しぇいく!

風浦らの

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第三章 【誓】

インタビュー

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    控え室に戻ってきた念珠崎チームは、表彰式が始まる前の時間を使ってミーティングをする事になった。

    最後は王者甘芽中の前に敗れてしまったが、結果としては県大会行きを確定させ、更には準優勝という称号を手に入れたのだ。

    万年弱小チームと言われた念珠崎を知っている者からすれば、この結果は大番狂わせであり大勝利であると言えよう。

    「えー、まぁ、最後は惜しくも負けちまったけど、目標にしていた県大会へは行けることになったし、今日のところは満足って感じにしてくんねぇかな?    後であの時こうだったとか、自分のせいでとか、そんなみみっちい事は無しで頼む」

    部長であるまひるの第一声がこれである。
   まひるらしい言い回しの中にも、キチンと的を得た一発回答だ。

   「だね。県大会もすぐに始まる訳だし、明日は個人戦もあるもんね。最後に負けた悔しさはきっとバネになる。私はそういうの嫌いじゃないよ」

    副部長の桜も切り替え前を向いている。
    そんな二人に支えられ、念珠崎チームはいつもの明るさを取り戻していった。

    「まっひー先輩、手首ちゃんと治してくださいよ?    治さなかったら、桜先輩が左手で卓球やらせるっていってましたよ?」
    「えっ?   マジ……?」

    ミーティングと言うには少々緊張感に欠けたじゃれ合いのさなか、二階席で応援をしていた三年生の先輩達が乃百合達の元に降りてきた。

    そしてその代表として、前部長である築山文がその場をしきりだす。
    突然築山文は、いかにもマイクを持っているかの様な仕草と共に、一人一人にコメントを求めてきた。

    「放送席放送席、見事準優勝を決めた念珠崎チームの皆さんです!    これから一人ずつコメントを貰いたいと思います!」
    「文さん、なんすかそれは……」

     「ますば部長の興屋まひる選手です!    興屋選手は試合中手首を怪我されたと聞きました。なんでも、無茶な練習をしたとかなんとか?」
     「あ……いや、無茶というかなんというか……でもまぁ。チームに迷惑かけたとは思ってますよ……部長という立場でありながら、自己管理ができていなかったり、自己中心的なところがあったかなぁ……なんて。はい、すみません。反省しております……」
    「でも良くも悪くも興屋選手が居たからこそ、このチームが纏まっていたんだと思います。   主戦力としてチームを引っ張り、物怖じせず戦ってこれたのは、興屋選手の存在が大きかったと私は思います!」

    その言葉にまひるは頬を赤らめた。

    「続きまして、副部長の藤島桜選手!    藤島選手はこの大会一度も勝っていないですよね?」
    「ちょっと文さん、痛いところ突かないで下さいよ。私も必至にやったんですけどね……力不足でした。でも今回色んな試合を見れて勉強になったと思ってますよ。それを活かすかどうかだと自分に言い聞かせます──と言って逃げてみる」
    「はい!   その通りですね!    藤島選手のその冷静な所や、作戦の組み立て、解説力はチームにとってとても大きなものでした!    藤島選手の代わりは居ない。そう思わせるには十分な働きでした!」

    藤島桜は大袈裟な事を言うと思いつつも、築山文の言葉に救われた。

    「エースの原海香選手でーす!    原選手は大切な試合に大遅刻してきたそうですが?」
    「文さん、キツイなー。それは本当に申し訳ないと思ってるよー。後でみんなにはちゃんと話をしようと思ってるよー」
    「でも、その大遅刻を帳消しにする様な大活躍を見せてくれましたね!    念珠崎のエースは強い!   他校に知らしめるには十分すぎるほどのインパクトでした!    後輩からの信頼も厚く、原選手が全体のレベルをアップさせてくれた事は明白です!    これからもみんなの目標であって下さいね!」

    海香は照れくさそうに頭をかきあげ「まいったなー」と笑ってみせた。

    「小岩川和子ちゃん!    卓球を始めてまだ半年のニューフェイスです!    初めての試合だったのに、ダブルスとして2勝3敗という結果でした!」
    「あわわわわっ私が活躍した訳じゃないんですけどね……足を引っ張ってばかりで、本当に申し訳ないです……これから皆さんに追いつけるように、もっと頑張ります!」
    「レベルの高い相手によく頑張りました!    小岩川さんとパートナーを組んだ人達は、小岩川さんと組んだからこそ得たものがあった筈です!    負けた時も雰囲気を壊す事なく、大人な対応をしてみせたのは、見ていてとても感動しました!    伸び代は一番あると思うので、これからも頑張ってくださいね!   応援してます!」

    そんな言葉を貰えると思っていなかった和子は、嬉しさのあまりに飛び跳ねた。

    「六条舞鳥選手です!    六条選手はこの大会、全戦全勝の大活躍でしたね! 流石でした!」
    「ちょ、文さん……私はただ必死だっただけですよ……結果はオマケと言うか、組み合わせが良かっただけなんです……」
    「そんな事はありません!    私達は全員知っています!    六条選手が努力を惜しまない子だっていうことを!    最後まで諦めない子だということを!    私達の心に深く響いてきました。大切な事を教えてくれました。結果は偶然ではありません、誇っていいと思います!    六条選手は素敵な人なのです!」

    褒められ慣れていないブッケンは思わず下を向いてしまったが、嬉しさがこみ上げ控えめに「はい」と返事を返した。

   「最後は常葉乃百合選手です!    常葉選手、凄かったですね!    個人戦優勝候補の鶴岡琴女選手を倒したインパクトは大きかったですね!」
    「それこそ出来過ぎっていうか……結局後半は負けっぱなしで、私のせいで優勝も逃しちゃった訳ですし……」
    「ここは声を大にして言いたいと思います!    そんな事はありません!    鶴岡琴女選手との試合、正直私は震えました。悲願の県大会も常葉選手が居なかったら叶わなかったかも知れません。前に出て攻める前陣速攻。チームに推進力を与えていたのは、紛れもなく常葉選手でした!   『やれる』『諦めない』をもっとも与えてくれたのは、常葉選手だと私は思います!    ありがとうございました!」

    乃百合の目に光るものが溢れた。
    大切な所で負けた自分を、少しだけ許せた気がした。

    「という事で、本日のヒーローインタビューはここでおしまい!    今日は皆んなが私のヒーローでした。続きは県大会の決勝の後でね!」
    「県大会決勝って、ハードル高いっすね……」
    「あははっ。じゃあ最後に私達全員から一言いいかな?」

    築山文がそう言うと、引退した三年生達は一列に並んで、満面の笑みで同じ言葉を口にした。

    「ありがとう」

    ───────と。
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