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あとは心を奪うだけ
しおりを挟む口と口が離れ、ねっとりとした糸がたれ落ちる。呼吸は荒くなり、私の手は自然と彼の下半身へと伸びていた。
「やめて、やめてくれ……」
「もう、止まれないわ」
「嫌なんだよ!」
「嫌? そんな筈はないわ。これが嫌がる男の子の体かしら?」
彼の下半身は固くなり、触れたその手からはドクンドクンと脈打つ鼓動が伝わってくる。体とは実に素直なもので、彼の本心はこんなにも"私としたい"と叫んでいる。
「やめろっ!」
「したんでしょ。体って正直よね。すぐ中に入れてあげるわ。これで私達は一つになれるのよ」
前戯など必要無い。
私はかつてこれ程までに濡れた事が無かった。
体が瑠二君を欲して、欲して、欲してどうしようもないのだ。
我慢出来ずに、私はゆっくりと腰を落とす……
■■■■
「瑠二く~ん、お風呂から出たらご飯にしましょ! 着替えはここに置いておくからね」
お風呂場の前で扉越しに瑠二君に話しかけるも、彼からの返事は返ってこない。
怒ってるの? 泣いてるの? それとも照れてるのかしら? どれでもいいわ。私と瑠二君は愛し合った。何度も何度も。その事実こそが大切なのよ。食事を与えお世話をし、快楽を与え続ければ、私無しでは生きられなくなるのよ。
──早く心を開いて頂戴ね、瑠二君──
テーブルの上には近場で取り寄せたオードブルやパスタやらが並んでいる。本当ならば得意の手料理を振る舞いたい所だが、まだ一緒に住み始めて日が浅い為、そう簡単に外出するのも気が引けるからだ。
用意した服に着替えて戻ってきてくれた瑠二君。私は、そんな彼を見てとってもお利口さんだと思ったので、早速褒めてみた。
「瑠二君、ちゃんと私の所に戻ってきてくれたのね。偉いわ!よしよし」
まだ乾ききってない彼の頭をクシャッと撫でると、彼は私の手を払い除け──、
「いつまでこんな事を続けるんですか!? 何をしたら妹の動画を消してくれるんですか!?」
と語尾を強めた。
体を重ねたというのに、どうやら彼の心は未だ閉ざされたままのようだ。
「……ご飯にしましょ」
「答えろよ!!!」
瑠二君はテーブルに乗っていた食事を払い除け、床にぶちまけた。私は思わず手が出そうになったが、咄嗟にネットで調べた『正しいペットの躾』。やってはいけないの項目に"殴ってはいけない"と書いてあった事を思い出した。
「そうね……2ヶ月。2ヶ月続けてくれたら録画を消すことを約束するわ」
「2ヶ月!? そんなに……」
あまりにも長い、そう感じたのか瑠二君の表情は険しい。それでも彼はこの条件を飲む。そう確信していた。この2ヶ月が勝負だ。
この間に、必ず彼のハートを射止めて見せる。
いくら口先で2ヶ月と言っても、心が開かれるまでは軟禁し続ける訳だが、今の彼にそれを言う必要は無い。今は納得してもらう事、それこそが重大なのだ。
「瑠二君。床に落ちた食べ物を片付けて頂戴。その間に別の物を用意するわ。協力しあって生活して行きましょうね。それが"お互いの為"なのよ」
「くそっ……」
瑠二君に掃除道具を渡すと、煮え切らない表情をしながらも、渋々掃除をし始めてくれた。
そんな彼を眺めていると、同棲生活を実感できた。
私が料理を準備し、彼が掃除をする。まさに憧れの共同生活がそこにはあった。
体は完全に支配したわ。あとは心を手に入れるだけ。あと少し、あと少しなのよ……頑張るのよ私ッ!
■■■■
時は流れ、あれから1週間日が過ぎた。
瑠二君の周りの人間に心配が及ばないように、親しいであろう人物を履歴から割り出し、メールを送った。勿論母親にも事前にメールを送ってある。
──妹の仇を撃つ為に、しばらく行方を眩ませます。でも安心してください。たまにメールは返します。伊奈絵の事、宜しくお願いします──
メールを送った後は、着信やらメールが頻繁に届いていたが、全てを上手くやり過ごした。
今となってはたまにメールが来る程度で、心配はすれどまさか警察に通報する事は無いだろう。
ご存知の通り携帯電話にはGPS機能がついている。瑠二君の携帯電話を持っているのは流石にマズイと思い、瑠二君の持ってきた鞄から家の鍵を取り出し、彼の家へと置いてある。これから頻繁にメールをチェックしに行かなければならないと思うと、少し面倒ではあるが仕方がなかった。
肝心の瑠二君の様子はというと、生活にも慣れてきたのか、はたまた諦めたのか、前みたいに怒鳴ったりはしなくなっていた。
ただ、私を睨むその目だけは未だに鋭く、浮かれた私でも恨まれているとわかっていた。
二人でやる事といえば、食事を与え体を交える毎日で、そんな生活が長く続いていた。
私は少しでも仲良くなろうと会話を試みるも、素っ気ない返事が返ってくるだけで、まるで会話にならない。その為私は、そろそろ彼の気を引く御褒美でも与えてあげようか、と悩んでいた。
そういえば、前に家に忍び込んだ時に撮った部屋の写真に沢山漫画が置いてあったわね。今度持ってきてあげようかしら。きっと喜ぶわ!そうしましょ!
■■■■
次の日、早速私は漫画を取りに瑠二君の家に忍び込んだ。まずは日課となったメールチェックをするために、スマホの画面をタップする。すると今までに無いくらいの量の、親からのメールと着信の履歴が残っていた事に驚いた。
え……何、これ……何かあったのかしら?
タダならぬ量の履歴に、恐る恐るメールを開いてみると──、
──ッッ!!
うそ……でしょ……
こんな事が瑠二君にバレたら、その時点で終わりだわ……
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