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第二章【越】
トリックスター
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桜の相手『酒田夜宵』は、この地区の女子中学生の間ではちょっとした有名選手である。その独特のプレースタイルや、思いもよらないラケットの使い方に『トリックスター』というあだ名が付けられており、強さは別として見た者の記憶に残る試合をする。
ただ、桜はそこにこそ勝ちを見出している。
桜の持つ【アンチラバー】は、相手の回転の影響を極限まで受けない加工がなされており、夜宵の回転を考えずに戦うことが出来るからだ。
仮に対戦相手が逆だった場合より、ずっと勝つ可能性は高い。月裏中の最大のオーダーミスは、四番目に鶴岡琴女を持って来なかった事──、
挨拶と握手を交わした後、お互いラケットを交換し合い、確認をとる。
「うぇっ!? アンチラバー!?」
チェックの際、驚いた様な声をあげた酒田夜宵。
桜の思った通り。
桜は目立った戦績の無い選手だ。
先の全中でもレギュラーメンバーから外れ、個人戦でも二回戦止まり。月裏中にとってはダークホース中のダークホース。藤島桜がアンチラバー使いだということは、月裏中の中でもまだ知れ渡っていない事実で、念珠崎の秘密兵器である。
だからこそ、相手をあっと言わせる事ができる。
──いくよ相棒。頼んだよ──
桜がつるつるのラケットを優しく撫でると、審判が試合開始を告げた。
「藤島さん対酒田さん、第四ゲーム、酒田さんサービス、0-0」
最初のサーブは夜宵からだ。得意のジャイロサーブを繰り出し、先ずは藤島桜のお手並み拝見と言ったところだ。
横回転をこれでもかとかけられた打球は、桜のコートに着くなり直角に曲がった。普通のサーブではまずありえない角度の曲がり方である。
しかし桜はそれを冷静に対処した。打球の動きに合わせてラケットを差し出すと、いとも簡単に相手コートに返って行った。
アンチラバーの『回転の影響を受けない』という特性が発揮されたのだ。
更に打球は、充分な回転力を残したまま、今度は夜宵に対して牙を剥く。自分の攻撃が自分に返ってくるという特大ブーメランである。
【1-0】
夜宵はその打球処理を誤り、桜が先制点をもぎ取った。
「ふえー、面白いね! 成程ね【粒高】と同じ様なものだね」
夜宵の言う通り、粒高ラバーにも打球反転能力がある。しかし、アンチラバーと粒高ラバーの最大の違いは『ラケットにボールが食い込む』所にある。
桜はそこにこそ、アンチラバーの魅力を見出していた。
──アンチラバーの力はこんな物じゃないよ。努力で手に入れた技術で、ビックリさせてやるんだから。そして必ず皆で県大会へ──
続く夜宵のサーブは、まひると和子を苦しめたアップダウンサーブ。桜にとってはこのサーブはさほど脅威では無い。上回転か下回転か考える事もなく、ブロックで返球してみせた。
そしてラリーへと展開していく。夜宵は、ラリー中、回転力を抑えた打球で桜を揺さぶった。
右へ左へ──、
──速いッ、次は……えっ……──
夜宵の目線とは逆側に送られたボールに桜は反応できず、ボールを後ろに逸らした。
【1-1】
ノールックで鋭い打球を飛ばして相手の裏を突く、意表をついた一撃。
──流石にやりにくいな。でも負けられない──
【2-3】
前半戦、得意のトリッキーな回転で勝負を挑んで来ない夜宵。それでも彼女の力は桜の予想を上回っていた。
八球続いたラリーの末、桜の放った打球に対し諦めた様に棒立ちになった夜宵につられ、桜の動きも止まる。そして次の瞬間、止まった桜の横を返ってきたボールが抜けていった。
「なっ!?」
「気を抜いたらダメだよ」
それはノーモーションのショットだった。
してやったりと笑顔を見せた夜宵に対して、桜は目を閉じ今のプレーへの後悔の表情を浮かべた。
──トリックスターとは言ったものだね。次は騙されないようにしないと──
【3-5】
その後も続く変幻自在で自由奔放なプレーに桜は終始圧倒された。思いもしなかった角度から飛び出すショットや曲がり方の読めない独特の回転に、ボールに食らいつくのが精一杯。
【6-11】
そしてこのセットを奪われ、先制を許してしまう。
しかし桜はまだ焦っていない。桜の戦いは、ここからが本番なのだ。
セットカウントは【0-1】
──下準備は出来た。このセットを取れたらラッキーだったけど、そんなに甘い相手じゃないよね──
気持ちを立て直すように髪をかきあげ、耳にかけた桜。コートチェンジの際に、夜宵に一声かけた。
「凄いね。でも、次は夜宵さんが驚く番だよ。この子の力を見せてあげるよ」
「それは楽しみだね! そう来なくっちゃ面白くないよね!」
桜の『開花宣言』。撒かれた種が芽吹くのはここからだ。
この後、勝利の女神はどちらに微笑んでくれるのか。
ただ、桜はそこにこそ勝ちを見出している。
桜の持つ【アンチラバー】は、相手の回転の影響を極限まで受けない加工がなされており、夜宵の回転を考えずに戦うことが出来るからだ。
仮に対戦相手が逆だった場合より、ずっと勝つ可能性は高い。月裏中の最大のオーダーミスは、四番目に鶴岡琴女を持って来なかった事──、
挨拶と握手を交わした後、お互いラケットを交換し合い、確認をとる。
「うぇっ!? アンチラバー!?」
チェックの際、驚いた様な声をあげた酒田夜宵。
桜の思った通り。
桜は目立った戦績の無い選手だ。
先の全中でもレギュラーメンバーから外れ、個人戦でも二回戦止まり。月裏中にとってはダークホース中のダークホース。藤島桜がアンチラバー使いだということは、月裏中の中でもまだ知れ渡っていない事実で、念珠崎の秘密兵器である。
だからこそ、相手をあっと言わせる事ができる。
──いくよ相棒。頼んだよ──
桜がつるつるのラケットを優しく撫でると、審判が試合開始を告げた。
「藤島さん対酒田さん、第四ゲーム、酒田さんサービス、0-0」
最初のサーブは夜宵からだ。得意のジャイロサーブを繰り出し、先ずは藤島桜のお手並み拝見と言ったところだ。
横回転をこれでもかとかけられた打球は、桜のコートに着くなり直角に曲がった。普通のサーブではまずありえない角度の曲がり方である。
しかし桜はそれを冷静に対処した。打球の動きに合わせてラケットを差し出すと、いとも簡単に相手コートに返って行った。
アンチラバーの『回転の影響を受けない』という特性が発揮されたのだ。
更に打球は、充分な回転力を残したまま、今度は夜宵に対して牙を剥く。自分の攻撃が自分に返ってくるという特大ブーメランである。
【1-0】
夜宵はその打球処理を誤り、桜が先制点をもぎ取った。
「ふえー、面白いね! 成程ね【粒高】と同じ様なものだね」
夜宵の言う通り、粒高ラバーにも打球反転能力がある。しかし、アンチラバーと粒高ラバーの最大の違いは『ラケットにボールが食い込む』所にある。
桜はそこにこそ、アンチラバーの魅力を見出していた。
──アンチラバーの力はこんな物じゃないよ。努力で手に入れた技術で、ビックリさせてやるんだから。そして必ず皆で県大会へ──
続く夜宵のサーブは、まひると和子を苦しめたアップダウンサーブ。桜にとってはこのサーブはさほど脅威では無い。上回転か下回転か考える事もなく、ブロックで返球してみせた。
そしてラリーへと展開していく。夜宵は、ラリー中、回転力を抑えた打球で桜を揺さぶった。
右へ左へ──、
──速いッ、次は……えっ……──
夜宵の目線とは逆側に送られたボールに桜は反応できず、ボールを後ろに逸らした。
【1-1】
ノールックで鋭い打球を飛ばして相手の裏を突く、意表をついた一撃。
──流石にやりにくいな。でも負けられない──
【2-3】
前半戦、得意のトリッキーな回転で勝負を挑んで来ない夜宵。それでも彼女の力は桜の予想を上回っていた。
八球続いたラリーの末、桜の放った打球に対し諦めた様に棒立ちになった夜宵につられ、桜の動きも止まる。そして次の瞬間、止まった桜の横を返ってきたボールが抜けていった。
「なっ!?」
「気を抜いたらダメだよ」
それはノーモーションのショットだった。
してやったりと笑顔を見せた夜宵に対して、桜は目を閉じ今のプレーへの後悔の表情を浮かべた。
──トリックスターとは言ったものだね。次は騙されないようにしないと──
【3-5】
その後も続く変幻自在で自由奔放なプレーに桜は終始圧倒された。思いもしなかった角度から飛び出すショットや曲がり方の読めない独特の回転に、ボールに食らいつくのが精一杯。
【6-11】
そしてこのセットを奪われ、先制を許してしまう。
しかし桜はまだ焦っていない。桜の戦いは、ここからが本番なのだ。
セットカウントは【0-1】
──下準備は出来た。このセットを取れたらラッキーだったけど、そんなに甘い相手じゃないよね──
気持ちを立て直すように髪をかきあげ、耳にかけた桜。コートチェンジの際に、夜宵に一声かけた。
「凄いね。でも、次は夜宵さんが驚く番だよ。この子の力を見せてあげるよ」
「それは楽しみだね! そう来なくっちゃ面白くないよね!」
桜の『開花宣言』。撒かれた種が芽吹くのはここからだ。
この後、勝利の女神はどちらに微笑んでくれるのか。
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