君と1日夢の旅

宵月

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綺麗になった君を連れて

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「…出来たっ!!」


正直不格好だが綺麗になった。


わたも詰めたからふわふわだ。


「キミ結構手際いいね。すごいよ!」


縫い目は…うん、最悪だが。


形になったことが奇跡だ。


時間は絶対かなりかかってると思っていたのだが案外かかっていない。


8時を過ぎたところ。


「なんか…久しぶりにこんなに集中した…夢なのに働いた気分…」


「ボク綺麗になった~♪」


…楽しそうにくるくるしたり手を伸ばしたりまるでエステ後のモデルのようなポーズをしてる。


「良かったね。」


「ありがとう流生!」


躊躇った撫でる手をハッとしてもう一度伸ばす。


嬉しそうに頭に手を置いて、この仕草は可愛いな。


「さて、何しよう?」


「終わったし休ませて…まだ1時間とか冗談でしょ…」


洗濯、買い物、縫い合わせ。


体内時計では3時間程経ってる気がする。


縫い合わせで2時間、洗濯と買い物に30分の計算で。


「そういえばさ、流生は出かけないの?お休みの日。」


「…今日も多分お休みじゃないんだけどね。」


「出かけようよ!ボク流生に連れ出して貰うことあんまりないからさ!」


「…そりゃこの歳になってぬいぐるみ連れ歩くのはね…」


「ボク、植物園に行きたい!あの大きいところ!」


つくねが言った場所はすぐにわかった。


なんせ植物園なんて連れていったのはあの1回だけだ。


「いや…遠いから無理だよ。」


答える言葉が、つい小さくなった。


「この世には電車っていう便利なものがあるのに?」


「高いんだよ。電車は。」


どうしても、行きたくない理由もあった。


「じゃあ僕の言うところに連れて行って貰うか、そこに行くかの2択ね!」


「…無茶苦茶な。」


でも…夢の中なら出かけてもいい気がした。


だって遊んでも目が覚めれば夢として楽しめるんだから。


「…で、どこ行くの?」


「行ってくれる?行ってくれるの?!」


「行くかは別だけどね。」


「じゃあね!行きたいところ沢山あるよ!まず僕の布を買ってもらった場所でしょー?それから植物園もだしあっ!金平糖屋さんも行きたい!」


それは、全部…


いや、そんなのを考えるからだ。


「行こうか。夢の中だからね。つくねの好きなところに行かせてあげるよ。」


「わーい!流生優しい!大好き!」


足にピッタリくっついてくるのはなかなか可愛い。


猫に懐かれたみたいで。


「場所、教えて。」


「え、知らないけど。」


「…え。」


いや、確かにそうだよね…ぬいぐるみだし場所なんか覚えてるはずはない。


…探せと。


「何かせめてひとつくらい覚えてることは。」


「えーそんなのわかんないよ。…いや、待って!」


「思い出した?」


「ボクの布ね!普通の市販の布なの!」


「…でしょうね。」


「でね、作ってくれた人がユヤワヤで買ってるって聞いたことあるよ!」


ズキっと、心が痛んだ。


やっぱりか…って。


「まぁこの辺で布とか売ってるって言うのはそれくらいしかないよ。」


「で、どこのだろうね?」


「…知らないか。」


多分、と言う予想はできる。


だってあの人が住んでいたのは小金井だ。


バスや電車で行ける距離というのはかなり限られてくる。


「多分、吉祥寺だろう。」


「へぇ。公園があるところ?」


「そう。おさんぽ、よくしたよね。」


「覚えているの?ボクと一緒にたくさん走ったところ。」


覚えている。


猫のぬいぐるみを抱きしめて、連れ回した。


ボートに一緒に乗せて、その隣には…



いや、考えるのは辞めた。


涙が溢れそうだ。


目元が、熱い。


小さい頃の話だからと、頭をシャットダウンした。


「行こうか。ここからそう遠くないし。夢なら…こんなことしたって怒られはしないからね。」


つくねは嬉しそうに両手をあげている。


「じゃあまた一緒にボートに乗ろう!あの白鳥のやつ!」


「…つくねは漕げないでしょ。ボートが回るだけになるよ。」


「ちぇー。」


分かりやすくため息をつくつくねを抱き抱えて準備をする。


財布と、定期と、スマホ。


スマホの意味があるのかは分からないが…連絡は今日になって1件も来ていないのだから。


「つくね、バッグの中入れる?」


「えーボク電車乗れるもん。別に運んで貰わなくてもいいよーだ。」


ぷいっとそっぽを向く。


さっきのこともあって拗ねているのだろう。


「せっかく治ったのに抱き上げられないのは僕が寂しいから。」


そういうとつくねは素直に僕の腕に飛び込んだ。


「キミが言うから仕方なくだもんね!」


…なんだか急にちょっと面倒な彼女ができたみたいだ。


いっそその気持ちの方がいいのかもしれない。


可愛く見えるかも。


抱き抱えたまま僕は玄関を出た。

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