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第一章【光と闇・そして崩壊】
識煌変化
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──赤羽燕8歳の夏────
友達もそれなりに出来て、学校に通うのが楽しいと思える毎日を送ってい燕。
そんなある日────
この日、仲の良いクラスメイトの戸塚茜という女の子を中心に、放課後ガールズトークに花を咲かせていた。
なんでも、戸塚茜は同じクラスメイトの金田亮という男の子の事が気になっているらしい。
小学二年生にして初恋であった。
そんな中、なんとかこの恋を上手くいかせようと立ち上がったのが、二人の共通の友達である燕だった。
「燕ちゃんが茜ちゃんの為に頑張ってくれる?」
「うん、いいよ! 私、二人とも大好きだから、頑張るよ!」
燕は快くこの話を引き受けた。
そして放課後、学校が終わり下校時間になると、早速燕は亮君を呼び止め、ことの事情を話し始めた。
「それでね、亮君、茜ちゃんがね、亮君の事好きなんだって!」
ストレートに伝えた。
大好きな二人が、もっと仲良くなってくれるならば、燕も本当に嬉しいのだから────
だが亮君から返ってきた言葉は、燕の期待を裏切るものだった。
「そ……それがどうした……お、俺はあんなやつ、なんとも、思ってなんて……ないから」
「えっ……」
「む、むしろ嫌いだから。────この話、誰にもするんじゃねぇぞ!」
亮君は顔を赤くして相当怒っていた様子であった。
そして、燕は教室を飛び出して行った亮君を見送ると、今度は女子グループの待つ所へ報告しに行った。
そこでも燕は予想外の展開を迎える事になる。
ありのままの事実を全て伝えると、今度は戸塚茜が泣き崩れてしまったのだ。
「酷いよ! 燕ちゃん!」
「えっ……でも……」
泣いている戸塚茜は次々と周りに味方を作っていき、そのグループで燕は一方的に責めらてしまった。
家に帰っても事件は終わらなかった。
茜の両親から電話がかかってきたらしく、燕は両親に連れられて、茜の家に謝りに行ったのだ。
その時の、大好きな父と母が頭を下げている姿は、とても悲しいものだった。
この日以来、燕は自分の意見を表に出す事を控え始めた。
■■■■■■■■■■
「────あれって……本当に私が悪かったのかな…………あれ……なんで……今、こんな事思い出してるんだろうな……」
魂が抜けたように立ち尽くす燕に対して、ノイが必死に呼び掛けている。
「燕! ノイを助けて! このままじゃヌーが……!」
その言葉にようやく意識が戻ってきた燕は、ヌーの姿を見て驚愕した。
さっきまで縮んでいたヌーの体は、中学生程までに成長し、胸元で揺れる薄浅葱色のストーンは、目を奪われんばかりの美しい闇を放っていた───
「え……なに……私は……どうしたら……なんて、言葉を─────」
考えても分からなかった。
なにも思いつかなかった。
声が、出てこなかった────
燕がそうこうしているうちに、苦しそうにしていたヌーが自ら立ち上がり、先程まで自分を支えていてくれたノイを押し退けた。
「ヌー……」
その行動に、ノイ、コチトラ、燕は揃って絶句した。
そしてヌーはそのまま振り返ることなく、コルコーラの隣に並んだのだった。
そんなヌーにいち早く声をかけたのはコチトラだった。
「おいっヌー、冗談だろ? なぁ?」
「コチトラ、ヌーはコルコーラと一緒に行くよ」
「マジかよ?」
「そうだよ。コルコーラの言う通りだ。カラクターはもっと自由に生きるべきなんだ。コチトラ達と居たら、ヌーのストーンは輝かない」
「それで本当にいいのかよ! 俺たち今日まで楽しくやってきたじゃねぇか? それじゃダメなのかよ」
「その質問には答えたつもりだよ」
ヌーの決心は硬い。
確かにヌーの言う通り、煌闇の薄浅葱ストーンは、一瞬にして闇度を12以上まで高めたのだ。それをカラクターの幸せと取るならば、それもまた一つの正解なのかもしれない────
「じゃあ、僕の用事は済んだから帰らせてもらうよ。それとも、ここで一戦交えるかい? こっちは二人になったけど?」
コルコーラは笑いを堪えながら、挑発混じりに言葉を投げかけた。
現状、こちら側で戦えるのはコチトラ一人。それもコルコーラ一人相手でも歯が立たなかった。
加え、今のコチトラ達がヌーと戦う事は出来ない。それはあまりにも精神的にも大きなアドバンデージだ。
そしてここはライフラヴィーンのすぐ近く。ここで事を構えれば、揃って厳罰は免れないだろう────
それらを鑑みれば、コチトラもノイも戦うという結論には至れなかった。
黙りこくる二人を他所に、コルコーラとヌーは、それならばと林の奥へと消えていった。
目の前から友達が行ってしまうのをみすみす逃した形となった三人には、やり切れない思いが込み上げてきた。
「くっそ────ッッッ!!」
大きく地面を叩き、感情を顕にしたコチトラを見て、燕の心は酷く傷んだ。
ノイもかなりのショックを受けた様子で、すぐに立ち上がる事が出来ない様子。
それでも一旦村に帰って報告をしなければならなかった為、三人は再びリーヤ村を目指す事になった。
一人抜けた旅は寂しいものだった。
来る時はすごく大変だったが、それなりに楽しく充実していた。
それなのに─────
長い長い帰り道。
道中、燕はさっき起こった事を二人に詳しく教えてもらった。
まずストーンには【煌光】と【煌闇】の二種類が存在しているという。
ストーンの放つ物が光か闇かの違いであり、全てのカラクター・ストーンには、そのどちらにもなり得る可能性があるらしい。
そして煌光から煌闇、もしくはその逆に変わる事を【識煌変化】と言うのだそうだ。
コチトラやノイの様に、ある程度の光度があれば識煌変化が起こることはまず無いが、ヌーの様に光度の低いストーンには稀に起こるようだ。
もし識煌変化が起きた場合、どうなるかと言うと────
記憶や個体はそのままなのだが、感情変化が起きる。
簡単に言うと、今までの経験や記憶に対しての感じ方が違ってくる、という事だ。
根底にある性格や感情がガラリと変わるため、同じ記憶を持っていたとしても、まるで、別人になったかの様に変わってしまうのだという。
淡々と説明をするコチトラの背中だけを見つめながら、燕は黙々と歩いた。
会話も少ない、笑い声も無い。そんな道のりを、ただただ歩いた。
■■■■■■■■■
そしてようやく三人はリーヤ村に帰ってくる事が出来た。
帰るなり、燕は二人に先に休むように言われ、そのまま用意された部屋へと足を運んだ。
部屋に着くと、着替えを後回しにし床に膝を着いたままベットに顔を埋めると、自分でも気づかないうちに眠ってしまった。
一方、ライフラヴィーンでの一件を報告するために、ヴィーアのもとを訪ねたコチトラとノイ。
一部始終を話すとヴィーアは悲しそうな表情を浮かべながらも、二人を優しく抱き寄せた。
「あの、それでヴィーアに相談なんだけど」
「どうしましたか? ノイ」
ノイはまだ重たいその口で、ヴィーアに話し始めた。
「そろそろ燕に真実を告げるべきじゃないかな。あの子は悪い子じゃないよ。一緒に旅をしてわかったんだ。何も出来ないけど、凄くいい子なんだ。自分の役割を知ればきっと────」
「真実を────、ですか」
ヴィーアがノイの頭を撫でると、コチトラもその話に賛成の意を評した。
「そうですね。ですが二人とも。肝心の本人があの調子では、ね……」
二人の意見を完全に否定はしなかったが、ヴィーアは窓の外を憂う様に見つめ、小さくため息を零した。
「雨……か……」
外は真っ暗に曇り、大粒の雨が降り始めていた。
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