ラブイズホラー ~痛めて菜抽子さん~

風浦らの

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あなたの部屋に居ます

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 ■■■■

    さてさて。部屋に入り込んだのはいいけど、一体何をしたらいいのかしら?    心臓がバクバクして張り裂けそうだわ。取り敢えず深呼吸をして、心を落ち着かせましょう。

「すぅーはぁー、すぅーはぁー」

 あぁ、瑠二君の匂いがするわ。私の肺が瑠二君で満たされていく。なんて幸せなの。
 ──よし、落ち着いてきたわ。では早速、お掃除をしましょう!     彼女の仕事と言ったら先ずはお掃除よね。

 ぐるりと周りを見渡してみる。
    最初に目についたのが机の上の紙だった。何かのID番号の様だ。私にはそれが何かは分からなかったが、その番号をスマホのカメラで撮影した。

 彼の事は全て知る必要があるわ。無駄な物なんて無いの。

    その思いから、私は部屋の至る所をスマホのカメラにおさめた。いつかきっと役に立つ日が来る。彼の趣味、癖、好みを知る上で重要な資料として。

 次にクローゼットに手を伸ばす。
    大好きな人のクローゼット。

    こ、ここに瑠二君の服や下着が入っているのね……

 バクバク動く胸を、左手で抑えながら、ゆっくりと扉を開くと、中には綺麗に整理された衣服と、個別に分けられた男性用の下着があった。

 好きな人の下着が目の前にあります。あなたならどうしますか?    私は我慢できません。皆さんもそうでしょ?

 私はスルスルと服を脱ぎ、瑠二君の部屋の中で全裸になった。
    そしてパンツを1枚取り出しそれを履き──、
    次にTシャツを取り出しそれを着る。

 私は今、全身を瑠二君に包まれている。まるで彼に抱きしめられて居るようだわ。もっと、もっとキツく私を抱きしめてぇ!!

 更に私はもう1枚パンツを取り出すと、両手で顔に押し付けその匂いを嗅いでみた。

 あぁ……瑠二君……

 自分が今変な事をしているという気持ちは全く無い。だって私は未来の彼女。

    彼女なら当然よね?     違うかしら?

 私はその姿のまま今度はゴミ箱に向かう。彼の私生活を知る上で、ゴミ箱を探るのは必要不可欠だからだ。

 百均で買ったような、小さく白いゴミ箱。私はその中をガサガサと漁る。中からは、菓子パンの包み紙やら、お菓子の包装紙が出てきた。

 栄養バランスが悪そうね。私がしっかり管理してあげなきゃだわ。

 そして更に奥から出てきたのが、丸められたティッシュ……

 こ、このティッシュは何かしら……

 私はカチカチになったティッシュをゴミ箱から取り出し、匂いを嗅いでみる。

 すると、鼻をつんざく野性的な匂いがした。予想通り、これは瑠二君の精子の匂いだ。瑠二君は毎晩1人で性処理をしているのだろうか?

 これから私が彼女になるのだから、もうこんな事しなくてもいいのよ?    一体何を見てやっているのかしら?     罰としてこれは没収ね。

 私はティッシュを持ってきた自分のバックにしまい込んだ。

 これでよしっと。あ、私ったらつい夢中になっちゃって、お掃除全然してないわ!    もう、本当に私ってばドジッ!    早く掃除しないと、瑠二君が帰ってきちゃうわ。

 私は頭の中で掃除の段取りを組み立てる。

 トイレにベッド。あっ、お風呂場もいいわね。等と幸せな妄想を膨らませていたその時──、


 ピンポーン。


 突然鳴り響く家のチャイムに、私の全身は嫌な汗に包まれた。

 えっ!?    そんな、まさかもう帰って来ちゃったの!?    いえ、そんな筈はないわ。第一、瑠二君がチャイムを鳴らす筈が無いじゃない。そうよ、大丈夫。きっと何かの勧誘に違いないわ!    居ないと分かれば直ぐに居なくなるはずよ……

 それでもどうしても気になり、足音を立てぬように玄関に向かった。
    そして息を殺しドアスコープから外を覗き込む。するとそこには、若い女の子が立っていた。肩まで伸ばした髪にクリクリの目と、なかなかの可愛さを持っている。

 誰……この子……まさか……

 私が困惑していると、その女の子がバックから鍵を取り出し、中を開けようとしてくるではないか!

 や、やばいッッ!    何この子!?    なんで合鍵持ってるの!?

 私は音を立てぬよう急いで部屋の中に戻り、脱いだ自分の服とバックを拾い上げ、咄嗟にクローゼットの中に身を潜めた!     
    本当は直ぐにでも窓から逃げ出したかったのだが、今の私の服装から言ってそれは出来ない。それ以前に圧倒的に時間が足りなかった。

 私がクローゼットの扉を閉めると同時に、玄関から繋がる部屋のドアが開かれた。
    間一髪身を潜めることが出来たようだ。

 こっちに気づかないでくれと願いながら、クローゼットの僅かな隙間から部屋を覗く。
    女の子は部屋に入ってくると、慣れた様にテレビの電源をつけ、買ってきたお茶とお菓子を食べながらくつろぎだした。その間私の心臓は激しく動く事を止めることは無かった。『心臓の音が外に聞こえていなか』そんな心配さえしてしまう。

 何、なんなのこの女ぁ!    一体瑠二君のなんだって言うのよ!?    合鍵を持ってるって……許せない……許せないわ……私でさえまだ貰ってないっていうのに!

 私はコッソリと携帯を取り出し、アプリの無音カメラで、その女の子を撮りまくった。


    ──決してその顔を忘れないように──


    ■■■■


 謎の女の子は、テレビを観ながらゲラゲラ笑ってもう2時間も過ごしていた。

 早く帰りなさいよ!    ま、まさかこのまま瑠二君の帰りを待つつもり!?    もしそんな事になったら──、

 暗いクローゼットの中で息を潜め、身動きも取れないため、体が悲鳴をあげ始めた。このままではいつか足を伸ばしてしまうだろう。
    そろそろ限界と思い始めたその時、女の子がようやくテレビの電源を切り、荷物を纏め静かに部屋から出て行った。

 私は安堵の息を吐き、軋む体を伸ばしながらやっとの事でクローゼットから脱出した。

    取り敢えずは大分時間が経っていた為、瑠二君の部屋から出る事にした。

    部屋に忍び込む時より出る時の方がドキドキするものだ。出る所を誰かに見られたら、瑠二君と鉢合わせしてしまったらなんて言おうか……と。

 そんな考えが憂きに終わり、無事に窓から脱出し、私は瑠二君の家を後にする。  
     最後にもう一つ分かったことがあった。
    彼の苗字だ。
    表札に書いてあった苗字、それは『子峠ことおげ

 瑠二君の名前は、『子峠  瑠二ことおげるに


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