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第二章【闇の中の光】
二律背反
しおりを挟む相変わらず外は真っ暗だが、一応朝食と称した食事を済ませると、四人はトトリティに連れられ村一番の家に案内された。
ここはこの村の代表であるヒャホの住む家。
四人が家に入ると、既に三人が席に着いて居た。
その三人に向かい合うように四人は座り、空いた一席にトトリティが座る。
テーブルの真ん中に置かれた花瓶には花が活けられており、全員にそれぞれお茶が配られた。
「やあノイ、久しぶりやな。大変だったんやろ?」
「まぁね。でも本当に大変なのはここからなのかも知れないね」
ヒャホは言わずと知れたブライテスト・ストーン。その両脇を固めるのは武闘派で煌度16のリンクと、頭脳明晰で煌度15のミミ。
なるほど、ここはそう簡単には落とせないわけである。
初めて会う者もいる中、それぞれが簡単に挨拶を済ませると、ノイが早々に話を切り出した。
「早速だけどヒャホ、私達がここに来たのはラフルの現状を知りたかったのと、燕を探す手がかりを求めて来たわけなんだ。現状は無事でなによりって事だけど、燕を探す手がかりが今のところ何一つ無くてね。どんなに小さな事でもいい、何か情報があれば教えて欲しいのだけど」
自分よりも数段大人びたヒャホ相手に、実に堂々とした物言いである。
基本的にカラクターには上下関係は存在しないと言えども、普通なら多少なり、かしこまってもおかしくない。この辺は流石のノイと言えるだろう。
そんなノイに対し、ヒャホは軽いノリで質問に答えた。
「ある」
「え?」
「情報ならある。いや~、実は私も待っとったんよ、あんたらみたいな子達が来るんを────」
こうもあっさり言われると拍子抜けである。問題はその情報とやらがどの程度の物なのか─────
「私もな、自分で確かめたい気持ちはあったんやけど、なにせこの村を守る役目があるからな~。この村は小さい子が多いさかい、動こうにも動かれへんねん」
そう言いながらヒャホは座ったまま、おもむろに上着を脱ぎ出した。
それを見ていた徳は咄嗟に目を背け、動揺を隠しきれない様子で「いや、ちょっと」と言葉を発した。
「あははは、徳にはこの姿は刺激的なんかな? ほな、ちょっとだけ外に出ててもろでええか?」
そう言われると徳は助かったとばかりに、逃げるように家から出て行った為、残った三人でヒャホの話の続きを聞くことになった。
結局ヒャホは上着を全て脱ぎ、上半身裸の状態になってしまった。
「脱いだのはこれを見て欲しかったからなんや」
そう言ってヒャホは三人に背中を向けた。
その背中には痣のようなものが広がっており、見ようによっては火傷の跡に見えなくも無い。
「それは……傷……?」
「いや違う、私は病気でもなければ怪我もしていない。これはただの模様の様な物や。あの事件の数日後、突然浮かび上がってきたんや。ほな、もうちょっと近くで見てみいや?」
言われるがままにその模様を近くで見ようと集まった三人は、その模様の意味する事に直ぐに気がついた。
「んな? 不思議やろ? これ、地図になっとるんや。ゼルプスト全域を表す地図」
「確かに……これはゼルプストの全体図に似ている…………」
「ほんで、肝心なのはここからや。見て欲しいのは、ちょうど肩甲骨の辺り、そこだけ不自然に真っ白やねん」
「ほんとだ。他は色の強弱で陰影が付けられているけど、ここだけ本当に何も色付けされていない…………」
一通り背中の地図に目を通したのを確認すると、ヒャホは上着を羽織り再び話し始めた。
「これは私の考えなんやけど、ここにマスターが居るんとちゃうか?」
「なぜそう思うの?」
「勘や。因みにノイは私のカラクトカラーが何色か知っとるよね?」
「確か──、【海松色】だよね」
「せや。ほんでもって海松色の特性は【二律背反】や。つまり、どちらかを立てればどちらかが立たないという意味がある。これをマスターに当てはめれば、世界を救うには世界を壊すしかない、みたいな事やな。実は世の中にはそういう事は少なくない。私の煌度が高いのも、まあ納得やな。
────で、何が言いたいかと言うとやな。大前提として、マスターは本当は見つけて欲しいっちゃうことや。多分、私の背中以外にもこの世界の至る所でこういうヒントみたいな物が生まれてるはずなんや」
その言葉にノイは真っ先に燕の作文を思い出した。
「見つけて欲しいけど、見つかるのが怖い。だから隠れてるけど、ヒントを出してるっちゅう訳や。まぁ、一から百まで推論やけどな」
「────いや、その推論はかなり信ぴょう性が高いよ。私にも心当たりがあるからね。その場所に行ってみる価値はあるよ。このまま何もしないのは色んな意味で危険すぎるしね。私達は次はそこに向かおうと思う」
「そうか! ほんなら君達にこの場所に行ってもらおうやないか。私もずっと気になっとったんや! もちろん、バックアップはさせてもらうで。必要なものがあれば、村からなんでも持ってってくれて構わへん」
「ありがとうヒャホ、じゃあ─────、トトリティを借りていくけど、いいよね?」
「─────! あはははっどうぞどうぞ。まさかカラクターを持っていくとはな。まあ本人次第やけど、ええんちゃう?」
「すまない、ただでさえ煌闇の危険にさらされている中、貴重な戦力を連れ出すような事をいってしまって」
「ええよええよ。君らかてその戦力じゃ厳しいやろ、当然の選択やろね。それにトトリティとは昔馴染みなんやって? 人選としてはこれ以上は無いやろ。
────という訳やけど、トトリティはどうなんや? ノイ達と一緒に行ってくれるか?」
話を振られたトトリティは即答で「行く!」と答えた。
それは、幼なじみとも言えるノイと久しぶりに旅に出る事はトトリティにとって喜び以外にない、と言わんばかりの表情だった。
「では話は纏まったな。因みにこの地図から推測するに、十中八九マスターの居る場所は【月影神殿】やな」
「月影神殿!?」
「そや。記された場所も近いし、マスターの目撃情報も無い。隠れるにはもってこいの場所っちゅうことや」
「でも、どうやって中に…………? 月影神殿が開かれるのは『ワームムーン』『ストロベリームーン』『ハーベストムーン』『コールドムーン』の年四回だけな筈…………」
「その通りや。けどな、マスターなら中に入れても何らおかしくない」
「────、確かに……」
ノイは難しい顔をして考え込んだ。年に四回しか入れない場所に燕が居るとは思いもしなかった。
一度のチャンスを逃せば、次に巡ってくるのは四ヶ月後────
「それで、次に月影神殿にはいれるのはいつなの?」
「明日や」
「───ッ明日ぁ!?」
「明日、九月の満月『ハーベストムーン』がやってくる。チャンスはその一度きりや」
まさに急展開である。
有力な情報を手に入れたと思いきや、その期限が明日に迫っていようとは────
「そんなすぐに迫ってるのに、のんびりしてたものだね?」
「ここから月影神殿は結構近い。歩いても一日で十分に辿り着ける距離や。それに、可能性があるっちゅうだけで100パーセントでは無い。子供達を危険に晒してまで行くには勇気が必要や。だからノイ、あんた達には感謝しとる。これは運命や。ほんま、おおきに」
そう言ってヒャホは深く頭を下げた。
その現役ブライテストにしては異例の行動に、三人はとても驚いた。
「よし、じゃあなるべく早い方がいいよね。外に居る徳に事情を説明して、すぐにでも出発しよう」
ノイ達は立ち上がり、ヒャホ達にお礼を言って外に出た。
外で暇そうに立っていた徳に「すぐに出発する」というと、徳は理由も聞かずに頷いた。
ヒャホ達に見送られ、五人になったパーティ一行は【月影神殿】を目指す事になる─────
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