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第二章【闇の中の光】

信じるな

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    「────────起きろ。徳、グリード。そろそろ起きるんだ」

    ほんのり光る薄緑色の光に照らされ、徳とグリードは目を覚ました。
    目を開けるとパティークが二人を一生懸命揺すっているのが見えた。
    幼女に起こしてもらうのも中々悪くない────

    「徳、なんだその目は?」
    「いや……随分と可愛いなって」
    「馬鹿にしてるのか?    言っておくが、私だって好きでこんなに縮んだんじゃないからな」
    「分かってるって、ごめんね」

    グリードがまだ眠たそうに目を擦る横では凛々しい顔つきのノイが立って支度をしていた。

    「二人とも起きた?    分かっていると思うけど、これからラフルの皆んなと会議があるよ。しっかり目を覚ましておいてね────と、その前に、二人に話しておくことがあるんだ。これは私とパティークとで話し合って決めた事だよ」
    「なんだよ改まって。ラフルがラフルじゃないのを隠す理由か?」

     グリードは欠伸あくびをし、大きく背伸びをする。そして腑抜けた顔から一気に真面目な顔に変えると、ノイの方を向いて座り直した。

    「それもあるね。話は全部で二つ。まずはラフルの事。これは秘密にしておいた方がいいと思うんだ。悪戯にこの村の人達を不安にさせることは無いよ。彼等は今のままで上手く回っているからね。
    それにこれは燕の印象にも大きく関わる事だしね」
    「ノイ、それってどういう事なの?」

    「トトリティは現在の状況の成り行きを噂で聞いていると言っていたね。つまり、あの日の事を知っていると言うことだよ。そしてそれはラフルの住民は皆知っている可能性が高い。
    ──あの日の事を一言で言うなら『マスターが暴走して世界を壊した』だろうね。世界を壊しただけじゃなく、自分達の町、或いは記憶までも滅茶苦茶にした、となればどう思うかな?
    少なくとも良い印象は受けないと思う。この先必ず彼等の力が必要になる時が来る────、その時、燕に対する印象が悪かったら果たして彼等は協力してくれるのだろうか?」
    「そ、それは…………だけど、いずれ漏れる話じゃ───」

    「そうだね。だけどその可能性を下げる価値はあるよ。簡単なのはラフルの皆に、ここに留まってもらう事だね。幸いラフルにはヒャホが居て、村の規模としても小さい部類に入る。これはとても重要で幸運な事だよ」

    「それが重要?」
    「煌闇のカラクターにとって、ラフルは攻めるに値しない村だと言う事さ。つまり、ここはもう攻められる事はほぼ無いよ」

    「なんで言いきれるの……?」
    「マスターが世界に影響を与えるインフルエンサーなのに対し、カラクターもまた、マスターに影響を与える相互関係にあるからだよ。つまり、カラクターが死ねばマスターの心にも穴が空くという事────
    煌闇のカラクター達は今の状況を崩したくない訳だから、強力な力を持つヒャホが居て、尚且つ人口の少ないこの村はまさにハイリスク&ローリターンな村だと言えるよね。
    そんな所にあのココラージュが大切な駒を割くと思うかい?」

    ノイの説明に一同は「なるほど」と頷いた。

 「そういう事で、ラフルに異変が起きている事は伏せる、という方向で話を合わせて欲しいんだ」
    「わかった」

    「そしてもう一つ──────、」

    次の話をする前に、ノイは少し顔を曇らせ、僅かに顔を背けた。自分の意見は割とハッキリと通すノイにしては珍しい仕草だった。

    「もう一つ言いたいことは……トトリティの事は、信じるな、だよ」
    「─────ッ!?    なんでだよ!?   こうして、やっと出逢えた仲間だって言うのに、「信じるな」だなんてどういう事だよ!    だいたい、ノイはトトリティとは古くからの仲じゃなかったのかよッ!?」
    「よく知っているからこそ…………友達だからこそそう言っているんだよ」
    「だからなんで!?    理由を言え、理由を!」

   そうグリードに詰められたノイは、ゆっくりとベットに腰を下ろし、誰とも目を合わせないように俯きながら重い口を開いた。

    「グリード、君は気づかないのか?   この違和感に───」
    「違和感……だと……?」
    「そうだよ。私はトトリティと会ったその瞬間から、ずっと不思議に思っていたんだけどね────」
    「なにを…………」
    「トトリティ、彼女は…………」

    これから何か重要な話が始まろうとしたその時、タイミング悪く部屋にトトリティがやって来た。

    「あー、もう起きてたんだね!   そろそろ起こそうかなって思ってたんだ!」

    ノイはあまりの咄嗟の出来事に、まるで隠れて人の悪口を言っていたのが見つかってしまったかのような、白々しい態度でトトリティに対応した。

    「あ……あははは、ぐっすり眠りすぎて、逆に早く目が覚めてしまってね。部屋を貸してくれてありがとう」
    「ご飯も食べていくでしょ?    みんなの分もあるから、早速リビングにレッツゴー!」

    まるで仲の良い姉妹の様に、トトリティはノイの手を引きリビングに連れ出した。
    リビングまでの僅かな距離で質問攻めをしているトトリティは、久しぶりの再会を果たしたノイにベッタリの様子であった。
    その為、その姿を見たグリードと徳には尚更先程の話の続きが気になった。

    リビングの大きなテーブルには、暖かいスープと、目玉焼きに蒸した芋が添えられているお皿が並んでおり、立ち上る湯気が食欲を掻き立てられた。

    「私が作ったんだよ!    あんまり得意じゃないんだけど、ノイが来たから久しぶりに張り切ってみたの!」

    満面の笑みでノイに話しかけるトトリティを見る限り、嘘をつくような子には到底見えない。

    食事中も、トトリティが芋にバターでは無くジャムを塗って美味しそうに食べているのを、ノイが呆れたように注意するなどその関係性も良好に見える────

    『トトリティの事は信じるな』

    その言葉の意味を理解するには、グリードも徳もまだまだ彼女の事を知らな過ぎる、という事なのだろうか────

    
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