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あなたの部屋に居ます
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さてさて。部屋に入り込んだのはいいけど、一体何をしたらいいのかしら? 心臓がバクバクして張り裂けそうだわ。取り敢えず深呼吸をして、心を落ち着かせましょう。
「すぅーはぁー、すぅーはぁー」
あぁ、瑠二君の匂いがするわ。私の肺が瑠二君で満たされていく。なんて幸せなの。
──よし、落ち着いてきたわ。では早速、お掃除をしましょう! 彼女の仕事と言ったら先ずはお掃除よね。
ぐるりと周りを見渡してみる。
最初に目についたのが机の上の紙だった。何かのID番号の様だ。私にはそれが何かは分からなかったが、その番号をスマホのカメラで撮影した。
彼の事は全て知る必要があるわ。無駄な物なんて無いの。
その思いから、私は部屋の至る所をスマホのカメラにおさめた。いつかきっと役に立つ日が来る。彼の趣味、癖、好みを知る上で重要な資料として。
次にクローゼットに手を伸ばす。
大好きな人のクローゼット。
こ、ここに瑠二君の服や下着が入っているのね……
バクバク動く胸を、左手で抑えながら、ゆっくりと扉を開くと、中には綺麗に整理された衣服と、個別に分けられた男性用の下着があった。
好きな人の下着が目の前にあります。あなたならどうしますか? 私は我慢できません。皆さんもそうでしょ?
私はスルスルと服を脱ぎ、瑠二君の部屋の中で全裸になった。
そしてパンツを1枚取り出しそれを履き──、
次にTシャツを取り出しそれを着る。
私は今、全身を瑠二君に包まれている。まるで彼に抱きしめられて居るようだわ。もっと、もっとキツく私を抱きしめてぇ!!
更に私はもう1枚パンツを取り出すと、両手で顔に押し付けその匂いを嗅いでみた。
あぁ……瑠二君……
自分が今変な事をしているという気持ちは全く無い。だって私は未来の彼女。
彼女なら当然よね? 違うかしら?
私はその姿のまま今度はゴミ箱に向かう。彼の私生活を知る上で、ゴミ箱を探るのは必要不可欠だからだ。
百均で買ったような、小さく白いゴミ箱。私はその中をガサガサと漁る。中からは、菓子パンの包み紙やら、お菓子の包装紙が出てきた。
栄養バランスが悪そうね。私がしっかり管理してあげなきゃだわ。
そして更に奥から出てきたのが、丸められたティッシュ……
こ、このティッシュは何かしら……
私はカチカチになったティッシュをゴミ箱から取り出し、匂いを嗅いでみる。
すると、鼻をつんざく野性的な匂いがした。予想通り、これは瑠二君の精子の匂いだ。瑠二君は毎晩1人で性処理をしているのだろうか?
これから私が彼女になるのだから、もうこんな事しなくてもいいのよ? 一体何を見てやっているのかしら? 罰としてこれは没収ね。
私はティッシュを持ってきた自分のバックにしまい込んだ。
これでよしっと。あ、私ったらつい夢中になっちゃって、お掃除全然してないわ! もう、本当に私ってばドジッ! 早く掃除しないと、瑠二君が帰ってきちゃうわ。
私は頭の中で掃除の段取りを組み立てる。
トイレにベッド。あっ、お風呂場もいいわね。等と幸せな妄想を膨らませていたその時──、
ピンポーン。
突然鳴り響く家のチャイムに、私の全身は嫌な汗に包まれた。
えっ!? そんな、まさかもう帰って来ちゃったの!? いえ、そんな筈はないわ。第一、瑠二君がチャイムを鳴らす筈が無いじゃない。そうよ、大丈夫。きっと何かの勧誘に違いないわ! 居ないと分かれば直ぐに居なくなるはずよ……
それでもどうしても気になり、足音を立てぬように玄関に向かった。
そして息を殺しドアスコープから外を覗き込む。するとそこには、若い女の子が立っていた。肩まで伸ばした髪にクリクリの目と、なかなかの可愛さを持っている。
誰……この子……まさか……
私が困惑していると、その女の子がバックから鍵を取り出し、中を開けようとしてくるではないか!
や、やばいッッ! 何この子!? なんで合鍵持ってるの!?
私は音を立てぬよう急いで部屋の中に戻り、脱いだ自分の服とバックを拾い上げ、咄嗟にクローゼットの中に身を潜めた!
本当は直ぐにでも窓から逃げ出したかったのだが、今の私の服装から言ってそれは出来ない。それ以前に圧倒的に時間が足りなかった。
私がクローゼットの扉を閉めると同時に、玄関から繋がる部屋のドアが開かれた。
間一髪身を潜めることが出来たようだ。
こっちに気づかないでくれと願いながら、クローゼットの僅かな隙間から部屋を覗く。
女の子は部屋に入ってくると、慣れた様にテレビの電源をつけ、買ってきたお茶とお菓子を食べながらくつろぎだした。その間私の心臓は激しく動く事を止めることは無かった。『心臓の音が外に聞こえていなか』そんな心配さえしてしまう。
何、なんなのこの女ぁ! 一体瑠二君のなんだって言うのよ!? 合鍵を持ってるって……許せない……許せないわ……私でさえまだ貰ってないっていうのに!
私はコッソリと携帯を取り出し、アプリの無音カメラで、その女の子を撮りまくった。
──決してその顔を忘れないように──
■■■■
謎の女の子は、テレビを観ながらゲラゲラ笑ってもう2時間も過ごしていた。
早く帰りなさいよ! ま、まさかこのまま瑠二君の帰りを待つつもり!? もしそんな事になったら──、
暗いクローゼットの中で息を潜め、身動きも取れないため、体が悲鳴をあげ始めた。このままではいつか足を伸ばしてしまうだろう。
そろそろ限界と思い始めたその時、女の子がようやくテレビの電源を切り、荷物を纏め静かに部屋から出て行った。
私は安堵の息を吐き、軋む体を伸ばしながらやっとの事でクローゼットから脱出した。
取り敢えずは大分時間が経っていた為、瑠二君の部屋から出る事にした。
部屋に忍び込む時より出る時の方がドキドキするものだ。出る所を誰かに見られたら、瑠二君と鉢合わせしてしまったらなんて言おうか……と。
そんな考えが憂きに終わり、無事に窓から脱出し、私は瑠二君の家を後にする。
最後にもう一つ分かったことがあった。
彼の苗字だ。
表札に書いてあった苗字、それは『子峠』
瑠二君の名前は、『子峠 瑠二』
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