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第三章 【誓】
まだまだ
しおりを挟む──第二セット──
海香優勢は変わらず試合は進んで行く。
【4-2】
「可能性って……勝つ可能性ですか?」
「そう。乃百合ちゃんはさ、打球が重いとか、何故か相手のコートまでボールが返らないとかって経験ある?」
「えっ……あります、沢山……」
その質問に対して真っ先に思い浮かんだのが、レギュラー選抜大会での南先輩のカットボールだった。
「気持ちのこもったボールは重い。速い。そして時には奇跡を起こす。理不尽なネットインも、エッジボールもそう。ボールには意思が宿ると私は思ってる。これまでの練習や、努力、思い、願い、そういったものが実力差をひっくり返す、大きな要因になると私は思っている。まぁ非科学的なんだけどね。私はあの子からそういった物を感じない」
【6-3】
海香のドライブ──
曲がって曲がるカーブドライブ。
──原海香……お姉ちゃんに勝った人……この人に勝てば、携帯が手に入る──
しかし楓は海香に苦戦していた。姉の凪咲とは違ったプレイスタイル。
団体戦に出れば活躍できると思っていた。県内最強の甘芽中メンバーと戦わずに済むからだ。
だが結果は違った。この地区には自分よりも強い者が数人居て、それぞれが個性溢れるプレイスタイルを築き上げている。
【7-4】
──なんだよ……原海香、私は携帯が欲しいんだ。邪魔をするな──
この試合、何度も海香に送られた凪咲のツッツキ攻撃。これは海香からカウンターを取る為に撒いている餌である。
思惑通り海香のドライブが飛んでくるのに合わせ、楓のカウンタードライブが炸裂する。
と、ここまでが楓の得点パターンである。が、パターン化しているが故、海香に通用しなくなっていた。来るとわかっている球を返せない海香では無い。
──だったら。これでどうだ──
カウンターを返した海香に対し、再びそれをカウンターで返す二段構え。
【8-5】
打った瞬間、次のスイングを始めるほどの速い動き出し。余程の自信と確信が無ければ出来ない卓球──
──うわぁこれは驚いたなー。このまま終わると思いきや、さすが凪咲さん自慢の妹さんだね。だけどまだまだ。卓球は才能だけじゃ勝てないんだなー──
海香の技術の高さは、ドライブに限ったことでは無い。
相手のスマッシュを狙い、ネットすれすれに落とす【ストップ】を打ち込んだ。
【ストップ】ネット側すれすれの位置に低く落とす技術。相手が後ろがかりになっている時に使うと効果的。
意表を突かれた楓が前に出るも、時既に遅し──
【9-6】
力の差は歴然である。
このまま終わると誰もが思っていたが、楓はこのまま終わらせまいと考えていた。
──原海香を倒せば携帯が手に入る。お母さんもお姉ちゃんも認めてくれる。ここで負けたら、今までのつまらない練習が全て無駄になってしまうじゃないか……そんなのあんまりだ──
海香の遠目からのスピードドライブに対し、体を前に出した楓が見せた一撃──
「あっストップッ!」
思わず念珠崎ベンチからも声が上がった。
海香が見せたストップを再現したかの様な楓のストップ。海香程の回転力のあるドライブをストップするのは、並大抵の選手では出来ない技術である。
──凄い凄い! どんどん上手くなっていく! やっぱり才能だけはピカイチだねー! それでも、私はまだまだ負けないよ!──
海香との試合の中で、考え、技術を盗み、動きもシャープになっていく楓。
楓の一番の武器、それは "伸び代" である。
試合を開始したほんの十数分前より、遊佐楓は格段に上手くなっている。
先ほど覚えたストップを、オモチャを手に入れた子供のように連発する楓。
ストップ──
ストップ──
ストップ──
からのカウンタースマッシュ──
【10-7】
それでもまだ足りない。
力の差を埋めるには及ばない。
成長を見せるも、一歩及ばず楓はこのセットをも落とした。
【11-7】
セットカウント【2-0】
──第三セット──
最終セットを迎えるにあたり、楓の心の中は煮えくり返っていた。
──なんで邪魔をするんだ。携帯が欲しいだけなんだ。諦めない……諦めないぞ……まだ試合は続いているんだ。そうだ、絶対に勝つんだ──
ツッツキとストップ、ドライブとカウンター連打。攻撃の幅が広がった筈なのに、埋まらないその差。
【4-2】
──くそくそくそくそッ。どうやったら勝てるんだ。お姉ちゃんはどうやって戦った。欲しい、携帯が欲しいッ──
【6-3】
──携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯ッ──
楓の頭の中の八割を占める携帯への熱き思い。飽くなきまでの物欲。
残りの二割でどうやったら海香に勝てるのかを考える。
そうやって弾き出された楓の一撃──
────────ッ!!
【6-4】
驚いたのは受けた海香だけでは無い。
念珠崎ベンチも今の打球がこれまでの物とは違ったという事に瞬時に気がついた。それは海香のレシーブを見れば一目瞭然だった。
更にはチームメイトである甘芽中のベンチもその一撃に目を見張った。
「な……なんや今のは……」
「あれは────、」
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