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第一章【挑】
ダブルス
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■■■■
──部内レギャラー選抜大会後──
体育館とグラウンドを繋ぐ扉を開き、段差に腰をかけた乃百合とブッケン。
季節は初夏を迎えており、生暖かい風が吹き抜け夕焼けが二人を照らす。
「なんか……凄かった」
「うん」
「海香先輩は異次元だし、南先輩はちょっと怖かったかな」
「海香先輩は全国クラスだって先生が言ってたもんね。私も部長にコテンパンにされちゃったよ。それより乃百合ちゃんってさ、南先輩の事怖かったの?」
「んー。そりゃ今まで全然喋ったこと無かったし、ツンとしててなんか、こう……」
「その割にはテンションマックスで、叫んでたけどね」
「えぇ!? 私、そんな感じだったの? うわぁ……どうしよ、気まづいなぁ」
「うひゃッ」
仲良く談笑していた二人の頬に、突然冷たい感触伝わってきた。驚き見れば、それは押し当てられたスポーツドリンクによる物だった。
「お二人さんに、和子からおめでとうのプレゼントでーす」
ドリンクを差し入れてくれたのは小岩川和子だ。
彼女は乃百合達と同じ一年生で卓球部の為、よく行動を共にする言わば仲良しさんである。
「ありがとう、わっ子」
「わっ子ちゃんありがとう! わっ子ちゃんは残念だったけどね」
「和子はしょうが無いよー。ド素人だし、寧ろなんで参加してたのか解らなかったんですけどー。あれは公開処刑ですよ!」
和子の皮肉りながらも嫌味のない物言いに、その場は笑いに包まれた。
和子は中学から卓球を初めた為まだ二ヶ月しか経っておらず、他の部員と比べても実力はだいぶ下。
それでも楽しそうに振る舞う和子は部員の誰もに可愛がられる存在である。
「わっ子は次の大会からだね!」
「次は、えーと……」
「十一月の『新人戦』かな?」
「十一月? すぐじゃーん……」
「わっ子なら出来るって!」
「わっ子ちゃん、一緒に頑張ろうね」
仲間が居るから頑張れる。
楽しいから続けられる。
■■■■
レギュラーを勝ち取った乃百合とブッケンは、この日、二人揃って顧問の先生に呼ばれていた。
「二人を呼んだのは他でもない。次の大会、二人には【ダブルス】で出場してもらう」
「──ッ!! ダブルスゥ!? ちょ、ちょっと待って下さい先生! 私、ダブルスやった事無いんですけど!」
乃百合はダブルスを組んだことが無い。勿論、遊びでやった事はあるが、本格的な事は何一つ知らない。ただ一つ言えることは『ダブルスは気を遣う』と言う自己中心的な考えを持っている、という事だけだった。
「不満か?」
「いえ、不満とかそう言うんじゃ……」
「確か、乃百合と舞鳥は幼馴染だったよな?」
「あ、はい。そうですけど」
「乃百合が右利きで、舞鳥は左利きだな?」
「え、はい」
「決まりだな」
「えぇ!?」
ダブルスは二人の呼吸や連携が大切な事は言わずもがなだが、右利きと左利きがペアを組む方が有利とされている。それには立ち位置が右と左で被らない、というちゃんとした理由がある。
「それにだ。お前達二人は、レギュラーメンバーの中では『一番弱い』んだ。立場って言葉しってるか?」
「うッ、それは……」
「舞鳥はどうだ? やっぱりコイツとは嫌か? 嫌ならしょうが無いが」
「い、いえ! 私やります! やらせて下さい!」
乗り気じゃない乃百合とは逆に、ブッケンの目は輝きに満ち溢れていた。
憧れの乃百合ちゃんとダブルスで公式試合に出られる。それだけでブッケンの心は弾んだ。
「よーし、決まりだな。じゃあ明日から早速練習するからな。予習して来いよ」
「あと一ヶ月ですよ!?」
「じゃあ尚更厳しい練習と努力が必要だな! わはははっ」
「…………」
──その日の帰り道──
「ダブルスかー。私にできるかなぁ」
「私達なら大丈夫だよ!」
「どこからそんな自信が湧いてくるんだよ」
「だって私達、その……あの……」
「なに?」
「『親友』だから!」
乃百合も勿論そのつもりだったが、改めて言葉にされた事で気恥しさが込み上げて来た。
耳までもが赤く染まり、思わず歩みを止めてしまう。
「うん……だね」
二人なら大丈夫。
互いが互いを信頼し合い、尊敬し合う事が出来る。この二人なら──、
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──部内レギャラー選抜大会後──
体育館とグラウンドを繋ぐ扉を開き、段差に腰をかけた乃百合とブッケン。
季節は初夏を迎えており、生暖かい風が吹き抜け夕焼けが二人を照らす。
「なんか……凄かった」
「うん」
「海香先輩は異次元だし、南先輩はちょっと怖かったかな」
「海香先輩は全国クラスだって先生が言ってたもんね。私も部長にコテンパンにされちゃったよ。それより乃百合ちゃんってさ、南先輩の事怖かったの?」
「んー。そりゃ今まで全然喋ったこと無かったし、ツンとしててなんか、こう……」
「その割にはテンションマックスで、叫んでたけどね」
「えぇ!? 私、そんな感じだったの? うわぁ……どうしよ、気まづいなぁ」
「うひゃッ」
仲良く談笑していた二人の頬に、突然冷たい感触伝わってきた。驚き見れば、それは押し当てられたスポーツドリンクによる物だった。
「お二人さんに、和子からおめでとうのプレゼントでーす」
ドリンクを差し入れてくれたのは小岩川和子だ。
彼女は乃百合達と同じ一年生で卓球部の為、よく行動を共にする言わば仲良しさんである。
「ありがとう、わっ子」
「わっ子ちゃんありがとう! わっ子ちゃんは残念だったけどね」
「和子はしょうが無いよー。ド素人だし、寧ろなんで参加してたのか解らなかったんですけどー。あれは公開処刑ですよ!」
和子の皮肉りながらも嫌味のない物言いに、その場は笑いに包まれた。
和子は中学から卓球を初めた為まだ二ヶ月しか経っておらず、他の部員と比べても実力はだいぶ下。
それでも楽しそうに振る舞う和子は部員の誰もに可愛がられる存在である。
「わっ子は次の大会からだね!」
「次は、えーと……」
「十一月の『新人戦』かな?」
「十一月? すぐじゃーん……」
「わっ子なら出来るって!」
「わっ子ちゃん、一緒に頑張ろうね」
仲間が居るから頑張れる。
楽しいから続けられる。
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レギュラーを勝ち取った乃百合とブッケンは、この日、二人揃って顧問の先生に呼ばれていた。
「二人を呼んだのは他でもない。次の大会、二人には【ダブルス】で出場してもらう」
「──ッ!! ダブルスゥ!? ちょ、ちょっと待って下さい先生! 私、ダブルスやった事無いんですけど!」
乃百合はダブルスを組んだことが無い。勿論、遊びでやった事はあるが、本格的な事は何一つ知らない。ただ一つ言えることは『ダブルスは気を遣う』と言う自己中心的な考えを持っている、という事だけだった。
「不満か?」
「いえ、不満とかそう言うんじゃ……」
「確か、乃百合と舞鳥は幼馴染だったよな?」
「あ、はい。そうですけど」
「乃百合が右利きで、舞鳥は左利きだな?」
「え、はい」
「決まりだな」
「えぇ!?」
ダブルスは二人の呼吸や連携が大切な事は言わずもがなだが、右利きと左利きがペアを組む方が有利とされている。それには立ち位置が右と左で被らない、というちゃんとした理由がある。
「それにだ。お前達二人は、レギュラーメンバーの中では『一番弱い』んだ。立場って言葉しってるか?」
「うッ、それは……」
「舞鳥はどうだ? やっぱりコイツとは嫌か? 嫌ならしょうが無いが」
「い、いえ! 私やります! やらせて下さい!」
乗り気じゃない乃百合とは逆に、ブッケンの目は輝きに満ち溢れていた。
憧れの乃百合ちゃんとダブルスで公式試合に出られる。それだけでブッケンの心は弾んだ。
「よーし、決まりだな。じゃあ明日から早速練習するからな。予習して来いよ」
「あと一ヶ月ですよ!?」
「じゃあ尚更厳しい練習と努力が必要だな! わはははっ」
「…………」
──その日の帰り道──
「ダブルスかー。私にできるかなぁ」
「私達なら大丈夫だよ!」
「どこからそんな自信が湧いてくるんだよ」
「だって私達、その……あの……」
「なに?」
「『親友』だから!」
乃百合も勿論そのつもりだったが、改めて言葉にされた事で気恥しさが込み上げて来た。
耳までもが赤く染まり、思わず歩みを止めてしまう。
「うん……だね」
二人なら大丈夫。
互いが互いを信頼し合い、尊敬し合う事が出来る。この二人なら──、
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