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第一章【光と闇・そして崩壊】
ゼルプストの記憶
しおりを挟む今から約17前。
突如ゼルプストは誕生した─────
初めは何も無い、ただの平面が続いているだけの世界だった。
数日か過ぎると、天気という物が生まれた。雨が降ったり、お日様が地面を照らしたり、風が吹いたり────
そうこうしていると、やがて草木が育ち、可愛い花々が大地に根付いた。
そんな中、ある一つの花から可愛らしい女の子が生まれた。
名前をヴィーアという。この世界で初めてのカラクターの誕生だった。
生まれたばかりのヴィーアはまだ赤子で、上手く喋ることはおろか、歩く事さえ出来なかった。
動物たちがそんなヴィーアの面倒をみてあげると、愛情を受けヴィーアはすくすくと成長していった。
次にブラティポという女の子が生まれると、ブラティポは動物達とお話をし始めた。それを見ていたヴィーアはブラティポとも直ぐに仲良くなった。
カラクター達は生まれたその瞬間から、ここがどういう場所で、自分たちが何者なのかを知っていて、外側の世界の様子も何となく感じるようにわかった。
外で起きている事が、この世の中に影響を及ぼす事が当たり前の世界だった。
ゼルプスト誕生から2年が過ぎた頃になると、カラクターの数もどんどん増え、3年経ったある日に今までとは違うタイプのカラクターが生まれた。
名前を『ネモシン』と言う。
彼女の持つストーンは他のカラクターとは違い、闇を放つストーンだった為、他のカラクターから珍しく見えた。
これが初めての煌闇のカラクターだった。
6年目のゼルプストでは、珍しかった煌闇のカラクターの数も増えていたが、彼女らはとても仲良く暮らしていた。
しかし外の影響か、煌光に比べて、煌闇のカラクターの煌度の伸び方が非常に悪かった。その為、次第に煌光と煌闇のカラクターの間に格差が生まれ始めた。
そして遂に、煌闇のカラクターは【悪】という外の風潮を受け、ゼルプスト内部では煌闇のカラクターを追い出そうという動きが高まって行く事になる。
─────が、ここで一人のカラクターが立ち上がった。
それが当時のコチトラである。
コチトラは、煌光のカラクターでありながら、排除されようとする煌闇側の肩を持ち、自分の立場も顧みずに勇敢に立ち向かった。
いささか子供の喧嘩程度の争いだったが、この時のコチトラの事は煌闇のカラクターの間でも長く語り継がれ、コチトラは当時の象徴とも呼べる存在となった。
そんなコチトラの活躍もあったが、外からの強い影響は、内部からではどうしても抑えられなかった。
いけない事、悪い感情、ダメな所を刷り込まれた燕の感性が、ゼルプストでの煌闇のカラクターの立場を更に悪くさせていった。
次第に煌光と煌闇は別々に暮らす様になり、煌闇のカラクターは外の世界同様に、表立って出てこないように暗い地下へと追いやられてしまった。
これが今のゼルプストの原型である────
それから月日が経ち、外の世界で燕が小学校に通うようになると、ゼルプストの世界も一変した。
外の刺激を一身に受けた燕の心は、これまでの変化とは比べ物にならない程揺れ動いた。
煌度の変化が目まぐるしく起こり、煌光、煌闇問わず特別に大きな力を持つ者が現れ、再び煌光と煌闇の間でいざこざが起きるようになっていた。
だがある時、煌光のカラクターが煌闇のカラクターへ、またはその逆へ変化を遂げるという事象があちこちで起きたのだ。
識煌変化である────
この事をきっかけにし、煌光と煌闇のカラクターは元々同じ種族だという認識を強めたカラクター達は、争うことをやめ、敵でもなく、味方でもなく、仲間でもない関係へと発展していった。
互いは居て当たり前、違うけど同じ。そんな存在になった。
それでもその力関係が変わる事は無く、煌闇のカラクターは目立たぬよう静かに地下都市で数年を過ごした。
長らく続いたこの状態が、いつまでも続くと諦めかけた煌闇のカラクター達だったが、燕が中学生になったある時大きな事件が起きた。
大好きだった父が事故で亡くなったのだ────
ゼルプスト生誕14年目────
ある日、この夏どうしても川でバーベキューがしたいと父におねだりをした燕。
父は可愛い娘の頼みとあって、大切な用事をキャンセルしてまで車を出し、燕達を川に連れて行ってくれる事になった。
燕は仲の良かった徳の家族も誘った。そして、出発の前日は明日の天気を気にしながら布団に入るも、楽しみのあまり眠れぬ夜を過ごした────
翌日、徳の家族と共に隣の県の川岸までバーベキューをしにやって来た燕達。
テントを張り、皆でご飯を作る。
外で食べるご飯は格別だった。
バーベキューの合間に、浅い川辺で水遊びをしていた燕だったが、全日まで降っていた雨の影響を受け、突如予期せぬ鉄砲水が起きた。
一人離れ川で遊んでいた燕は、運悪くそれに飲み込まれた。まさに一瞬だった。
流れは早くそれに乗って流れてくる漂流物もまた、燕を危険に晒した。
振り回していた手が奇跡的に対岸の木を掴み、必死でしがみついていたが、そう長くは持ちそうも無い。
そこで事態を察した父達が、燕の元へ駆けつけた。
父はなんの迷いもなく、荒れ狂う濁流の中にその身を投じた。
しかしそれが仇になった。
父は激しい流れと漂流物に体を当てられ気を失ったかのように流れに飲まれ、浮いては沈んでを繰り返しながらどんどんと川下の方へと流されて行った。
助けようにも燕とて安全では無い。
捕まっていた木は大きくしなり、燕の体を支えていられるのも時間の問題だった。それに何より燕は泳げなかった。この手を離し父の元に向かった所で、何も出来はしない。
────その時、燕を助けてくれたのが徳だった。
徳は川に飛び込み、上手く流れに乗り対岸へ渡ると、腕をめいいっぱい伸ばして太い木を掴み、パニックに陥り暴れる燕を力の限りに引き上げた。
燕は 「父も助けて欲しい」と泣き叫んだが、激しさを増していく川の流れに、徳も周りの大人達もこの状況ではもうどうすることも出来なかった。
結局、通報を受けたレスキュー隊による大掛かりな捜査の末、後日父は遺体となって発見された─────
これが赤羽燕、人生最大の出来事となった………………
この日から燕は酷く塞ぎ込み、あの日川に行きたいと言ってしまったこと、川辺で水遊びをしていた事、自分の身を自分で守れなかった事など、自身を責め続け、大きく悔やむ毎日を過ごした。
そしていつしかその心は荒み、周りの大人達の言うことも聞かず、問題行動を繰り返す様になっていった。
当然、その影響を激しく受けたゼルプストでは、煌闇のカラクター達が力をつけ、次第に幅をきかせるようになっていった。
そして昨今、煌光に対抗するまでにその勢力を伸ばした煌闇のカラクター達が、機は熟したと言わんばかりにこのタイミングで反旗を翻したのだった──────
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