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第二章【闇の中の光】

噛み合わない話

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    ノイが扉をノックする。

    一回、二回…………

    返事は無い。すぐ後ろで待機する三人も、いったい誰が出てくるのかとドキドキしていた。

     ノイが三回目のノックをした時、パッと家の明かりが灯ったのを見て、一気に緊張が走る────

    ちゃんと誰かが住んでいた。問題はそれが誰なのか────

    ガチャりとゆっくり家のドアが少しだけ開いたと思ったら、そのままドアは勢いよく全開まで開かれた。

    「ノイ!    ノイじゃない!    うわぁ久しぶり!」

    飛び出してきたのは、魔女の様な三角帽子に、ゆったりとしたローブ姿の女の子。歳は12、3歳といったところか。

    「トトリティか!    無事でよかった!    心配してたんだよ」
    「煌闇に一回攻められたけど、ヒャホが蹴散らしてくれたんだよ。ヒャホが居る限り、このラフルは安泰だよ!」
    「─────ッ!?   今、なんて言ったの!?」
    「だから、ヒャホが居る限りラフルは心配無いって─────」
    「ここはラフルなの!?」
    「そう、だけど?」
    「ここがラフル……!」
    「だからそうだって。逆にどこだと思ったか知りたいよ」
     「なんて事だ…………」

    噛み合わないテンションにトトリティは目を点にした。驚くべき点が見当たらず、ノイがなぜ驚いているのかを理解する事が出来なかった。

    そんな中、二人が騒がしくしたせいか今度は家の奥から二歳児程の小さな女の子が枕を片手にやって来た。足でシーツを引きずり、ヨタヨタと椅子にぶつかりながら歩く姿はとても眠たそうだ。
    
    「あ、ごめん、、、起こしてしまった?   うるさかったよね」
    「ううん、大丈夫さー。というか誰かと思えばノイさねー。会うの久しぶりさねー」
    「────?    …………ウルマ……!?    こんなに小さくなってしまってたの……?    でも、なかなか可愛いじゃない」
    「縮んでしもたさー。まぁ立ち話もなんだから、中に入りんさー。トトリティは本当気が利かんさねー。グリードもパティ子も…………お?」

    ウルマが徳と目を合わせた瞬間、動きが止まった為、それを察した徳は自ら名乗り出た。

    「は、はじめまして、犬飼徳といいます」
    「そーかそーかー。徳も入りんさー」

    よちよち歩きのウルマに案内され、四人は家に足を踏み入れた。
    リビングに通された四人は、テーブルを囲って椅子に腰掛けた。

    「ここでゆっくり話をするといいさー。私も話をしたいけど、この体じゃ寝ないとキツから、もう一眠りさせてもらうさー」

     二歳児とは思えない程しっかりした喋りだが、どうやら体は眠気に勝てないようで、ウルマは自分のベットのある部屋までよちよち歩きで帰って行った。

    「信じられない程しっかりした赤ちゃんだね……」
    「ああ見えて以前ウルマの煌度は16だったからね。今の姿の方が信じられないよ」
     
    見送るノイは少しだけ寂しそうな顔をした。
    なにもかもがつい最近までとは別世界だった。
    別世界といえば、ノイには早急に確認しなければならない事があった。

    「────、ねえトトリティ。この村がラフルと言うのは本当の事なの?」
    「だから、ここはラフルだってさっきも言ったでしょ?    嘘をついてどうするのよ?    それにノイ達だってここがラフルだって知ってるでしょ?   見たまんまだよ」

    トトリティが冗談を言っているようには見えなかった。だとすれば、何者かにそう思い込まされているか、あるいは幻覚を見せられているのか────

    「ああ、見たままだよ。じゃあはっきり言うね。ここは私の知っているラフルではないよ」
    「────?」
    「理由は簡単。ゼルプストで一番大きな町、それが私達の知るラフルだからだよ」
    「何言ってるのノイ。ゼルプストで一番大きな町は【ララパーク】でしょ?」
    「────っなんだって!?」
    「だからー、ゼルプストで一番大きな町はララパークだって。なんか今日のノイめんどくさい……」

    めちゃくちゃだ。人も、景色も、町も、なにもかもが────

    話も全く噛み合わない。
    いや、噛み合わないなんて言葉じゃ足りない。それ以上に異常な会話。まるで、本当にそれぞれが別々の世界の話をしているかのようである。

   「────っ別の世界…………だって…………?    そんな……まさかね」
    「どうしたの?」
    「あ、いや、なんでもないよ。ちょっと長旅で疲れていたみたいだ。さっきの話は忘れてよ」

    その咄嗟の対応に、グリードが「それでいいのか」と言いそうになったのをノイが制し、  「任せてくれ」とアイコンタクトを送るとグリードは大人しくそれに従った。こういうことに関してはノイに任せるのがいい、という事をグリードは知っていた。

    トトリティがお茶を飲みながら不思議そうにしているので、ノイは話を変えるように違う話題を切り出した。

    「今のゼルプストの情勢は知ってる?」
    「噂程度だけどね。だけど実際煌闇のカラクター達が攻めてきたし、煌度も落ちて外はずっと夜。信ぴょう性は高いよね」
    「そっか。で、さっきも話に出たんだけど、ヒャホはまだ力を保っているの?」
    「ヒャホはブライテストを保ったままだよ」
    「──そうか!   ヒャホはブライテストか!    なら安心だよ。だったら下手に動くよりここに留るのも一つの手だね」

    これまでブライテスト・ストーンを手にしたカラクターは全部で8人。その中の一人がヒャホだった。
    今ではどれ程の数のカラクターがブライテスト・ストーンを持っているのかは不明だが、そう簡単に手に入れる事が出来ないのがブライテスト・ストーン。たとえ燕の心が闇に染まろうとも、だ。
    それは歴史が証明している───

    ブライテスト・ストーンとは、それ程までに圧倒的な力を持った存在なのである。
   
    「そっか……安心したらなんだか急に眠くなってきたよ。すまないトトリティ。私達は長旅で疲れているから、ここで少し休ませて貰えないかな?」
    「もちろんだよ!    奥にベットがあるからそれを使うといいよ。沢山寝て元気になったらまた話をしよう。起きる頃に私が村のみんなを集めておくよ。何か用があってきたんでしょ?」
    「ああ、そうしてくれると助かるよ」

    そのまま四人は奥の部屋に通され、大きめのベットに仲良く寝転がった。
    そして久しぶりのフカフカの感触に包まれると、ものの数秒で眠りに落ちていった。

   長かった旅の中で、ようやく一息つける時間がやって来た。
    問題や考え事は山ほどあるが、今だけは何もせずに睡眠を貪ることにしよう───────
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