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第二章【闇の中の光】

唯一無二のスイーツ

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   ■■■■■■■■

    「なあプル、俺っち達ってなんの為に生きてるんだろうなぁ?」
    「なんの為にって、生きているならそれでいいよー」
    「でもさー、時々分かんなくなるんだ。俺っちが生きてて何になるんだろうってさ─────」

    並んで歩くのはプルとグリード。
    この二人は何気ない話をしながら森を抜け、自分たちの住む町に帰る途中であった。

     木陰で大の字になって寝そべるリーチアリスと、その腕を引っ張り起き上がらせようとしているオプティと出会ったのは、ちょうど町まで中間地点に差し掛かったところだった。

    「オプティ、珍しいな。こんなところでどうかしたのか?」
    「ああグリードか……聞いてくれ。アリスが疲れたと言ってここを動こうとしないんだ……早く先に進みたいのに、これじゃあ日が暮れてしまう。アリス、いい加減にして」

    強引に腕を引くも、リーチアリスはマネキンのようにぐったりとして、起き上がる気が全く感じられなかった。

    「だってー、疲れたしー。アリスはもう歩きたくないよー」

    まるで子供だが、この時のリーチアリスはこの中で誰よりも煌度が高かった。

    「────と、まぁ。ずっとこんな感じなんだ。あとは私がなんとかするから、グリード達はこんなのに構わなくていいよ。先を急ぐのだろう?」
    「いや急いでるわけじゃないから。オプティも大変だな。────そうだな。こういう奴には、こういう物が役に立つ」

    グリードは下げていた手持ちのバックから、手のひらサイズの包み紙を取り出した。

    「ほらよアリス。これでも食って元気出せよ」

    包み紙を向けられたリーチアリスの鼻がヒクヒクと動いた。
    
    「ん…………むむむむむ…………なに……?この魔性の匂いは……?」
    「まあ、開けてみろよ」

    言われるがままにリーチアリスが包む紙を開くと、中から黒い石のような物が出てきた。リーチアリスはそれを摘んでマジマジと見た。

    「……………………炭?」
    「いや違う。それは『フォンダンショコラ』と言ってな、最近俺っちが作った自信作だ。このゼルプストで今最も美味いスイーツだ」
    「ふーん。これ、本当に食べられるの?」
     「おうよ。食ってみろ!」

    半信半疑のリーチアリスがそれにかぶりついたその瞬間────
    見た目とは違った柔らかい食感、そして上品な甘さと程よい苦さ。それと同時に口の中に流れ込んでくる、ねっとりとした魅惑のソースが舌に絡みついてきた。

    「なんだ…………これは…………!?     これはなんだと聞いている───っ!!」
    「いやだからフォンダンショコラだって」
     「フォンダン……ショコラ…………これをお前が作ったのか!?    お前が作ったのかと聞いている─────ッ!!」
    「だからそう言って……ってか、お前って。グリードだ。流石に知ってるだろ?」

    グリードの言葉を聞いてるのか聞いていないのか、リーチアリスは目を輝かせ、すぐに二口目を頬張った。

    「んまーい!    お前、凄いのね!    こんな物を作れるなんて!」
    「別に俺っちが凄いわけじゃ無い。そういう特性なだけだ。マスターが外の世界で経験した事が、俺っちのスキルになる。ただ、それだけだ」

    目を伏せたグリードの肩を急にリーチアリスが掴んだ。小さな手からは想像もつかない程、力強く。

    「──ってぇ!    痛いって!   離せ、もう無いから!    それで最後なの!」
    「──────違う。そうじゃない────」
    「え?」
    「そうじゃない!    お前は凄い。確かにそのスキルはマスターのお陰かもしれないわ。けどね、これを実際に作って、私を喜ばせたのは他でもない、お前自身なのよ!     私はとても感動したし、幸せな気持ちになれたわ!
     お前の作るスイーツは人々を幸せにする力を持っている。この世界を平和にする力を持っている!    それは紛れもなく、お前の力よ。誇っていいわ」
    「俺っちの……力……?」
    「そうよ。お前は──、凄い。この世界では誰もが唯一無二の存在よ。自分の事を過小評価しないで」
    「お……おう…………」

    リーチアリスはグリードの肩から手を離すと、立ち上がりおしりに付いた砂を払った。

    「ありがとう。おかげで元気が出たわ!   そうだ。何かお礼をしないとだわ。─────そうねぇ。私の食事担当として、うちの町に来ない?」
    「いやそれお礼なのか?    まぁ元気になったってんなら良かった。あんまりオプティを困らせるんじゃないぞ」
    「アリスの隣に置いてあげるって言ってるのに!」
    「へいへい。お礼はいいから。じゃあ俺っち達も帰らなきゃならないからこの辺でな。プル、行こう」

    グリードは待たせていたプルに声をかけ、オプティとリーチアリスに別れを告げた。

    「ねえ」
    「ん?   どうした?」
    「またね、グリード!」
    「おう、またな。アリス」

    これがグリードとリーチアリスが初めて交流した瞬間だった。
    グリードは今でもこの日の事を覚えている──────



    ■■■■■■■■





    燕捜索作戦を決行するため、家の前に集まったカラクター達。
    徳、ノイ、パティークはそれぞれ無事を祈り、皆にしばしの別れを告げた。

    「アリス、グリードは?」
    「知らない!    どうせ不貞腐れてるんだわ。ほっとけばいいのよ、あんなやつ」

    グリードは見送りには来なかった。
    
    「きっとバツが悪いんだよ。グリードは悪い奴じゃないのは分かってる。本当に心配しているからこそ、あの態度なんだ。アリスも責めないでやってくれな」
    「……………………わかってるわ」

    少し寂しい気もするが、グリードにはグリードの考えがあっての事。
    気にして出発を遅らせる訳にはいかない。徳達もまた、考え抜いての行動なのだ。一刻も早く燕を見つけ出す──

    「よし、皆、出発しよう!」

    手を振るカラクター達を背に、暗い夜道を歩き出した。
    夜といえど空には月が浮かび星が輝いており、目さえ慣れれば歩く分には思った程困らなかった。

    少し歩いた時だった。
    パティークが二人の動きを止めた。

    「待て、誰か居る────」
    「いきなりかよ……」

    暗闇の中の人影もこちらに気づいた様子を見せた為、徳達は逃げる準備に入った。
    この中に戦える者は居ない────

    元来た道を戻るのはまずい。
    ならば右か、左か────

    声を出さず意思疎通を図る徳達だったが、人影から光が零れたのを見て安堵した。

    カフェオレ色の光は暗闇の中でなら結構目立つものだ。
    明るすぎないが、強い光────

    「「グリード!!」」

    なんとグリードは先回りをして、皆のことを暗闇の中で待っていたのだ。

    「よ、よう」
    「グリード、こんな所でどうしたの?」
    「まぁ、なんだ。その、」
    「皆の前でお別れ言うの恥ずかしかったんだろ?  アレだけ反対してたからなぁ。気持ちは分かるけど、ここまですると逆に恥ずいぞ?」
   
    パティークの小馬鹿にする様な発言にグリードはムキになるも、すぐに話を戻した。

    「お前達だけじゃ、その……心配だからな…………それにアリスにもあんな顔させちまったしよ…………」
    「え?」
    「ついてってやる……」
    「「え?」」
    「ついて行ってやるって言ってるんだ!」

    明らかな戦力アップ。これ以上無いサプライズに三人は喜んだ。
    能力の使えるグリードは長い旅をする上ではかけがえのない存在なのは間違いない。

    「つー事で、行くぞ」
    「おいグリード顔が赤くなってるぞ?」
    「やめろパティーク、グリードが可哀想だ」

    頼もしい仲間が加わり、ノイもパティークも嬉しそうだ。

    「なあパティ子、もしかしてグリードってリーチアリスの事が好きなの?」
    「アリスは人気者だからな。好きだと思うぞ?   私も好きだ」
    「そうじゃなくて……その……恋してるっていうか……」
    「恋……?   それはないだろう。我々は兄弟みたいなものだし、何より性別という物自体存在していないのだ。そこに恋愛感情が芽生えるなんて、考えられんだろう」
    「えっ性別ないの!?」
    「なんだ徳、知らなかったのか?    なんなら今度見せてやろうか?」
    「な、何をだよっ!?」

    これから先の見えない旅に出るというのに、緊張感のない笑い声が闇夜に響き渡った。
    この先、この四人にはどんな冒険が待ち受けているのだろうか────
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