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第一章【挑】
【カット守戦型】
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■■■■
「部長、翔子先輩の相手選手ってどんな感じの人ですか?」
「えーと……『池花華』甘芽中レギャラーの中で唯一の一年生。両親ともに卓球選手っていう卓球エリートで、戦型は【オールラウンダー】かな。小学生の時、関東大会にも出場している実力者ね」
「関東大会?」
「そうね。池花選手は、関東の学校から引き抜かれた特待生って所かしら?」
池花華は幼い頃から卓球漬けの日々を送ってきた卓球エリート。対する翔子は中学から卓球を始めた為、卓球歴で言えば年下の池花に軍配が上がる。
そして気になる試合展開はと言うと──
基本に忠実で、どんな事でもそつなくこなす池花に対し、返ってきた玉を後ろに下がり、拾って拾って拾いまくるスタイルの翔子。
【カット守戦型】
チームメイトの児島南もカットマンだが、それよりも更に守備に重きを置いた翔子のスタイル。
その為、一点入るまでの時間が異常に長い。
【0-2】
【3-6】
点差がジリジリと離されていくが、それでも翔子は必死に耐えた。
拾って──
拾って────
拾い続ける!!
【4-7】
「なんかこう、手に汗握りますね……」
「そうね。翔子の卓球はいつもこんな感じ。長いラリーが続いてね。でも一点取ると、その分私も嬉しいの。あぁ、翔子の頑張りが報われたんだなって」
翔子は念中卓球部の中でも地味な存在だ。
普段から大人しく、派手なまひるや海香の影に隠れて目立たない。
卓球選手としては物足りなさのある彼女だが、そんな彼女にも一つ得意な事があった。
それは、“ 一つの事を続ける ” という事だ。
翔子は卓球部に入ってから三年生になった今まで、ずっとこのスタイルを練習してきた。課題練習があれば、いつも決まって練習するのはボールを拾い続ける事。この一点だけを磨き続けた。
【4-8】
「それにしても相手の選手、基本に忠実で動きが綺麗ね」
築山文がそう言うのも頷ける程に、見た目の可愛さも相まって、池華の卓球には華がある。
対する翔子の卓球は一見して玄人好みの地味な卓球だ。が──
「部長……私、翔子先輩の事誤解してました……」
「え?」
【5-9】
「失礼な話なんですけど、翔子先輩って、性格も大人しくて地味な人だなって思ってたんです」
「そうね」
【6-10】
「でも、全然違いました」
翔子の拾って、拾って、拾うその卓球は、観る者の心を熱くする。
どんな玉にも食らいつき、決して諦めず最後まで追い続ける姿には、人の心を打つものがある。
チームメイトである乃百合達の目に、その姿はどう写っているか。想像するに容易い。
長い長いラリーでつかんだ一本。その重さは計り知れない。
「翔子先輩は、熱い人です。一球一球輝いてます。私は翔子先輩に勝って欲しい!」
「そうだね。私も翔子には勝ってほしい。翔子、毎日頑張ってたもん」
飛び込み続け膝を擦りむいても尚、翔子は白球を追い続ける事を止めない。どんなに前後左右に振り回されても、その足だけは止まる事は無い。
【7-10】
まだ第一セットにも関わらず、両者の呼吸は荒い。
肩で息をし、流れ落ちる汗の量がその過酷さを物語っている。
二十球、三十球、四十球と続くラリー。
この日最も長いラリーの末、翔子はこのセットを落とした。
【7-11】
──第二セット──
セットが変わっても試合はリプレイを見ているかのように変わらない。
長い長い、ひたすらに続くラリー。これは、折るか折られるかの心の勝負。
「翔子先輩ッ!」
翔子が食らいつき床にダイブする度、その膝からは血が滲む。
【1-3】
──次は絶対に拾ってみせる。私にはコレしか無いんだから!──
ラリーは長く続いているが、最終的に得点する事が多いのは池華花だ。コレはいかんともし難い自力の差である。何パターンもの決め玉がある池華に対し、守り一辺倒で相手のミスを待つ翔子。普通の選手と池華とでは訳が違った。
【3-7】
「頑張れ……翔子……」
祈るように見守る築山文の手にも思わず力が入る。
その目の前で、またしても翔子が拾いきれずに、床に倒れこんでしまう。
「部長、ちょっと不味くないですか……これ……タイムアウト……タイムアウトを取りましょう」
長いラリーを続けてきた翔子を心配して、乃百合は築山文にタイムアウトを進言した。しかし築山文はタイムアウトを取ろうとはせず、翔子の事を見守り続けた。
【5-9】
「部長ッ! やっぱり……」
「落ち着け乃百合。それ、ちゃんと翔子先輩の目を見て言ってんのか?」
「翔子先輩の……目……」
まひるに言われて、乃百合は翔子の目を見た。
「あっ……」
傷だらけで、汗にまみれ、呼吸も荒くなり、見た目はボロボロに変わり果てたが、その目だけは開始直後から変わっていない。寧ろ何か、もっと先、その先を見ているかの様な真っ直ぐな生きた目だ。
──諦めない。絶対に! 私は、最後まで拾い続ける事だけをやればいいんだ。大丈夫、最期の一球を落とさなければ負けないんだ──
【7-11】
息をするのも忘れる様な長いセットが終わり、再びコートチェンジをする二人。これでセットカウントは【0-2】
「あのね、乃百合ちゃん。タイムアウトは、この先取るつもりは無いよ」
「部長……」
「部長、翔子先輩の相手選手ってどんな感じの人ですか?」
「えーと……『池花華』甘芽中レギャラーの中で唯一の一年生。両親ともに卓球選手っていう卓球エリートで、戦型は【オールラウンダー】かな。小学生の時、関東大会にも出場している実力者ね」
「関東大会?」
「そうね。池花選手は、関東の学校から引き抜かれた特待生って所かしら?」
池花華は幼い頃から卓球漬けの日々を送ってきた卓球エリート。対する翔子は中学から卓球を始めた為、卓球歴で言えば年下の池花に軍配が上がる。
そして気になる試合展開はと言うと──
基本に忠実で、どんな事でもそつなくこなす池花に対し、返ってきた玉を後ろに下がり、拾って拾って拾いまくるスタイルの翔子。
【カット守戦型】
チームメイトの児島南もカットマンだが、それよりも更に守備に重きを置いた翔子のスタイル。
その為、一点入るまでの時間が異常に長い。
【0-2】
【3-6】
点差がジリジリと離されていくが、それでも翔子は必死に耐えた。
拾って──
拾って────
拾い続ける!!
【4-7】
「なんかこう、手に汗握りますね……」
「そうね。翔子の卓球はいつもこんな感じ。長いラリーが続いてね。でも一点取ると、その分私も嬉しいの。あぁ、翔子の頑張りが報われたんだなって」
翔子は念中卓球部の中でも地味な存在だ。
普段から大人しく、派手なまひるや海香の影に隠れて目立たない。
卓球選手としては物足りなさのある彼女だが、そんな彼女にも一つ得意な事があった。
それは、“ 一つの事を続ける ” という事だ。
翔子は卓球部に入ってから三年生になった今まで、ずっとこのスタイルを練習してきた。課題練習があれば、いつも決まって練習するのはボールを拾い続ける事。この一点だけを磨き続けた。
【4-8】
「それにしても相手の選手、基本に忠実で動きが綺麗ね」
築山文がそう言うのも頷ける程に、見た目の可愛さも相まって、池華の卓球には華がある。
対する翔子の卓球は一見して玄人好みの地味な卓球だ。が──
「部長……私、翔子先輩の事誤解してました……」
「え?」
【5-9】
「失礼な話なんですけど、翔子先輩って、性格も大人しくて地味な人だなって思ってたんです」
「そうね」
【6-10】
「でも、全然違いました」
翔子の拾って、拾って、拾うその卓球は、観る者の心を熱くする。
どんな玉にも食らいつき、決して諦めず最後まで追い続ける姿には、人の心を打つものがある。
チームメイトである乃百合達の目に、その姿はどう写っているか。想像するに容易い。
長い長いラリーでつかんだ一本。その重さは計り知れない。
「翔子先輩は、熱い人です。一球一球輝いてます。私は翔子先輩に勝って欲しい!」
「そうだね。私も翔子には勝ってほしい。翔子、毎日頑張ってたもん」
飛び込み続け膝を擦りむいても尚、翔子は白球を追い続ける事を止めない。どんなに前後左右に振り回されても、その足だけは止まる事は無い。
【7-10】
まだ第一セットにも関わらず、両者の呼吸は荒い。
肩で息をし、流れ落ちる汗の量がその過酷さを物語っている。
二十球、三十球、四十球と続くラリー。
この日最も長いラリーの末、翔子はこのセットを落とした。
【7-11】
──第二セット──
セットが変わっても試合はリプレイを見ているかのように変わらない。
長い長い、ひたすらに続くラリー。これは、折るか折られるかの心の勝負。
「翔子先輩ッ!」
翔子が食らいつき床にダイブする度、その膝からは血が滲む。
【1-3】
──次は絶対に拾ってみせる。私にはコレしか無いんだから!──
ラリーは長く続いているが、最終的に得点する事が多いのは池華花だ。コレはいかんともし難い自力の差である。何パターンもの決め玉がある池華に対し、守り一辺倒で相手のミスを待つ翔子。普通の選手と池華とでは訳が違った。
【3-7】
「頑張れ……翔子……」
祈るように見守る築山文の手にも思わず力が入る。
その目の前で、またしても翔子が拾いきれずに、床に倒れこんでしまう。
「部長、ちょっと不味くないですか……これ……タイムアウト……タイムアウトを取りましょう」
長いラリーを続けてきた翔子を心配して、乃百合は築山文にタイムアウトを進言した。しかし築山文はタイムアウトを取ろうとはせず、翔子の事を見守り続けた。
【5-9】
「部長ッ! やっぱり……」
「落ち着け乃百合。それ、ちゃんと翔子先輩の目を見て言ってんのか?」
「翔子先輩の……目……」
まひるに言われて、乃百合は翔子の目を見た。
「あっ……」
傷だらけで、汗にまみれ、呼吸も荒くなり、見た目はボロボロに変わり果てたが、その目だけは開始直後から変わっていない。寧ろ何か、もっと先、その先を見ているかの様な真っ直ぐな生きた目だ。
──諦めない。絶対に! 私は、最後まで拾い続ける事だけをやればいいんだ。大丈夫、最期の一球を落とさなければ負けないんだ──
【7-11】
息をするのも忘れる様な長いセットが終わり、再びコートチェンジをする二人。これでセットカウントは【0-2】
「あのね、乃百合ちゃん。タイムアウトは、この先取るつもりは無いよ」
「部長……」
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