5 / 15
綺麗になった君を連れて
しおりを挟む「…出来たっ!!」
正直不格好だが綺麗になった。
わたも詰めたからふわふわだ。
「キミ結構手際いいね。すごいよ!」
縫い目は…うん、最悪だが。
形になったことが奇跡だ。
時間は絶対かなりかかってると思っていたのだが案外かかっていない。
8時を過ぎたところ。
「なんか…久しぶりにこんなに集中した…夢なのに働いた気分…」
「ボク綺麗になった~♪」
…楽しそうにくるくるしたり手を伸ばしたりまるでエステ後のモデルのようなポーズをしてる。
「良かったね。」
「ありがとう流生!」
躊躇った撫でる手をハッとしてもう一度伸ばす。
嬉しそうに頭に手を置いて、この仕草は可愛いな。
「さて、何しよう?」
「終わったし休ませて…まだ1時間とか冗談でしょ…」
洗濯、買い物、縫い合わせ。
体内時計では3時間程経ってる気がする。
縫い合わせで2時間、洗濯と買い物に30分の計算で。
「そういえばさ、流生は出かけないの?お休みの日。」
「…今日も多分お休みじゃないんだけどね。」
「出かけようよ!ボク流生に連れ出して貰うことあんまりないからさ!」
「…そりゃこの歳になってぬいぐるみ連れ歩くのはね…」
「ボク、植物園に行きたい!あの大きいところ!」
つくねが言った場所はすぐにわかった。
なんせ植物園なんて連れていったのはあの1回だけだ。
「いや…遠いから無理だよ。」
答える言葉が、つい小さくなった。
「この世には電車っていう便利なものがあるのに?」
「高いんだよ。電車は。」
どうしても、行きたくない理由もあった。
「じゃあ僕の言うところに連れて行って貰うか、そこに行くかの2択ね!」
「…無茶苦茶な。」
でも…夢の中なら出かけてもいい気がした。
だって遊んでも目が覚めれば夢として楽しめるんだから。
「…で、どこ行くの?」
「行ってくれる?行ってくれるの?!」
「行くかは別だけどね。」
「じゃあね!行きたいところ沢山あるよ!まず僕の布を買ってもらった場所でしょー?それから植物園もだしあっ!金平糖屋さんも行きたい!」
それは、全部…
いや、そんなのを考えるからだ。
「行こうか。夢の中だからね。つくねの好きなところに行かせてあげるよ。」
「わーい!流生優しい!大好き!」
足にピッタリくっついてくるのはなかなか可愛い。
猫に懐かれたみたいで。
「場所、教えて。」
「え、知らないけど。」
「…え。」
いや、確かにそうだよね…ぬいぐるみだし場所なんか覚えてるはずはない。
…探せと。
「何かせめてひとつくらい覚えてることは。」
「えーそんなのわかんないよ。…いや、待って!」
「思い出した?」
「ボクの布ね!普通の市販の布なの!」
「…でしょうね。」
「でね、作ってくれた人がユヤワヤで買ってるって聞いたことあるよ!」
ズキっと、心が痛んだ。
やっぱりか…って。
「まぁこの辺で布とか売ってるって言うのはそれくらいしかないよ。」
「で、どこのだろうね?」
「…知らないか。」
多分、と言う予想はできる。
だってあの人が住んでいたのは小金井だ。
バスや電車で行ける距離というのはかなり限られてくる。
「多分、吉祥寺だろう。」
「へぇ。公園があるところ?」
「そう。おさんぽ、よくしたよね。」
「覚えているの?ボクと一緒にたくさん走ったところ。」
覚えている。
猫のぬいぐるみを抱きしめて、連れ回した。
ボートに一緒に乗せて、その隣には…
いや、考えるのは辞めた。
涙が溢れそうだ。
目元が、熱い。
小さい頃の話だからと、頭をシャットダウンした。
「行こうか。ここからそう遠くないし。夢なら…こんなことしたって怒られはしないからね。」
つくねは嬉しそうに両手をあげている。
「じゃあまた一緒にボートに乗ろう!あの白鳥のやつ!」
「…つくねは漕げないでしょ。ボートが回るだけになるよ。」
「ちぇー。」
分かりやすくため息をつくつくねを抱き抱えて準備をする。
財布と、定期と、スマホ。
スマホの意味があるのかは分からないが…連絡は今日になって1件も来ていないのだから。
「つくね、バッグの中入れる?」
「えーボク電車乗れるもん。別に運んで貰わなくてもいいよーだ。」
ぷいっとそっぽを向く。
さっきのこともあって拗ねているのだろう。
「せっかく治ったのに抱き上げられないのは僕が寂しいから。」
そういうとつくねは素直に僕の腕に飛び込んだ。
「キミが言うから仕方なくだもんね!」
…なんだか急にちょっと面倒な彼女ができたみたいだ。
いっそその気持ちの方がいいのかもしれない。
可愛く見えるかも。
抱き抱えたまま僕は玄関を出た。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる