しぇいく!

風浦らの

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第二章【越】

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    ■■■■

   事件の後、海香がイップスである事は他の一年生にも伝えられ、この事実を共有し支え合いながらやって行こう、という事で話は纏まった。

    あの日以来海香は、笑顔を絶やさず傍から見たら悩みなんて無いような、そんな素振りで振舞っていた。
    だが本当の気持ちは誰にも分からない。試合にならなければ、イップスを克服したかどうかも分からない。

    それでも日々は流れていく。
    これはそんな日常での一幕。

    ──ある日の休日──

    和子は以前まひるに勝負を挑み、勝利した際『なんでもお願いを聞いてやる』というまひるの宣言通り、その権利を行使していた。

    「ふふふーっ。まっひー先輩とデート!    まっひー先輩とデート!」
    「おい、コラくっ付くなよ。おかしいだろ」
    「あれれー?  なんでもお願いを聞いてくれるんじゃなかったんですか?」
    「……そうだけど、これはちょっと違うと言うか……」

    和子はまひるに一日デートして欲しいと申し込んでいた。そして休日を利用し、都会である虎岡市にまで二人きりで出向いた。
    ショッピングモールでお買い物をしたり、二人で食事をしたり、まるで恋人同士のソレである。

    「まっひー先輩!    この服どうですか?    和子に似合ってますか?」
    「わっ子にそれはまだ早いんじゃねーか?    こっちの方が似合うと思うぜ」

    服屋さんで大人っぽい服を充て、似合うか聞いた和子に対し、まひるは子供服を指さして答えた。

    「んもー!    まっひー先輩は女心が全っぜん分かっていないです」
    「えっ……」

    散策中、和子は雑貨屋さんの前で足を止めた。その目線の先にあるのは『ダダちゃま』という、この地方では有名な枝豆をモチーフにしたマスコットキャラクターのコーナーだ。和子は最近この枝豆キャラクターにハマっていた。
    その一角にあるダダちゃまキーホルダーを手に取り、うっとりとした目で眺めている和子。
    誰がどう見ても欲しそうである。
    凄く欲しそうである。

    「──、欲しいんだろ。買ってやるよ」
    
     まひるは和子からダダちゃまキーホルダーを取り上げ、お会計に持っていった。先程の洋服の件の埋め合わせも兼ねて、ここは買ってあげようと思ったのだ。
    しかしその後ろを、もう一つ色違いのキーホルダーを持って和子が付いて来る。
     
    ──えっ……二つかよ……しょうがねぇな──

    値段もそんなに高価な物でもなかった為、まひるは仕方ないとばかりに二つ纏めレジに出す。
    当然二つともプレゼントするつもりだったのだが、半分は和子自らお財布からお金を出し、お会計が済むと直ぐにまひるにキーホルダーの一つを手渡してきたのだ。

    「くれるのか?」
    「はい!    お揃いです!」

    和子はまひるとお揃いのキーホルダーが欲しかった。
    まひるはキラキラした目で見つめてくる和子に勝てず、バックにダダちゃまキーホルダーを付けると、和子は喜びを体全体で表した。

    ■■■■

    日も暮れて、二人はそろそろ帰ろうかと駅前まで戻ってきていた。
    だが電車は一時間に一本しかない為、二十分は待たなければならない。仕方無しに噴水の前にあるベンチに腰掛け、時間を潰す事になったのだが、和子が突拍子も無い話を真面目な顔で切り出してきた。

    「あの……まっひー先輩……」
    「どうした?」
    「あの……私の……私の──、」
    「ん?」
    「パートナーになって下さいッ!」
     「えッ──!?」

     この時まひるには和子が何を言っているのか分からなかった。愛の告白か、ルームシェアがしたいのか。それとも──、だが考えを纏める前に二人に割って入る者が現れた。まさかの天の助けか……

    「あれあれ?    もしかしてまひる?」

    通り過ぎた所をわざわざ振り向き声をかけてきたのは、派手な私服に身を包んだ一人の女の子。歳はまひると同じ位か。

    「え……あぁ悠奈か。そういやここ、お前の地元だったな」

    女の子の名前は吹浦悠奈ふくらゆうな。まひると同じく二年生で【虎岡一中】の卓球部員だ。
    小学校から同じ地区で卓球をやっていて、まひる位の歳になれば顔と名前が一致する事もそう珍しくは無い。
    そんな中でも悠奈は、まひるにとっては天敵とも言える存在である。まひるは先の全中でベスト4をかけて破れているが、過去の戦績を見れば五分と五分。試合内容も最終セットまでもつれ込む大熱戦だった。

    「こんな所で会うなんてね。それにしても可愛い彼女を連れてるじゃん。あーっ!    もしかしてデートだったりして!ぷくくく」
     「ああそうだよ。お前にゃこんな可愛い彼女は一生出来ねーだろうけど」
     「なっ、まあいいよ。所詮負け犬の遠吠え、私には関係ない。そんな事より次の新人戦楽しみじゃん?    私達一中は団体戦で優勝する自信があるんだけど、弱小念珠崎はどうなのよ?」
     「ああ?    勿論優勝するに決まってんだろ。もういいからあっち行ってくれよ」

    ──ちっ、なんで俺の周りにはこんな奴ばっかり集まってくるんだよ──

    まひるは何故か、性格のねじ曲がった者を引き寄せる傾向がある。いや絡まれると言った方が正しいか──、

    「まあ、私はダブルスだからまひるとは当たらないだろうけど、あんまり一方的だとつまらないじゃん?    だからチームメイトに必死こいて練習しておくよう伝えておいてよ。じゃ、個人戦楽しみにしてるから。ほいじゃーねー」

     悠奈がその場を去った後は、なんとも言えない後味の悪さだけが残った。
     まひる達はストレートに馬鹿にされ、挑発されたのだ。とは言え虎岡一中はナンバースクールの中でも生徒数の多い学校で、自ずと有望な選手が多数在籍するチームだ。それに加え先の全中ではレギュラーメンバーが全員二年生ながらも準優勝を果たすなど、実績面でも申し分ない。
    新人戦でレギュラーメンバー全員の残る虎岡一中は、優勝候補筆頭と言っても過言では無いだろう。
    しかしまひるがこの挑発に乗らない訳もなく──、

    「わっ子」
    「は、はい!」
    「さっきの返事はオーケーだ」
    「え?」
    「新人戦は俺とダブルスを組んで、アイツらに目にもの見せてやるぜ」
    「え、あっはいッ!」

    まひる、私情と部長権限で和子とのダブルスを結成──、
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