕の加虐心を狂わせることに、彼はまだ気づいていないらしい。
「へいへい、すいません。」
 鳴海の背後に周り、刺激しないよう鏡で位置を確認しながらスポンジで丁寧に乳首周りを洗っていく。敢えて周りだけを擦られるため、血色がよくなった突起がピン、と起立していてヤラシかった。
「鳴海サン、もうちょい頑張ってください」
 立っているのがやっとなのか、僕に背を凭れたままぐったりしている。励ましてやると彼は小さく頷いて僕にすべてを委ねた。この様子だと落書きされたときもこんな惚け顔を晒したのではないかと疑念が過ってしまうが、考えないでおくことにした。
 スポンジで根気よく擦っては流してを繰り返し、うっすら痕が残っているが全体的に落書きは概ね落ちた。洗い終わったことを伝えながら体をタオルで包んで拭いてやっていると、鳴海が黙って僕の手を引き、ベッドの前まで来てから此方を見上げてくる。
「なあ、はやく触って」
 潤んだ瞳で煽情的におねだりする姿が堪らなかった。なだれ込む様に押し倒して、先ほど立たせてしまった乳首を舌で可愛がってやると嬉しそうな声で身悶え善がってくれる。
「鳴海サン、かわいい。きもちいの?」
 コクコクと頷いて、僕を見つめてくる。酒が入っているときの鳴海は普段より何倍も素直なのでとても愛おしい。勢い余って挿入しようと鳴海の股を開かせたとき、着信音が響いた。鳴海の携帯からだ。
「無視していい、はやく」
 僕の手首を掴む鳴海だが、そういうわけにはいかない。
「ダメですよ。大事な要件かもしれないのに」
 代わりに僕が携帯の着信画面を見る。

 『伊藤』と表示されていたので即座に切った。

「って結局切るのかよ。誰だった?」
 鳴海が起き上がって僕の顔を見る。
「金髪ロン毛でした」
 伊藤は鳴海のセフレらしく、当然のごとく現在進行形で連絡を取り合っているらしい。僕だけが鳴海のセフレだとは思っていなかったが、ヤツの手がこの体に触れていること想像するとかなり不快だった。
「そんな顔するくらいなら俺と付き合えばいいじゃん?」
 冗談交じりに笑いながら鳴海が言った。
「いやー、それはちょっと」
「伊藤に妬いてんならはっきり言えよ、俺のこと好きなんだろ」
 なぜこの人は僕の心の内を自信満々に代弁できるのだろう。
 美紅ちゃんに言われずとも鳴海を特別視していた自覚はあったが、この感情が女の子に対して芽生えるそれと同じものなのかどうか確信が持てず、曖昧にしておきたいところだった。
「そっちこそ僕を好きならはっきり言ったらどうですかね。」
 本音はなかなか伝えづらいもので、こういう言い方でぼかすことはよくあった。
「…………あーそう。もういいや、帰る」
 キリのない押し問答に付き合っていられない、というように鳴海が腰を上げた。
 僕は鳴海の背を見て、原因不明の焦燥感に駆られる。



 たぶん、これはデジャヴというやつだ。
 元カノとこういう別れ方をしたあと二度と会えなかった過去が蘇り、咄嗟に鳴海の腕を掴んだ。



「なに」
 不機嫌そうに振り返ってくる。
「えーと……。」
 僕は作り笑いを浮かべ引き留める言葉を探したが、スムーズにセリフが出ない。
「あー伊藤とはもうそういう関係じゃねえよ、気になんなら電話して確認したらいい。おらよ」
 口籠る僕を鳴海が片頬で笑って、携帯を投げ寄越してきた。
 数秒だけ迷ったが、決着をつけるつもりで伊藤に電話することにした。
『ようやっと出たな、ミナトくんのことなんやけど考えといてくれたん?』
 門一番で僕の名前が呼ばれる。耳元で何度も囁かれた声に早くも頭痛がしてきた。
「本人のミナトですが、何の用でしょう」
『え? 本物やん。なんで鳴海のケータイに……もしや、アンタら付き合おうてるんか』
「ただのセフレです」
『うわあ、よかったわ。ほんならアタシとメシ行かへん? この前の詫びも兼ねて奢ったる。』
「すみません、忙しいので」
『ええやん遊びにいこーや。ミナトくんむっちゃ好みなんよ、もー泣かせたりせえへんから。なあええやろ?』
 しつこい奴だ。この手の人間に曖昧な拒絶はかえって逆効果だろう。
「…………鳴海サンと付き合ってるんで行けません。さようなら」
『はあ?』
 電話を切った。

 このタイミングを逃したらもうチャンスはないかもしれない。
 決心し、軽いノリで切り出す。

「鳴海サン、僕ら付き合うことにしたんでコイツ着拒にしといてくれますか」
 僕の勝手な決定にさぞや怒るだろうなと隣を見遣ると、意外にも可愛らしい笑顔がそこにあった。
「付き合う? マジで? やったあ」
 暢気に喜ぶ鳴海に一時は呆然となったが、そういえばこの人は酔っていた。
 機嫌もなおったらしい彼を抱き寄せて唇に舌を這わせた。官能的に濡れる口元が僕を昂らせる。夢中になって唾液を互いの舌に絡め合わせていると鳴海の指先が僕の耳に触れてきた。
「伊藤から聞いたけど、耳が敏感なんだって?」
 さりげなく耳から手を退かした僕を見逃さず、鳴海がにんまり笑って言う。
 極めて冷静な気持ちのまま、両方の乳首を摘まんで捻じりながら上に引っ張ってやった。苦悶の表情で色気のない声をあげる鳴海を見下ろし、僕は長い溜息を吐く。
「今日こそは甘いセックスがしたいって毎回のごとく思ってるんですよ。それなのにどうしてそう煽るんですか。酷くされたいって捉えていいんですかね?」
「俺だってお前のことっ、やだ、ァ! いてえ、死んじゃう!」
 乳首を抓られたくらいで人は死なないので、そのまま握りつぶしてやった。
「僕のことを、なんですか?」
「いだだだだだ! もげる、もげるから!」
 鳴海の敏感な突起を放してやった。ベッドへ倒しながら、痛々しく腫れ上げる赤色を優しく舌で撫でつけ、慰めてやる。半泣きになっていた彼の口から次第に甘ったるい吐息の音が漏れ、昂揚していることが伝わってくる。僕の腰に脚を絡め、早く挿れろというアピールはいつもの流れだったが彼のペースに乗せられることはなく、内腿や下腹部を撫でながら焦らした。鳴海の熱が触ってとばかりに僕へ擦り寄ってくる。我慢ならないと訴える情熱的な双眸には気付かないフリをしておいた。
「腰揺らしちゃってかわいいなぁ。鳴海サンってほんとにえっちな子だよね、たまらないよ」
 指で尻の入り口を撫でてみると、ぱくぱく開閉していて僕を咥えようと吸い付いてきた。互いの鼓動が聞こえるほどまでに体を密着させ、淫乱な孔周りを指で擽ったり僕の我慢汁を塗り付けたりと、ゆっくり鳴海の気分を限界まで高める。こんなことをしながら、鳴海の恋焦がれているモノが僕の下半身だけでないことを願ってしまうのはおかしな話だ。
「……はぁ、くそ、またいじわるすんのかよ…………」
 まだ虐めてもいないのに、既に焦れて泣きそうな鳴海の耳元へ口を寄せた。
「いいえ、恋人との初夜なんで優しくしますよ」
 鳴海の瞳が見開かれた。
 僕の視線に気づくと、耳まで真っ赤にして両手で隠すように顔を覆ってしまった。
 こんなに照れる彼を見たのは初めてだ。
「やっぱり俺のこと好きなんじゃん」
 小さい声でぶっきらぼうに呟く鳴海の顔が見たくなったので両手を掴んで頭の上で押さえつけた。嬉しくてにやける顔を必死にこらえるような様子に僕の動悸も変になりそうだった。溢れ出る愛おしさが止まらず、僕は考えるより先に口走っていた。
「好きですよ、僕だけを見てください」
 あれだけ言葉にすることを躊躇っていたのに、こんな容易に言わされることになるとは。だが、今の淫らで可愛い鳴海をみて理性など保っていられるはずがなかった。
「ふん、やっと言ったな。前から知ってたけど」
「鳴海サンは?」
「…………。」
 鳴海はだんまりを決め込んだまま僕を見つめる。焦らすのは好きだが、焦らされるのは大の苦手だ。自然と鳴海を拘束する掌に圧力をかけてしまう。
「はやく言えよ、また泣かされてえの?」
 加虐的な気分が高まるとつい挑発的な言葉になってしまうのは見逃してほしい。
「おい俺一応先輩だぞ……。まあ、そういうとこも……好きだけど」
 彼の言葉に満足し、唇同士を重ねると再び唾液やら吐息なんかを共有した。


 さて、ここからようやく本番だ。
 気が済むまで互いを貪り尽くすための長い夜が始まる。














 僕らのセックスに、もうタイトルは必要ない。



 ノータイトル・完

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