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第一章【光と闇・そして崩壊】
勇気の石
しおりを挟む「皆泣かないで。この中に居れば大丈夫だから」
混乱を避けるために、ヴィーアは子供達を宥めたが、子供達は泣き止む事はなかった。怖いのも勿論だが、普段仲良くしてくれていたラテラテとプルが居なくなってしまった事が、堪らなく悲しかった。
「だって……ラテラテと……プルが…………うあああんうわああん」
その気持ちは痛いほどよく分かる。ヴィーアにしてもコチトラにしても、無論、他のカラクターにとっても兄弟と呼べる存在が、今目の前で朽ち果てたのだから…………
「あら。そんなに悲しまなくてもいいのよ? またすぐにライブラヴィーンで新しいのが生まれてくるんだから」
涼しい顔で輪廻転生を説くココラージュに対して、コチトラは熱い眼差しでそれを睨みつけた。
「さて。次はどの子の番かしら?」
ココラージュが品定めをするように見回すと、煌光のカラクター達はジリッとより絶対障壁の内側へと身を寄せた。
「確かに、その中に居れば安心だものね。でもね─────。ヴィーアの『ラブ・ブァント』にも欠点があるのよ」
その一言に息を飲んだ。
余裕を見せるココラージュの次なる一手は─────
「ヌー。やっと来たのね。私、待ちくたびれちゃったわ」
そう言うココラージュの視線の先には、約40体もの煌光カラクターが、それを上回らんとする煌闇のカラクター達によって拘束されてながら歩いてきていた。
「遅くなってごめんねココラージュ。結構強いのが居てさ」
コチトラとノイは、昔の面影を残した笑顔でそう答えたヌーの顔を見るのが辛く、思わず目を背けそうになった。
「でもまあ。よくやってくれたわ。褒めてあげるわ」
「ありがとう。ココラージュ。ヌーもっと頑張るね!」
「うふふ。そうね────さて。煌光のカラクターの皆さん、お待たせしてごめんなさいね。ここからが本番よ」
ヌー達はそのままココラージュ達の後ろに付き、ヴィーア達の目の前には総勢50体もの煌闇のカラクターがズラリとならんだ。しかも、手に余るほどの人質を取って──────
「卑怯だぞ! ココラージュ────ッ! そんな事しねぇと闘えねぇのか!!」
「あら。これは別に卑怯では無いわ。戦争において人質は定石────、それに、安全な壁の中に隠れて出てこない、あなた達の方が卑怯ではないのかしら?」
「そんな事はねぇだろ!」
「どうかしらね。まあいいわ。さっきの話の続きだけど、絶対障壁『ラブ・ブァント』の弱点、それは、守る範囲を増やせば増やす程脆くなる、という事。そうでしょ?ヴィーア」
「………………………………」
ヴィーアはその問いには答えなかったが、ココラージュは構わず話を続けた。
「だからあの時、プルを見殺しにしたのよ? プルを守れば、他が危険に晒されちゃうものね」
「ち、違うわ─────」
「ほんの少しの物しか守れないで、何が【愛】のブライテスト・ストーンなのかしら。笑っちゃうわね」
「ち、違うの…………あの時は、こうするしかなかったの…………」
ヴィーアは膝を付き、ポロポロと涙を零した。
あの時、愛情のストーン【ローズレッド】を持つヴィーアが一番苦しい思いをしたのかも知れない──────
目の前でラテラテとプルを失い、眼前には大量の敵、そして人質。状況は絶望的だった。
「この子がいいわ。とっても私好み。次はこの子にしようかしら」
艶めかしく、人質の一人の少女の顎を撫でたココラージュ。
「や……やめ…………お願い…………」
その恐怖心から少女は、遠目からでもわかるくらい身体を震わせ、出す声はもう声にはならなかった。
「やめろッココラージュ!」
「ええ勿論。やめてあげてもいいわ。但し、条件があるの」
「条件だと……?」
人質を取ったココラージュに人質を殺すという選択肢は無い。
あるのはここに居る煌度の高いカラクター達を、一人残らず惨殺するという選択肢だけである──────
「そうね。じゃあ、その絶対障壁の中から、死にたい順番に一人づつ出てきて貰おうかしら。私もあなた達と同じカラクターで悪魔じゃないわ。素直に出てきた勇気ある子には、こちらも一体のカラクターで相手してあげることにしましょう。さあ──────、誰から死にたいの? 殺してあげる」
ココラージュはまるでこれからゲームでも始めるかのように、軽々しく「殺す」と口にしたが、今となってはその言葉の意味は重い。
ここから出なければ人質が殺され、出ても一人づつ殺される…………勿論、迂闊に動くことも出来ない最悪のシナリオ。
ただ一つ結果の見えない未来があるとすれば、ここから出た一人が相手を打ち倒す事─────
問題は誰がここから出て戦うのか────?
ヴィーアは残った者を守り続けなければならず、戦うことは出来ない。
煌度順に行けばオプティ。時点でグリードだが、二人とも足がすくんで一歩も動けないでいた。
「俺が行く────」
沈黙を破り口を開いたのはコチトラだったが、そのコチトラをノイが引き止めた。
「コチトラ……無理だよ……だってまだ、煌度が13しか無いんだよ」
「心配すんな。俺の能力は戦闘向きだし、この中じゃ身体能力も高い」
「だからって────」
「それに……。俺のカラクトカラー、ミストグリーンは【勇気】のストーンだ」
その時のコチトラの目があまりにも優しく見え、ノイには何故だかそれ以上止める事が出来なかった。
しかしノイは絶対に勝てないと分かっている。煌度の差はそのまま体格や精神力に現れる。高校生と中学生が戦うようなものだ。加えて一番差が出るのはカラクターの持つ固有の能力。
煌度4という差は果てしなく大きい───
ノイは止められなかった事を後悔するかのように、届かない手を伸ばし続けていた。そしてその傍らではヴィーアが祈り、オプティとグリードは「すまない」を繰り返し、リーチアリスは子供に混じってべそべそ泣いていた。
「よう、ココラージュ。俺が相手だ」
「あら。いきなりメインディッシュ? まあ、デザートはまだ残っているし、それも悪くないわね」
ココラージュはヴィーアを見て舌なめずりをした。
「ココラージュ、その舐めた根性ごとぶっ飛ばしてやるッ─────!!」
「今のあなたにできるかしら?」
相対した光と闇のカラクター。
この戦いの先に待ち受ける明と暗。
コチトラは圧倒的戦力差を跳ね除け、この状況を打開する事ができるのだろうか──────
「いくぜ、ココラージュ! 【勇気の剣】ァァァッ!!」
コチトラがストーンと同じミストグリーンに輝く光の剣を作り出し、低く構えると、ココラージュは小さく笑い、右手に墨色の炎を呼び出し受けてたつ構えを見せた。
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