君と1日夢の旅

宵月

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君といるから、楽しいかな。

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上手いこと漕いで池の真ん中まできた頃。


「…落ちないでよ?」


「重心はお尻の方だから大丈夫!」


「…いやそういうことじゃないんだけど。」


というかぬいぐるみって自分の重心分かるんだ…


ゆっくりと横に並走する鴨が心地よさそうに水の流れに揺れている。


「綺麗だな…」


つい、そう思った。


静かな緑と、風と、水の音。


とても、東京とは思えない。


空にある雲は風の方向へとゆっくり流れてるのだろう。


「わぁ、鯉たちも集まってきたよ。」


「…つくねのことを餌だと思っているんじゃないかな?」


「ボク食べても美味しくないんだけど?!」


話し声は僕らと、ボートに乗る何人かの声しか聞こえない。


乗るのはほとんど子供ばかりだ。


「流生、楽しい?」


急に聞かれた質問に僕は慌てる。


「なんでまたそんなことを聞くの?」


「ボクと一緒に居て楽しくないって言われたらショックだなーって」


「…最初から思ってたけど面倒な彼女みたいだよね。」


「それ本人に言うの?そんなんだからモテないんだよ流生は!」


「はは…そうかもね。」


苦笑いで返した言葉に付け足すのは、まだ足りない気がする言葉だった。


「楽しいかな。つくねと話せるようになる前よりは。」


「ふふ。それならよかったぁ。」


つくねは嬉しそうに両手で自分の頬を包む。


つくねも、楽しそうだ。


それが少し、嬉しかった。


楽しいとは違う、嬉しさ。


「流生!次はどこに行くんだい?」


「どこがいいかね…そろそろお腹が空く頃だ。」


スマホを見ると時間は10時半。


お腹が空いたと思ったのも気のせいだったのだろうか。


「何食べるの?」


「…美味しいもの。」


「適当だなぁ。」


夢ということすら忘れそうなこの感覚が、続けばいいなんて思ったのは、誰にも言えない秘密だ。


「パンがいいかな。ここに来たらいつも食べてたやつ。」


「えっと…あっちの方のやつ!」


指…というか腕でさした方は北方面だ。


「よくわかったね。もう少し船乗ったら…降りて行こうか。」


「そうだね…ゆっくりできてこの時間も幸せだもんね!」


恥ずかしげもなくそんなことを言うつくねが、少し羨ましかった。


だからこそ、一緒にいて安心するのだろうか。


「あはは!ねぇねぇおばあちゃん!鳥さんいるよ!」


「本当ね。ぷかぷか浮いていて可愛いわ。」


近くにあったボートから話し声が聞こえた。


足漕ぎのボートが1つ。


水の柔らかい流れに揺られている。


全然違う人だというのに、懐かしく感じた。


「おばあちゃんと一緒が1番楽しい!また来ようね?」


「ああもちろんだよ。おばあちゃんも一緒に行くのを楽しみにしているからね。」 


楽しそうな名前も知らない少年とおばあさん。


それなのに。


あの2人が今笑いあっていることを嬉しく感じた。


「そろそろ行こうか。ボクお腹すいた!」


少し眺めて、視線をつくねに戻した。


「そうだね。行こうか。」


大切に抱き上げたつくねを膝に乗せて、ゆっくりとボート乗り場へと戻った。

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