しぇいく!

風浦らの

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第二章【越】

【裏面打法】

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    ──第五セット──

    再開前、左手にラケットを持ち替え、利き手ブラブラさているまひる。疲労は脚のみならず、ラケットを持つその手にまで及んでいた。

    ──やっぱり重てーな。……でもッ!──

    開始早々、まひるにチャンスボールがやって来た。安易に打ってもコースを狙うのが苦手なまひるでは加藤を崩す事は出来ない。そこで必要になってくるのは『予想外』の打球である。
    いつもは回り込んでフォアハンドでスマッシュを撃つことろを、まひるは引き付けてソレをバックハンドで撃ち抜いた。

    「──、裏面打法!?」
    「出すならもっと早く使えばいいのに。三セット目あれで取れたんじゃないの?    少し大人になったなって感心していた所だったのに」

    乃百合は裏面打法に驚いたが、知っていた桜は逆に隠しておいたまひるに呆れた様子だ。

    【裏面打法】実はペンホルダーにも二種類のラケットが存在する。一つは表面にしかラバーを貼っていない物。もう一つはシェクハンドと同じように裏面にもラバーを貼ったものだ。後者はそのおかげで、シェイクハンドの様にバックハンドでも打球を捉える事ができる。

    しかしその性能は一長一短。特にこの位の歳の女の子にとっては、指先で支えて持たなければならないペンホルダーの両面にラバーを貼ると、重さが急激に増し、長時間振り続けると手が疲れてしまうのだ。
    現に和子もまひるの真似をして裏面にラバーを貼ろうとした所、まひるに止められている。

    意表を突いたこの日初めての裏面打法は、鋭く相手コートを突き抜けた。その威力はフォアハンドにも引けを取らない。

    【1-0】

    「うっし!   決めに行くぜッ」

    公式戦で初めて決めた裏面打法に、まひるは手応えを感じていた。

    ──第四セット、丸々休んだ分幾らか体が軽い。長引かせず一気に行くぜ!──

    回り込む手間と、弱点であったバック側をカバーできるようになったまひるはどんどん攻めた。相手に守る余裕さえ与えぬ、怒涛の攻撃。

    【3-1】
    【6-2】
    【8-4】

    「つ、強いですね……更に強くなってますよ」
    「強くなってるのは一年生だけじゃ無いからね」

    乃百合が唸るのも納得のまひるのプレー。強豪月裏中相手にワンサイドゲームは、地区大会レベルを遥かに凌いでいた。
    そして──、

   「っしゃあッ!!」

    【11-5】

    
    セットカウント【3-2】
    相手の心ごとへし折る力技で、まひるは第一試合を制して見せた。拳を高く突き上げ、ベンチを鼓舞する姿は強い部長としてチームを活気づけてくれた。

    勝利を手にし戻って来たまひるをチームメイト達が迎え入れる、かけてくる言葉は皆それぞれだ。

    「なんですか!   まっひー先輩!    カッコよすぎます!」
    「まっひー、なにカッコつけて出し惜しみなんかしてるのよ」
    「まっひー先輩ならやってくれると思ってました!」
    「そういうのがあるなら言ってくれないと困ります!   心臓に悪いです」
    
   その言葉にまひるは戸惑ったが、弾ける笑顔を見た途端に肩を抱き寄せた。

    「ブッケン、次、頼んだぜ。お前ならやれる。俺は知ってる。努力は誰よりもしてきたんだ。自信を持っていけ」
    「まっひー先輩……はい!    精一杯戦ってきます!!」

    激励と共に差し出されたまひるの手を、ブッケンは握り返した。受け継がれるバトンは確かに受け取った。

    「では、行ってきます!」
    「ブッケン、ヘアピンずれてるよ」
    「えっ?」

    乃百合はブッケンのヘアピンを付け直してあげると、背中を押してあげた。
    チームメイトの後押しを受け、六条舞鳥が戦いの舞台へと降り立った。

    「「宜しくお願いします!」」

    対戦相手は背の高い女の子だ。
    全中では四回戦敗退だが、負けた相手はあの遊佐凪咲。組み合わせ次第では県大会に行けたであろう、体躯に恵まれた逸材。

    「六条さん対上浜かみはまさん、第二ゲーム、六条さんサービス、0-0ラブ・オール

    始まる第二試合。
    努力で登りつめる先にあるのは勝利か、それとも──、

    ブッケンのサーブ。
    横にキレる一番得意とするサーブ。
    今までの相手ならば、手を伸ばしバランスを崩したであろうコースを、上浜は完璧にレシーブしてみせた。
    背が高いが故に手も長い。
    他の選手とは届く距離が全然違うのだ。

    「上浜選手って大きいですね」
    「だね。175センチはありそうだね」

    中学生女子としては大きい上浜。
    因みに乃百合とブッケンは153センチ位。一番小さい和子に至っては142センチしかない。
    この体格差は、なんともし難い埋めようのないハンデである。
    しかし卓球は身長が全てでは無い。
    後ろに構え、カットボールで左右に揺さぶり、相手が持ち上げ損なったボールを出した瞬間、一気に間を詰め得意のチキータを繰り出した。

    【0-1】

    「────ッ」

     ブッケンの必殺技とも言えるチキータは、上浜八千代に拾われ、無防備になったブッケンの横をすり抜けた。

    「私の……チキータ……」
    「知ってるよ。使うんだってね。チキータ」


    
    
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