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第三章 【誓】
なぞなぞ
しおりを挟む悔しそうに膝を叩き俯いたまひる。結局三セットとも、追い上げながらも取り逃がした形となったこの試合。
もっと早くにテーピングを外していれば──
和子のループドライブが決まっていれば──
和子があの時ちゃんと取っていれば──
和子がもっと上手かったら──
「なぁんて事、考えてるんじゃないですか?」
和子が冗談めいた口調で話しかけ、まひるの手を取った。
「あぁ? んな事思ってねぇよ」
「タラレバを考えても、どうなっていたかなんて分かりません。でも、ハッキリ言える事もあります」
「ん?」
「私達はベストを尽くした。ですよね?」
「まぁ、な」
「そして確かな事がもう一つあります。これは朗報です!」
「なんだよ」
「私達は、“ まだ負けていない ” という事です!」
いつまでも小学生の様に子供だったと思っていたが、いつのまにか立派になった和子を見て、まひるの心は一瞬にして掴まれた。
「──────っだな」
「さっさとベンチに戻って、チャキチャキ応援組に混ざりましょう!」
「そうすっかぁ」
戻ってきた和子とまひるを迎え入れたチームメイトは、二人の清々しい表情に少し驚いた。
和子は半泣き、まひるは怒り心頭で帰ってくる姿さえ想像できたからだ。
まだまだ終わりじゃ無い。
そんな雰囲気を保ったまま、次に臨める理想的な空気──
これは和子の隠れたファインプレイだった。
第四試合──、登場するのは六条舞鳥。
幾多の敗北を経験し、幾つもの苦手を克服し、幾段もの努力を積み重ねてきたブッケン。
チームが優勝する為には、勝つしか無い第四戦。気弱なブッケンには荷が重いシュチュエーションだが、やるしか無い。
「ブッケン」
「乃百合ちゃん」
「半年間の集大成だね。ブッケンが勝てたら、私も絶対に勝つから。頑張ってね」
「うん。ありがとう、乃百合ちゃん。私も絶対勝って戻ってくるよ」
ありきたりな言葉のやり取りでも、ブッケンにとっては大切な大切な約束。
誰よりも信頼している乃百合に繋げれば、必ずやってくれると信じている。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
一番の親友に送り出され、六条舞鳥が第四試合のコートに降り立った。
対する絶対王者甘芽中──
リーチをかけた甘芽中ベンチから、ゆっくりと腰を上げた水沢夏。
「ここで問題っす。ジャンケンで一番強いのは何か分かるっすか?」
「なんやねん急に」
「グー、ですか?」
「正解は──、この後すぐっす」
「なんやねん! はよ行けや」
直前に謎々を言い残し試合に向かった水沢夏。
決して相手を舐めているわけでは無い。あの日以来、水沢夏は変わった。
見下したり、おちょくったり、逆撫でしたりするスタイルは、弱者のやる事であり、本当の強さを手に入れる事とはかけ離れた行為だと悟った。
そして今、王者甘芽中のキャプテンとして恥じぬ強さを引っさげ、再び念珠崎の前に立ちはだかる──
──六条舞鳥。一見気弱で鈍臭そうに見えるその風貌。いかにも体と気持ちが弱そうにも見えるっす。でも実際は違う。この半年、念珠崎で一番伸びたのは六条舞鳥、この娘っす。実際、この大会まだ一度も負けてない。
カットスタイルがハマった感じも見受けられるし、決め球のチキータの成功率も格段に上がって、更には逆回転も身につけた。
攻守にバランスのとれたいい選手っすね。
そして一番感心したのは精神の成長。この娘を崩すのは骨が折れそうっすね。
まぁ、それでも勝つのは、私なんすけど──
王者らしく少し遅れてゆったりと卓球台の前にやって来た水沢夏。
それを待っていたブッケンは、距離が近くに連れ高まる圧力を感じていた。
そして遂に向かい合った二人は、審判に促され、試合前の握手を交わす。
「六条さん対水沢さん、サービス六条さん、0-0」
絶対に負けられないブッケンの戦いが、今始まる──
ブッケンのサーブは、横回転のかけられた、いきなりの攻めたサーブ。
──────!?
出てこない──
全中で緩急を駆使したスマッシュで勝負してきた水沢夏。ラケットも表ソフト&粒高ラバーと、その異質構成も変わってはいなかった。
だが今の水沢夏の立ち位置は、台より三歩後ろに構えたまま出てくる気配が感じられない。それはまさかの──
「えっ……これって」
「表カットマン!?」
表ソフトを操るカットマン──
ドライブ同様、カットも回転力が重要とされている。回転力が弱いと、返す方も楽である事は明白。それ故、耐え続け相手のミスを誘って戦うカットマンのラバーには、裏ソフトが用いられることが多い。
しかし、ごく稀に表ラバーを駆使したカットマンが存在する。
それが表カットマンだ──
──私の団体戦での最終戦っす。ここで勝てば全てが終わる。出し惜しみなんて、してやらないっすよ──
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