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第一章【挑】
追い込み追い込まれ
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■■■■
「うぉりゃぁ──、ループドライブゥゥッ!」
「おっ……」
「あとは頼んだブッケン!」
「任せて乃百合ちゃん! えいっ」
この日乃百合達は、まひる先輩達にダブルスの練習を見てもらっていた。
「今のは中々だったかな」
「ふっふっふ。そうでしょ! まっひー先輩のアドバイスのお陰です!」
「でもまだまだかな。乃百合はドライブの制度が低すぎる。五本中二本じゃ得してるんだか損してるんだかわかんねんーぞ。それと打つ時必殺技みたいにいちいち叫ぶな」
「えー、なんでですか。カッコイイのに……」
「相手にバレ……いや、ダサいからだろ」
「まっひー先輩、それ言い間違え方間違ってませんか」
「ふふふっ」
「ブッケンも笑ってる場合じゃねーぞ。スマッシュの威力が弱い。ミスを恐れて縮こまってたら、上の相手には通用しないからな。あと、バックでも同じ位打てるようにするよーに。実戦で相手が思い通りに動いてくれる訳じゃねーんだからな」
「はーい……」
自分達なりに手応えを感じてはいたものの、バッサリとまひる先輩にダメ出しを食らった乃百合達。
さぞや落ち込むのかと思いきや、乃百合はブッケンの肩を叩きとても嬉しそうだ。
「ブッケン、私達もっと強くなるよ! 特訓、特訓!」
「でも乃百合ちゃん……そんなに急に上手くなれるかなぁ。ループドライブって難しそうだし……」
「うーん。それもそうだよね。コツさえ掴めれば一気に決まりそうなんだけど……そうだ!」
「ど、どうしたの? 急におっきな声出して」
乃百合は閃いた。
ダブルスの事はダブルスをよく知るまひる先輩に教えて貰った。ドライブに関する事は、ドライブのスペシャリストに聞けばいい。
■■■■
「──、という訳なんですよ。どうですかね、海香先輩」
「乃百合ちゃんは本当に努力家さんだね。そんな君に特別にレクチャーしてあげよー!」
「あ、ありがとうございます!」
「ドライブって言うのは──、こうやってスパーン!ってやるんだよ! こうやってぎゅーんって、ね?」
「は……はぁ。あの、海香先輩って天才なんですね」
「なにそれー」
乃百合には感覚でこなす海香の言っていることがイマイチよく分からなかった。というより、その感覚が分かっていたら、今頃苦労などしていないと言うものだ。
「でもまぁ、あれだねー。乃百合ちゃん、ループドライブやめた方がいいよ」
「そ、それって……私に才能が……ないって」
「いやいや違うってー。百合ちゃんには【スピードドライブ】の方が向いてるって言いたいんだよ」
「スピードドライブ?」
「そう。乃百合ちゃんのスタイルに最も合うのはスピードドライブ」
【スピードドライブ】とは、回転力よりもスピードを重視したドライブの事である。
「乃百合ちゃんの使ってるラバー、それ反発系でしょ? それだと回転をかけるのが難しくて、ループドライブを上手くコントロール出来ずに、落ちきらずさっきみたいにオーバーしちゃうんだよー。因みに私の使ってるラバーは粘着性裏ソフトラバーだよ」
ラバーの種類は実に様々だ。
乃百合は速攻型の為、玉離れの良いラバーにする事でそのスピードをより高めており、対する海香はドライブ型の為、より回転力の高まる粘着系を使用している。
「そっか……あ、あの! 私にスピードドライブの撃ち方、教えて下さいッ!」
「よし来たー! 可愛い後輩の為に、一肌脱いじゃうよー! 大会まで追い込み練習だ~!」
── 一方その頃ブッケンはと言うと──
「あ、あの……私にスマッシュの撃ち方を……」
「ごめんね、私スマッシュあんまりだから」
「あの……私にスマッシュを……」
「自分の事で手一杯なの。ごめんね」
なんとなくレギュラーメンバーには声をかけづらく、レギュラー落ちした三年生にお願いしていた。
しかしコミュ力の高い乃百合と違って内向的なブッケンは、中々指導してくれる先輩を捕まえる事が出来ない。
「あ、あの……」
「ごめん、何度言われても無理だから」
そのあまりの状況に一人、牙を剥いた者がいた。
興屋まひるだ。
「おい、お前らそりゃねーんじゃね?」
まひるは正義感が強く、こういった事には目を潰れない性格をしており、例え相手が三年生だろうと関係無い。
「でも、私達本当に余裕が無いのよ」
「余裕がねーったって、後輩が教えて下さいって言ってんだろ! あんたらそれでも先輩かよッ」
「私達だって必死なのよっ! その後輩にレギュラーを奪われて、挙句の果てに敵に塩を送る様な真似、出来るはずないじゃない!」
「──ッだとぉ?」
まひるの飛び入りにより、その場は一触即発となる大荒れの展開を迎えた。
「まひるはいいわよ。団体戦のレギュラーを勝ち取ったんだから。でも私達は違う」
「それはお前らの努力不足だろ! 人のせいにしてんじゃねーよッ! 俺やブッケンがどんだけ努力してるか知りもしないくせに、偉そうな事言ってんじゃねー!」
──やめて……──
「私達だってちゃんとやってるわ! 三年間頑張ってきたの! プライドくらい、あるのよ! 部内選抜大会だって、本当は蹴落としてでも勝ちたかったのに!」
「よく、そんな事──、もう我慢出来ねーッ」
口では治まりがつかなくなったまひるは、とうとう三年生の胸ぐらに手をかけた。
「やめてくださいッ」
その状況に、自分のせいだと追い込まれたブッケンはとうとう泣き出した。
「ブッケン……」
「六条さん……」
拭っても拭いきれない涙を流し、声を振り絞ったブッケン。どうか皆仲良くして欲しい。その思いだけだった。
「私のせいで、こんな事になって、ごめんなさい……でも、こんなのって……」
「ブッケンは悪くねーって」
「私、皆と楽しく卓球がやりたいです…………ここは部です…………チームなんです……ここには、敵なんて……いません。みんな、仲間なんです」
その言葉に徐々に場の温度が下がっていき、揉めていた者は冷静さを取り戻し、自分達の犯した過ちに気がついた。
「わだしは、一人で頑張るがら……仲良くしてくだざい! お願いしますがら!」
ここにはライバルは居れど敵なんて存在しない。互いに高め合い、リスペクトし合ってこそチームなのだ。
そんな当たり前のことを、小学生を卒業したばかりの下級生に、涙ながらに言わせてしまった事をその場にいた者達は深く反省した。
「ブッケン、ごめんな。スマッシュは俺がしっかり教えてやるし、皆ともちゃんと仲良くするから。本当、ごめん」
「まっひー先輩……」
「ちょっと待って!」
まひるが教えると言うことで纏まりそうだった所に、三年生が口を挟んだ。
「大山先輩、まだ何か──、」
「まひるはスマッシュ下手くそだから、私が教えるわ。直伝の大山スマッシュで全国制覇よ!」
「……確かに。大山先輩、たのんます」
一時は内部分裂まであった状況だったが、この場はなんとか治まった。そして念珠崎中学校卓球部の絆はより強固で確かな物へと変わって行く。
「さ、六条さん。早速特訓よ」
「お、大山、先輩……う、うわわあぁぁん」
「あーっ、大山先輩またブッケンの事泣かしたー」
「えっえっ!?」
■■■■
「うぉりゃぁ──、ループドライブゥゥッ!」
「おっ……」
「あとは頼んだブッケン!」
「任せて乃百合ちゃん! えいっ」
この日乃百合達は、まひる先輩達にダブルスの練習を見てもらっていた。
「今のは中々だったかな」
「ふっふっふ。そうでしょ! まっひー先輩のアドバイスのお陰です!」
「でもまだまだかな。乃百合はドライブの制度が低すぎる。五本中二本じゃ得してるんだか損してるんだかわかんねんーぞ。それと打つ時必殺技みたいにいちいち叫ぶな」
「えー、なんでですか。カッコイイのに……」
「相手にバレ……いや、ダサいからだろ」
「まっひー先輩、それ言い間違え方間違ってませんか」
「ふふふっ」
「ブッケンも笑ってる場合じゃねーぞ。スマッシュの威力が弱い。ミスを恐れて縮こまってたら、上の相手には通用しないからな。あと、バックでも同じ位打てるようにするよーに。実戦で相手が思い通りに動いてくれる訳じゃねーんだからな」
「はーい……」
自分達なりに手応えを感じてはいたものの、バッサリとまひる先輩にダメ出しを食らった乃百合達。
さぞや落ち込むのかと思いきや、乃百合はブッケンの肩を叩きとても嬉しそうだ。
「ブッケン、私達もっと強くなるよ! 特訓、特訓!」
「でも乃百合ちゃん……そんなに急に上手くなれるかなぁ。ループドライブって難しそうだし……」
「うーん。それもそうだよね。コツさえ掴めれば一気に決まりそうなんだけど……そうだ!」
「ど、どうしたの? 急におっきな声出して」
乃百合は閃いた。
ダブルスの事はダブルスをよく知るまひる先輩に教えて貰った。ドライブに関する事は、ドライブのスペシャリストに聞けばいい。
■■■■
「──、という訳なんですよ。どうですかね、海香先輩」
「乃百合ちゃんは本当に努力家さんだね。そんな君に特別にレクチャーしてあげよー!」
「あ、ありがとうございます!」
「ドライブって言うのは──、こうやってスパーン!ってやるんだよ! こうやってぎゅーんって、ね?」
「は……はぁ。あの、海香先輩って天才なんですね」
「なにそれー」
乃百合には感覚でこなす海香の言っていることがイマイチよく分からなかった。というより、その感覚が分かっていたら、今頃苦労などしていないと言うものだ。
「でもまぁ、あれだねー。乃百合ちゃん、ループドライブやめた方がいいよ」
「そ、それって……私に才能が……ないって」
「いやいや違うってー。百合ちゃんには【スピードドライブ】の方が向いてるって言いたいんだよ」
「スピードドライブ?」
「そう。乃百合ちゃんのスタイルに最も合うのはスピードドライブ」
【スピードドライブ】とは、回転力よりもスピードを重視したドライブの事である。
「乃百合ちゃんの使ってるラバー、それ反発系でしょ? それだと回転をかけるのが難しくて、ループドライブを上手くコントロール出来ずに、落ちきらずさっきみたいにオーバーしちゃうんだよー。因みに私の使ってるラバーは粘着性裏ソフトラバーだよ」
ラバーの種類は実に様々だ。
乃百合は速攻型の為、玉離れの良いラバーにする事でそのスピードをより高めており、対する海香はドライブ型の為、より回転力の高まる粘着系を使用している。
「そっか……あ、あの! 私にスピードドライブの撃ち方、教えて下さいッ!」
「よし来たー! 可愛い後輩の為に、一肌脱いじゃうよー! 大会まで追い込み練習だ~!」
── 一方その頃ブッケンはと言うと──
「あ、あの……私にスマッシュの撃ち方を……」
「ごめんね、私スマッシュあんまりだから」
「あの……私にスマッシュを……」
「自分の事で手一杯なの。ごめんね」
なんとなくレギュラーメンバーには声をかけづらく、レギュラー落ちした三年生にお願いしていた。
しかしコミュ力の高い乃百合と違って内向的なブッケンは、中々指導してくれる先輩を捕まえる事が出来ない。
「あ、あの……」
「ごめん、何度言われても無理だから」
そのあまりの状況に一人、牙を剥いた者がいた。
興屋まひるだ。
「おい、お前らそりゃねーんじゃね?」
まひるは正義感が強く、こういった事には目を潰れない性格をしており、例え相手が三年生だろうと関係無い。
「でも、私達本当に余裕が無いのよ」
「余裕がねーったって、後輩が教えて下さいって言ってんだろ! あんたらそれでも先輩かよッ」
「私達だって必死なのよっ! その後輩にレギュラーを奪われて、挙句の果てに敵に塩を送る様な真似、出来るはずないじゃない!」
「──ッだとぉ?」
まひるの飛び入りにより、その場は一触即発となる大荒れの展開を迎えた。
「まひるはいいわよ。団体戦のレギュラーを勝ち取ったんだから。でも私達は違う」
「それはお前らの努力不足だろ! 人のせいにしてんじゃねーよッ! 俺やブッケンがどんだけ努力してるか知りもしないくせに、偉そうな事言ってんじゃねー!」
──やめて……──
「私達だってちゃんとやってるわ! 三年間頑張ってきたの! プライドくらい、あるのよ! 部内選抜大会だって、本当は蹴落としてでも勝ちたかったのに!」
「よく、そんな事──、もう我慢出来ねーッ」
口では治まりがつかなくなったまひるは、とうとう三年生の胸ぐらに手をかけた。
「やめてくださいッ」
その状況に、自分のせいだと追い込まれたブッケンはとうとう泣き出した。
「ブッケン……」
「六条さん……」
拭っても拭いきれない涙を流し、声を振り絞ったブッケン。どうか皆仲良くして欲しい。その思いだけだった。
「私のせいで、こんな事になって、ごめんなさい……でも、こんなのって……」
「ブッケンは悪くねーって」
「私、皆と楽しく卓球がやりたいです…………ここは部です…………チームなんです……ここには、敵なんて……いません。みんな、仲間なんです」
その言葉に徐々に場の温度が下がっていき、揉めていた者は冷静さを取り戻し、自分達の犯した過ちに気がついた。
「わだしは、一人で頑張るがら……仲良くしてくだざい! お願いしますがら!」
ここにはライバルは居れど敵なんて存在しない。互いに高め合い、リスペクトし合ってこそチームなのだ。
そんな当たり前のことを、小学生を卒業したばかりの下級生に、涙ながらに言わせてしまった事をその場にいた者達は深く反省した。
「ブッケン、ごめんな。スマッシュは俺がしっかり教えてやるし、皆ともちゃんと仲良くするから。本当、ごめん」
「まっひー先輩……」
「ちょっと待って!」
まひるが教えると言うことで纏まりそうだった所に、三年生が口を挟んだ。
「大山先輩、まだ何か──、」
「まひるはスマッシュ下手くそだから、私が教えるわ。直伝の大山スマッシュで全国制覇よ!」
「……確かに。大山先輩、たのんます」
一時は内部分裂まであった状況だったが、この場はなんとか治まった。そして念珠崎中学校卓球部の絆はより強固で確かな物へと変わって行く。
「さ、六条さん。早速特訓よ」
「お、大山、先輩……う、うわわあぁぁん」
「あーっ、大山先輩またブッケンの事泣かしたー」
「えっえっ!?」
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