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第二章【越】
信じて
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──第二セット──
まひる&和子の地獄はまだまだ続く。
いつもの様に思い切ったスイングの出来ないまひる達は、夜宵の変則プレーと琴女のハイレベルな攻撃を前に何も出来ずにいた。
セットが変わると、サーブを受ける相手も変わる。それが卓球のダブルスにおけるルールだ。それに伴い、それぞれレシーブする相手もまた違って来る。
酒田夜宵の変則サーブ。
夜宵はラケットにボールが当たる瞬間、ラケットを上下に素早く動かした。
──上か、下か……──
そうする事で、上回転か下回転か判断するのに迷いが生じる。これには流石のまひるも、対応を誤る事も少なくない。
【アップダウンサーブ】ボールにラケットが当たる瞬間、素早く上下に動かす事で、時に上回転、時に下回転と全く違う回転をかける技術。
「くっそ……」
中途半端なレシーブは、攻撃的な鶴岡琴女の格好の餌食だ。溜めに溜めた鋭く曲がるロングチキータが和子を襲うも、和子にそれを返す技術は無い。例え運良くボールに触れた所で、その回転を抑えて相手コートに返す事が出来なかった。
一方的な展開に、プレーしている本人達は勿論、それを見守る者達も地獄を味わっていた。
【0-4】
まひるが本調子であるならば、あるいはここまでの展開にはならなかったのかも知れないが──、
そんな中、念珠崎ベンチでは桜が乃百合に目配せをしていた。それを感じ取った乃百合は、大きく頷き無言で返事を返した。
「あの、先生。タイムアウトも任せてくれと言われてるし、まっひーは怒ると思うんですけど、もう──、」
「いいんだな?」
「それがベストです」
この一言に、顧問の先生が動き出す。
審判に試合の中断を申し入れ、続けて試合の『途中棄権』を申し入れた。
当然まひるは納得した様子を見せず、顧問の先生に勢いよく詰め寄った。
「先生! なんで最後までやらせてくれねーんだよ! 確かに、勝ち目は無かったかも知れねーけど……最後まで何があるか──、」
「私がお願いしたんだよ」
まひるの言葉を遮るように桜が割って入った。
熱くなったまひるにも負けない、凛とした態度で迎え撃つ。
「桜ッ、この試合がどれだけ大切か分かってんだろ! 勝てば県大会なんだよ!」
「勝てばね。勝てるの?」
「ったりめぇだ!」
「その手で?」
「────ッ」
まひるは思わず手首を左手で庇った。
チームメイトには気づかれないようにプレイしていたつもりだったが、どうやら皆にはバレバレだったようだ。
「試合前、まっひー言ってたよね。海香に教えてやるんだって。「お前が負けても俺達が居るから大丈夫」って。それ、まっひーも同じだよ」
「同じ……」
「後ろには私と乃百合ちゃんが居る。例えこの試合を棄権したとしても、まだ二試合ある。私達がなんとかするよ。信じて」
「俺は……それでも一球でも……」
「それに、まだまだまっひーの力が必要になって来るんだよ。今はそれ以上悪化させないように、しっかり手当しておくよーに。この大会、天辺までまで駆け上がるんだよね」
「…………」
まひるはそれでも尚、自分を責めずにはいられなかった。もっとチームに貢献出来た筈、一球でも多く相手を動かして次に繋げたかった。これは下を向いて然るべき結果だった。
「まっひー先輩。私達、勝ちますよ? なーにしょぼくれてんですか。部長が辛気臭いと勝てるものも勝てないですって」
「普通の相手ならな。お前も見ただろ。あの二人はハッキリ言って強ええ。特に乃百合の相手はあの『鶴岡琴女』だ。どう贔屓目に見ても分が悪い──、」
「それを倒すのがいいんじゃないですか! これは団体戦です。一人で戦ってるようでも実は違う。私はまっひー先輩の頑張りに力を貰いました。だから、勝てるんです」
「…………なんだそりゃ。まー、お前達がそこまで言うんだったら納得しねぇ訳にはいかねーよな。桜、乃百合、後は任せた」
まひるはこの時、築山文の言葉を思い出していた。『主人公補正』──、それを不思議と期待をしてしまう自分が居た。
そして仲間を信じる心。
桜なら、乃百合ならやってくれると気付かされた。
団体戦は皆で戦う競技である。一人が負けても、他のメンバーが必ず勝ってくれる。そんな当たり前のことを見失っていたのだ。
「……わっ子、ゴメンな。俺のせいで辛い試合だっただろ」
「あ、いえ……私の方こそ」
「でも次はそうさせねーから! しっかり応援して、きっちり勝ち上がって、リベンジマッチだぜ!」
「──ッ、はいっ!!」
暗い雰囲気だったチームも、なんとか明るい雰囲気に戻った念珠崎。
しかし状況はそこまで明るくは無い。
これから続く第四試合の酒田真宵。第五試合の鶴岡琴女は小学生だった頃から名の知れた選手で、中学に上がってからも県大会の常連だ。
ハッキリ言って格上。
それでもどちらかに勝たなければ県大会は無い。
相方であるラケットを拾い上げ、桜が決戦の舞台へ向かう。
「それじゃ、次は私の番だね。ビシッと勝ってくるから、応援宜しく!」
「応援任せて下さい!」
「桜先輩ならやれます!」
「あっと言わせるのは得意ですもんね!」
「桜、頼んだぜ」
藤島桜、二年生。シェイク異質型。
いざ第四試合へ──、
まひる&和子の地獄はまだまだ続く。
いつもの様に思い切ったスイングの出来ないまひる達は、夜宵の変則プレーと琴女のハイレベルな攻撃を前に何も出来ずにいた。
セットが変わると、サーブを受ける相手も変わる。それが卓球のダブルスにおけるルールだ。それに伴い、それぞれレシーブする相手もまた違って来る。
酒田夜宵の変則サーブ。
夜宵はラケットにボールが当たる瞬間、ラケットを上下に素早く動かした。
──上か、下か……──
そうする事で、上回転か下回転か判断するのに迷いが生じる。これには流石のまひるも、対応を誤る事も少なくない。
【アップダウンサーブ】ボールにラケットが当たる瞬間、素早く上下に動かす事で、時に上回転、時に下回転と全く違う回転をかける技術。
「くっそ……」
中途半端なレシーブは、攻撃的な鶴岡琴女の格好の餌食だ。溜めに溜めた鋭く曲がるロングチキータが和子を襲うも、和子にそれを返す技術は無い。例え運良くボールに触れた所で、その回転を抑えて相手コートに返す事が出来なかった。
一方的な展開に、プレーしている本人達は勿論、それを見守る者達も地獄を味わっていた。
【0-4】
まひるが本調子であるならば、あるいはここまでの展開にはならなかったのかも知れないが──、
そんな中、念珠崎ベンチでは桜が乃百合に目配せをしていた。それを感じ取った乃百合は、大きく頷き無言で返事を返した。
「あの、先生。タイムアウトも任せてくれと言われてるし、まっひーは怒ると思うんですけど、もう──、」
「いいんだな?」
「それがベストです」
この一言に、顧問の先生が動き出す。
審判に試合の中断を申し入れ、続けて試合の『途中棄権』を申し入れた。
当然まひるは納得した様子を見せず、顧問の先生に勢いよく詰め寄った。
「先生! なんで最後までやらせてくれねーんだよ! 確かに、勝ち目は無かったかも知れねーけど……最後まで何があるか──、」
「私がお願いしたんだよ」
まひるの言葉を遮るように桜が割って入った。
熱くなったまひるにも負けない、凛とした態度で迎え撃つ。
「桜ッ、この試合がどれだけ大切か分かってんだろ! 勝てば県大会なんだよ!」
「勝てばね。勝てるの?」
「ったりめぇだ!」
「その手で?」
「────ッ」
まひるは思わず手首を左手で庇った。
チームメイトには気づかれないようにプレイしていたつもりだったが、どうやら皆にはバレバレだったようだ。
「試合前、まっひー言ってたよね。海香に教えてやるんだって。「お前が負けても俺達が居るから大丈夫」って。それ、まっひーも同じだよ」
「同じ……」
「後ろには私と乃百合ちゃんが居る。例えこの試合を棄権したとしても、まだ二試合ある。私達がなんとかするよ。信じて」
「俺は……それでも一球でも……」
「それに、まだまだまっひーの力が必要になって来るんだよ。今はそれ以上悪化させないように、しっかり手当しておくよーに。この大会、天辺までまで駆け上がるんだよね」
「…………」
まひるはそれでも尚、自分を責めずにはいられなかった。もっとチームに貢献出来た筈、一球でも多く相手を動かして次に繋げたかった。これは下を向いて然るべき結果だった。
「まっひー先輩。私達、勝ちますよ? なーにしょぼくれてんですか。部長が辛気臭いと勝てるものも勝てないですって」
「普通の相手ならな。お前も見ただろ。あの二人はハッキリ言って強ええ。特に乃百合の相手はあの『鶴岡琴女』だ。どう贔屓目に見ても分が悪い──、」
「それを倒すのがいいんじゃないですか! これは団体戦です。一人で戦ってるようでも実は違う。私はまっひー先輩の頑張りに力を貰いました。だから、勝てるんです」
「…………なんだそりゃ。まー、お前達がそこまで言うんだったら納得しねぇ訳にはいかねーよな。桜、乃百合、後は任せた」
まひるはこの時、築山文の言葉を思い出していた。『主人公補正』──、それを不思議と期待をしてしまう自分が居た。
そして仲間を信じる心。
桜なら、乃百合ならやってくれると気付かされた。
団体戦は皆で戦う競技である。一人が負けても、他のメンバーが必ず勝ってくれる。そんな当たり前のことを見失っていたのだ。
「……わっ子、ゴメンな。俺のせいで辛い試合だっただろ」
「あ、いえ……私の方こそ」
「でも次はそうさせねーから! しっかり応援して、きっちり勝ち上がって、リベンジマッチだぜ!」
「──ッ、はいっ!!」
暗い雰囲気だったチームも、なんとか明るい雰囲気に戻った念珠崎。
しかし状況はそこまで明るくは無い。
これから続く第四試合の酒田真宵。第五試合の鶴岡琴女は小学生だった頃から名の知れた選手で、中学に上がってからも県大会の常連だ。
ハッキリ言って格上。
それでもどちらかに勝たなければ県大会は無い。
相方であるラケットを拾い上げ、桜が決戦の舞台へ向かう。
「それじゃ、次は私の番だね。ビシッと勝ってくるから、応援宜しく!」
「応援任せて下さい!」
「桜先輩ならやれます!」
「あっと言わせるのは得意ですもんね!」
「桜、頼んだぜ」
藤島桜、二年生。シェイク異質型。
いざ第四試合へ──、
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