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第二章【越】
パートナー
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事件の後、海香がイップスである事は他の一年生にも伝えられ、この事実を共有し支え合いながらやって行こう、という事で話は纏まった。
あの日以来海香は、笑顔を絶やさず傍から見たら悩みなんて無いような、そんな素振りで振舞っていた。
だが本当の気持ちは誰にも分からない。試合にならなければ、イップスを克服したかどうかも分からない。
それでも日々は流れていく。
これはそんな日常での一幕。
──ある日の休日──
和子は以前まひるに勝負を挑み、勝利した際『なんでもお願いを聞いてやる』というまひるの宣言通り、その権利を行使していた。
「ふふふーっ。まっひー先輩とデート! まっひー先輩とデート!」
「おい、コラくっ付くなよ。おかしいだろ」
「あれれー? なんでもお願いを聞いてくれるんじゃなかったんですか?」
「……そうだけど、これはちょっと違うと言うか……」
和子はまひるに一日デートして欲しいと申し込んでいた。そして休日を利用し、都会である虎岡市にまで二人きりで出向いた。
ショッピングモールでお買い物をしたり、二人で食事をしたり、まるで恋人同士のソレである。
「まっひー先輩! この服どうですか? 和子に似合ってますか?」
「わっ子にそれはまだ早いんじゃねーか? こっちの方が似合うと思うぜ」
服屋さんで大人っぽい服を充て、似合うか聞いた和子に対し、まひるは子供服を指さして答えた。
「んもー! まっひー先輩は女心が全っぜん分かっていないです」
「えっ……」
散策中、和子は雑貨屋さんの前で足を止めた。その目線の先にあるのは『ダダちゃま』という、この地方では有名な枝豆をモチーフにしたマスコットキャラクターのコーナーだ。和子は最近この枝豆キャラクターにハマっていた。
その一角にあるダダちゃまキーホルダーを手に取り、うっとりとした目で眺めている和子。
誰がどう見ても欲しそうである。
凄く欲しそうである。
「──、欲しいんだろ。買ってやるよ」
まひるは和子からダダちゃまキーホルダーを取り上げ、お会計に持っていった。先程の洋服の件の埋め合わせも兼ねて、ここは買ってあげようと思ったのだ。
しかしその後ろを、もう一つ色違いのキーホルダーを持って和子が付いて来る。
──えっ……二つかよ……しょうがねぇな──
値段もそんなに高価な物でもなかった為、まひるは仕方ないとばかりに二つ纏めレジに出す。
当然二つともプレゼントするつもりだったのだが、半分は和子自らお財布からお金を出し、お会計が済むと直ぐにまひるにキーホルダーの一つを手渡してきたのだ。
「くれるのか?」
「はい! お揃いです!」
和子はまひるとお揃いのキーホルダーが欲しかった。
まひるはキラキラした目で見つめてくる和子に勝てず、バックにダダちゃまキーホルダーを付けると、和子は喜びを体全体で表した。
■■■■
日も暮れて、二人はそろそろ帰ろうかと駅前まで戻ってきていた。
だが電車は一時間に一本しかない為、二十分は待たなければならない。仕方無しに噴水の前にあるベンチに腰掛け、時間を潰す事になったのだが、和子が突拍子も無い話を真面目な顔で切り出してきた。
「あの……まっひー先輩……」
「どうした?」
「あの……私の……私の──、」
「ん?」
「パートナーになって下さいッ!」
「えッ──!?」
この時まひるには和子が何を言っているのか分からなかった。愛の告白か、ルームシェアがしたいのか。それとも──、だが考えを纏める前に二人に割って入る者が現れた。まさかの天の助けか……
「あれあれ? もしかしてまひる?」
通り過ぎた所をわざわざ振り向き声をかけてきたのは、派手な私服に身を包んだ一人の女の子。歳はまひると同じ位か。
「え……あぁ悠奈か。そういやここ、お前の地元だったな」
女の子の名前は吹浦悠奈。まひると同じく二年生で【虎岡一中】の卓球部員だ。
小学校から同じ地区で卓球をやっていて、まひる位の歳になれば顔と名前が一致する事もそう珍しくは無い。
そんな中でも悠奈は、まひるにとっては天敵とも言える存在である。まひるは先の全中でベスト4をかけて破れているが、過去の戦績を見れば五分と五分。試合内容も最終セットまでもつれ込む大熱戦だった。
「こんな所で会うなんてね。それにしても可愛い彼女を連れてるじゃん。あーっ! もしかしてデートだったりして!ぷくくく」
「ああそうだよ。お前にゃこんな可愛い彼女は一生出来ねーだろうけど」
「なっ、まあいいよ。所詮負け犬の遠吠え、私には関係ない。そんな事より次の新人戦楽しみじゃん? 私達一中は団体戦で優勝する自信があるんだけど、弱小念珠崎はどうなのよ?」
「ああ? 勿論優勝するに決まってんだろ。もういいからあっち行ってくれよ」
──ちっ、なんで俺の周りにはこんな奴ばっかり集まってくるんだよ──
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「まあ、私はダブルスだからまひるとは当たらないだろうけど、あんまり一方的だとつまらないじゃん? だからチームメイトに必死こいて練習しておくよう伝えておいてよ。じゃ、個人戦楽しみにしてるから。ほいじゃーねー」
悠奈がその場を去った後は、なんとも言えない後味の悪さだけが残った。
まひる達はストレートに馬鹿にされ、挑発されたのだ。とは言え虎岡一中はナンバースクールの中でも生徒数の多い学校で、自ずと有望な選手が多数在籍するチームだ。それに加え先の全中ではレギュラーメンバーが全員二年生ながらも準優勝を果たすなど、実績面でも申し分ない。
新人戦でレギュラーメンバー全員の残る虎岡一中は、優勝候補筆頭と言っても過言では無いだろう。
しかしまひるがこの挑発に乗らない訳もなく──、
「わっ子」
「は、はい!」
「さっきの返事はオーケーだ」
「え?」
「新人戦は俺とダブルスを組んで、アイツらに目にもの見せてやるぜ」
「え、あっはいッ!」
まひる、私情と部長権限で和子とのダブルスを結成──、
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