しぇいく!

風浦らの

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第二章【越】

卓球が好き

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    【藤島桜・一年生の春】

    この春から桜は念珠崎中学校に入学してきた。
    小学生の時にクラブで卓球をやっていた桜は、中学にあがっても卓球を続けようと決めていた。

    仮入部という制度を利用し、女子卓球部の活動している体育館へと行ってみると、既に数人の一年生が見学をしていた。
    その中には、別のクラブで見た事のある生徒も何人かおり、この人達とこれから同じチームになるんだと思うと、少しワクワクしていた。

    ──あれって『原海香』だよね……うわぁ、本物のだ……──

    小学生時代、圧倒的存在感を放っていた海香を前に桜はドキドキした。六年生になった時の海香のプレーは、当時同じ地区でやっていた桜達にとって憧れの存在だった。

    そんな一年生達が、壁際に張り付いたように並んで立つ姿はを見て、当時二年生だった築山文が部長に声をかけた。

     「部長、新入生にも少し練習させてもいいですか?   見ているだけでは、少し退屈かと……」
     「ん?   ああ、そうだね。文のそういう気がつく所、流石だよね!   間違いなくいいお嫁さんになるよ」
    「もう!   部長、からかわないで下さい」

    人数こそ少ないが、明るく楽しそうな雰囲気の部だ。そんな中でも、引き締めるところはしっかりと引き締まった雰囲気がある。

    築山文からラケットを配られた一年生は、好きなように打っていいと指示を受け、少し離れた場所を借り、皆思い思いに卓球台と向き合った。
    経験者を含め、見学に来た一年生は8人程度。その中でも特に目立っていたのが『興屋まひる』である。
    目立つのは結構な事だが、その目立ち方がまた悪目立ちだ。片っ端から声をかけ、素人お構い無しに対戦を申し込んでいた。
    当然、当時から力のあったまひるは連戦連勝。そして遂にまひるは桜の元までやって来た。

    「おまえ、確か──、」
    「藤島桜だよ。私も興屋さんを試合で見た事あるよ」
    「経験者か、面白ぇ!」

    突如始まる5点先取マッチ。
    桜はどうにも負けたくなかった。それは負けていった一年生達が皆、暗い顔をしていたからだ。ここでまひるを倒し、彼女達の無念を晴らす。それが桜の想いだった。

    が──、

    【2-5】

    結果、身体能力の差を見せつけられ桜は完敗した。

    「よわ。もうちょっと練習して来い」
    「…………」

    その後、海香に負けるまでまひるの一年生破りは続いた。

    ■■■■

   ──次の日──

    桜はこの日、卓球部の見学に行くかどうか迷っていた。
    小学生の時に始めた卓球を中学でも続けようと思っていたが、その自信が失われつつあった。
    小学校の時は、クラブ自体が卓球か文化系しか無かったからであって、中学校には他にも沢山の部活動がある。そのため、中学では卓球をやらないという子が桜の周りにも少なくない。
   そして昨日のまひるとの一戦──、桜にはそれ程までしての卓球への情熱は無く、この際、何か新しい事に挑戦するのも悪くない気がしていた。
    そんな風に迷いながら廊下を歩いていた桜だったが、後ろから走って来た女の子に声をかけられた。

   「あ、確か……桜ちゃん?」
   「あ……原、海香……ちゃん」
   「今日も見学?   一緒に行こうよー」
   「あ、いや……その」

    結局断りきれず、この日も流されるように卓球部の見学にやって来た桜。
    体育館へとやって来ると、昨日とは違った景色がそこにはあった。
    見学に来ていた大勢の一年生が、この日はたったの一人だけ。その一人とは勿論、まひるの事だ。

    「あの、興屋さん、今日は他の人はまだ来てないの?」
    「多分、もう来ねぇだろーよ。あいつら逃げ出したんだぜ」
    
    ツンとした態度のまひるを見て、桜は直観的に何かあったのだろうと予想した。恐らくそれは、昨日の出来事がきっかけで、直接、まひるに卓球部には入らないと言った者が居たのだろう。

    「あらら。まひるちゃんがやり過ぎたからじゃないかなー?」
    「なっ!    別に俺は……それにあれくらいで辞めるようなら、この先どうせ続かねぇだろーよ。その程度の気持ちの奴らとなんか、一緒にやってられっかよ。それに、原海香。おまえのチームメイトはどうしたよ?   一人も見学にさえ来てねぇだろ。結構、上手かったよな?」

    まひるの質問に対し、普段は自信と笑顔に溢れた海香の顔に、一瞬にして影が落ちた。
    それを見ていた桜とまひるは、同時に聞いてはいけない事を聞いてしまったと思った。

    「私のチームメイトは……もう、卓球やらないんだってー。全部、私のせいなんだ。私が悪いの。私が皆から卓球を奪っちゃったんだよー」
    「そ、それはいくらなんでも言い過ぎじゃないの?」
    
    慌てて取り繕った桜だったが、海香は再び明るい表情を作って前を向いた。

    「言い過ぎなんかじゃないよー。でもね。私は辞めないんだー。だって、卓球が好きだから。もし卓球がこの世から無くなったら、私死んじゃうかもー。なんてね」

    ──この娘、本当に強いんだ──

    この時は、それ以上聞く事が出来なかったが、桜は海香の強さに惹かれていった。卓球も抜群に上手くて、可愛くて、心の強さも持っている女の子。そんな海香と、この先三年間一緒に卓球をやってみたいと思った。

   「俺だって卓球が好きだぜ。海香にだって負けてねー。そんでもって、卓球だって負けねぇ!     おまえはどうなんだよ、桜」
   「えっ、わ、私は──、」
   「好きって言えよ、好きなんだろ?    卓球。今日も来たって事はそういう事だろ」
   「んー。模索中?    かな、あははは」
   「んだよ、それ」

    結局、この年に入部したのは『藤島桜』『興屋まひる』『原海香』の三人だけだった。だが、後にこの三人は誰もが羨む程仲良しとなり、念珠崎チームを支える本物の仲間となった。

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