64 / 96
第三章 【誓】
これが現実
しおりを挟む
──第三試合──
第三試合。
卓球台を挟んで両者が向かい合っているのだが、対戦相手の双子の夢と叶は、コソコソお喋りに夢中な様子だ。
時折こちらを見ては、クスクス笑う仕草も見受けられる。
「海香先輩、なんか……」
「まー、気にしない気にしない」
前出の選手同様、感じの悪い雰囲気に包まれながらも、試合は始まる──、
──念珠崎ベンチ──
「桜先輩、あの双子本当にそっくりですね……」
「片倉夢と片倉叶。双子のペアという事で、私達の世代じゃ有名なんだよね。でもそこまでの実績のあるペアでは無いよ。決して勝てない相手じゃ無いと、私は思うけど……」
「どんな卓球をするんですか?」
「んー。前に見た時は、ピッタリと息の合ったコンビネーションで、攻撃と守りの役割がハッキリとしたペアって印象だったかなぁ」
白球を目で追いながら、桜はブッケンの質問に答えた。
この試合に勝てば、いよいよ決勝が見えて来る。逆に落とせば一気に崖っぷちに立たされる一戦──、
姉の夢のドライブ。
卓上に着くなり加速したボールが和子の横をすり抜けていく。
【0ー2】
攻撃担当は姉の夢。
見るからに得点の取りやすい、和子のレシーブ側に照準を絞って攻めてきているようだ。
「わっ子ちゃん、硬いよー。リラックスリラックスー」
得点を許しても気落ちしないように、海香は和子に声をかけたが、和子の耳に届いている様子は無い。
まだ始まったばかりだというのに、息は上がり、動きもぎこちなく明らかに緊張している様子である。
ならばと海香は、一気に攻撃に転じた。和子に攻撃が及ぶ前に、夢に向けての先制攻撃。得意のドライブを、夢の懐深くに打ち込んだ。
海香のドライブが夢のラケットに当たった瞬間、そのラケットを駆け上るかのように、上に上にボールがよじ登って来るのを夢は抑えきれず、堪らずコート外へと弾き飛ばしてしまった。
たったの一撃で海香のドライブの異常さを思い知らされた夢。
──なにこれ……こんなのあり!? 違反ラバーでも使ってるんじゃ無いの!?──
そう思うのも無理が無いほど、海香のドライブは中学生の中では群を抜いている。
【1ー2】
少しでも甘く入ればすかさず海香のドライブが飛んでくる。
逆に、海香のボールが甘くなれば、和子を狙い得点を決めるチャンスが巡って来る展開。
【3ー5】
【5ー8】
縮まらない差。
いかに海香といえども、これはダブルス。自分一人ではどうにもならない失点もある。一人で勝てる程甘くは無い。
海香と和子の体が交錯し、バランスを崩せば次の攻撃もうまくはいかない。
対して夢、叶えペアは完璧な動き。まるで相手の考えている事がわかっているかのような、時には一人でやっているかと錯覚するような無駄のないその動き。
──でも、勝つためには得点するしか無いんだよねーっと──
海香の無理な体制からのカーブドライブ。鋭いカーブを描き、着弾とともにさらに曲がる桁外れの変化。
それを、夢がなんとか食らいつきラケットに当てるも、回転に負け明後日の方へとボールが弾け飛んでいく。
「あぁぁっ! もぅ! 馬鹿みたいに回転かけてぇぇ!」
夢は堪らず声を荒げた。
──ドライブマンは冬に強くなる。
卓球界にはこんな言葉がある。
これは迷信ではなく、実際にそうなる事も珍しくない。それは──、
湿度の高い夏場、ボールとラケットの間の摩擦が落ちるのに対し、乾燥する冬場は摩擦力が上がり、それに比例するようにドライブの回転数が上がるのだ。
回転数で勝負するドライブマンにとって、冬場は正に天国なのだ。
【6ー8】
「夢、ちょっといい?」
「ん?」
夢と叶の体を寄せての短い作戦会議。
小さな声のやりとりは、当然、他の者たちには聞こえてこない。
「よし。わかった。あとは任せて!」
「じゃあ、基本的には今まで通りで」
不適な浮かべた瓜二つの顔。
この二人には海香を封じ込める秘策があるのだろうか──
再開後。
海香のカーブドライブ。
強烈な回転から来る鋭い変化だが、体制不十分からの打球はコースが甘く、これは夢の守備範囲内。
先ほど同様、夢のラケットにぶつかりラケットの中で暴れだす。
だが、今回は弾け飛ぶことはなく、上手く回転を抑え込まれ、和子の元へと返ってきた。
「はわわわわ」
返ってきたボールを焦ったようなスイングで迎え撃つも、和子には相手コートに返す事ができず──
【6ー9】
この得点がターニングポイントとなり、念珠崎はその後一気に攻め込まれ、このセットを落とした。
【7ー11】
これでセットカウントは【0ー1】
第一セットが終わると、両者はコートをチェンジするために場所を入れ替える。
散々攻め込まれ、多くのミスを重ねてしまった和子は、下を向く事しかできなかった。
そんな和子に、海香が優しい言葉をかけるより先──
「やっぱりね! ど素人だね!」
「こっちを狙ってれば間違いないよね!」
すれ違いざまに投げかけられた、夢と叶の心無い言葉。
あまりにも辛い現実。それでも試合は続く──
第三試合。
卓球台を挟んで両者が向かい合っているのだが、対戦相手の双子の夢と叶は、コソコソお喋りに夢中な様子だ。
時折こちらを見ては、クスクス笑う仕草も見受けられる。
「海香先輩、なんか……」
「まー、気にしない気にしない」
前出の選手同様、感じの悪い雰囲気に包まれながらも、試合は始まる──、
──念珠崎ベンチ──
「桜先輩、あの双子本当にそっくりですね……」
「片倉夢と片倉叶。双子のペアという事で、私達の世代じゃ有名なんだよね。でもそこまでの実績のあるペアでは無いよ。決して勝てない相手じゃ無いと、私は思うけど……」
「どんな卓球をするんですか?」
「んー。前に見た時は、ピッタリと息の合ったコンビネーションで、攻撃と守りの役割がハッキリとしたペアって印象だったかなぁ」
白球を目で追いながら、桜はブッケンの質問に答えた。
この試合に勝てば、いよいよ決勝が見えて来る。逆に落とせば一気に崖っぷちに立たされる一戦──、
姉の夢のドライブ。
卓上に着くなり加速したボールが和子の横をすり抜けていく。
【0ー2】
攻撃担当は姉の夢。
見るからに得点の取りやすい、和子のレシーブ側に照準を絞って攻めてきているようだ。
「わっ子ちゃん、硬いよー。リラックスリラックスー」
得点を許しても気落ちしないように、海香は和子に声をかけたが、和子の耳に届いている様子は無い。
まだ始まったばかりだというのに、息は上がり、動きもぎこちなく明らかに緊張している様子である。
ならばと海香は、一気に攻撃に転じた。和子に攻撃が及ぶ前に、夢に向けての先制攻撃。得意のドライブを、夢の懐深くに打ち込んだ。
海香のドライブが夢のラケットに当たった瞬間、そのラケットを駆け上るかのように、上に上にボールがよじ登って来るのを夢は抑えきれず、堪らずコート外へと弾き飛ばしてしまった。
たったの一撃で海香のドライブの異常さを思い知らされた夢。
──なにこれ……こんなのあり!? 違反ラバーでも使ってるんじゃ無いの!?──
そう思うのも無理が無いほど、海香のドライブは中学生の中では群を抜いている。
【1ー2】
少しでも甘く入ればすかさず海香のドライブが飛んでくる。
逆に、海香のボールが甘くなれば、和子を狙い得点を決めるチャンスが巡って来る展開。
【3ー5】
【5ー8】
縮まらない差。
いかに海香といえども、これはダブルス。自分一人ではどうにもならない失点もある。一人で勝てる程甘くは無い。
海香と和子の体が交錯し、バランスを崩せば次の攻撃もうまくはいかない。
対して夢、叶えペアは完璧な動き。まるで相手の考えている事がわかっているかのような、時には一人でやっているかと錯覚するような無駄のないその動き。
──でも、勝つためには得点するしか無いんだよねーっと──
海香の無理な体制からのカーブドライブ。鋭いカーブを描き、着弾とともにさらに曲がる桁外れの変化。
それを、夢がなんとか食らいつきラケットに当てるも、回転に負け明後日の方へとボールが弾け飛んでいく。
「あぁぁっ! もぅ! 馬鹿みたいに回転かけてぇぇ!」
夢は堪らず声を荒げた。
──ドライブマンは冬に強くなる。
卓球界にはこんな言葉がある。
これは迷信ではなく、実際にそうなる事も珍しくない。それは──、
湿度の高い夏場、ボールとラケットの間の摩擦が落ちるのに対し、乾燥する冬場は摩擦力が上がり、それに比例するようにドライブの回転数が上がるのだ。
回転数で勝負するドライブマンにとって、冬場は正に天国なのだ。
【6ー8】
「夢、ちょっといい?」
「ん?」
夢と叶の体を寄せての短い作戦会議。
小さな声のやりとりは、当然、他の者たちには聞こえてこない。
「よし。わかった。あとは任せて!」
「じゃあ、基本的には今まで通りで」
不適な浮かべた瓜二つの顔。
この二人には海香を封じ込める秘策があるのだろうか──
再開後。
海香のカーブドライブ。
強烈な回転から来る鋭い変化だが、体制不十分からの打球はコースが甘く、これは夢の守備範囲内。
先ほど同様、夢のラケットにぶつかりラケットの中で暴れだす。
だが、今回は弾け飛ぶことはなく、上手く回転を抑え込まれ、和子の元へと返ってきた。
「はわわわわ」
返ってきたボールを焦ったようなスイングで迎え撃つも、和子には相手コートに返す事ができず──
【6ー9】
この得点がターニングポイントとなり、念珠崎はその後一気に攻め込まれ、このセットを落とした。
【7ー11】
これでセットカウントは【0ー1】
第一セットが終わると、両者はコートをチェンジするために場所を入れ替える。
散々攻め込まれ、多くのミスを重ねてしまった和子は、下を向く事しかできなかった。
そんな和子に、海香が優しい言葉をかけるより先──
「やっぱりね! ど素人だね!」
「こっちを狙ってれば間違いないよね!」
すれ違いざまに投げかけられた、夢と叶の心無い言葉。
あまりにも辛い現実。それでも試合は続く──
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
サンタの教えてくれたこと
いっき
ライト文芸
サンタは……今の僕を、見てくれているだろうか?
僕達がサンタに与えた苦痛を……その上の死を、許してくれているだろうか?
僕には分からない。だけれども、僕が獣医として働く限り……生きている限り。決して、一時もサンタのことを忘れることはないだろう。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
うちでのサンタさん
うてな
ライト文芸
【クリスマスなので書いてみました。】
僕には人並み外れた、ある能力を持っていた。
それは『物なら一瞬にして生成できてしまう』能力だ。
その能力があれば金さえも一瞬で作れてしまう、正に万能な能力だった。
そして僕はその能力を使って毎年、昔に世話になった孤児院の子供達にプレゼントを送っている。
今年も例年通りにサンタ役を買って出たんだけど…。
僕の能力では到底叶えられない、そんな願いを受け取ってしまう…
僕と、一人の男の子の
クリスマスストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる