ラブイズホラー ~痛めて菜抽子さん~

風浦らの

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それ以上は止めて

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 誰!誰?誰!?
    誰なのよコイツはッッ!

 瑠二君と女はベッドの前で立ち話。私はベッドの下から見える足だけを見ながら、2人の会話に聞き耳を立てた。

「急にどうしたの?真紀まきちゃん」
「あの……先輩と少しお話がしたくて……」
「話だけなら外でも良かったんじゃ」
「でも……その、外じゃ、ちょっと……」

 ここまでの会話を纏めると、女の名前は『真紀』。そして瑠二君の後輩であり、2人は恋人という訳では無いと取れるか。

 私の考察をよそに、その後も更に2人きりの会話は流れていく──、

「じゃあ、その話って何?」
「そ、その…………あの。あわわわわ、私……先輩の事が好きなんです!」

 ッ!    なんですってぇぇ!?
    この女、よくも私の目の前でそんな事を言えるわね!!

「え?    いや、真紀ちゃん随分と急だね……あの、気持ちは嬉しいんだけど、俺は真紀ちゃんをそんな目で見た事は無いんだ。悪いけど、断ってもいいかな?」
「そ、そんなぁ……」

 フン、無様なメス豚め。あなたと瑠二君が釣り合う筈がないでしょう。当然の結果とは言えいい気味だわ!

「ごめんね真紀ちゃん。帰りは送って行くよ。今日はわざわざありがとう」
「せ、先輩ッ!    あの……だったら私を……抱いてくださいッ!    そしたら……そしたら私、諦められますから!!」

 突然の抱いて下さい宣言。この女はどうかしている!    頭がおかしいわ!    精神が壊れている!    そんな事私が許す訳が無い。それ以前に瑠二君がそんな軽い女に興味があるとは到底──、

 怒り心頭の私の目の前に、パサッと布が落ちてきた。これはどこからどう見ても『女のスカート』だ。

 コ……コイツ……今何してるの!?
    一体上では何が起きてるっていうのよ!?


「ちょ、真紀ちゃん!?」
「……先輩……大好きです。私の初めて、貰って……下さい」



 次いで落ちてくるのは女の上着。



 そして続く沈黙───、



 この沈黙は何……?



 やめて……やめて、やめて、やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてってッ!!



 お願いだからそれ以上は止めてぇぇぇぇッッッ!!



 なんとか……なんとかしなくちゃ!    このままじゃ大好きな瑠二君が汚されてしまう!!    それも、あろう事か私の目の前でッ!    それだけは嫌!    絶対嫌ァァ!!    なんとしても阻止しなきゃッ!


 でもどうやって!?    ここから飛び出す?    いえ、ダメよ。いくら彼女とはいえ、不法侵入は立派な犯罪。禁固刑にでもなったら瑠二君と会えなくなっちゃうわ……

 なにか、何かいい手は……


 ──ッ!!


 そうだわ!


 私は持っていたスマホで瑠二君に電話をかけた。少しでもこの場の雰囲気をぶち壊したかった。


 静かな部屋に鳴り響く携帯の着信音……


 お願い、気づいて瑠二君!私はここよ!ここに居るのよ!そんな尻軽女になんて惑わされないで!!


 執拗に鳴り続ける着信音。


 瑠二君……もしかして上では……私の見えない所では既に……


 グッと携帯を握りしめる手に力が入る。


 セックスがしたいなら私とすればいい。キスがしたいなら、私の口が溶けるまですればいいわ。眠る時に優しく撫でて欲しいなら、私の寝る時間が無くなったって構わないの。

    だから……だから……


 お願い瑠二君……



 ────。


「──、ごめん真紀ちゃん。こういうのはやっぱり、お互いが好きな人とするのが普通だと思うんだ。服を着て。送ってくからさ」
「………………わかりました」

 そう言って女は上着とスカートを拾い上げた。

 私は安堵感で心臓が止まりそうだった。そして、握りすぎたスマホの画面にはヒビが入ってしまっていた。しかしながら、大役を果たしたスマホに感謝の気持ちがこみ上げてくる。

 女は、瑠二君に促されるように玄関へと向かい、2人で部屋を出て行った。ガチャりとドアが閉まる音を確認し、私はベッドの下から這い出でる。


 あの女絶対に、




「許さないッッ」



 ■■■■


 私は直ぐに窓から抜け出し、2人を追いかけていた。

 どうやら2人は駅に向かっている様子だ。私は人混みをかき分け、なんとか追いつこうと必死に追った。

 そして遂に、電車に乗る直前に5m程まで接近することに成功した。
    どうやら瑠二君はここまでで、電車には女が1人で乗るようだ。私は女が電車に乗るのを確認した後、隣のドアから同じ電車に乗り込んだ。


 ■■■■


 カタンコトンと電車が走る事2駅。女が電車を降りた。私はすぐ後ろをピタリとマークし、人気ひとけが無くなるその瞬間をじっと待った。


 そして遂に訪れたそのチャンス!
    私と女の周りには誰1人として歩いては居ない。ここぞとばかりに私は背後から女の肩へと手を伸ばす──、




 この女、絶対に許さないッッ。



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