インフルエンス・ワールド

風浦らの

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第一章【光と闇・そして崩壊】

カラクター・ストーン

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    「どっ、どうしたのコチトラ!?    その……見た目が……」
     
    燕が驚くのも無理はない。明らかに見た目が違うのだから────
    今のコチトラは明らかに以前よりも大きい。前のコチトラが9歳くらいならば、今のコチトラは13歳くらいだろうか。
    普通に考えて、人間が急に成長するなんて有り得ない事だ────

    「そりゃカラクター・ストーンの光度が上がったからな」

    コチトラが胸元から取り出した、ミストグリーン色のカラクター・ストーンは、確かに以前よりも光っており、自ら光を生み出しているかのように輝いている。

    「それと体の成長が関係あるの……?」
    「まぁな。この光度だと13だな。輝きを失えば体は縮むし、逆に強くなれば大きくなる。因みにヴィーアの光度は現在の最高値、17だ」
    「へ、へぇ……」
     「それだけじゃねぇ。光度が高くなると特殊な力を使えるようになるんだぜ?    今だと13って所か。で、さっき見せた【勇気の剣カレジスパーダ】が俺の力だ。あんまり人に見せるもんじゃねぇんだけどな。使い過ぎるのも俺達にとっては良くねぇ事だし」
    「そうなんだ。その……服も大きくなったの?」
    「こん時は身につけてる物も体の一部と見なされ、合わせて変化してくれるのさ」

    燕がさっき見た緑色に光る剣は幻ではなかった。
    コチトラの言うこと全てが嘘のような話なのだが、この世界に居ること自体が既に信じられない事なのだ。
    それに今、実際目の前で起こった事でもある。それ故、燕は直ぐにその事実を受け入れる事が出来た。

    「それより、向こうに川があるからちょっと水浴びして行かねぇか?    八百ムカデの体液がついて気持ち悪いんだよなぁ」
    「そうだね、八百ムカデは神経性の毒を持ってるから、体液を浴びた人は綺麗に洗い流しておいた方がいいよ」

    コチトラが、体液がべっとり付いた腕を嫌そうに振りながら提案すると、ノイがそれを推奨した。

    「どっ毒ぅ!?」

    そして燕は手に付いた体液を見て青ざめ、早く洗い流したいと慌てふためいた。

    「大丈夫だよ燕。その程度なら死にはしないから。体が痺れて動けなくなるだけだから」
    「それでも嫌~!」


    ────そういう訳で四人は川で水浴びがてら、そこで少し休憩を取る事にした。
    かれこれ四時間は歩いてきただろうか。川で体を洗った後、河原に座り込んだ燕の口からは大きく声が零れた。

    こんなに歩いてきたと言うのに、燕の半分程の歳であろうヌーは元気だ。今はもう八百ムカデとの事も忘れたかの様に、川ではしゃいでいる。

    そんな、とにかく体を休めたい燕の両脇にコチトラとノイが腰掛けてきた。

    「大丈夫?    随分と参ってるようだけど」
     「うん……まぁ……流石にアレはキツかったかな……」
    「八百ムカデ、か。アレは私たちにとっても想定外。気候の変化と、長く降り続いた雪のせいで、餌を求めて流れてきたのかも。この世界も、また変わろうとしているのかも知れないね……」

    ノイの言葉に、燕は少し不安が募った。
   危険は無いと言われたこの旅、まだ半分しか来ていないというのに、この先何が起きるか分からないだろう────

    「でも大丈夫。あんな事は滅多にある事じゃないし、それにコチトラの力もだいぶ戻ったみたいだから、なんとかなるよ」
    「コチトラってそんなに凄いの?」
    「そりゃあもう。昔はヴィーアと同じく、常にストーンの最高煌度を維持して来たからね」
     「へぇ~」

    燕の羨望の眼差しに、コチトラは少し照れたように頭をかいた。

    「でもある日を境に、コチトラの力が徐々に失われていったの。世界が変わり始めたのも、丁度その辺からかなぁ」
    「そうなんだ……元に戻るといいね。コチトラも、世界も」
    「─────だね」


    日が暮れる前に到着したいと言うことで、休憩は長くは取らなかった。
    それぞれが荷物を持ち、ライフラヴィーンへ向けて再出発する事になった。

    ライフラヴィーンに近づくにつれて険しくなっていく道。
    勝手の分からない燕は、終始皆の世話になったが、ここまで来たんだからと、確実に一歩ずつ前に進んでいった。

    更に三時間程歩いただろうか。
    ふと先頭を行くコチトラが、足を止めた。
    それは大きな絶壁の目の前だった。

    「意識の部屋──────か、ついにここまで来たか」
    「部屋?」
    「ああ。部屋って言っても開けた洞窟だ。ここを抜ければライフラヴィーンはすぐ目の前だ────。ただ、この部屋がかなり特殊でな……」
    「どう特殊なの?    また危険だったりするのかな……」

    珍しく自身の無さそうなコチトラを前に、燕の心にも不安が押し寄せてくる。
    そんな燕の肩をポンと叩き、ノイがここは自分の出番とばかりに部屋の説明を始めた。

    「危険は殆ど無いよ。部屋自体の大きさも大したことは無いし。だけどこの部屋、自分の意識した方向とは逆の方向に体が動いちゃうんだよ」
    「逆に?    えと、例えば……?」
    「右に行こうとすれば左に進むし、右手を挙げようと思えば左手が挙がる。しゃがもうと思ったらジャンプするって感じかな」
    「えと……右手が左手で、上が……下?」

    身振りを交えてオロオロする燕を見ながら、ノイは早々に進む事を勧めてきた。要は実際に慣れろ、と言った所か。

    先頭はノイが務める。
    こういう体よりも頭を使う所は、コチトラよりもノイの方が応用が効く為だ。

    ノイが洞窟の入口に踏み入ると、それに続いて燕が入る。
    中は拓けた大広間と言った感じで、広さを表すなら体育館一面分位だろうか。所々に青い幻想的なな炎が置かれており、部屋の中を照らし出している。

    「へぇ……高さもあるし、思ったより広いんだね」

    そんな感想を口にした次の瞬間、燕の体は引っ張られるように大きく後方へと流ると、その体は後ろに居たコチトラと激しくぶつかってしまった。

    「痛ってぇぇ……」
    「ご、ごめんコチトラ!    え、あ、そうか……前が後ろになるのか……ごめん……」
     「─────痛って、大丈夫だ。最初は皆そんなもんだ。俺もここは大の苦手ゾーンだから気にすんな。サクサク行こうぜ、いざとなったら俺がおんぶしてやるからよ」

     背が伸び体も大人びて、頼りがいの増したコチトラ。性別が無いとは言え、元々綺麗な男顔をしている為、こう優しくされては燕もドキッとしてしまう。

    「ん、どうした?   またわかんなくなっちまったか?」
    「ううん、だ、大丈夫!    気をつけるね」

    ぎこちないながらも、なんとか前進し出口まではあと少し。
    そんな初めての燕よりも重症なのが、ヌーである。
    ヌーは何度も失敗を繰り返し、慎重に歩みを進める。
    ここは自分に素直な性格よりも、ある程度ひねくれていた方がいいのかもしれない。

    「どうしたの、燕。私の顔に何かついてる?」
     「いや、なんでもないよ、ノイ」

    不用意にノイの顔を眺めてしまった燕は、深く反省をした。
    
    その後、全員が無事に意識の部屋を抜ける事に成功した。
    僅か数十メートルを歩いただけなのに、この疲労感。
    数十キロの道のりの最後がこれとは、中々意気な計らいである。

    そして出口に待っていたのは、見渡す限りの草原だった。
    いつしか空を覆う雲は、その数を七割程度まで減らし、太陽が間から顔を覗かせていた。

    「見て燕、ライフラヴィーンはすぐそこだよ。と言ってもあと一キロ位歩くんだけどね」
     「まだ歩くのかぁ……所であれは何?」

    景色の中に燕が見つけた物は、広い草原に似つかわしくない佇まいの、燕のよく知る乗り物────

    それは紛れもなく電車である。
    
    二両編成の古びた車両で、燕はこの電車に見覚えがあった。
    肌色と赤の塗装が印象的な、新潟県のローカル線。燕が学校に行く時に乗っている電車である。

    「なんでこんな所に……?」
    「あれが出発前に言ってた電車だよ。ライフラヴィーンは神聖な場所で、近くに村が無いんだ。でも、管理もしなきゃならないから、各村から光度の高いカラクターが頻繁に派遣されてて、皆この電車の中で宿を取っているんだよ」
    「電車に住んでるの!?」
    「ずっとじゃないけどね」

    電車に近づいてみると、ノイの言う通り中には人の気配が感じられる。

    コチトラが先に挨拶をしに行くということで、四人は更に近づき電車の扉に手を伸ばす。
   が、それより先に扉が勝手に開き、中からひょっこり女の子が顔を出した。

    「メグ!」
    「おやぁ?    コチトラぁ?」

    中から現れたのは、黒縁メガネにおかっぱ頭の少女だった────
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