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第一章【光と闇・そして崩壊】
マスター
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コチトラ達は村に着くと、すぐさま村で一番大きな家に住むヴィーアの元へと向かった。
事情を説明し、家の中に人間を運び込むと、体を拭いたあと人間を丁寧にベットへと寝かせた。
「ヴィーア、やっぱりこの人間って……」
「ええ。間違いないですね」
「やっぱりか……でもどうして」
「こんな事、この世界ができてから一度だって起こったことはありません。やはり、ここ最近の気候の変化が関係しているのでしょうか……ともかく、彼女が目覚めても暫くは様子をみる事にしましょう」
「様子見……か?」
「あなた達も分かっているでしょう?」
「そう……だよなぁ」
ヴィーアは三人よりも大人で、この村のリーダー。コチトラ達の見た目が小学生中学年ならば、ヴィーアは高校生である。
そんなお姉さん的存在のヴィーアの状況判断を受け、三人は大きく頷いた。
──────日が落ち、夜がやってくるに連れてますます下がっていく気温。
四人は暖炉に木をくべ、部屋の温度を保ちながら、人間が目を覚ますのを待った。
そして二時間程経ったところで、ようやく人間が目を覚ます────
薄く声が漏れ、人間の目が僅かに開くと傍にいたコチトラが優しく声をかけた。
「大丈夫か?」
人間はベットから体を起こすと、辺りを見渡したまま言葉を発しなかった。
「マスター!」
そんな人間に、暖炉に木をくべていたヌーが駆け寄り勢いよく飛びついた。
「おいっ馬鹿ッ、ヌー!」
「マスター! マスター!」
「さっきの話を聞いてなかったのか! 俺達は────」
抱きつかれた人間はヌーを見るや、驚いた表情で初めての言葉を発した。
「子供……?」
その第一声に今度は四人が驚いた。
「────俺達を、知らない……のか……」
「えっ? ご、ごめんなさい」
人間の申し訳なさそうな態度から、四人のことは勿論、ここが何処なのかも分かっていないといった事が伺い知れた。
「記憶喪失、とか?」
「記憶ならちゃんとあるよ。私の名前は赤羽燕。綾田北高校の二年生。今までの事もちゃんと覚えてる」
「俺たちの事や、ここがどこかという事は?」
コチトラの問に燕は静かに首を横に振った。
「でも、なんだか懐かしい……そんな場所だなって思う。不思議とあなた達も昔から知っているような、そんな人達って感じがする。というか、私、なんでここに居るの?」
「雪道で倒れている燕を、この子達が助けてここまで運んで来たのです」
ヴィーアは三人の頭を撫でて、順に燕に紹介をした。
「そうなんですね。でも今は夏で、雪なんて────」
燕が窓に目をやると、該当に照らされ降りしきる雪が見えた。
驚きのあまりベットを飛び降り、窓枠に手をかけた燕。
「うそ、雪!? だって今は…………もしかして私、外国に来たの……?」
状況が未だに飲み込めていない燕だが、徐々にここに来るまでの事を思い出していった。
あの日は確か親と喧嘩して家を飛び出して……公園で隠れて煙草を吸っていて…………それから、確か幼馴染が来て────
それが一転いきなり知らない国に来ていて……知らないベットで知らない人達に囲まれていて────────と。ようやく疑問が湧いてきた。
「あの、ここはどこですか? なんで私はこんな所に居るんですか!? そしてなんで私は今は全裸なんですか────!?」
「落ち着いて下さい。この部屋には裸を見られて困るような人は居ません。それと服は濡れていたので洗濯に出しておきました。そのままには出来ないでしょう。代わりの服は私のを用意させます。着替えたらあっちの部屋で、暖かいものでも飲みながら話をしましょう。それでいいでしょう? ね」
「は、はい……すみません」
困惑し暴走しかけた燕をヴィーアは優しい顔で宥めた。
とはいえ、ほかの三人はともかく、コチトラという子は、子供とはいえどう見ても男の子。
思わずシーツで体を隠した燕だったが、コチトラはそれに対しては無反応だった。
────その後、ヴィーアの言ってた通りすぐさま替えの服が用意され、燕はその服に袖を通した。
この服、ヴィーアの服と言うだけあって、異世界にでも飛び込んできた様なファンタスティックな服である。
フリフリのスカートに、リボンの着いたピンクのブラウス。
普段の燕では絶対に着ることの無い服だが、不思議と嫌な気はしない。むしろ、この服を着ることに嬉しさすら感じてしまう。
周りの皆が同じような服を着ており、部屋のインテリアにもマッチしているために、着替えた燕はこの世界観にすっかり溶け込んでいた。
「そういえば、この部屋のインテリアって、なんか見たことがある様な……?」
着替え終わり、しばし部屋を見渡していると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「燕ぇ、お茶の準備ができたぞ! 着替え終わったのか?」
迎えに来てくれたコチトラに返事を返した燕は、そのままコチトラにつれられて別の部屋へと向かった。
別の部屋では既にお茶が用意されていて四角いテーブルにヴィーア、ノイ、ヌーが座っており、その一席に燕が通された。
紅茶を一口飲むのを待ってから、燕より先にヴィーアが話を切り出してきた。
「燕、初めに聞いておきたいのですが、本当に何も分からないのですか?」
「はい……何も……」
「分かりました。では、教えられる範囲でこの世界の事を話しておきましょう。その後で答えられる範囲で質問に答えていきます。それでいいですね?」
「はい、お願いします」
もう一度紅茶を口に含み、ヴィーアはテーブルの上で手を組み話し始めた。
「まずここは【ゼルプスト】という世界です。ご覧の通り、燕の居た世界とは異ります。そしてこの村は【リーヤ村】と言って我々の拠点となる場所。次に私達の事ですが、私達は【カラクター】と呼ばれる個体です。私達はそれぞれ得意不得意があり、それぞれ協力し合ってここで生きています」
「へぇ……私の知らない事ばかり……」
「急に違う世界に来たことに驚くのは無理もありません。ですが、私達もこんな事は初めてですので正直戸惑っているというのが本当のところです。何故こうなってしまったのかと言うのは、私達にも分からないのです────
手短ですが私からは以上です。何か質問があればお気軽にどうぞ」
「えっと、あの……私、どうやったら元の世界に帰れますか?」
「そうですね。今現在ではなんとも……先程も申した通り、私達も初めてのことなので……しかしこれだけは信じて欲しいのですが、私達は燕、あなたの味方です。例えどんな手を尽くしてでも、あなたを元の世界に返す為の努力は惜しみません」
「そう、ですか……あと、皆さん私の事を知っている風だったんですけど……それに、この部屋の風景もなんだか見た事がある様な……ないような……私は皆さんにとって何者なのでしょうか?」
その質問には、ヴィーアが答えるよりも早くヌーが答えた。
「マスターはマスターだよ! ね? ヴィーア!」
「こらっヌー! 余計な事は言うなって言われてんだろ!」
それをすかさずコチトラに遮られ、ヌーは不貞腐れてしまい、椅子から足を投げ出しブラブラさせた。
「マスターって?」
「すみません、ヌーが勝手にそう呼んでるだけですので、あまりお気になさらずに頂けると助かります。そしてあなたについてですが、現状はお話する事が出来ない、と答えるのが精一杯です」
「そんな……! 秘密って事ですか? 私の味方じゃなかったんですか!?」
「申し訳ありません……それについては私達も細心の注意を払っておりますので。しかし味方というのは本当です。虫のいい話だとは思いますが、それだけは信じて頂きたい」
燕の疑心暗鬼になりかけた心は、真っ直ぐな目のヴィーアによって押し切られた。
「分かりました。ひとまず信じる事にします。私も当面、知らない世界で独りぼっち、あなた達意外に頼る人もいませんので、そうさせていただきますね」
「ありがとうございます。他に質問が無ければ、部屋を用意しますので、暫くはこの家で待機すると良いでしょう。まだ混乱もしているでしょうし、少し体と頭を休めるのもいいかと」
「そう……ですね。すみません、お言葉に甘えさせていただきます」
燕はまだまだ聞きたいことは山ほどあった筈だったのに、あまりの出来事に何を聞けばいいのか分からなくなった。
抜けきらない疲労感と頭に残る重さや心のざわつきに少し休みたい気持ちもあり、今日のところは休むことにした。
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
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お読みいただき、ありがとうございます。
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