上 下
2 / 43
第一章【光と闇・そして崩壊】

マスター

しおりを挟む

    ■■■■■■


    コチトラ達は村に着くと、すぐさま村で一番大きな家に住むヴィーアの元へと向かった。

     事情を説明し、家の中に人間を運び込むと、体を拭いたあと人間を丁寧にベットへと寝かせた。

    「ヴィーア、やっぱりこの人間って……」
    「ええ。間違いないですね」
    「やっぱりか……でもどうして」
    「こんな事、この世界ができてから一度だって起こったことはありません。やはり、ここ最近の気候の変化が関係しているのでしょうか……ともかく、彼女が目覚めても暫くは様子をみる事にしましょう」
    「様子見……か?」
    「あなた達も分かっているでしょう?」
    「そう……だよなぁ」

    ヴィーアは三人よりも大人で、この村のリーダー。コチトラ達の見た目が小学生中学年ならば、ヴィーアは高校生である。
    そんなお姉さん的存在のヴィーアの状況判断を受け、三人は大きく頷いた。

    ──────日が落ち、夜がやってくるに連れてますます下がっていく気温。
    四人は暖炉に木をくべ、部屋の温度を保ちながら、人間が目を覚ますのを待った。

    そして二時間程経ったところで、ようやく人間が目を覚ます────

    薄く声が漏れ、人間の目が僅かに開くと傍にいたコチトラが優しく声をかけた。

    「大丈夫か?」

    人間はベットから体を起こすと、辺りを見渡したまま言葉を発しなかった。
    
    「マスター!」

    そんな人間に、暖炉に木をくべていたヌーが駆け寄り勢いよく飛びついた。

  「おいっ馬鹿ッ、ヌー!」  
  「マスター!  マスター!」
  「さっきの話を聞いてなかったのか!   俺達は────」

    抱きつかれた人間はヌーを見るや、驚いた表情で初めての言葉を発した。

    「子供……?」

    その第一声に今度は四人が驚いた。

    「────俺達を、知らない……のか……」
    「えっ?    ご、ごめんなさい」

    人間の申し訳なさそうな態度から、四人のことは勿論、ここが何処なのかも分かっていないといった事が伺い知れた。

    「記憶喪失、とか?」
    「記憶ならちゃんとあるよ。私の名前は赤羽燕。綾田北高校の二年生。今までの事もちゃんと覚えてる」
     「俺たちの事や、ここがどこかという事は?」

    コチトラの問に燕は静かに首を横に振った。

    「でも、なんだか懐かしい……そんな場所だなって思う。不思議とあなた達も昔から知っているような、そんな人達って感じがする。というか、私、なんでここに居るの?」
    「雪道で倒れている燕を、この子達が助けてここまで運んで来たのです」

    ヴィーアは三人の頭を撫でて、順に燕に紹介をした。

    「そうなんですね。でも今は夏で、雪なんて────」

    燕が窓に目をやると、該当に照らされ降りしきる雪が見えた。
    驚きのあまりベットを飛び降り、窓枠に手をかけた燕。

    「うそ、雪!?    だって今は…………もしかして私、外国に来たの……?」

    状況が未だに飲み込めていない燕だが、徐々にここに来るまでの事を思い出していった。

    あの日は確か親と喧嘩して家を飛び出して……公園で隠れて煙草を吸っていて…………それから、確か幼馴染が来て────

    それが一転いきなり知らない国に来ていて……知らないベットで知らない人達に囲まれていて────────と。ようやく疑問が湧いてきた。

    「あの、ここはどこですか?    なんで私はこんな所に居るんですか!?   そしてなんで私は今は全裸なんですか────!?」
     「落ち着いて下さい。この部屋には裸を見られて困るような人は居ません。それと服は濡れていたので洗濯に出しておきました。そのままには出来ないでしょう。代わりの服は私のを用意させます。着替えたらあっちの部屋で、暖かいものでも飲みながら話をしましょう。それでいいでしょう?    ね」
    「は、はい……すみません」

    困惑し暴走しかけた燕をヴィーアは優しい顔で宥めた。
    とはいえ、ほかの三人はともかく、コチトラという子は、子供とはいえどう見ても男の子。
    思わずシーツで体を隠した燕だったが、コチトラはそれに対しては無反応だった。

    ────その後、ヴィーアの言ってた通りすぐさま替えの服が用意され、燕はその服に袖を通した。

    この服、ヴィーアの服と言うだけあって、異世界にでも飛び込んできた様なファンタスティックな服である。
    フリフリのスカートに、リボンの着いたピンクのブラウス。
    普段の燕では絶対に着ることの無い服だが、不思議と嫌な気はしない。むしろ、この服を着ることに嬉しさすら感じてしまう。
    周りの皆が同じような服を着ており、部屋のインテリアにもマッチしているために、着替えた燕はこの世界観にすっかり溶け込んでいた。
    
   「そういえば、この部屋のインテリアって、なんか見たことがある様な……?」

     着替え終わり、しばし部屋を見渡していると、ドアをノックする音が聞こえてきた。

    「燕ぇ、お茶の準備ができたぞ!    着替え終わったのか?」

   迎えに来てくれたコチトラに返事を返した燕は、そのままコチトラにつれられて別の部屋へと向かった。

    別の部屋では既にお茶が用意されていて四角いテーブルにヴィーア、ノイ、ヌーが座っており、その一席に燕が通された。

    紅茶を一口飲むのを待ってから、燕より先にヴィーアが話を切り出してきた。

    「燕、初めに聞いておきたいのですが、本当に何も分からないのですか?」
    「はい……何も……」
    「分かりました。では、教えられる範囲でこの世界の事を話しておきましょう。その後で答えられる範囲で質問に答えていきます。それでいいですね?」
    「はい、お願いします」

    もう一度紅茶を口に含み、ヴィーアはテーブルの上で手を組み話し始めた。

    「まずここは【ゼルプスト】という世界です。ご覧の通り、燕の居た世界とは異ります。そしてこの村は【リーヤ村】と言って我々の拠点となる場所。次に私達の事ですが、私達は【カラクター】と呼ばれる個体です。私達はそれぞれ得意不得意があり、それぞれ協力し合ってここで生きています」

    「へぇ……私の知らない事ばかり……」

    「急に違う世界に来たことに驚くのは無理もありません。ですが、私達もこんな事は初めてですので正直戸惑っているというのが本当のところです。何故こうなってしまったのかと言うのは、私達にも分からないのです────
    手短ですが私からは以上です。何か質問があればお気軽にどうぞ」

    「えっと、あの……私、どうやったら元の世界に帰れますか?」

    「そうですね。今現在ではなんとも……先程も申した通り、私達も初めてのことなので……しかしこれだけは信じて欲しいのですが、私達は燕、あなたの味方です。例えどんな手を尽くしてでも、あなたを元の世界に返す為の努力は惜しみません」

    「そう、ですか……あと、皆さん私の事を知っている風だったんですけど……それに、この部屋の風景もなんだか見た事がある様な……ないような……私は皆さんにとって何者なのでしょうか?」

    その質問には、ヴィーアが答えるよりも早くヌーが答えた。

    「マスターはマスターだよ!    ね?   ヴィーア!」
    「こらっヌー!    余計な事は言うなって言われてんだろ!」

    それをすかさずコチトラに遮られ、ヌーは不貞腐れてしまい、椅子から足を投げ出しブラブラさせた。

    「マスターって?」
    「すみません、ヌーが勝手にそう呼んでるだけですので、あまりお気になさらずに頂けると助かります。そしてあなたについてですが、現状はお話する事が出来ない、と答えるのが精一杯です」
     
     「そんな……!    秘密って事ですか?    私の味方じゃなかったんですか!?」
     「申し訳ありません……それについては私達も細心の注意を払っておりますので。しかし味方というのは本当です。虫のいい話だとは思いますが、それだけは信じて頂きたい」

    燕の疑心暗鬼になりかけた心は、真っ直ぐな目のヴィーアによって押し切られた。

    「分かりました。ひとまず信じる事にします。私も当面、知らない世界で独りぼっち、あなた達意外に頼る人もいませんので、そうさせていただきますね」

    「ありがとうございます。他に質問が無ければ、部屋を用意しますので、暫くはこの家で待機すると良いでしょう。まだ混乱もしているでしょうし、少し体と頭を休めるのもいいかと」
     「そう……ですね。すみません、お言葉に甘えさせていただきます」

    燕はまだまだ聞きたいことは山ほどあった筈だったのに、あまりの出来事に何を聞けばいいのか分からなくなった。
    抜けきらない疲労感と頭に残る重さや心のざわつきに少し休みたい気持ちもあり、今日のところは休むことにした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処理中です...