しぇいく!

風浦らの

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第三章 【誓】

卓球しない?

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    【あれから六年後】


    エレベーターを待つのを諦め、息を切らしながら階段を駆け上がって行く乃百合を、膝に手を当て苦しそうに呼び止めたブッケン。
    
    「待ってよー、乃百合ちゃーん」

     乃百合はその言葉に振り向きつつ、その場で足踏みをしながら、早く来いと急かした。

    「早く早く!    もう時間過ぎちゃちゃってるんだからね!」
    「そ、そんな事言ったって、もうずっと走りっぱなしで……と言うか、乃百合ちゃんがお店にお財布忘れてくるから悪いんだからね!」
     「ブッケンだってお茶とジュースで散々迷ってたじゃんか!」
     「それはそうだけど……」

    そしてようやく辿り着いたのはマンションの一室。
    玄関のベルを鳴らすと、中から一人の女の子が出てきた。

    「おい、おせーぞお前ら!    もう始まってんぞ!」

    ここは社会人になり一人暮らしを始めた興屋まひるの住む部屋だ。

    乃百合達より先にまひるの親友である藤島桜が来ており、相変わらずの二人のドタバタぶりに短いため息で出迎えた。

    「桜先輩、今残念そうな感情を抱きましたね!?」
    「ホントにあんた達は相変わらずだよね。逆に安心したよ」

    久しぶりにまひるの部屋に集まったこの四人。そして今日はこの四人にとって 
は物凄く特別な日なのである──

    「まっひー先輩の部屋、久しぶりだけど相変わらず顔に似合わず女の子ですよねー」
    「ほっとけ、余計なお世話だ。それよりその辺空いてるから座れ。もう始まってんぞ」

    促されるように腰を落ち着かせた四人は、テレビの画面に目を向けた。

   世間ではオリンピックが開催されており、今日はこの四人にとっても縁深い、卓球の試合が行われる日であり、丁度テレビでは間もなく始まる試合を前に、アナウンサーが一通り今日の見所を説明している最中だった。

   『今日はメダルの期待のかかる卓球女子団体戦の模様をお送りいたします。ということで、まずは本日のスペシャルゲストをご紹介します!    卓球アイドルでお馴染みの【だぶるしぇいく!】のお二人でーす!』

    アナウンサーの紹介と共に、二人の女の子が登場すると、乃百合達のテンションが一気に上がった。

    「まっひー先輩!    わっ子が出てますよ!   ホラッ!    可愛いですね!」
    「騒ぐな乃百合、見りゃわかる。でもよ、この二人が本当にアイドルになる夢を叶えちまうとはなぁ。恐れ入ったぜ」

   『どうもー!   全国の皆さんこんにちわ!    【だぶるしぇいく!】の和子でーす!   今日は一日、私達と一緒に、日本代表を応援しましょう!』
    『ちわっす。【たぶるしぇいく!】の夏っす。今日は卓球をよく知らない人達にも魅力を伝えられるように、頑張っちゃうっすよ』

    今やこの二人は、テレビに出る程までにアイドルとして成功している。

   『和子ちゃん達は中学生の時、卓球部だったんですよね?    それで全国にも出場した実績を持った、正真正銘の卓球アイドルなんですよね!』
    『えへへー。まぁ私の場合は、皆んなに連れて行ってもらったって感じだったんですけど……』

  和子のバツの悪そうな反応に、解説者とアナウンサーの顔がほころんだ。

   『更に凄いのは、今日日本代表として出場する原海香選手とも同じチームメイトだったとか?    これはもう運命ですよね!』
    『運命……そうかも知れませんが、  私は今日、この日は来るべくして来たと思っています。だって私達、あの日から皆で夢に向かって頑張ってきましたから。諦めなければ夢は叶うと信じてましたから』

   そんなコメントをする和子を見て、テレビの前の四人は目が潤んだ。

   『確か中学三年生の時、離れ離れになった海香選手と全国大会の団体戦で対戦したんですよね?    当時から海香選手は凄かったとお聞きしました。全国では個人、団体共に優勝し、その年は公式戦で一回しか負けてないとか』  
    『ですです!    昔から海香先輩はめちゃくちゃ強かったんですよ!    でですね、その大会で唯一海香先輩に黒星を付けたのが────、』

    和子がそこまで言うと、ディレクターから『巻いて』というジェスチャーが送られ、その話はそこで終わってしまった。

    そして大会は和子の個性的な解説と、海香の活躍によって勝ち抜いた日本代表が、メダルの可能性を残してこの日の放送は終了した。


    「────。はぁ……凄かった……」
    「皆んな頑張ってるんだな」
    「なんだか感慨境いよね」
    「私達も負けていられないですね!」

    この四人もまた、それぞれの夢に向かって歩き始めている。
    刺激を受け明日へ向かって意気込んだ。

   諦めなければ夢は叶う────


    「あのさ、皆んな」
    「なんだよ?」
    「なに?」
    「なぁに、乃百合ちゃん」

    

    「卓球しない?」









  ────────  おしまい。
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みんなの感想(9件)

名木雪乃
2020.03.29 名木雪乃

更新お疲れさまです!
ブッケンの試合、拝読しました。
成長したブッケンが正々堂々とやってくれましたね。
彼女の、乃百合ちゃんの一歩後ろが好きなんだ、という心の声が彼女らしくて良かったです。
添津さんにも、ブッケンの熱意と誠意は十分伝わったかなと思いました。
次のダブルスも楽しみです♪

2020.03.29 風浦らの

わぁお読み頂きありがとうございます!
一人一人ちゃんと成長しています!
そして、ここからはずーっと試合が続きます…自分でも流石に長いなぁと思いながらも、卓球のルールや戦術等をなるべく沢山盛り込んだつもりです笑
オリンピックや世界卓球のニュースを観るのが楽しくなる人が増えたらいいなぁと思っています!
完結もようやく見えてきたので頑張りたいと思います。いつも励みにさせて頂いております、ありがとうございます!

解除
名木雪乃
2020.03.23 名木雪乃

少しお久しぶりでした。
更新お疲れさまです!
遅れましたが、第三章、読み始めました。
乃百合ちゃんの頑張った試合、拝読しました。
テンポの良い試合運び、面白かったです。
色々なタイプの選手がいるものですね。
研究していらっしゃる、らのさんがすごい。
音選手のようなトリッキーなテクニックもあるんですね。これは惑わされます(>_<)
相手チームが念珠崎を舐めきっている態度はさすがに頭にきますね。ブッケン、頼む~!

2020.03.24 風浦らの

お久しぶりです!
卓球はあんなに近い距離でも、沢山の駆け引きが行われているようですね! 凄いですよねー。

今は世界中が大変な時期ですので、雪乃さんもお身体に気をつけて、このピンチを乗り切りましょう・∀・)ノ

解除
名木雪乃
2020.01.27 名木雪乃

何やら不穏な感じのする次の試合相手ですが、相変わらず元気な乃百合ちゃんたちチームの活躍に期待しています。
相手チーム、名前は良い感じですけどね(笑)

更新お待ちしてましたよ(^^)
お久しぶりでした。お変わりなかったですか?
今年もどうぞよろしくお願い致します❁.*・゚

2020.01.27 風浦らの

お久しぶりです!
そろそろやらないと、流石に不味いかなぁと笑
今年もよろしくお願いします(気分転換に始めたゲームにハマってたなんて言えない)
改めて読んだり書いたりすると自分の未熟さを痛感します涙
これを糧に、またポツポツと更新しますのでよろしくお願いします!

解除

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