しぇいく!

風浦らの

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第三章 【誓】

一番速いスマッシュ

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    「まっひー先輩、外して大丈夫なんですか!?」
    「ダメに決まってるでしょ。なんかさっきからテーピングをカリカリやってると思ってたのよね。あのバカ」


    しかし、ここからまひる&和子の反撃が始まる────

     小国真知のカットボールを和子がロビングで打ち上げる。
     この時点で早田穂笑のプッシュが無くなり、スピードボールで勝負を挑んでくるのは目に見えている。
    そこに待っているのはまひるのフェイントレシーブである。コースを限定し、わざとまひるの打ち込みやすい場所にスマッシュを誘い込む。

    ──好き勝手やってくれたけどなぁ、取れるもんならとってみろッ──

    カウンター気味のまひるのスマッシュ──
 
    「正面から体制十分なカットマンの横を抜くつもり?!」

    ──小国真知、一番速いスマッシュを知ってるか?    これで抜けなかったら降参してやるぜッ──

    一旦は逆を突かれるも、体制を立て直し再びまひるのスマッシュを拾いに行った小国真知。しかし僅かに及ばず、ノータッチで得点を許してしまった。

    【5-9】

    「あれは……まっひーの一番得意で一番速いスマッシュだね」
     「桜先輩、確かに速くて私も全然取れないんですけど、何か秘密があるんですか?」
     「まっひーのスマッシュはどれも速い。その中でも特別に速いのが、ストレートに打ち込むスマッシュだよ」
    「クロスじゃなくて、真っ直ぐ打つストレートですか」
    「そう。ストレートに打つボールというのは、クロスに打つより相手に到達するまでの時間が短いんだよ。ボールが飛ぶ距離が違うからね。例えおんなじスピードでも、ストレートの方が圧倒的に速く感じるものなんだよ。ただスピードを求めるならストレートに打つ。これがまっひーの考えって訳」
    「な、成る程、距離か……私にも使えるかも……勉強になるなぁ」

    続くラリーも、レシーブに定評のある小国真知からノータッチを奪ったまひる。手首の怪我を感じさせない活躍を見せ連取する。

   【6-9】

    わかっていても引っかかってしまうまひるのフェイントに、攻めの早田も守りの小国も手を焼いた。

    しかし小国、早田ペアは第一セット同様、追い上げられながらも前半の貯金を使いなんとか凌ぎきり、第二セットも奪い取る事に成功した。

    【9-11】

    セットカウント【0-2】

    一セットも奪えないまま後のなくなった、まひると和子はこの後の大逆転に全てを賭ける。

    「惜しかったけど、取られちまったな。次、頑張ろうぜ!    わっ子」
    「はい、でも相手も凄い強いですね」
    「甘芽中は全国を狙おうってチームだ。そう易々とは勝たせては、くれねぇよなぁ」
     

    ──第三セット──

    前のセットの勢いそのままに、先手を取ったのはまひる&和子ペアだった。
    まひるのスマッシュが、早田のプッシュをかいくぐり、得点をもたらせていく。第一、第二セットとその打球のスピードが全くの別物だ。
    それを隣で見ている和子は思う──

    ──凄い……まっひー先輩、甘芽中相手に寧ろ圧倒している。あのフェイントが効いているんだ……前に文先輩に聞いた事がある。確か、まっひー先輩の闘志や気迫がそうさせているんだ、って──

    【3-1】

    ──わ、私にも出来るかな──

    【4-2】

    ──これは本気のプレイを隣で感じられるチャンスだ。憧れのまっひー先輩に近づくチャンス──

    まひるのレシーブ。コッチに撃てば殺られると言わんばかりの気迫。それは虎(ガオォォォォ!)
    それを逆手にとってまひるは獲物を仕留めにかかる。

    【5-3】

    対してそれを真似しようとする和子の気迫。こっちに打ったら痛い目にあうぞと言わんばかりの、それは猫(にゃぁぁん!)
   それを受けた早田、迷わず和子目掛けてスマッシュを打ち込んだ。

    【5-4】

    ──ひぇぇぇ──

    めげずに続けてみるも、今度は逆側に送られアッサリ同点に追いつかれてしまった。

    【5-5】

    「わっ子、気合い入れて行くぞッ」
    「は、はいっ!」

    ──気合い、気合い、気合い──

    和子は必死についていく。
    技術も経験も無い和子、その差を埋めるは最早気合いしかない。
    この場にいる誰よりも気合いで負けてはならないのだ。

    【7-6】

    早田のプッシュに必死で食らいつく。不格好ながらも相手コートに返せば、次はまひるが決めてくれる。

    「出た!    まっひー先輩の裏面打法!!」

   【8-6】

    早田も負けられないのは同じ。ドライブと守りが苦手で、シングルでは中々芽が出なかった才能。やっと手に入れた、ダブルスという自分の輝ける場所。結果を残して、少しでもアピールしなければならない。

    【8-7】

    小国だってそう。レギュラー争いの厳しい甘芽中で掴んだレギュラーの座。自分の代わりなどいくらでもいる選手層の厚さ。早く一歩抜け出し、レギュラーメンバーの一員として全国を目指していきたい。

    【8-8】

    そして興屋まひる。
    万年弱小チームで悲願の県大会行きを勝ち取った。そして次は地区の頂点へ──
    部長としてチームを支えるためにも、ここは是が非でも負けられない。

    ───────ッてぇ……

   【8-9】

    ──ここでかよ……今まで調子良かったじゃねぇか……なんでだよ──

    再びまひるの手首に痛みが走った。
    アドレナリンの分泌のお陰か、今の今まで普通にプレイ出来ていたにもかかわらず、ここに来ての再発。

    「まっひー先輩……」
    「大丈夫、心配すんな。このセット、取るぞ」

    試合が再開されるも、あきらかにまひるのリズムが狂いだした。
    小国のカットに競り負け、スマッシュに威力が感じられない。
    そして早田のプッシュカウンター。

    【8-10】

    ゲームポイント────

    痛みを堪えたまひるのスマッシュ──
    反応が勝ったのは早田穂笑。ラケットでブロックを作りタイミングよくそのボールを押し込んだ。

    間一髪の所でそれを和子が掬い上げる。高く舞うロビングボールがラリーをリセットせんとばかりに台奥へと送られる。

    「わっ子ナイスッ!」
    「わっ子ちゃん!」

    念珠崎のチームメイトがおうえんするなか、桜はもう見ていられなかった。
    勝って欲しい反面、親友だからこそ、このままあっさり負けて帰ってきて欲しかった。

    そして奇しくもその願いは叶う事になる。

    【8-11】

    最後は早田にスマッシュをねじ込まれ、勝負あり。

    結果──

    セットカウント【0-3】
    ゲームカウント【1-2】

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