78 / 96
第三章 【誓】
まだまだ
しおりを挟む──第二セット──
海香優勢は変わらず試合は進んで行く。
【4-2】
「可能性って……勝つ可能性ですか?」
「そう。乃百合ちゃんはさ、打球が重いとか、何故か相手のコートまでボールが返らないとかって経験ある?」
「えっ……あります、沢山……」
その質問に対して真っ先に思い浮かんだのが、レギュラー選抜大会での南先輩のカットボールだった。
「気持ちのこもったボールは重い。速い。そして時には奇跡を起こす。理不尽なネットインも、エッジボールもそう。ボールには意思が宿ると私は思ってる。これまでの練習や、努力、思い、願い、そういったものが実力差をひっくり返す、大きな要因になると私は思っている。まぁ非科学的なんだけどね。私はあの子からそういった物を感じない」
【6-3】
海香のドライブ──
曲がって曲がるカーブドライブ。
──原海香……お姉ちゃんに勝った人……この人に勝てば、携帯が手に入る──
しかし楓は海香に苦戦していた。姉の凪咲とは違ったプレイスタイル。
団体戦に出れば活躍できると思っていた。県内最強の甘芽中メンバーと戦わずに済むからだ。
だが結果は違った。この地区には自分よりも強い者が数人居て、それぞれが個性溢れるプレイスタイルを築き上げている。
【7-4】
──なんだよ……原海香、私は携帯が欲しいんだ。邪魔をするな──
この試合、何度も海香に送られた凪咲のツッツキ攻撃。これは海香からカウンターを取る為に撒いている餌である。
思惑通り海香のドライブが飛んでくるのに合わせ、楓のカウンタードライブが炸裂する。
と、ここまでが楓の得点パターンである。が、パターン化しているが故、海香に通用しなくなっていた。来るとわかっている球を返せない海香では無い。
──だったら。これでどうだ──
カウンターを返した海香に対し、再びそれをカウンターで返す二段構え。
【8-5】
打った瞬間、次のスイングを始めるほどの速い動き出し。余程の自信と確信が無ければ出来ない卓球──
──うわぁこれは驚いたなー。このまま終わると思いきや、さすが凪咲さん自慢の妹さんだね。だけどまだまだ。卓球は才能だけじゃ勝てないんだなー──
海香の技術の高さは、ドライブに限ったことでは無い。
相手のスマッシュを狙い、ネットすれすれに落とす【ストップ】を打ち込んだ。
【ストップ】ネット側すれすれの位置に低く落とす技術。相手が後ろがかりになっている時に使うと効果的。
意表を突かれた楓が前に出るも、時既に遅し──
【9-6】
力の差は歴然である。
このまま終わると誰もが思っていたが、楓はこのまま終わらせまいと考えていた。
──原海香を倒せば携帯が手に入る。お母さんもお姉ちゃんも認めてくれる。ここで負けたら、今までのつまらない練習が全て無駄になってしまうじゃないか……そんなのあんまりだ──
海香の遠目からのスピードドライブに対し、体を前に出した楓が見せた一撃──
「あっストップッ!」
思わず念珠崎ベンチからも声が上がった。
海香が見せたストップを再現したかの様な楓のストップ。海香程の回転力のあるドライブをストップするのは、並大抵の選手では出来ない技術である。
──凄い凄い! どんどん上手くなっていく! やっぱり才能だけはピカイチだねー! それでも、私はまだまだ負けないよ!──
海香との試合の中で、考え、技術を盗み、動きもシャープになっていく楓。
楓の一番の武器、それは "伸び代" である。
試合を開始したほんの十数分前より、遊佐楓は格段に上手くなっている。
先ほど覚えたストップを、オモチャを手に入れた子供のように連発する楓。
ストップ──
ストップ──
ストップ──
からのカウンタースマッシュ──
【10-7】
それでもまだ足りない。
力の差を埋めるには及ばない。
成長を見せるも、一歩及ばず楓はこのセットをも落とした。
【11-7】
セットカウント【2-0】
──第三セット──
最終セットを迎えるにあたり、楓の心の中は煮えくり返っていた。
──なんで邪魔をするんだ。携帯が欲しいだけなんだ。諦めない……諦めないぞ……まだ試合は続いているんだ。そうだ、絶対に勝つんだ──
ツッツキとストップ、ドライブとカウンター連打。攻撃の幅が広がった筈なのに、埋まらないその差。
【4-2】
──くそくそくそくそッ。どうやったら勝てるんだ。お姉ちゃんはどうやって戦った。欲しい、携帯が欲しいッ──
【6-3】
──携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯携帯ッ──
楓の頭の中の八割を占める携帯への熱き思い。飽くなきまでの物欲。
残りの二割でどうやったら海香に勝てるのかを考える。
そうやって弾き出された楓の一撃──
────────ッ!!
【6-4】
驚いたのは受けた海香だけでは無い。
念珠崎ベンチも今の打球がこれまでの物とは違ったという事に瞬時に気がついた。それは海香のレシーブを見れば一目瞭然だった。
更にはチームメイトである甘芽中のベンチもその一撃に目を見張った。
「な……なんや今のは……」
「あれは────、」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
美少女に恐喝されてフットサル部入ったけど、正直もう辞めたい
平山安芸
青春
史上最高の逸材と謳われた天才サッカー少年、ハルト。
とあるきっかけで表舞台から姿を消した彼は、ひょんなことから学校一の美少女と名高い長瀬愛莉(ナガセアイリ)に目を付けられ、半ば強引にフットサル部の一員となってしまう。
何故か集まったメンバーは、ハルトを除いて女の子ばかり。かと思ったら、練習場所を賭けていきなりサッカー部と対決することに。未来を掴み損ねた少年の日常は、少女たちとの出会いを機に少しずつ変わり始める。
恋も部活も。生きることさえ、いつだって全力。ハーフタイム無しの人生を突っ走れ。部活モノ系甘々青春ラブコメ、人知れずキックオフ。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる