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第二章【闇の中の光】
アルミニウムグレイ
しおりを挟む──────と、楽しい思い出話を話していた筈のトトリティが、突然苦しそうに頭を抱えた。
「ラフル……!? 一番大きな町…………なに……この記憶…………」
咄嗟に隣に居たノイがトトリティの肩を支え、ゆっくりとその場に座らせると、立ち止まり心配そうに見守っていたグリード達にこう告げた────
「すまないけど、グリード達は先に行っててくれないかな?」
「えっ?先にって、こんな所に二人だけ残して行くなんて出来ないだろ……」
現状、パーティを二つに分けるのはリスクが高いこと位承知のはずだ。しかしノイはそれでも意見を押し通した。
「大丈夫、落ち着いたらすぐに後を追うから。それに、私達には時間が限られている事を忘れてはいけないよ。この先どんなトラブルがあるか分からないのだから、進める時は進むべきだよ」
「それは……そうかもしれないけど……」
「大丈夫。トトリティはとても優秀な子だから、たとえなにかあったとしてもある程度の事なら対応出来るから。だから、私達のことは気にせず先に進んでくれないかな」
どうしても先に行く決断を下せないグリードに対し、徳は先に進む意志を示した。
「──────行こう。俺達にはゼルプストの未来がかかっている事を忘れちゃいけない。もしハーベストムーンに間に合わなければ、ゼルプスト諸共皆滅んでしまうんだから」
その言葉にグリードはムッとした。
正論かもしれないが、それとこれとは別である。仲間を見捨てるような言葉を軽々しく口にする徳に嫌悪感を抱いた。がしかし、パティークの意見も徳を支持するものだった。
「グリード、行くぞ。ノイ達は必ず後から来ると言っている。それを信じるのが仲間というものだろう? 違うか?」
「……………………ちぇっ、わかったよ。俺っちはノイを信じる。────でも必ず追いついて来いよな」
ノイはそんなグリードに対してそっと微笑んだ。そして、なんだかんだ色んな事に気を配り、ここまで皆を引っ張ってきてくれたグリードを「ありがとう」という言葉を添えて見送った。
────こうしてパーティは二つに別れた。
一つは徳、グリード、パティークの先を急ぐグループ。そしてもう一つは、トトリティの体調不良を待って後から追いかけるグループ。
それぞれがそれぞれの思いを抱えながら行動している事に、気付いている者は少ない────
ノイ達と別れ、暫くしたグリードグループ。このグループは、その後何度も野生の八百百足に襲われ走りっぱなしだった。
「退却っ! 退却だ!!」
「また退却っ!?」
「うるせ! 俺っちは戦うのが苦手なんだよ!」
逃げながら徳とグリードは口論を繰り広げていた。ノイを置いて来た事が、ここまできて尚、尾を引いているのかも知れない────
「逃げてばかりじゃまた追いかけられるぞ!」
「うるせえって! じゃあお前が戦うんだな! 俺っち達は物じゃない! 傷つけば痛いし、死ぬのは怖い! だから戦うのは嫌なんだ! わかったか!」
ギクシャクし雰囲気の悪い三人だったが、今回もなんとか八百百足の追尾を振り切り、ようやく一息つくことが出来た。
────しかし、一息つけた事で遂にグリードの怒りが爆発した。
「ああもうっ! こう、うじゃうじゃ出てくると面倒臭いな……こんなんでアイツら大丈夫か!? 本当に追いつけるのかよ……くっそ! なんで置いてきちまったんだよッ!!
だから待って一緒に行けば良かったんだ!
今頃なにかに襲われてたらどうするよ!? もしそうなってたらどう責任取るんだよ!!」
グリードは荒々しく徳に言葉をぶつけた。どうやらこの二人は反りが合わないようだ。
「…………っそれは」
「その事については私が説明しよう」
徳におんぶされていたパティークが、真っ直ぐにグリードを見ながら口を開いた。
「説明?」
「そうだ。こうなる事は想定済みだったんだ」
「どういう事だよ……」
「ノイは最初からトトリティと二人きりになるのが目的だったのだ」
─────!?
「トトリティのことは信用するな。と言ったのを覚えているか? あの言葉にはちゃんとした理由があるんだ」
「理由が……?」
「そうだ。トトリティ。やつは煌闇のカラクターだ」
「────ッ!! そんなバカなっ!? あんなにノイと親しげにしてたんだぞ? 信じられるか! だいたい証拠はあるのか、証拠はよぉ!」
「────残念ながら証拠は無い。だが確証はある。
トトリティの持つストーン、【アルミニウムグレイ】の特性を知っているか? アルミニウムグレイの特性、それは【明るさ】だ。グリード、君は今のマスター燕に明るさはあると思うか? 逃げるように隠れているマスター燕が、明るいと思うのか? 私はそうは思わない。
─────という事は、そのストーンを持つトトリティはどうなる? 極端に煌度を下げるか識煌変化を起こすかの二つに一つだろう。あの見た目から察するに、後者である可能性が高いのだ」
「んな─────ッ、だったら、だったら今すぐに助けに行かないと!! ノイとトトリティをあんな所で二人きりにするなんて、やっぱり間違ってたんだ!」
「二人きりになる事をノイが望んだのだ。知っての通り、ノイとトトリティは昔馴染みの友達だ。だからトトリティが煌闇のカラクターになった事にもすぐに気づいた。そして答えを出すのも早かった。
このままラフルに置いて行けば、きっとラフルにとって、もしくはトトリティにとって良くない事が起こる。そう考えトトリティを連れ出した。そして、なにかが起こる前に決着をつけようと決心した。そう、自分の手でトトリティを止めるという決断をだ」
「ちょっと待て、ノイは今、能力を使えないんだぞ!? 俺っち達が加勢した方がいいに決まって─────」
「ダメだ。ノイは私達がトトリティに攻撃する事を良しとすると思うか? お前は躊躇なくトトリティを攻撃する事が出来るのか?
恐らく足でまといにしかならないだろうな」
「だからって────っ」
「これがノイの望みなのだ。危険は承知のはず。最悪、私達をトトリティから遠ざけただけでも成功と言える。どうかその覚悟に免じて理解してはくれないか。そして私達はその気持ちに応えるためにも進まなければならない」
「──────、くっそ…………」
グリードはいたたまれない気持ちになり、近くの木を蹴飛ばした。
本当は今すぐに戻って助けてやりたい。だがそんな話をされては進むしかないだろう。
グリードは「行くぞ」と小さく零し再び先陣を切って歩き出した─────
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